信管[Shell fuze]
●信管の種類
信管[Shell fuze]とは、砲の弾丸が目標やその付近に到達した際に炸薬を爆発させるものである。下表は信管の種類とその用途について説明したものである。
呼称 | 説明 |
着発信管 | 弾丸が目標に衝突した際の衝撃によって発火するタイプの信管で、瞬発信管、無延期信管、延期信管に分けられる。 |
瞬発信管 | 着発信管の一種で、弾丸の衝突の瞬間に爆発させることを目的とした信管である。作動時間は自衛隊で使用されているM557二動信管の瞬発モードで10000分の1〜2秒である。 |
延期信管 | 着発信管の一種で、弾丸が装甲やトーチカのコンクリートなどを貫通した後に、爆発させることを目的とした信管である。装甲目標に対しては砲弾が外部で爆発しても被害を与え難いためである。作動時間は目標により異なるが、自衛隊で使用されている榴弾用M557二動信管の延期モードで100分の5秒、対コンクリート用のM78信管の延期型で1000分の25秒である。より長い延期信管や時限信管と比較して、短延期信管とも呼ばれる。 |
無延期信管 | 着発信管の一種で、作動時間は、瞬発信管より長く、延期信管より短い。自衛隊で使用されている対コンクリート用のM78信管では、延期型で1000分の25秒であるが、それの延期薬を抜いた無延期型があり、修正射撃時の着弾観測を容易にするために用いられる。 |
時限信管 | 弾丸が発射されてから一定時間後に爆発させることを目的とした信管である。機械式の時計式信管、導火線などの一定の長さを持った火薬の燃焼時間を利用した火道式信管などがある。自衛隊で使用されているM520時計式複動信管の時限モードでは、作動時間を25〜75秒までの範囲でセットすることができる。 |
近接信管 | 小型の電波発信機を内部に持っており、その電波の反射を利用して目標へ接近したことを感知し、砲弾を爆発させることを目的とした信管である。1941年ごろから実用段階に達し、第2次世界大戦では、米軍の使用する対空用の近接信管[Variable time fuzeまたはProximity fuze]が航空機に対して驚異的な撃墜率を見せた。榴弾砲でも曳下射撃と呼ばれる目標直上での榴弾の炸裂攻撃において、近接信管が使われる。 |
複動信管 | 1つの信管に時限信管と着発信管の2つの機能を兼ね備えた信管で、目的によってモードを切り替えて使用する。自衛隊で使用されているM520時計式複動信管は、時限モードで25〜75秒までの範囲で、瞬発モードで10000分の1〜2秒の作動時間に可変することができる。 |
二動信管 | 1つの信管に瞬発信管と延期信管の2つの機能を兼ね備えた信管で、目的によってモードを切り替えて使用する。自衛隊で使用されているM557二動信管は、瞬発モードで10000分の1〜2秒、延期モードで100分の5秒の作動時間に可変することができる。 |
●信管の取り付け位置と呼称および特性
信管には弾丸のどの部分につけられるかによって、呼称や特性が異なる。弾頭に付けられるものを弾頭信管、弾丸の底部に付けられるものを弾底信管と呼ぶ。
弾頭信管は、瞬発信管や近接信管に使われるのが一般的である。弾頭信管の特徴は、信管の応答速度が速いこと、が上げられる。
弾底信管は、旧式の徹甲弾(徹甲榴弾:AP-HE)に使われていたが、近年では、AP-HE自体がほとんど無くなってしまったため、見られなくなった。弾低信管の特徴は、装甲との衝突でも信管の機能が失われ難いこと、が上げられる。
この他に、対戦車榴弾[HEAT]用の弾頭部にピエゾ素子(圧電素子)を付け、弾底部に起爆装置(伝爆薬)を置いた信管など、複合的なものもある。
●信管の構造
ここでは、最も単純な瞬発式の弾頭信管について説明する。
弾頭瞬発信管の構造概略図を図1に示す。信管の先端には、撃鉄部分があり、その後ろに安全装置、その後ろに伝爆薬と呼ばれる炸薬を爆発させるための、発火しやすい爆薬が配置されている。安全装置とは、信管が、砲口から一定距離以上離れないと作動しないようにするための装置である。安全装置には、砲弾の旋動により安全が解除されるものや、砲弾の加速度で安全解除されるものなど、さまざまなタイプがある。この信管の作動の流れは以下の通りである。
1)弾丸が発射され、弾丸の旋動や加速度が一定時間以上かかると安全装置が解除される。
2)着弾時に撃鉄に衝撃的な圧力がかかり、これが伝爆薬に伝達され点火、次いで炸薬に伝爆する。
なお、実際の信管は、より複雑な構造や機能(特に安全装置)を有している。
←安全装置解除前 | |
←安全装置解除後 | |
←撃発時 | |
図1 弾頭瞬発信管の構造概略図 |
●信管の例
信管の例を下表に示す。
表 信管一覧表 | |||
名称 | 形式 | 作動時間 | 説明 |
M557二動信管 | 二動信管 | 瞬発モード:0.0001〜0.0002秒 (10000分の1〜2秒) 延期モード:0.05秒 (100分の5秒) |
M48信管にM125系の伝爆薬筒を組み合わせた信管。瞬発および延期モードがある。陸上自衛隊の105mm榴弾砲(M2A1、58式、74式)や155mm榴弾砲(M1、58式、75式)、などの砲弾で使用された。 |
M51二動信管 | 二動信管 | 瞬発モード:0.0001〜0.0002秒 (10000分の1〜2秒) 延期モード:0.05秒 (100分の5秒) |
M48信管にM21A4の伝爆薬筒を組み合わせた信管。M21A4の伝爆薬筒には、安全装置である発火準備延機構が組み込まれいないため、訓練には使用されない。瞬発および延期モードがある。陸上自衛隊の105mm榴弾砲(M2A1、58式、74式)や155mm榴弾砲(M1、58式、75式)、などの砲弾で使用された。 |
M520時計式複動信管 | 複動信管 | 瞬発モード:0.0001〜0.0002秒 (10000分の1〜2秒) 時限モード:25〜75秒 |
M501信管にM125系の伝爆薬筒を組み合わせた信管。瞬発および時限モードがある。時限モードは時計式である。陸上自衛隊の105mm榴弾砲(M2A1、58式、74式)や155mm榴弾砲(M1、58式、75式)、などの砲弾で使用された。 |
M500時計式複動信管 | 複動信管 | 瞬発モード:0.0001〜0.0002秒 (10000分の1〜2秒) 時限モード:25〜75秒 |
M501信管にM21A4の伝爆薬筒を組み合わせた信管。 M21A4の伝爆薬筒には、安全装置である発火準備延機構が組み込まれいないため、訓練には使用されない。瞬発および時限モードがある。時限モードは時計式である。陸上自衛隊の105mm榴弾砲(M2A1、58式、74式)や155mm榴弾砲(M1、58式、75式)、などの砲弾で使用された。 |
M55火道式複動信管 | 複動信管 | 瞬発モード:不明 時限モード:25秒 |
M54信管にM21A4の伝爆薬筒を組み合わせた信管。火道式と呼ばれる火薬の燃焼時間を利用した25秒で可変可能な時限装置を持っている。 M21A4の伝爆薬筒には、安全装置である発火準備延機構が組み込まれいないため、訓練には使用されない。瞬発および時限モードがある。時限モードは時計式である。陸上自衛隊の105mm榴弾砲(M2A1、58式、74式)や155mm榴弾砲(M1、58式、75式)、などの砲弾で使用された。 |
M78コンクリート信管 | 延期信管 | 0.025秒(1000分の25秒) |
トーチカ等のコンクリート製構造物を破壊するために使用する信管。着弾の衝撃で壊れないように頭部を高強度のクロム・モリブデン鋼としている。陸上自衛隊の105mm榴弾砲(M2A1、58式、74式)や155mm榴弾砲(M1、58式、75式)、などの砲弾で使用された。修正射撃時の着弾観測を容易にするために、延期薬を抜いた無延期型があり、両型は一定の比率で補給されていた。 |
M62無延期信管 | 無延期信管 | 不明 | 無延期型の弾低信管。 75mm榴弾砲M1A1「パックハウザー」や105mm榴弾砲M2A1の成形炸薬弾に使用された。 |
13式信管 | 無延期信管 または 延期信管 |
1号:即働(無延期) 2号:0.03秒(100分の3秒) 3号:0.08秒(100分の8秒) 4号:0.4秒(10分の4秒) 5号:0.4秒(10分の4秒) |
1924年に制式採用された着発信管。作動時間によって1号〜5号の種類があり、いずれもメカニズムは同一。1号は14〜20cm砲の通常弾および徹甲弾に、2号は20cm砲の被帽徹甲弾に、3号は91式15.5cm徹甲弾に、4号は、91式20cm徹甲弾に、5号は91式36cm徹甲弾、91式40cm徹甲弾、91式46cm徹甲弾や、1式36〜46cm徹甲弾で使用された。特筆すべき点は、安全装置として弾丸の回転による遠心力を利用した打針扼装置を用いていたことである。この打針扼装置は、ドイツ海軍の大口径砲信管に装備されていたものを第1次世界大戦直後に入手し、これを参考として開発したものである。結果的に大日本帝国海軍が最後に開発した信管になった。開発は、川瀬中佐(当時、後に中将)を筆頭に秦技師などの技術陣による。当時としては、安全かつ高性能の徹甲弾用着発信管であった。 |
71式信管 | 近接信管 | − | 電波発信の開始時間を100秒まで任意に可変できる発火準備可変型の71式CVT信管に、M125J伝爆薬筒を組み合わせた信管。従来の近接信管では、作動高さが落角30度で約15mに設計されており、発射直後から電波を発信するため、味方陣地の遮蔽物からの安全距離を広くとる必要があったが、本機構により改善されている。また、着発機構も追加されており、万一、近接信管が作動しない場合でも、着弾により砲弾が炸裂する。 1型は陸上自衛隊の105mm榴弾砲(M2A1、58式、74式)で、2型は海上自衛隊の51口径5インチ速射砲で、3型は陸上自衛隊の155mm榴弾砲(M1、58式、75式)、155mmカノン砲M2、203mm榴弾砲(M2、M110)などの砲弾に使用される。 |
参考文献:
・「PANZER」 2000年2月号(325号) アルゴノート社
・「PANZER」 1999年4月号(314号) アルゴノート社
・「大砲入門」 佐川二郎著 光人社NF文庫
・「軍艦メカニズム図鑑 日本の戦艦・下」 泉江三著 グランプリ出版
・「仮制式要綱71式信管3型 XC9009」 防衛庁 1971年12月27日
作成:2001/07/01 Ichinohe_Takao
更新:2003/07/21 Ichinohe_Takao