複合装甲


●複合装甲[Composite Armor]とは
 セラミックや複合材などを防弾鋼板(靭性の高い均質圧延装甲鋼板または高硬度装甲鋼板)に重ね合わせたり挟み込んだりした装甲である。防弾鋼板やセラミック、複合材などの単体では、強度および延性を高レベルで兼ね備えることはできないため、それぞれを重ね合わせることによって複合的に性能を向上することを目的としている。

●複合装甲に使用される材質とその効果
 複合装甲には防弾鋼板、セラミック、複合材などが使用されていると述べたが、それらの特性について説明する。なお、防弾鋼板については、それぞれ別に説明を用意しているので、均質圧延装甲表面硬化装甲鋳造装甲などを参照のこと。
 セラミックには多くの種類があるが、複合装甲に使われているのは、セラミックの中でも硬度、圧縮強度、曲げ強さともに高い、酸化アルミニウム(Al2O3)、ボロン炭化物(B4C)、チタニウムボロン化合物(TiB2)、炭化珪素を主成分としたセラミックではないかと推測されている。代表的なアルミナセラミック(一般材)の機械的性質を表2-1に示す。
 セラミックの運動エネルギー弾に対する防御特性は、その硬度(防弾鋼板の1.5〜3倍)による侵徹体先端の変形(変形により効率的な侵徹を阻害させる)と、着弾時の衝撃によりセラミック自体がクラスタ化することよって運動エネルギーを吸収するところにある。一方、あらゆる装甲は、着弾による衝撃的な歪により、対弾能力は低下する傾向にあるものの、セラミック系の複合装甲は、このクラスタ化により、その傾向がより顕著であることが推察される。
 セラミックの成形炸薬弾[HEAT弾]に対する防御特性は、次の通りである。
成形炸薬弾のメタルジェットは、セラミック、ガラス(ガラスセラミック)などの強度の高い物質に対しては非常に小さな孔を形成する。また、同時に穿孔破壊と呼ばれる現象が発生する。穿孔破壊とは、装甲が金属製の場合、メタルジェットにより流体化され、侵徹孔外へ吹き飛ばされるが、ガラスやセラミックの場合、強度が高く、破片が大きなサイズに留まるため、メタルジェットと破片とが干渉して、侵徹孔内に再度押し戻されてしまう現象である。これにより侵徹効果は大きく阻害される。 複合材については、特定は難しいので詳しい言及は避けるが、比較的比重が低く、耐衝撃性の高いものであることが推察される。

●複合装甲の構造の例と防弾効果
 以下に複合装甲の簡単な例と期待される防弾効果を示す。なお、下記はあくまでも推定される例であり、実際のすべての複合装甲が下記の通りではないことに注意が必要である。
 軽量型複合装甲の構造と防弾性の概略図を図1に示す。小口径運動エネルギー弾や砲弾の破片に対する防御を考慮した軽量型の複合装甲は、表面に硬度の高いセラミックを、裏側には軽量だが耐衝撃性、延性に優れる複合材を配置している。セラミックおよび複合材は密度が低いため軽量で、比較的軽量の戦闘車両でも搭載可能である。防御効果としては、小口径弾や砲弾の破片の運動エネルギーは比較的低いため、硬度の高いセラミックの表面に弾かれてしまう。また、運動エネルギーにセラミックが耐えられず割れてしまう場合でも、衝撃吸収性および延性の高い複合材がセラミックの破片および弾芯を受け止めるようになっている。成形炸薬弾に対してもセラミックの防御効果で、同質量の防弾鋼板より期待できる。
 中量型複合装甲の構造と防弾性の概略図を図2に示す。中口径運動エネルギー弾に対する防御を考慮した中量型(標準型)の複合装甲は、表面に硬度の高いセラミックを、中央に軽量で耐衝撃性に優れる複合材を、裏側に靭性の高い均質圧延装甲やアルミ合金装甲を配置している。セラミックおよび複合材の密度が低いため、防弾鋼板のみの装甲より軽量で、防御効果も高く中重量の戦闘車両やMBTの側面装甲などにも搭載可能である。中口径運動エネルギー弾は、硬度の高いセラミックに衝突し、場合によっては弾かれる。弾かれない場合でも硬度の高い物質との衝突により侵徹体の先端は大きく変形し、侵徹効果は大きく減少する。セラミックが衝撃に耐えられず割れてしまう場合は、セラミックの破片や変形した侵徹体は、耐衝撃性の高い複合材が受け止める。複合材も運動エネルギーに耐えられない場合(多くの場合がそうであるが)は、その後ろの靭性の高い均質圧延装甲鋼板がそれらを受け止める。成形炸薬弾に対してもセラミックおよび密度の異なる材質の重ね合わせによる中空装甲的な防御効果で、同質量の防弾鋼板より期待できる。
 重量型複合装甲の構造と防弾性の概略図を図3に示す。大口径高初速運動エネルギー弾及び成形炸薬弾に対する防御を考慮した重量型の複合装甲は、表面に硬度の高い防弾装甲鋼板を、中央に硬度と耐衝撃性を複合的に兼ね備えたセラミックブロックを、裏側に靭性の高い均質圧延装甲鋼板を配置している。なお、重量型複合装甲には、内部のセラミックブロックを、比較的簡単な作業で交換可能なタイプもあり、新型の防御力の高いブロックが開発されると交換され、複合装甲の防御力をアップできるといわれている。大口径高初速運動エネルギー弾の侵徹体は、硬度の高い防弾装甲鋼板に衝突し先端はキノコ状に変形する。また、硬度の高い防弾鋼板を侵徹していくにつれて侵徹体は磨耗[erode]し、運動エネルギーを失っていく。表面側の防弾鋼板を抜けると硬度と耐衝撃性を複合的に兼ね備えたセラミックブロックでさらに侵徹体は磨耗[erode]し、運動エネルギーを失う。また、侵徹体が、複合装甲内の特性(衝撃インピーダンス、機械的強度など)の異なる材質を侵徹する過程で大きな負荷を受け、破断に至る場合がある。セラミックブロックが貫かれた場合にも、裏側の靭性の高い均質圧延装甲鋼板が、運動エネルギーを失い、変形、破断された侵徹体を受け止める。成形炸薬弾に対してもセラミックの防御効果および密度の異なる材質の重ね合わせによる中空装甲的な防御効果と、装甲自体の厚みで、同じ質量の防弾鋼板の数倍の防御効果がある。また、成形炸薬弾の戦闘車両に対する被害の本質は、装甲貫通後、車内に吹き込まれる爆薬の燃焼ガスであり(燃焼ガスの高温、有毒性により人員を殺傷する)、セラミックに穿つ侵徹穴があまりに小さい場合、メタルジェットが貫通したとしても成形炸薬弾のスラグが侵徹穴に入り込むことで、燃焼ガスの流入がストップし効果的な被害が与えられない場合がある。なお、重量型の複合装甲は、その厚み、重量から主力戦車の砲塔および車体前面に適用される。

●重量型複合装甲のセラミックブロック
 重量型複合装甲のセラミックブロックには大きく分けて二つのタイプがある。1つは、高強度金属を外殻としてセラミックを内側に封入し、外殻から圧縮応力をかけた状態にしたタイプである。これは、セラミックの亀裂の伝播速度が、メタルジェットの速度(7000〜10000m/sec程度)と比較すると充分に遅いが、APFSDS弾の速度(1400〜1600m/sec程度)と比較すると充分ではなく、HEAT弾に対しては、みかけ上の強度通りの激的な防弾効果を得られるものの、APFSDS弾に対しては、防弾効果が得られにくいことを、改善するための構造である。また、2次的な効果であるが、高強度金属の外殻に隔てられることと圧縮応力により、初弾着弾の衝撃で、別のセラミックブロックへの亀裂の伝播を抑止する効果がある。
 もう一つのタイプは、単に体積の大きなセラミックが、装甲の間に挿入されているだけのものである。対APFSDS弾能力が劣ること、APFSDSの着弾による対弾性能の低下は大きいものの、対HEAT防御能力は、前者のタイプよりも高いと推察される。ちなみに、前者のタイプの複合装甲は、ドイツのレオパルド2主力戦車および陸上自衛隊の90式戦車の主装甲に、後者は、米国のM1A1主力戦車および英国のチャレンジャー戦車等に採用されていると言われている。

●複合装甲の適用例
 軽量または中量型複合装甲の例としては、1967年に現ユナイテッド・ディフェンス社で試作さたXM765装甲兵車や、1995年ごろから改良されたM2A2ブラッドレイ騎兵戦闘車がある。これらの車両は、軽量のアルミ合金装甲の上に、薄いが硬度の高い防弾鋼板を付加している。また、フランスおよびドイツが共同で行なっているVBM/GTM計画の車両には、軽量のアルミ合金装甲の上に、硬度の高いセラミックを付加した装甲が採用される予定である。その他の例としては、イスラエルのラファエル装備開発局が開発したフレキシブル・セラミック・アーマー[FCA]は、セラミック球を並べた層を板で挟み込んだ構造である(7.62mm弾に耐えるという)。また、米国で開発されていたXM8AGSの装甲は、薄いケプラー繊維の層に炭化珪素のタイルが接着されたものを、アルミ合金装甲の前に装着する構造であったらしい。また、最近(2000年前後)の研究では、複合装甲内に複数種のセラミックスを使用すると、インピーダンスの違いによって侵徹体衝突時の衝撃波が多重反射して、特定の層のセラミックが完全に破壊されてしまい、2発目以降の命中弾では防御力が著しく低下してしまうことが判ってきた。このため、複数種のセラミックが使われることは無くなって来ているらしい。
 重量型複合装甲の例としては、1960〜70年に開発された旧ソ連のT-64戦車で砲塔の鋳造装甲の中にセラミック系材料が埋め込まれていた。近年では、米国のM1主力戦車、ドイツのレオパルド2主力戦車、陸上自衛隊の90式戦車(下図参照)などが複合装甲を採用している。また、防衛庁の研究者によると、90式戦車の開発では、実際の試作車体に国内開発の120mm滑腔砲によるAPFSDS弾および成形炸薬弾の耐弾試験が行なわれている。試験では試作車を稼動状態にして0距離射撃で正面装甲に複数の命中弾(開発者の手記によると、APFSDSおよびHEATの合計で9発)を与えた後も自走が可能であったとのことである。なお、この射撃試験については、ビデオで代表的なメディアには公開しているとのことである。

●複合装甲の質量効率
 軽量または中量型複合装甲の7.62mm弾に対する質量効率は、硬質防弾鋼+アルミ合金装甲の場合で1.2〜1.3程度、硬質セラミック+アルミ合金装甲の場合、2.3〜2.8と言われている。また、炭化珪素系やチタニウムボロン化合物(TiB2)系のセラミック+アルミ合金装甲の組み合わせでは、7.62〜25mmのAP弾またはAPDS弾に対する質量効率は、3.5程度であると言われている。
 重量型複合装甲の質量効率については、1970年代初頭にドイツで酸化アルミニウム系セラミックを挟み込んだ複合装甲の試験では、成形炸薬弾に対して2.3であったと言う。また、ロシアのT-72戦車のグラシス・プレートと呼ばれる2層のガラス繊維が組み込まれた複合装甲の、成形炸薬弾に対する質量効率は2.6程度、運動エネルギー弾に対する質量効率は2.2程度であると言われている。

●高初速運動エネルギー弾による装甲構造の破壊現象
 厚さの有限な複数の層を持つ複合装甲(例として、表面層:硬化鋼板、中間層:セラミックモジュール、裏面層:均質圧延鋼板の3層構造)に、侵徹体が侵徹していく場合に、侵徹体の運動エネルギーが充分に大きいと、侵徹現象の他に構造の破壊現象が発生する。この場合の構造の破壊現象とは、表面層を含めた複合装甲の構成材(細分化されたセラミック片、液状化した鋼など)および侵徹体が、裏面層を突き破って装甲裏面から車内に飛び出してくるというものである。なお、表面の侵徹穴に比較して、裏面の穴がはるかに大きい。また、侵徹体の運動エネルギーが小さい場合でも、同一個所付近に連続して命中弾があった場合には、2弾目以降の命中弾に対しては、セラミックモジュールの運動エネルギー吸収が充分ではないために、同様の現象が発生する可能性がある。また、侵徹体が高存速の場合、均質圧延装甲でも同様の現象が見られる(複合装甲よりは起きにくいが)。複合装甲に構造の破壊現象が起こりやすい理由は、複数の層を持つことにより厚さ方向の結合力が弱いためである。

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作成:2001/06/02 Ichinohe_Takao
更新:2002/12/19 Ichinohe_Takao