均質圧延装甲[RHA]


 第2次世界大戦(1940年)ごろから一般的に使用されるようになった装甲鋼鈑。英語では、[Rolled Homogeneous Armor]と表記し、一般的にはRHAと呼ばれている。成分的には、炭素鋼(スチール)にニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)等を若干ずつ加えた合金である。この合金を圧延し熱処理することで、板厚および幅方向で機械的性質を均質にしている。均質圧延装甲板への命中砲弾の挙動(侵徹)を図1に示す。浸炭防弾装甲や表面硬化装甲に比べ、均質圧延装甲は靭性が高いため、高運動エネルギー砲弾が命中しても割れが発生せず、装甲の厚さが充分であれば砲弾を受け止める。
 第2次世界大戦以後、表面硬化装甲がすたれ均質圧延装甲が一般的になった経緯があるが、この理由は、
1)もともと戦艦の装甲として開発された表面硬化装甲鋼板は、戦艦と比較して薄い戦車の装甲鋼板では、表面だけを焼きいれる技術が難しいこと
2)戦車では装甲に傾斜をつけた場合や、戦艦では遠距離からの砲弾が側面に命中する場合に、砲弾の装甲への命中角度が大きくなり、砲弾の肩部が板面に衝突するため、表面硬化装甲に比較し、変形しやすい均質圧延装甲の方が割れにくく、さらに、板の変形で砲弾を滑らせる可能性が高く有利であること(図2 均質圧延装甲板への命中砲弾の挙動(跳弾)を参照のこと)
3)戦艦のような砲弾に対する装甲防御力の高い艦が航空攻撃の有効性が証明されてしまった現代では、ほとんど無意味になってしまったため戦艦用の表面硬化装甲の開発が行なわれなくなったこと
などが上げられる。
 なお、米国で砲の侵徹長測定試験に使用される標準の均質圧延装甲鋼板は、AISI4340相当(JIS SNCM 439相当)であることが知られている。SNCMは、ニッケルクロムモリブデン鋼鋼材と呼称し、主として機械構造用に使用されている。JISでは、機械的性質について用途ごとに分類されており、日本では装甲という用途は分類されているわけもないので知るよしもない。一方、旧日本海軍での均質圧延装甲鋼板は、英国のビッカース社のVNC鋼板を改良したNVNCや、戦艦「大和」の水平甲板に採用されたMNC、MNCの改良型のCNC、CNC1、CNC2(貴重資源のNiを節約するために減らし、Cuを加えた)などがある。
 現在では、複合装甲がMBTの主装甲となっているが、均質圧延装甲の頂点と言われるものが、1960年代後半にNATO共同開発のMBT-70試作戦車に採用された高性能装甲(High Performance Armor)で、成分としては、Ni:9%、Co:4%を含む真空溶解による鉄系合金である。このように、Ni、Coのような比較的高価な元素を多く添加すれば、従来からの比較的低初速(鉄[装甲]−タングステン[弾芯]系で1000m/sec以下)の徹甲弾に対する耐弾性能はそれなり向上するが、近年の高初速のAPFSDS弾では、その侵徹特性から装甲の機械的強度よりも比重や衝撃波速度の影響の方が大きく、時代はそれらに対応し易い複合装甲へと移った。
参考として、装甲鋼板等の化学成分を表1に、装甲鋼板等の機械的性質の規格値を表2に示す。装甲鋼板というと、感覚的に非常に高い機械的性能を持っていると思われがちだが、表1および表2をみると、第2次世界大戦中の装甲鋼板は、現代の一般的な構造用炭素鋼(一般構造用炭素鋼鋼板 SS490等)に比較すれば高い性能を持っているが、特殊用途用の構造材(高温圧力容器用高強度クロムモリブデン鋼鋼板 SCMQ5V等)と比較すると、それほど大きな差がないことが判る。一方、現代の均質圧延装甲鋼板は高純度化(不純物を減らしたり、目標とする成分範囲を小さくすること)により、同じ熱処理を施してもJIS一般材に比較し2倍の耐弾性を持つと言われている。
他の均質圧延装甲の兵器の例としては、陸上自衛隊の74式戦車(74式戦車外観参照)の車体部分、米国のM60戦車の車体部分、ロシア(旧ソ連)のT-62の車体部分などが上げられる。

●貫徹能力評価に使われるRHAについて
 西側で対戦車兵器の貫徹能力の評価試験で、標準的に使われているのは、RHAと呼ばれているものである。このRHAとは、米軍供給支援センター規格MIL-A-12560で規定されている「rolled-homogeneous armor(均質圧延装甲)」の頭文字を採ったものである。このRHAの成分および機械的性質は、厚さにもよるが、だいたい下表のようなものである。

表 MIL-A-12560で規定されている「rolled-homogeneous armor」の性能
成分 米国鉄鋼協会規格 AISI 4340相当品(JISのSNCM 439に相当)
硬さ ブリネル硬さで341HB以上(引張強さ:約1150MPa以上に相当)
靭性 -40℃におけるVノッチ・シャルピー衝撃試験において、22〜88J

 この材料を標的材質と使用することによって、貫徹能力評価を国際的に標準化することが図られているようである。この他、傾斜装甲や空間装甲を模擬した、NATO標準標的#4089というものがある。これには、NHSとNHTがあり、NHSは、板厚150mmの板を45度傾けた標的である。NHTは、旧ソ連T-62MBTの車体側面下部を模擬したもので、外側より板厚10mm、25mm、80mmの3枚の板を60度(水平0度として)に傾けた標的である。この材質は不明であるが、筆者は前述したMIL-A-12560で規定されたRHAが使われているのではないかと推測している。
 この他に、MIL-A-46100では、「high hardness armor」(頭文字を採ってHHAと呼称されいる)と呼ばれるものが規定されている。その機械的性質は下表のようなものである。

表 MIL-A-46100で規定されている「high hardness armor」の性能
硬さ ブリネル硬さで477〜534HB(引張強さ:約1750〜約2050MPaに相当)
靭性 -40℃におけるVノッチ・シャルピー衝撃試験において、圧延方向に対して横切る方向に対して14J以上、圧延方向に平行方向で16J以上

●各種砲弾による装甲の破壊状況
 リンク先(こちら)を参照のこと。

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作成:2001/05/27 Ichinohe_Takao
更新:2003/07/23 Ichinohe_Takao