各種徹甲弾の貫徹能力の比較
ここでは、第二次世界大戦中に各国で使用された各種徹甲弾の各射撃距離における貫徹能力を比較する。
●米軍3インチ対戦車砲M7の各種砲弾の貫徹能力の比較
第二次世界大戦中に使用された連合軍の各種徹甲弾の各距離における貫徹能力の比較を表1に、米軍3インチ対戦車砲M7の各種砲弾の貫徹能力を図1に示す。図1を見ると、M79AP弾とM62APC弾(構造はAPCBC弾)の貫徹能力は、近距離(約1100m以下)ではM79(AP弾)の方が高く、遠距離(約1100m以上)ではM62(APCBC弾)の方が高い。M79(AP弾)とM62(APCBC弾)では、弾丸質量がほとんど変わらないのに、近距離での貫徹能力がM79(AP弾)の方が高いのが興味深い。遠距離でM62(APCBC弾)の侵徹能力が高いのは、風防の効果で空気抵抗が低く、存速の低下が少ないためである。M93HVAP弾(構造はAPCR弾と同一)の貫徹能力は、砲口エネルギーがほとんど変わらないにも関わらず、M79(AP弾)およびM62(APCBC弾)より、全距離で大きく、内蔵弾芯の減径効果による貫徹能力の向上が良く判る。一方、距離による貫徹能力低下の傾きは、M93(APCR弾)>M79(AP弾)>M62(APCBC弾)であり、APCR弾の遠距離での存速の低下がAP弾より大きいことが判る。これは、M93(APCR弾)の弾丸全体の比重の低さによるものである。
●英国軍17ポンド砲の各種砲弾の貫徹能力の比較
第二次世界大戦中に使用された連合軍の各種徹甲弾の各距離における貫徹能力の比較を表1に、英国軍17ポンド砲の各種砲弾の貫徹能力を図2に示す。図2を見ると、Mk.1T_SVDS弾(構造はAPDS弾)の貫徹能力は、砲口エネルギーが小さいにも関わらず、Mk.8T_APCBC弾より全距離で大きく、弾芯(飛翔体)の減径効果による貫徹能力の向上が良く判る。一方、距離による貫徹能力低下の傾きは、Mk.1T_SVDS弾(APDS弾)の方が高く、初期のAPDS弾は空気抵抗が大きかったようだ。
●独軍5cm対戦車砲Pak38の各種砲弾の貫徹能力の比較
第二次世界大戦中に使用された独軍の各種徹甲弾の各距離における貫徹能力の比較を表2に、独軍5cm対戦車砲Pak38の各種砲弾の貫徹能力を図3に示す。図3を見ると、Pzgr.39(構造はAPC弾)の貫徹能力は、Pzgr.(構造はAP弾)よりすべての距離でやや大きい。これは、Pzgr.39(APC弾)の被帽の効果である。Pzgr.40(構造はAPCR弾)の貫徹能力は、近距離では、Pzgr.(AP弾)およびPzgr.39(APC弾)より大きいが、約900m以上の距離では低い。これは、Pzgr.40(APCR弾)の内蔵弾芯による減径効果と弾丸全体の比重の低さによるものである。Pzgr.(AP弾)およびPzgr.39(APC弾)の距離による貫徹能力低下の傾きは、弾丸質量が同一で、両弾とも風防が無いことから、ほとんど変わらない。
●独軍7.5cm対戦車砲Pak40の各種砲弾の貫徹能力の比較
第二次世界大戦中に使用された独軍の各種徹甲弾の各距離における貫徹能力の比較を表2に、独軍7.5cm対戦車砲Pak40の各種砲弾の貫徹能力を図4に示す。図4を見ると、Pzgr.40(構造はAPCR弾)の貫徹能力は、砲口エネルギーがほとんど変わらないにも関わらず、Pzgr.39(構造はAPCBC弾)より1500m以下の距離で大きい。これは、内蔵弾芯の減径効果による貫徹能力の向上によるものである。一方、距離による貫徹能力低下の傾きは、Pzgr.40(APCR弾)の方が、Pzgr.39(APCBC弾)より大きい。これは弾丸全体の比重の低さによるものである。
●独軍7.5cm戦車砲Kw.K.42の各種砲弾の貫徹能力の比較
第二次世界大戦中に使用された独軍の各種徹甲弾の各距離における貫徹能力の比較を表2に、独軍7.5cm戦車砲Kw.K.42の各種砲弾の貫徹能力を図5に示す。図5を見ると、Pzgr.40(構造はAPCR弾)の貫徹能力は、砲口エネルギーがほとんど変わらないにも関わらず、Pzgr.39(構造はAPCBC弾)より全距離で大きい。これは、内蔵弾芯の減径効果による貫徹能力の向上によるものである。一方、距離による貫徹能力低下の傾きは、Pzgr.40(APCR弾)の方が、Pzgr.39(APCBC弾)より大きい。これは弾丸全体の比重の低さによるものである。
表1 各種砲弾の各距離における貫徹能力の比較(連合軍) | |||||||||||
砲名称 | 砲口径[mm] | 口径長 | 弾種 | 砲弾名称 | 質量 [kg]※2 |
砲口初速 [m/s] |
砲口エネルギー [kJ] |
各距離における貫徹能力※1 [mm] |
|||
457m | 914m | 1371m | 1828m | ||||||||
3インチ対戦車砲M7 | 76 | 53 | AP | M79 AP弾 | 6.80 | 792 | 2133 | 109 | 92 | 76 | 64 |
APCBC | M62 APC弾 | 7.00 | 792 | 2195 | 93 | 88 | 82 | 75 | |||
APCR | M93 HVAP弾 | 4.26 | 1036 | 2286 | 157 | 135 | 116 | 98 | |||
17ポンド砲 Mk.1〜7 |
76 | 55 | APCBC | Mk.8T APCBC弾 |
7.71 | 884 | 3013 | 140 | 130 | 120 | 111 |
APDS | Mk.1T SVDS弾 | 3.58 | 1204 | 2595 | 208 | 192 | 176 | 161 | |||
※1:貫徹能力は、直立から30度傾けた均質圧延装甲鋼板に対するデータである。なお、距離の単位は[m]である。 |
表2 各弾種の各距離における貫徹能力の比較(独軍) | ||||||||||||
砲名称 | 砲口径 [mm] |
口径長 | 弾種 | 砲弾名称 | 質量 [kg] |
砲口初速 [m/s] |
砲口エネルギー [kJ] |
各距離における貫徹能力※1 [mm] |
||||
100m | 500m | 1000m | 1500m | 2000m | ||||||||
5cm Pak 38または 5cm Kw.K.39 |
50 | 60 | AP | Pzgr. | 2.06 | 835 | 718 | 67 | 57 | 44 | 34 | − |
APC | Pzgr.39 | 2.06 | 835 | 718 | 69 | 59 | 47 | 37 | − | |||
APCR | Pzgr.40 | 0.925 | 1130 | 591 | 130 | 72 | 38 | − | − | |||
7.5cm Pak 40または 7.5cm Kw.K.40(L48) |
75 | 48 | APCBC | Pzgr.39 | 6.80 | 790 | 2122 | 106 | 96 | 85 | 74 | 64 |
APCR | Pzgr.40 | 4.10 | 990 | 2009 | 143 | 120 | 97 | 77 | − | |||
7.5cm Kw.K.42 | 75 | 70 | APCBC | Pzgr.39/42 | 6.80 | 935 | 2972 | 138 | 124 | 111 | 99 | 89 |
APCR | Pzgr.40/42 | 4.75 | 1120 | 2979 | 194 | 174 | 149 | 127 | 106 | |||
※1:貫徹能力は、直立から30度傾けた均質圧延装甲鋼板に対するデータである。なお、距離の単位は[m]である。 |
参考Website:
・Guns vs Armour 1939 to 1945」 アドレス:http://www.wargamer.org/GvA/index.html
作成:2001/08/05 Ichinohe_Takao