アルミニウム合金装甲

●アルミニウム合金装甲の歴史
 アルミニウム合金装甲は、1950年代末に実用化された装甲で比較的歴史は新しい。アルミニウム合金装甲を採用し、制式化量産された最初の装甲戦闘車両は、米国のM113装甲兵員輸送車(1959年制式化、5083合金)である。その後は、世界各国で多くの軽量化を求められる装甲戦闘車両に採用された。例としては、米国の、M551シェリダン空挺戦車(1965年制式化、7039合金)、M2ブラッドレイ歩兵戦闘車(1979年制式化)、英国のスコーピオン軽戦車(1970年制式化、7039合金)、ウォーリア歩兵戦闘車(1986年量産開始)、フランスのAMX-10P歩兵戦闘車(1972年量産開始)などが上げられる。日本では、防弾アルミニウム合金の規格として、防衛庁規格NDS-H-4001が1974年7月に制定され、73式装甲車および75式自走榴弾砲で、BA40が採用された。その他、BA50、BA60(非溶接用)が1986年9月にNDS-H-4001の改定とともに制定された他、99式自走榴弾砲の砲塔にアルミ合金装甲が採用されている。一方、96式装甲兵員輸送車では、アルミ合金装甲の試作車体が造られたが、量産車では防弾鋼が採用され、89式歩兵戦闘車でも、防弾鋼を採用されている。この他、ドイツでは、ほとんどすべての装甲戦闘車両に、アルミ合金装甲が採用されていないことも、興味深い。また、近年では、1970〜80年代に比較すると、アルミ合金を採用する装甲戦闘車両の比率は低くなる傾向があり、防弾鋼板を採用するものが多くなっている。

●アルミニウム合金のデータ
アルミニウム合金装甲の化学成分を表1-2に、装甲鋼板等の機械的性質の規格値を表2に示す。アルミニウム合金というと鋼に比較してかなり引張強さが低いとの認識が一般的であるが、非溶接用であるがBA60は、約550[N/mm^2]と戦艦「大和」の水平甲板に採用された均質圧延装甲MNCの3/4の引張強さを持っている。なお、M113やM551で採用された7039合金は、表1-2、表2からBA40と同等の性能を持つと思われる。

●アルミニウム合金の利点
[密度と強度]

 アルミニウム合金の特筆すべき点は、その密度の低さである。アルミニウム合金の密度は、2700[kg/m^3]前後で、鋼の7900[kg/m^3]と比較すると、約1/3である。一方、強度は、ほぼ最強の部類に入る7039H合金の引張強度が414[N/mm^2]であり、鋼では、1000〜1200[N/mm^2]の引張強度を持った超高張力鋼が一般材としても実用化されており、強度的にも、約1/3程度と考えられる。密度と強度が1/3ならば、同質量の構造において構造材厚さが厚く、体積が大きくなり、デメリットであるとも考えられるが、構造材が厚いということは、その構造の剛性を高くできることでもある。この理由は、構造材の剛性は構造材の厚さの3乗に比例することから来ている。これは、軽量の装甲車両でも、剛性の高い構造が造れること意味しており、非常に大きなメリットである。また、剛性が高いことから、理想的なモノコック構造も設計しやすく、部品点数や組立工程の省略等にもつながり、これもメリットの一つである。

[時効硬化]
アルミニウム合金に限らず金属を溶接すると、溶接部付近は溶接熱の影響を受けて、鈍ってしまい強度が低下する。一方、アルミニウム合金は、溶接後、時間と経過ととも強度が高くなる傾向が強いものがある。ちなみに、この時間の経過とともに強度が高くなる現象をエージング(日本語だと時効硬化)と呼んでいる。アルミニウム合金の中には、このエージング現象を強化して、これを利用することにより、溶接部付近の強度を溶接後に回復できるタイプがある。また、エージングは、常温よりは高い温度の方が進み易いので、エージングを人為的に促進させる場合は、加温するのが一般的である。ただし、誤解を避けるために言っておくと、アルミ合金には、熱処理が出来ないものやエージングが起こらないもあるので、一括りに、「アルミニウム合金は、エージングができるので、溶接後の処理が簡単」と言い切ることはできない。

●アルミニウム合金の欠点
[防弾性]

 近年の戦車砲のAPFSDS弾のような高初速弾の侵徹現象では、侵徹長さは装甲の衝撃インピーダンスに半比例する。衝撃インピーダンスとは、その物質の密度と衝撃波速度の積であり、密度の低いアルミニウム合金は、鋼に比較して衝撃インピーダンスが低く、防弾性も低い傾向にある。また、アルミニウム合金は、成形炸薬弾[HEAT弾]のメタルジェットにも弱く、防弾鋼板や複合装甲に比較して大きな穴が開く(この原因は、アルミ合金の強度が低いこと、融点が低いことが関係している)。この穴から、成形炸薬弾の炸薬の燃焼ガスが車内に吹き込み、車内の人員は大きな被害を受けることも多い。これらの理由から、アルミニウム合金装甲は、防弾鋼と比較すると、防弾性において劣ることは否めない。

[耐熱性]
 アルミニウム合金の弱点の一つに、高温条件化における強度の低下が上げられる。これは、戦闘行動によって、火災の高熱にさらされる可能性の高い兵器の構造材としては、非常に大きな弱点である。例えば、1970年ごろまでは、軍艦の上部構造にアルミニウム合金が多く使用されていたが、近年では、採用が少なくなっている。これは、いくつかの実戦の経験からの改良だと言われている。
なお、誤解を避けるために言及しておくと、アルミニウム合金の火災に対する脆弱性とは、「アルミニウム合金が燃える」などということでは無く、「高温における強度の低下によって、構造の破壊規模が大きくなる」ということである。構造材のような厚みのあるアルミニウムが燃焼するなどということは、まず考えられないのだ。アルミニウム合金が燃えないことについては、「アルミが燃えるか?」を参照のしてほしい。

[疲労破壊]
金属材料では、疲労破壊という現象が存在する。これは、構造に応力を繰り返しかけると、その応力が材質の耐力以下であっても、破壊を起すという現象である。鋼には、疲労破壊を起さない限界である、疲労限界という応力の上限があるが、アルミニウム合金には、それが無い(ただし、応力が低いほど、疲労破壊の発生が遅くなるために、構造材を厚くするのは疲労破壊を抑止する方法の一つである)。

[その他]
 この他に、アルミニウム合金には、鋼に見られるような、明確な降伏点が無いこと、また、一般的に言われている耐力以内の応力であっても、元の形状に戻らない可能性がある(いわゆるヒステリシス性が悪い)、などという欠点もある。

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作成:2001/05/27 Ichinohe_Takao
更新:2001/05/30 Ichinohe_Takao