コレヒドール島砲撃戦の実況録音とその内容の解析
●コレヒドール島砲撃戦とは
 太平洋戦争中の1941年(昭和16年)12月10日未明、大日本帝国陸軍第14軍(司令官:本間雅晴中将)は、大日本帝国海軍との綿密な連携のもと、ルソン島のリエンガン湾に上陸し、「比島作戦」を開始した。翌1942年(昭和17年)1月2日には首都マニラを占領、そして4月11日にはバターン半島全域を占領した。最後に残ったのは、バターン半島の南端東方のコレヒドール島要塞に籠ったウェーンライト将軍の率いる部隊のみとなった。4月13日、コレヒドール島上陸作戦の準備段階として、第14軍砲兵部隊によるコレヒドール島要塞への砲撃戦が開始された。
●バターン半島攻略戦およびコレヒドール島砲撃戦に参加した第14軍の砲兵兵力
 バターン半島攻略戦およびコレヒドール島砲撃戦に参加した第14軍の砲兵兵力の一覧表を表1に示す。バターン半島攻略戦およびコレヒドール島砲撃戦に参加した第14軍の砲兵兵力は、重軽砲合わせて180門であった。この内、コレヒドール島要塞攻撃に使用された砲は、射程距離の関係から、野砲兵第4連隊、野砲兵第22連隊の91式10cm榴弾砲20門と改造38式野砲40門、野戦重砲兵第1連隊の96式15cm榴弾砲24門、野戦重砲兵第8連隊の92式10cm加農砲16門、重砲兵第1連隊の45式24cm榴弾砲8門、独立重砲兵第9大隊の89式15cm加農砲8門および独立重砲兵第2中隊の96式15cm加農砲2門と96式24cm榴弾砲2門の合計120門であった。
| 表1 バターン半島攻略戦およびコレヒドール島砲撃戦に参加した第14軍の砲兵兵力 | |||
| 部隊 | 装備 | 最大射程 | 配備数 | 
| 第1砲兵司令部 | |||
| 野砲兵第4連隊および野砲兵第22連隊 | 改造38式野砲(口径7.5cm) | 10700m | 40門 | 
| 91式10cm榴弾砲 | 10800m | 20門 | |
| 独立山砲兵第3連隊 | 41式山砲 | 6300m | 24門 | 
| 野戦重砲兵第1連隊 | 96式15cm榴弾砲 | 11900m | 24門 | 
| 野戦重砲兵第8連隊 | 92式10cm加農砲 | 18200m | 16門 | 
| 重砲兵第1連隊 | 45式24cm榴弾砲 | 10350m | 8門 | 
| 独立重砲兵第9大隊 | 89式15cm加農砲 | 18100m | 8門 | 
| 独立重砲兵第2中隊 | 96式15cm加農砲 | 26200m | 2門 | 
| 96式24cm榴弾砲 | 16000m | 2門 | |
| 独立臼砲大2大隊 | 15cm臼砲 | 4750m | 12門 | 
| 独立臼砲大14大隊 | 98式臼砲 | 1200m | 24門 | 
| 独立臼砲大15大隊 | |||
| 独立気球第1中隊 | 気球 | 1個 | |
| 砲兵情報第5連隊 | 測地中隊 標定中隊 音源中隊  | 
      各1個 | |
| 第3牽引自動車隊 | 牽引車 | 32輌 | |
| 注:灰色の部隊が、コレヒドール島砲撃戦に参加。 | |||
●コレヒドール島砲撃戦の実況録音
 コレヒドール島砲撃戦の実況録音音声を表2に示す。実況録音は約4分程度の音声であるが、連続するとファイルサイズが大き過ぎるために、4つに分割している。01〜04の順で連結すると、一連の音声が聞き取れる。
なお、本録音音声は、武蔵野市在住のK.K様より頂いたものである(K.K様には深く感謝致します)。
| 表2 コレヒドール島砲撃戦の実況録音音声 | |
| 名称 | ファイルサイズ | 
| コレヒドール島砲撃戦の実況録音01 | 1.32MB | 
| コレヒドール島砲撃戦の実況録音02 | 1.30MB | 
| コレヒドール島砲撃戦の実況録音03 | 1.32MB | 
| コレヒドール島砲撃戦の実況録音04 | 0.57MB | 
●コレヒドール島砲撃戦の実況録音の内容の解説
 録音では聞き取りにくい部分があること、砲兵運用についての専門用語が多いことから、録音の内容を解説する。なお、内容の解説には、WebSite「真実一路[URL:http://www.warbirds.nu/truth/]」で執筆されている、まなかじ様にご協力頂いた(まなかじ様には深く感謝致します)。
なお、本録音は、録音の内容から、カバロ島のクレーギル砲台に対する間接射撃ではないかと筆者は推測している。クレーギル砲台までの距離は、バターン半島南端から約10000mで、すり鉢状の底部に30cm短榴弾砲が4門配置され、猛威を発揮していた。この砲台への攻撃は、気球や航空機による空中観測により、間接射撃の形で行われたが砲台の4門の内、破壊できたのは2門だけであった。
| 内容 | 解説 | 
| 遠距離での砲声が響いている。 | |
| 各隊より「準備よし!!」の復命があちこちで挙がる。 | |
| 指揮官:「(異常?)なければ報告!!」 | カッコで閉じる部分は聞き取りにくい箇所。「異常」か?。 | 
| 各隊:「・・・分隊準備よし」との復命があちこちから起こる。 | |
| 指揮官:「・・・ちゅうじょを・・(強固に?)しろ!!」 | 駐鋤(ちゅうじょ)とは、射撃時の反動で砲が動かないようにするための、砲の脚に付く地面との固定治具のこと。 | 
| 「駐鋤」を打つ「カチン、カチン」という音があちこちで聞こえる。 | |
| 指揮官:「ヨーシ・・・やめ !!」 | |
| 指揮官訓示:「本隊は断崖上に隠顕する敵の砲兵を今から撲滅!!」と絶叫。 | |
| 指揮官:「最初の訓示をワシが代わって指揮をする・・・各人はコレヒドールを指呼の間に臨み、遺憾なく砲兵精神発揮すべし!!」、「わかったね?」 | おそらく各砲車小隊の将兵は不動の姿勢をとり、指揮官訓示を傾聴していると思われる。 | 
| housei01.wavここまで | |
| 副官もしくは小隊長?:「わかったか?わかったか?」 | |
| 指揮官:「わかったか?」 | |
| 指揮官:「・・・砲撃準備(できたかー?)」 | 聞き取り難い。 | 
| 各隊:復唱 | |
| 指揮官:「方向1282」 | 指揮官が砲撃諸元を各隊に命令下達している。 | 
| 各隊:復唱 | |
| 指揮官:「・・・・瞬発信管・・・・・・効力・・・・」 | 聞き取り難い。攻撃には瞬発信管を使用している。 | 
| 各隊:復唱 | |
| 指揮官:「ほうせい106」 | 砲正(ほうせい)とは、砲撃目標正角で、観測班がおおざっぱな測地(大まかな距離と方位角だけから)をして作成したグリッド(図上の第106番めの方形)こと。つまり、この場合の射撃は点目標ではなく面積目標に対する制圧射撃になる。 | 
| 各隊:復唱 | |
| 指揮官:「1万1千100」 | 目標までの距離が11100[m]だということ。 | 
| 各隊:復唱 | |
| 指揮官:「目標・・・・・目前の・・・・敵の・・・・・」 | 聞き取り難い。 | 
| 各隊:復唱 | |
| 指揮官:「撃ち方始め!!」 | |
| 鋭い砲声が4発、順番に聞こえる。 | 中隊の4門が順番に射撃を行なう。(第1効射) | 
| housei02.wavここまで | |
| 再度、鋭い砲声が4発聞こえる。砲声とともに指揮官の指示が聞こえるが、砲声のため聞き取れない。 | (第2〜3効射) | 
| 指揮官:「第三効射報告!!」 | 観測班に第三効射で報告を求めている。このことから、三連斉射で射撃している可能性がある。三連斉射とは、海軍でいう初弾観測二段撃方のことで、測距で得た値のうち、誤差範囲の中で、中央、最遠、最近の三点に、観測報告待ちをせずに連続射撃をして、早急に観測値を得る方法である。砲声のおかげで聞き取れないが、射距離11100で基準距離を出したあと、短い指示を出している可能性がある。 | 
| 副官:「ほうせい106」 | 副官のところには観測所からの直通電話があるように推測される。この「砲正106」は、弾着が目標グリッド「図上の第106番めの方形」の中に集中したとの、観測班の報告を示している。 | 
| 指揮官:「良し!!」 | |
| 各隊:「良し!!」(声をそろえて) | |
| 指揮官:「撃て!!」 | |
| 鋭い砲声が4発聞こえる。ここでも指揮官の指示が聞こえるが、砲声のために聞き取れない。 | (第4効射) | 
| 各隊:「準備良し!!」 | |
| 鋭い砲声が4発聞こえる。 | (第5効射) | 
| 指揮官:「よし!!」、「5秒右へ撃て!!」 | |
| 副官:「5秒右へ撃て」 | |
| 鋭い砲声が4発聞こえる。 | |
| housei03.wavここまで | |
| 指揮官:「各右へ!!」 | |
| 各隊:「各右へ!!」と復唱 | |
| 各隊:「準備良し」(声をそろえて) | |
| 指揮官:「じゅんぽう」、「連続各個に撃て!!」 | 「順砲」で効力本射に入る。 | 
| 鋭い砲声が4発聞こえる。 | 以降効力本射。 | 
| housei04.wavここまで、以上 | |
●コレヒドール島攻撃の結末
 5月2日から軍命令にもとずく本格的な攻撃準備射撃を開始(それまでは、砲兵司令官の独断での砲撃であった)。5月6日〜7日にかけて、第4師団の上陸が成功し、ウェーンライト将軍の降伏により、比島作戦は終結した。
作成:2001/12/10 Ichinohe_Takao