徹甲弾の製造方法


 徹甲弾の製造方法の例として、旧日本海軍の91式46cm徹甲弾の製造方法を紹介する。91式徹甲弾の構造概略図を下図に示す。なお、15〜46cmまでの徹甲弾の製造方法は、ほとんど同一である。
・弾体の製造方法
1)製鋼:6トン電気炉(塩基性エルー式)で前述のSL4の成分で溶製。型を使って2600kgの弾丸型に鋳造する。
2)鍛造:鋳造した鋼塊の頂部を旋盤にて切り捨てる。1100℃に加熱し、2200トン水圧プレスで鍛造、穿孔。ほぼ弾丸の形状にする。
3)成形:機械による切削加工により弾丸形状に成形する。
4)熱処理:鋼鉄の性能は熱処理により決まると言われるほど、熱処理は重要な工程である。熱処理工程を下記に示す。
4−A)予熱:予熱炉で3〜4時間かけて、600〜700℃に予熱する。
4−B)焼入:加熱炉で2時間かけて800℃に昇温し、その後1時間かけて850℃まで昇温する。その後、弾体固有の成分含有量から850〜860℃の範囲で適温を算出し、その温度で2〜4時間保持する。その後、弾頭部から弾底の一部を空中に残して30℃の水中に入れて冷却するが、その際、中心軸で回転させながら、1.5時間かけて徐々に水面を下げて行き水面が弾の肩部に達した時点で焼入れが終了する。なお、弾体の温度測定は炉内では弾底部に熱伝対を取り付け、炉外では、光温度計を用いていた。
4−C)焼戻:弾頭から200mmは水槽中に浸漬して終始冷却しておく。弾底部は1時間で680℃まで昇温し、680℃に達したら1時間保持後炉冷する。弾腹部は、2.5時間で610℃まで昇温し、610℃に達したら1時間保持後炉冷する。弾肩部は、2時間50分で530℃まで昇温し、530℃に達したら1時間保持後炉冷する。なお、炉冷とは、炉の温度を徐々に下げて行くことで、ゆっくりと冷却していく方法である(逆は水漬によるに急冷)。炉冷で弾腔の温度が300℃に達したら、炉から出し空冷する。弾頭は、熔融鉛に入れて軽く焼き戻す。
 焼戻工程では、弾先端ほど焼戻しを少なく(硬度を高く)している。この理由は、装甲に衝突する先端は硬度を高くしておき、衝突の際の変形を少なくする。一方、硬いだけでは先端から割れる場合があるため、後端ほど硬度を下げて行き割れ難くしている。
5)試験:頭部5箇所および肩部から底部まで側面5箇所の計10箇所の硬度を測定する。硬度の規格は、弾頭部で、頂部から100mmまでがショアー硬さで80以上、それより後は徐々に硬度が下がり肩部付近で55である。弾肩部〜底部は、底部からの距離30mmの位置で荷重300kgのブリネル圧痕径3.5〜3.75mm、同200mmの位置で同3.4〜3.6mmの圧痕径、同510mmの位置で同3.3〜3.5mmの圧痕径、同730mmの位置で同3.15〜3.3mmの圧痕径、同810mmの位置で同3.0〜3.15mmの圧痕径であった。

・被帽の製造方法
 被帽は弾体とは別に製造される。材質は異なるが、製鋼から成形までの工程は、弾体とほぼ同じである。熱処理以後は以下の通りである。
予熱:予熱炉で2時間かけて、650℃に予熱する。
焼入:加熱炉(マッフル炉)で40分かけて860℃に昇温し、860℃で75分間保持後、30℃の水で冷却する。水冷の際、中心軸で回転させながら底部から125mmの位置より頂部まで40分かけて徐々に水位を下げる。
焼戻:底部から110mmを380℃の熔融鉛に7分間漬ける。
試験:頂部3箇所および頂部から底部までの側面3箇所の計6箇所の硬度を測定する。硬度の規格は、頂部がショアー硬さ75以上(3箇所測定)、頂部から15mmの位置で同75〜80、頂部と底部の丁度中間位置で同67〜73、底部から25mmの位置で同57〜63である。

・被帽頭の製造方法
 被帽頭は被帽および弾体とは別に製造される。材質は異なるが、製鋼から成形までの工程は、被帽および弾体とほぼ同じである。熱処理以後は以下の通りである。
予熱:予熱炉(電気炉)で1時間かけて、300℃に予熱する。
焼入:700℃の熔融鉛に40分間浸漬し、さらに850℃の熔融鉛に40分間浸漬する。その後、撹拌した油に入れ30分間かけて冷却する。
試験:硬度を測定する。硬度の規格は荷重300kgのブリネル圧痕径2.5〜2.8mmである。

・徹甲弾の組み立て
 風帽、被帽頭、被帽、弾体の接合には、Cd(カドミウム)入りのハンダ(Bi-Sn-Pb)が使われた。 

 

風帽
被帽頭
被帽
弾体
アルミブロック
コルク覆
炸薬(純毛包布)
13式遅働信管
信管取付座
10 導環
11 底螺

 

風帽
被帽頭
弾体
アルミブロック
コルク覆
炸薬(純毛包布)
13式遅働信管
信管取付座
導環
10 底螺

 

参考文献:
・「海軍製鋼技術物語」 堀川一男著 アグネ技術センター
・「軍艦メカニズム図鑑 日本の戦艦・下」 泉江三著 グランプリ出版

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作成:2001/07/15 Ichinohe_Takao
更新:2001/07/17 Ichinohe_Takao