装薬[propellant]
装薬[propellant]とは砲から砲弾を撃ち出すための火薬のことで、発射薬とも呼ばれる。装薬は砲の薬室の中で燃焼し燃焼ガスを発生させ、そのガスの圧力で、砲弾を加速する。装薬の燃焼は制御されたものであり、爆薬の爆発(爆轟)とは燃焼の伝播速度の点で異なる。このことから、用途の点においても、作用の点においても炸薬(爆薬)と異なる。以下に代表的な装薬について説明する。
名称 | 説明 | 年代 |
黒色火薬 | 11世紀の中国、14世紀のヨーロッパを起源とした火薬。当時の成分は、硝石75%、木炭15%、硫黄10%であった。現在でも使用されており、用途により成分構成、粒度、形状などは多少変わっているが、根本的な変化は無い。 | 11世紀〜 |
コルダイト[Cordite] | 1889年に英国で開発された無煙火薬。ニトログリセリンを主成分として綿火薬およびワセリンなどを配合したもの。英国海軍は、綿火薬65%、ニトログリセリン30%、ワセリン5%の配合でMDコルダイトと称する装薬を開発した。日本海軍でもこの装薬を日露戦争および第1次世界大戦で使用した。 | 1889年〜 |
バリスタイト[Ballistite] | 1888年にイタリアで開発された無煙火薬。ニトログリセリンを主成分として綿火薬およびワセリンなどを配合したもの。 | 1888年〜 |
二年式火薬 | 1917年に日本海軍で制式化された揮発性溶剤無煙火薬。自然発火を未然に防止する安定剤として、S-メトキシナフタリン3%を含む。略号はC2またはT2。 | 1917年〜 |
十三式火薬 | 1924年に日本海軍で制式化された不揮発性溶剤無煙火薬。各種口径砲で使用された。不揮発性溶剤無煙火薬は、揮発性溶剤無煙火薬に比較して製造中の安全性が高く、乾燥作業も楽なことから製造が容易で、貯蔵時の安定性も良かった。略号はDC。 | 1924年〜 |
八九式火薬 | 1929年に日本海軍で制式化された揮発性溶剤無煙火薬。小口径砲で使用された。略号はC3またはT3。 | 1929年〜 |
八九式一号火薬 | 1929年に日本海軍で制式化された機銃用無煙火薬。7.7mm機銃用として使用された。略号はK1。 | 1930年〜 |
九○式二号火薬 | 1930年に日本海軍で制式化された揮発性溶剤無煙火薬。発砲時砲口から焔のでない消焔火薬として中小口径砲ので使用された。略号はF2。 | 1930年〜 |
九二式火薬 | 1932年に日本海軍で制式化された揮発性溶剤無煙火薬。40mm機関砲(日本海軍では機銃と呼んでいる)用として使用された。略号はC4またはT4。 | 1932年〜 |
九三式一号火薬 | 1933年に日本海軍で制式化された不揮発性溶剤無煙火薬。40cm砲および46cm砲で使用された。略号はDC1またはTC1。 | 1933年〜 |
九三式二号火薬 | 1933年に日本海軍で制式化された不揮発性溶剤無煙火薬。高初速砲用として使用された。略号はDC2。 | 1933年〜 |
九五式火薬 | 1935年に日本海軍で制式化された機銃用無煙火薬。13mm機銃用として使用された。略号はK2。 | 1935年〜 |
FD1火薬 | 1938年に日本海軍で制式化された不揮発性溶剤無煙火薬。中口径砲用消焔火薬として使用された。略号はFD1。 | 1938年〜 |
一式二号火薬 | 1941年に日本海軍で制式化された機銃用無煙火薬。25mm機関砲(日本海軍では機銃と呼んでいる)用として使用された。略号はK3。 | 1941年〜 |
三式火薬 | 1943年に日本海軍で制式化された不揮発性溶剤無煙火薬。12cm高角砲用として使用された。略号はDC3。 | 1943年〜 |
四式火薬 | 1944年に日本海軍で制式化された不揮発性溶剤無煙火薬。ロケット弾用として使用された。略号はDC4。 | 1944年〜 |
シングル・ベース発射装薬M1 | 105mm榴弾砲M2、155mm榴弾砲M1などの装薬として使用された無煙火薬。組成は、ニトロセルロース84.2%、ジニトロトルエン9.9%(防湿燃速調整用)、フタル酸ジプチル4.9%(消炎消熱剤)、ジフエニルアミン1.0%(安定剤)。略号はSB。 | 現代 |
シングル・ベース発射装薬M6 | 155mm加農砲M2の装薬として使用された無煙火薬。組成は、ニトロセルロース86.1%、ジニトロトルエン9.9%(防湿燃速調整用)、フタル酸ジプチル3.0%(消炎消熱剤)、ジフエニルアミン1.0%(安定剤)。 | 現代 |
トリプル・ベース発射装薬M30 | 75式155mm榴弾砲の装薬(75式155mm発射装薬)などとして使用された緩燃性の無煙火薬。組成は、ニトロセルロース19.0%、ニトログリセリン18.7%、ニトログアニジリン55%、エチルトラリット7.3%(安定剤)。略号はTB。 | 現代 |
参考文献:
・「軍艦メカニズム図鑑 日本の戦艦・下」 泉江三著 グランプリ出版
・「PANZER」 1999年4月号(314号) アルゴノート社
作成:2001/08/25 Ichinohe_Takao