榴弾の威力範囲


●榴弾の威力範囲の考え方
 榴弾の威力範囲の考え方について説明する。榴弾の攻撃目標は、人員や装甲化されていない車両、物資、構造物などであり、破壊効果の観点から10グラム前後の破片が大量に発生するように設計されている。人員を殺傷するのに必要な破片の運動エネルギーは196[J]程度と言われており、10グラムの破片であれば約198[m/sec]の速度が必要である。この運動エネルギーは直立した厚さ30mmの松板を貫通するのに必要な運動エネルギーに匹敵するとされている。また、破片の速度は炸裂点付近が最も高速であり、炸裂点から離れるほど空気抵抗により減速する。これらのことから、旧日本陸軍では、榴弾の対人員威力範囲を以下の方法で測定した。
1)榴弾を適当な地上高さに設置する。
2)榴弾を中心に5m間隔程度で厚さ30mmの松板を直立させる。
3)榴弾を炸裂させ、松板をいくつの破片が貫通したかを調査する。
4)3)の結果から、1[m^2]の面積に破片が1個以上貫通している距離を求める。これを威力半径としている。なお、単位面積あたりの貫通破片数を貫通破片密度と呼び、威力半径以内では、貫通破片密度は1以上である。
 陸上自衛隊や各国軍でも完全に同じではないが、同様の試験にて威力範囲を決定していると考えられる。一方、各国において威力範囲における貫通破片密度は必ずしも同一とは言えないことに注意が必要である。

●榴弾直径と威力半径の関係
 旧日本陸軍および陸上自衛隊の火砲の榴弾について、弾丸重量の立方根と威力半径の関係を調べた。旧日本陸軍の弾丸重量の立方根と威力半径の関係を表1および図1に、陸上自衛隊の同関係を表2および図2に、旧日本陸軍および陸上自衛隊の両方の同関係を表3および図3に示す。
 図1〜3を見ると、弾丸重量の立方根と威力半径には比例関係があり、1次直線で近似できることが判る。近似結果は以下の通りである。
旧日本陸軍:Y=10.998X+1.3065、相関係数R^2=0.9554
陸上自衛隊:Y=12.929X-7.1001、相関係数R^2=0.9932
旧日本陸軍および陸上自衛隊:Y=11.061X-0.0524、相関係数R^2=0.9578
ただし、X:弾丸重量の立方根、Y:威力半径
 結果を見ると、相関係数が大きく、近似式の信頼性が高いことが判る。

以上

表1 榴弾重量の立方根と威力半径の関係(旧日本陸軍)
砲名称 砲弾名称 直径
[mm]
弾丸重量
[kg]
弾丸重量の
立方根
炸薬重量
[kg]
炸薬/重量比
[%]
威力半径
(実際)
[m]
威力半径
(近似)
[m]
威力半径
実際/近似比
45式15cm加農砲 93式尖鋭弾 149.1 40.2 3.4 5.47 13.6 38 39 0.97
96式15cm榴弾砲 92式榴弾 149.1 36.0 3.3 7.67 21.3 36 38 0.96
14年式10cm加農砲 91式榴弾 105 16.0 2.5 2.52 15.8 31 29 1.07
38式野砲 94式榴弾 75 6.0 1.8 0.81 13.5 22 21 1.03
92式歩兵砲 92式榴弾 70 3.8 1.6 0.59 15.5 22 18 1.19
90式戦車砲 90式榴弾 57 2.4 1.3 0.25 10.4 16 16 1.00
94式37mm砲 94式榴弾 37 0.6 0.8 0.06 10.0 7 11 0.66

 

表2 弾丸重量の立方根と威力半径の関係(陸上自衛隊)
砲名称 砲弾名称 直径
[mm]
弾丸重量
[kg]
弾丸重量の
立方根
炸薬重量
[kg]
炸薬/重量比
[%]
威力半径 威力半径
(近似)
[m]
威力半径
実際/近似比
正面幅 縦深 平均
[m] [m] [m]
203mm榴弾砲M2 M106榴弾 203 90.7 4.5 16.67 18.4 75 30 53 51 1.03
75式自走155mm榴弾砲 M107榴弾 155 43.9 3.5 6.96 15.9 45 30 38 39 0.97
75式榴弾 155 43.6 3.5 6.80 15.6 45 30 38 38 0.98
155mm加農砲M2 M101榴弾 155 43.4 3.5 7.20 16.6 45 30 38 38 0.98
74式自走105mm榴弾砲 M1榴弾 105 15.0 2.5 2.13 14.2 30 20 25 25 1.01
74式榴弾 105 14.2 2.4 2.68 18.9 30 20 25 24 1.03
75mm榴弾砲M1A1 M48榴弾 75 6.7 1.9 0.63 9.4 20 15 18 17 1.01

 

表3 弾丸重量の立方根と威力半径の関係(旧日本陸軍と陸上自衛隊)
砲名称 砲弾名称 口径
[mm]
弾丸重量
[kg]
弾丸重量の立方根 炸薬重量
[kg]
炸薬/重量比
[%]
威力半径 威力半径
(近似)
[m]
威力半径
実際/近似比
正面幅 縦深 平均
[m] [m] [m]
203mm榴弾砲M2 M106榴弾 203 90.7 4.5 16.67 18.4 75 30 53 50 1.06
75式自走155mm榴弾砲 M107榴弾 155 43.9 3.5 6.96 15.9 45 30 38 39 0.96
75式榴弾 155 43.6 3.5 6.80 15.6 45 30 38 39 0.96
155mm加農砲M2 M101榴弾 155 43.4 3.5 7.20 16.6 45 30 38 39 0.97
45式15cm加農砲 93式尖鋭弾 149.1 40.2 3.4 5.47 13.6 38 38 1.00
4年式15cm榴弾砲 92式榴弾 149.1 36.0 3.3 7.67 21.3 36 36 0.99
14年式10cm加農砲 91式榴弾 105 16.0 2.5 2.52 15.8 31 28 1.11
74式自走105mm榴弾砲 M1榴弾 105 15.0 2.5 2.13 14.2 30 20 25 27 0.92
74式榴弾 105 14.2 2.4 2.68 18.9 30 20 25 27 0.94
38式野砲 94式榴弾 75 6.0 1.8 0.81 13.5 22 20 1.10
75mm榴弾砲M1A1 M48榴弾 75 6.7 1.9 0.63 9.4 20 15 18 21 0.84
92式歩兵砲 92式榴弾 70 3.8 1.6 0.59 15.5 22 17 1.28
90式戦車砲 90式榴弾 57 2.4 1.3 0.25 10.4 16 15 1.08
94式37mm砲 94式榴弾 37 0.6 0.8 0.06 10.0 7 9 0.75

  

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作成:2001/08/15 Ichinohe_Takao
更新:2002/04/21 Ichinohe_Takao