爆発反応装甲


 爆発反応装甲の構造概略図を図1に、爆発反応装甲の侵徹阻害概略図を図2に示す。爆発反応装甲(ERA:Explosive Reactive Armor)とは、2枚の鋼板の間に爆発性の物質(爆薬)を挟んだ装甲板で、補助装甲として使用される(主装甲に付加される形で使用される)。運動エネルギー弾や成形炸薬弾のメタルジェットの侵徹およびそれらの衝突の圧力で爆発性の物質が起爆(爆轟)して、表面側の鋼板を高速で吹き飛ばす。飛んだ鋼板は爆圧により変形(設計にもよるが鋼板の変形は少ない方が良い)するものの連続した形状を維持しつつ、メタルジェットの進路を横切って収束を妨げたり、運動エネルギー弾の侵徹体に衝突し変形・破壊して侵徹を妨げる。この効果を上げるため、爆発反応装甲は、砲弾の弾道に対して傾斜して設置される(弾道と垂直であると装甲の厚み分しか効果が無いため)。また、対成形炸薬弾用と対運動エネルギー弾用の爆発反応装甲の構造が多少異なること(詳細については後述する)、運動エネルギー弾でもL/D比の大きな侵徹体でないと効果が薄いこと(L/D比の大きな侵徹体は横方向からの応力に弱いため)、を知っておく必要がある。一方、爆発反応装甲の問題点は、1)爆発の衝撃(通常のERAは表裏の板とも飛ぶが、裏板は主装甲に高速で衝突する)が車体内部に伝わることで、センサー等の精密機器に損障を与える可能性があること、2)飛んだ装甲板が、近傍の歩兵やソフトスキン、資器材等に被害を与える可能性があること、などが上げられる。実際的には、前者は爆発反応装甲の取付け方法で(衝撃が伝わりにくいように工夫して取付ける)、後者は運用方法等(随伴歩兵等の展開位置を被害の及ばない位置とする)で対応しているようである。また、小口径弾(口径20mm程度以下)の着弾で、爆発反応装甲がいちいち反応(爆轟)していてはたまらないため、小口径弾の着弾では爆発しないように工夫が施されている(これについても詳細は後述する)。

●爆発反応装甲の反応させる方法

 爆発反応装甲を反応(爆轟)させる方法の一つは、爆薬の製造工程で爆薬内部に空気の微小ボイド(極小さい空気の入った空間)を作っておき、爆薬に砲弾の衝突で衝撃的な圧力が加わると、ボイドの空気は急激に圧縮され、ボイル・シャルルの法則により高温となる。この高温により爆薬が分解点に達し、爆轟を発生させる方法。この方法では、爆薬の分解点とボイドのサイズを調整することにより反応感度を調節する。もう一つの方法は、爆薬形状等を工夫して、メタルジェットの高温(特定の温度)や、衝突の圧力が一定時間以上加わると、発火から爆轟に至るようにする方法。これらの方法で、小口径弾(口径20mm程度以下)の着弾では、爆薬が燃焼しても爆轟しないようになっている。

●対成形炸薬弾用の爆発反応装甲
 爆発反応装甲は、一般的に運動エネルギー弾より成形炸薬弾に対する方が有効であり、一般的な爆発反応装甲は、対成形炸薬弾用と考えて良い。対成形炸薬弾用爆発反応装甲の飛ぶ装甲板の厚さは、2〜3mm程度と言われている。また、成形炸薬弾の断面積が大きく衝突の際の圧力が大きいこと、また、小口径弾の着弾で反応させないために、衝突の圧力に対する反応感度は対運動エネルギー弾用の爆発反応装甲と比較して低くしている。

●対運動エネルギー弾用の爆発反応装甲
 対運動エネルギー弾用爆発反応装甲の飛ぶ装甲板の厚さは、重く丈夫な侵徹体を破砕するために、20〜25mm程度もあると言われている。また、L/D比高い侵徹体の直径は小さく(25〜35mm程度)、これに反応させるために、爆薬の反応感度は鋭敏にしている。一方、小口径弾(口径20mm程度以下)の着弾では反応させないための工夫として、表側に感度の低い爆発反応装甲を、裏側に感度の高い対運動エネルギー弾用爆発反応装甲を配置する場合がある。この配置であると小口径弾が着弾しても、感度の低い爆発反応装甲は反応しない。また、小口径弾は、表側の爆発反応装甲を貫通する際に、おおかたの運動エネルギーを失い、奥側の感度の高い爆発反応装甲に届いても反応させるに至らない。また、成形炸薬弾が着弾した場合は、表裏とも反応し、より大きな防御効果を発揮する。

●爆発反応装甲の例
 爆発反応装甲は、現ダイムラー・ベンツ・エアロスペース社のマンフレート・ヘルト博士が考案し、1970年にドイツで特許を取得した。爆発反応装甲の例としては、イスラエルのラファエル装備開発局製のブレイザー、英国ロイヤル・オードナンス社製のロウマー[Romor]、フランスGIAT社製のブレヌス等があり、ブレイザーは、1982年にレバノンで行われたガラリヤ平和作戦で、イスラエル軍装備のM60A1およびセンチュリオンに、ロウマーは1991年の湾岸戦争時に英国陸軍のチャレンジャー1戦車の車体の先端に装着された(車体の先端に取付けられたのは、随伴歩兵に配慮したためと思われる)。ブレヌスは、1995年ごろ、フランス緊急行動部隊のAMX32B2、2個戦車大隊に装着された。対成形炸薬弾用爆発反応装甲の質量効率は、2.5〜5程度とばらつきが大きいが、効果的な防御力を有することが推察される。

●爆発反応装甲によるメタルジェットの減衰(X線写真)
 爆発反応装甲による成形炸薬弾メタルジェットの減衰のX線写真を図3に示す。写真はX線写真のため比重の高いものが黒く見える。写真中央やや下を横切っている黒い線が成形炸薬弾のメタルジェットであり、ジェットは右から左へ進んでいる。写真右方の斜めの黒い2つの物体がERAの表板(右)と裏板(左)である。爆発炎や火薬は比重が低いため、X線写真ではほとんど写らない。右方からERA表板を貫通したメタルジェットは、大幅に減衰されその手前よりかなり細くなっている。その後、ERA裏板を貫通したメタルジェットはさらに減衰され、メタルジェット先端はブレークアップを発生し始めている。余談だが、ERA表板はERAの爆発によるものかスポーリング(剥離破壊)を起している。また、あまり知られていないがメタルジェットは気体では無く、流体金属であり装甲と同程度の比重を持っていることから、X線写真でも黒く見える。

TNO社ホームページより(URL:http://www.tno.nl/homepage.html
なお、この写真の掲載に当たってはTNO社より許可を頂いています。

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作成:2001/06/10 Ichinohe_Takao
更新:2001/07/06 Ichinohe_Takao