硬芯徹甲弾(高速徹甲弾)
●硬芯徹甲弾[APCR:Armor Piercing Composite Rigid]とは
侵徹理論上、同じ運動エネルギーを持った砲弾は、その径が小さいほど装甲の抵抗が低くなり侵徹長が増大する(砲弾の侵徹長は、砲弾の弾面積に半比例するため。詳しくは徹甲弾の侵徹理論を参照のこと)。この理論から、同じ質量および速度を持つ砲弾ならば、砲弾の径を小さく、長さを大きくすれば、侵徹長を増大できる。なお、砲弾の直径:Dに対する砲弾長さ:Lの比をL/D比と呼ぶ。一方、砲弾はその直径に対し一定以上長くすると(L/D比が6以上であると)、飛翔中の安定性が悪くなる。また、質量が増大するため高い初速が得られなくなる。これら問題の内、主に後者について解決するために開発されたのが、硬芯徹甲弾[APCR:Armor
Piercing Composite Rigid]である(米国では、同じ弾種を高速徹甲弾[HVAP:Hyper
Velocity Armor Piercing]と呼称している)。硬芯徹甲弾(高速徹甲弾)の構造概略図を図1に、各種徹甲弾の写真を図2に示す。硬芯徹甲弾(高速徹甲弾)とは、軽合金製の外郭の中に一回り小さな重金属製(タングステンカーバイトなど、比重と硬度が高い材質)の弾芯が入った構造の砲弾である。この砲弾はAPCBC弾などに比較して砲弾全体の比重は低く、同じ砲(同じ装薬量)でも高初速を得られる。また、この砲弾が装甲に着弾すると、軽合金の外郭は潰れて内蔵の弾芯のみが装甲を侵徹するが、砲弾全体のL/D比に対して、弾芯のL/D比は大きくでき、侵徹能力を増大できる。一方、砲弾全体の比重が低いことから、遠距離での存速の低下が大きく、侵徹能力の低下の度合が大きい。また、このような存速の低下の大きな砲弾の命中精度は、その弾道特性(弾道を見ると、遠距離で急激に落下する)から低くなる。
●硬芯徹甲弾の実用化時期と例
APCR弾を最初に実用化したのは、第2次世界大戦初期のドイツで、その直後、米国も実用化している。APCR弾の例としては、ドイツ軍の4号戦車H型の7.5cm戦車砲Kw.K.40で用いられた7.5cm砲用のPzgr.40、6号戦車タイガーI型の8.8cm戦車砲Kw.K.36で使用された8.8cm砲用のPzgr.40などがある。また、HVAP弾の例としては、米軍のM4シャーマン戦車の76mm戦車砲M1で使用されたM93HVAPなどがある。
●各種徹甲弾の貫徹能力の比較
リンク先(こちら)を参照のこと。
●各種砲弾による装甲の破壊状況
リンク先(こちら)を参照のこと。
図2 各種徹甲弾の写真 (写真提供および解説:お兄軍曹殿) (写真をクリックすると大きな写真が見られます) |
@90mm戦車砲用、M318A1徹甲弾(APBC)弾芯。弾帯つきは珍しい。 A105mm戦車砲用、L26A1装弾筒付高速徹甲弾(HVAPDS)タングステンカーバイト弾芯。 B105mm戦車砲用、M735装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)飛翔体 C120mm戦車砲用、DM33翼安定式装弾筒付徹甲弾(APDSFS)飛翔体(サボ付き) |
作成:2001/07/22 Ichinohe_Takao
更新:2003/01/16 Ichinohe_Takao