中空装甲


●中空装甲とは
 中空装甲とは、装甲板の中に隙間を設けた装甲である。中空装甲板へ侵徹するメタルジェットの挙動を図1に、中空装甲板へ侵徹する高速侵徹体の挙動を図2に示す。成形炸薬弾のメタルジェットや高速運動エネルギー弾の侵徹体が、中空装甲の表面側の装甲板を貫通すると、メタルジェットの噴流はスタンドオフ距離を狂わされて拡散し、侵徹体の先端はキノコ状に変形するため、奥側の装甲板への侵徹効果が阻害される。また、弾芯は装甲に衝突すると屈折現象に極めて類似する挙動を示す。この現象により浅い角度で命中した弾芯も、より深い角度で装甲に突き立つことになる。一方、弾芯自体は慣性の法則に従い直進しようとするために、弾芯には大きなせん断力がかかることになる。この現象は、APFSDS弾のようなの外径が小さい割に長さが長い侵徹体に対してより大きな影響があり、場合によっては侵徹体が破断し侵徹の効果を大きく阻害させる。中空装甲の場合、この現象が表面側装甲板の貫通孔の両端部および奥側装甲板の表面で発生し、侵徹体を破壊する確率がより高くなる。ただし、中空装甲の防弾効果は、成形炸薬弾に対してより高く、運動エネルギー弾に対してはやや低いと考えるべきである。その理由は、運動エネルギー弾の弾芯は大きな運動エネルギーを持っており、仮に多少破壊されたとしても、その運動エネルギーにより装甲に大きなダメージを与えることになるためである。中空装甲のその他のメリットとしては、1)装甲内部が中空のため装甲板の質量が軽くできること、2)比較的簡易な技術で効果的な装甲板が製造できること、などが上げられる。
●中空装甲の適用例
 中空装甲の適用例としては、ドイツ軍のレオパルド1戦車(A1以降の改良型)、イスラエル軍のメルカバ戦車などが上げられる。また、第2次世界大戦中のドイツ軍の戦闘車両が砲塔や車体の周囲に一定の間隔を空けて軟鋼板や目の細かい金網を張り巡らしたもの(シュルツェンと呼ばれた)や、現代では、イスラエル軍のメルカバ戦車の砲塔後部の隙間に鎖が垂れ下がっているものも中空装甲の一種である。
●中空装甲の質量効率
 中空装甲の成形炸薬弾に対する質量効率は、1.25程度と言われている。この理由は、近年の成形炸薬弾の性能向上により、多少スタンドオフ距離を狂わされても、侵徹効果が阻害され難いものが出現しているためである。 
 中空装甲の運動エネルギー弾への質量効果は、L/D比の低い弾芯に対しては、ほとんど効果が無い(むしろ、同じ重さの1枚板のほうが強いと言われている)。一方、高L/D比の運動エネルギー弾への質量効率は1.25程度だと言われている。
 これらのことから、中空装甲の防御効率はそれほど高いものではないことが推察される。

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作成:2001/05/27 Ichinohe_Takao
更新:2001/06/09 Ichinohe_Takao