自己鍛造弾[SSF:Self Forging Fragments]
爆発成形侵徹体[EFP:Explosively Formed Penetrator]
●自己鍛造弾[SSF:Self Forging Fragments]とは
自己鍛造弾とは、[SSF:Self Forging Fragments]の日本語訳で、直訳すると自己鍛造破片である。この他に、[EFP:Explosively Formed Penetrator]という呼称もあり、日本語では、爆発成形侵徹体と訳される。
本品は、一般的に、装甲戦闘車両の上面や下面などの装甲が薄い部分を狙った対戦車ミサイル、誘導砲弾、対戦車地雷などの弾頭に使用される。
●自己鍛造弾の構造
自己鍛造弾の構造概略図を図1に示す。構造は、対戦車榴弾(成形炸薬弾)と類似したもので、円錐形状の重金属製ライナーの後方に、爆薬が配置され、爆薬の周囲は弾体で囲まれている。
図1 自己鍛造弾の構造概略図 |
●自己鍛造弾による装甲への攻撃方法
自己鍛造弾による装甲への攻撃方法概略図を図2に示す。装甲への攻撃方法は、装填された爆薬の爆発のエネルギーで、ライナーを侵徹効果の良好な形状に成形し、同じく爆発のエネルギーで加速し、高速で装甲に衝突させるというものである。
余談だが、自己鍛造弾の構造および攻撃方法は、銃砲に例えると判り易い。すなわち、弾体=砲身(薬室含む)、炸薬=発射薬(装薬)、弾丸=ライナー(侵徹体)である。要するに自己鍛造弾は、目標近くまで他の方法で、輸送され、弾丸を発射する装置と考えると判り易い。なお、対戦車榴弾(成形炸薬弾)や榴弾も、指向性や威力範囲などが異なるが、大雑把に言って、同様の装置である。
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図2 自己鍛造弾の装甲への攻撃方法概略図 |
自己鍛造弾のライナーおよび成型された侵徹体と、侵徹された標的の写真を図3に示す。上写真の右の円盤状のものがライナーで、それが爆発のエネルギーで変形され、左側の弾丸のような形状に成型される。ライナーは、155mm榴弾砲SMArt EFPの子弾に内蔵されるものである。下写真の孔が穿たれた立方体が、自己鍛造弾で貫徹された標的である。標的の厚さは、100mmである。
図3 自己鍛造弾のライナーおよび成型侵徹体(上写真)と貫徹された標的(下写真) |
Photo by DSEi 2003 Anthony G Williams URL http://www.quarry.nildram.co.uk/DSEi2003.htm |
●自己鍛造弾と対戦車榴弾(成形炸薬弾)の比較
自己鍛造弾による装甲の破壊状況を図4に示す。侵徹長は、ライナー直径の0.5〜1.0倍程度と言われており、対戦車榴弾の侵徹長(ライナー直径の3〜8倍)と比較すると、大きく見劣りする。一方、対戦車榴弾の侵徹孔は直径が小さく細長いが、自己鍛造弾の侵徹孔は、直径が大きく浅い。
対戦車榴弾の最適なスタンドオフ距離は、ライナー直径の1〜3倍(直径:100mmのライナー、100〜300mm)と言われているが、自己鍛造弾の有効距離は、5〜500倍(直径:100mmのライナーで、500〜50000mm)と言われており、有効距離では対戦車榴弾を大きく凌いでいる。
侵徹体の速度は、2000〜3000m/secと言われており、対戦車榴弾のメタルジェットの速度8000〜12000m/secと比較すると、1/4程度である。
自己鍛造弾の侵徹体の質量は、成形炸薬弾よりも大きいと推察される。というのは、対戦車榴弾(成形炸薬弾)と自己鍛造弾において、同じ炸薬量によって加速される侵徹体の運動エネルギーが、同一であると仮定すると、対戦車榴弾の侵徹体(メタルジェット)の質量を1とすると、自己鍛造弾の侵徹体の質量は16と計算される。質量が大きいことは、飛距離に対する侵徹体の速度の減少率を低くすることを意味しており、これが有効距離が長くなっている理由でもある。また、侵徹体による車内への破壊効果は、その質量から、対戦車榴弾より自己鍛造弾の方が大きいと推定される。ただし、対戦車榴弾の車内への被害の主要因は、炸薬の燃焼ガスの流入であり、単純には比較できない。
これら自己鍛造弾と対戦車榴弾の侵徹体の特性を比較すると判るが、多少語弊のある言い方をすれば、自己鍛造弾の侵徹体は、対戦車榴弾のスラグ[slug]である。対戦車榴弾のスラグとは、メタルジェットになれなかったライナーの残りかすのことで、これはライナー質量の70〜80%もあり、速度は500〜1000m/secと言われている。対戦車榴弾のライナー角度を浅くし、弾体を薄く、ライナーを厚くすると、メタルジェットの生成が少なくなり、ライナーのほとんどがスラグになる。このスラグを、爆発のエネルギーで、侵徹効果の高い形状に変形するように設計したものが、自己鍛造弾なのである。
●自己鍛造弾の侵徹理論
自己鍛造弾の侵徹理論は、侵徹体の存速が2000〜3000m/secということから、装甲および砲弾が現象的に流体に近似した振る舞いを起こす領域(III)であると推測される(侵徹理論の詳細については、「徹甲弾の侵徹理論」を参照のこと)。これは、現代のAPFSDSの侵徹理論と同一であり、対戦車榴弾(成形炸薬弾)にも有効な軽量型複合装甲では、自己鍛造弾に対する防御能力が不足することを意味している。軽量型複合装甲は、その軽量性と、対戦車榴弾に対する効果の高さから、トップアタックやボトムアタック対策として、多くの戦闘車両に採用されているが、自己鍛造弾は、この軽量型複合装甲をより効率よく貫徹可能なことから、多くの対戦車ミサイルや対戦車地雷の弾頭として採用されているのである。
図4 自己鍛造弾による装甲の破壊状況 |
作成:2002/06/30
更新:2006/06/13