炸薬[charge]
炸薬[charge]とは、砲弾の内部に詰められた火薬のことで、砲弾が目標やその付近に到達した際に信管(の火管)により点火され砲弾を爆発されるためのものである。炸薬に使われる火薬は爆薬に分類され、燃焼の伝達速度が非常に高い。以下に代表的な炸薬について説明する。
名称 | 説明 | 爆発速度 [m/sec] |
発火点 [℃] |
エネルギー/質量比 [kJ/kg] |
融点 [℃] |
爆発生成ガス容積 [m^3/kg] |
年代 |
下瀬火薬 | 1893年に日本海軍で制式化されたピクリン酸を主成分とした炸薬。当時としては優秀な炸薬で、日露戦争でその威力を発揮した。一方、感度があまりにも鋭敏であったため、しばしば事故を起こした。ただし、その後、対策が施され、1922年ごろには完成を見た。日本海軍での略号はPA。 | − | − | − | − | − | 1893年〜 |
九一式爆薬 | 1931年に日本海軍で制式化された炸薬。主成分はトリニトロアニソール(TNA)でピクリン酸に比較して感度が鈍く、主装甲を貫徹してから炸裂する徹甲弾用の炸薬として最適化されている。一方、TNAは毒性が強く、日本海軍では対策に苦慮した。日本海軍での略号はTNA。 | − | − | − | − | − | 1931年〜 |
九ニ式爆薬 | 1934年に日本海軍で制式化された炸薬。主成分はトリニトロトルエン(TNT)である。日本海軍での略号はTNT。 | − | − | − | − | − | 1934年〜 |
ペントリル | 第2次世界大戦中に使用された炸薬。92式爆薬(TNT)60%とPentolite40%の混合爆薬である。エリコン20mm機関砲弾用炸薬として使用された。 | − | − | − | − | − | 第2次世界大戦中 |
ニ式爆薬 | 1942年に日本海軍で制式化された炸薬。91式爆薬60%とアルミニューム粉40%の混合爆薬。爆発炎が白色なことから、12.7cm高角砲で下瀬火薬と混ぜて観測効率を高めるために使用された。 | − | − | − | − | − | 1942年〜 |
コンポジットB(3号爆薬) | CompB(コンポビー)3号爆薬、混合爆薬B、と呼ばれる爆薬。組成は、RDX59.5%、TNT39.5%、鈍感剤としてWAX1.0%である。榴弾砲弾の炸薬や対戦車榴弾[HEAT]の炸薬として使用される。 | 7800 | 278 | − | − | − | 現代 |
オクトール(5号爆薬) | HMX75%とTNT25%の混合爆薬。爆速が早いため、対戦車榴弾[HEAT]の炸薬として使用される。HEAT弾の炸薬には爆速が大きな爆薬が必須であるが、HMXだけだと感度が鋭敏すぎるために、感度の低いTNTなどを鈍化剤として混合する。 | 8600 | 350 | − | − | − | 現代 |
ピクリン酸 | 1893年に日本海軍で制式化された下瀬火薬の主成分。爆発威力は強いが、感度が鋭敏なため被弾や事故で爆発するため、第二次世界大戦以後は殆ど用いられなくなった。皮膚吸収されると中毒を起こしやすい。 | 7350[密度:1.7] | 320 | 4186 | 122.5 | 0.675 | − |
TNT | 現代でも世界各国で使用されている代表的な爆薬。トリ−ニトロ−トルエンの略。融点が低く、鈍感で、毒性も少なく、金属に作用しないため、炸薬として使用するのに適している。発火点は約230℃であるがアルカリが加わると低くなる。 | 6900[密度:1.58] | 230 | 3790 | 80.7 | 0.73 | − |
Pentolite(ペントリット) | 爆発威力大きいが、熱に対して鈍感で、自然分解を起こしにくい優秀な爆薬。雷管の添装薬、伝爆薬などにも使用される。 | 8300 | 185〜190 | 5860 | 141.3 | − | − |
RDX | 化学的な名称は、トリメチレントリニトロアミン。ヘキソーゲン、サイクロナイト、RDX、硝宇薬とも呼ばれる。 TNTに比較すると、やや鋭敏で、爆発威力も大きい。 | 8350 | − | 5442 | 204 | 0.908 | − |
HMX | 化学的な名称は、テトラメチレンテトラニトラミン。オクトーゲンとも呼ばれる。融点が高いのでHMX(High melting X)と名付けられた。爆速が早い。 | 9120 | − | − | 276〜277 | − | − |
参考文献:
・「軍艦メカニズム図鑑 日本の戦艦・下」 泉江三著 グランプリ出版
・「PANZER」 1999年9月号(319号) アルゴノート社
作成:2001/07/21 Ichinohe_Takao
更新:2001/12/15 Ichinohe_Takao