射撃指揮班(FDC)と射撃準備


2)射撃指揮班(FDC)と射撃準備

 FDC(射撃指揮班)は、その名前のとおり大隊の射撃を指揮統制する機関です。
 大隊の指揮の中枢を担う機関であり、通常、大隊本部と同位置に位置します。艦艇で言えば、CICに相当すると言えば、イメージしやすいでしょうか。

 その編成は通常次の通り。

・ 大隊射撃指揮幹部…大隊S3(第三係主任、即ち作戦担当幕僚が兼務)
・ 射撃指揮補佐幹部…大隊運用訓練幹部が兼務。
・ 算定長
・ 算定陸曹 ×中隊数
・ 射撃図陸曹 ×中隊数
・ 通信手

 さて、少し詳しく説明しましょう。このFDC内の編成について理解する事は、特科の射撃指揮を理解する上できわめて重要です。

 FDCの長は、編成上は射撃指揮幹部、即ち大隊のS3が兼務することになっています。しかし、S3は主に部隊運用の事を考えていて、実際には射撃指揮については、射撃指揮補佐幹部に任せるのが一般的です。因みに、S3は中隊長を下番したぐらいの古参の1尉がなります。

 射撃指揮補佐幹部は、部隊によっては[指揮班長]とも[アシスト]とも呼ばれます。大隊の運用訓練幹部(=運幹、と略す)がこの任務にあたり、射撃指揮…射撃方法の決定、弾種・信管の選定、射撃弾数の算定、そして射撃諸元算定の指揮は彼が行うことになります。
 運幹は、FDOCを修了した古参の2尉がなります。FDOCとは、「野戦特科射撃指揮幹部課程」のことで、ここでは特科の幹部に射撃指揮に関する理論と実際を徹底的に叩き込みます。ここで習う理論としては弾道学と射撃効果の算定、命中精度の算定(確率統計の世界…)が主です。
 FDOC修了者には、他の課程と違ってMOS(資格)は付与されませんが、この修了者であることは人事記録に記載され、これがないと例えば師団の訓練班長(昔で言えば師団作戦参謀)等、運用関係の配置に付けません。

 算定長(チーフ)は、FDCの陸曹の最古参です。通常は、大隊S−3の先任陸曹をやっていて、運幹に助言し、後輩の算定陸曹や射撃図陸曹を指導する役目です。階級は曹長〜1曹くらいです。

 算定陸曹(コンピューター=Comp)は、射撃諸元算定の主担当者です。大隊の射撃速度は、彼の諸元算定の速度に掛かっていると言ってよいでしょう。2曹から古参の3曹がこの任務に就きます。なお、彼が諸元算定に用いるのは、FCE(諸元算定器)かFADAC(射撃指揮装置)です。各中隊(砲列)に担当1名が付き、各中隊との通信も彼が担当します。

 射撃図陸曹(COP)は、算定陸曹が算定した諸元をチェックする係です。算定陸曹とペアになるので、算定陸曹と同数のCOPがいます。射撃図陸曹が、諸元チェックに用いるのは、算定陸曹と同じFCEかFADACですが、昔はそのチェックを
「射撃図」という盤上で行っていたのでこの名称が残っています。陸曹教育隊を出たばかりの3曹がこの任務に就きます。FOやOPなどの観測機関との通信を担当するのは彼です。

 通信手は、FDCに配属された陸士で、将来FDCの陸曹になるために勉強中の身です。まあ、見習い兼お茶くみです。

 算定陸曹・射撃図陸曹・通信手も、通常は大隊のS3で勤務しています。つまり、FDCとは大隊の作戦担当がそのまま移行した姿なのです。

 さて、FOから射撃要求が入りました。射撃図陸曹がそれを受け、アシストに報告します。

COP「アシスト! FOから射撃要求です。修正射、座標1520…」
Comp「1中隊、FOから射撃要求。まもなく射撃入ります」

 この時、算定陸曹はまず速やかに射撃中隊(砲列)に予告を与えてやり、準備させておくのが大事です。

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作成:2002/06/02