その他の反応装甲
その他の反応装甲としては、電磁装甲、部分反応装甲、非爆発性反応装甲と呼ばれるものがあり、それらについて説明する。
●電磁装甲
電磁装甲とは、装甲を侵徹する物体を電力また磁力により、強度低下または破壊して侵徹を阻害したり、侵徹前に進行方向を反らさせたり、自爆させたりすることを目的とした装甲である。
[ジュール熱型]
導体に電流を流すと、その電気抵抗により導体は発熱する。このような電気抵抗による発熱をジュール熱という。ジュール熱型の電磁装甲は、侵徹する物体を大電力によるジュール熱で破壊または強度低下させることにより侵徹を阻害しようと考えた装甲である。構造および侵徹阻害効果について以下に説明する。
装甲板と装甲板の間に導電性物質2枚とその中間に絶縁性物質を配置し、導電性物質に大容量コンデンサー等で高電圧を印加しておく。運動エネルギー弾が装甲板、1枚目の導電性物質および絶縁性物質を貫通すると、絶縁が切れ侵徹体に高圧電流が流れることにより侵徹体を破壊または強度低下させる。破壊または強度低下された侵徹体は侵徹能力を大きく阻害される。
三菱重工業では同様の方式で反応装甲の特許(特開平03-67999)を取得している。方法としては、装甲板と装甲版の間に導電性物質2枚とその中間に絶縁性物質を配置し、導電性物質に大容量コンデンサー等で高電圧を印加しておくところまでは同一である。異なるところは、導電性物質を金属箔としていることである。運動エネルギー弾または、成形炸薬弾のメタルジェットが装甲板、1枚目の導電性物質および絶縁性物質を貫通すると、絶縁が切れ導電性物質である金属箔に高圧電流が流れることによって金属箔が金属プラズマになる。金属プラズマの圧力により両側の装甲板が高速で移動し、侵徹体は変形・破壊され、メタルジェットは収束を乱され、侵徹効果を低下させる。
実用には下記のような問題があり、研究者の間では、(研究は継続されているものの)現実的ではないという見方が一般的らしい。
1)侵徹体を破壊(強度低下)させるには非常に大きな電力を必要とすること
2)電力の供給の問題で、連続的な命中弾には対応できないこと
[磁場型]
電気コイルに電流を流すと、コイルの周りに磁場が発生する。逆に磁場内に導体を入れると導体には渦電流と呼ばれる電流が流れる。これを電磁誘導と言う。導体に抵抗があれば導体は発熱する。これを誘導加熱という。一方、磁場内に入るものが反磁性体であれば、反磁性体にはコイルの磁場に逆らう方向に磁化し、反磁性体にコイルから遠ざかる方向への力を与えることができる。磁場型の電磁装甲は、これらの特性を利用したものである。以下に反磁性体の特性を利用した電磁装甲の例について解説する。
防護しようとする部分の周囲に、高圧電流を流したコイルにより強力な磁場を発生させ、磁場内に侵入した弾頭(反磁性体であることが前提)に渦電流を生じさせ、コイルの磁場と反発させることで弾頭の進行方向を反らせることを目的としたものがある。
実用には下記のような問題があり、研究者の間では、実用はほとんど不可能であるとの意見が一般的らしい。
1)砲弾が反磁性体であることが前提であり、砲弾が反磁性体であるとは限らない
2)砲弾の方向を反らせるめには非常に大きな電力を必要とする
3)現状では、上記のような大電力ではコイル自体が保たない(焼き切れてしまう)
4)これほどの強磁場であると周囲の人員に大ダメージを与える可能性が高い
この他に、反磁性体の装甲(反磁性体を取り付けた装甲でも良い)の装甲を飛翔させて、侵徹体の破壊・変形を目的としたタイプや、磁場により成形炸薬弾頭の敏感な信管を誤作動させたり、磁場の誘導加熱により弾頭を自爆させる方法などが研究されている。しかし、前述と同様の問題により実用性には疑問がもたれている。
●部分反応装甲
通常の爆発反応装甲は、爆発の衝撃が大きかったり、裏面の装甲板が飛散して主装甲に衝突するため、装甲の貧弱な軽装甲車両には適用できない。この対策として、あまり知られていないが、部分反応装甲および非爆発性反応装甲が存在する。
部分反応装甲とは、爆発反応装甲の中間層(爆薬の部分)に特殊な爆薬を使用し、侵徹する成形炸薬弾のメタルジェットに対し部分的に爆発することにより、爆発の圧力と装甲板の変形の複合的な作用により、メタルジェットの収束を阻害する。
部分反応装甲の例としては、フランスのSNPE社が開発したM113装甲兵車用の装甲キットがある。SNPE社は、この装甲キットが、ロシアの対戦車無反動砲RPG-7の攻撃に対して防御力を有していると述べている。また、一般的に部分反応装甲の質量効率は、爆発反応装甲より低いと考えられている。
●非爆発性反応装甲
非爆発性反応装甲とは、爆発反応装甲の中間層(爆薬の部分)に成形炸薬弾のメタルジェットが侵徹すると爆発しないが高い圧力を発生させる材料を使用し、その圧力により表裏の装甲を変形させメタルジェットの収束を阻害する。その他にこの装甲の利点は、反応(膨張)エネルギーをメタルジェットのエネルギーからもらっているため、爆薬の場合と異なり安全確保が容易だということが上げられる。なお、中間層の材質としては、エラストマーと呼ばれるゴムのような弾性のある物質や、繊維強化プラスチック等を使用している。発表当時は、成形炸薬弾に対する非爆発性反応装甲の質量効率は2.4〜5と高い防御性能を有していると言われていた。一方、最近の研究では、メタルジェットがエラストマなどの内部材に接触しても、局部的にしか反応(膨張)しないため表面側の装甲の運動が小さく、防御効率が低いことが指摘されている。
作成:2001/06/12 Ichinohe_Takao
更新:2001/07/02 Ichinohe_Takao