徹甲弾(Armor Piercing)
●徹甲弾(Armor Piercing)とは
徹甲弾(Armor Piercing)とは、砲弾の運動エネルギーにより装甲の貫徹を目的とした砲弾である。構造は、極初期のもので、円柱の先端に半球を付けたような形状(いわゆる砲弾形状)の単なる金属の塊であった。この砲弾を高速で飛ばすことにより砲弾に大きな運動エネルギーを与え、装甲を変形・破壊・貫徹させる。また、第二次世界大戦ごろのAP弾と呼ばれているものには、少量であるが炸薬を内蔵している場合がほとんどである、それらについては徹甲榴弾[AP-HE弾]と標記する場合もある。
●徹甲弾の構造の変遷
・AP弾[Armor Piercing]
各種徹甲弾の構造概略図を図1に、各種徹甲弾の写真を図2に示す。前述したように極初期の徹甲弾は単なる一種類の金属の塊であった。このような単純な構造の砲弾をAP弾[Armor
Piercing]と呼ぶ。材質には、装甲との衝突により変形しないために、硬度(注1「硬度、引張強さ、靭性の関係」を参照のこと)の高い鋼が使われていた。
AP弾の例としては、第二次世界大戦中の米軍のM4シャーマン戦車の75mm戦車砲M3や、37mm対戦車砲M3で用いられたM72AP弾(37mm、75mm砲ともM72という呼称は同一)などがある。
・APC弾[Armor Piercing Capped]
AP弾は、装甲に衝突すると、その形状から先端に応力が集中し、靭性の低さ(注1「硬度、引張強さ、靭性の関係」を参照のこと)から割れてしまうことがあった。また、浅い角度で着弾すると、硬度が高く塑性変形しにくいことから、滑ってしまうことがあった。この対策として、AP弾の先端に被帽と呼ばれる比較的軟らかい鋼のキャップを被せた。このキャップは、装甲との衝突の際に装甲に張付くように塑性変形し、本体先端に対する応力集中および、装甲から滑り出すことを防止する。このタイプの砲弾をAPC弾[Armor
Piercing Capped]と呼び、日本語では、被帽付徹甲弾と訳されている。
APC弾の例としては、第二次世界大戦中のドイツ軍の3号戦車J型の50mm戦車砲Kw.K.38(Kampf wagen kanone 38) やKw.K.39で用いられた50mm砲用のPzgr.39(Panzer granate39)などがある。
・APBC[Armor Piercing Ballistic Capped]、APCBC弾[Armor Piercing Capped
Ballistic Capped]
AP弾やAPC弾の形状では空気抵抗が大きく、遠距離では砲弾存速が低下し貫徹能力が下がる。対策として、AP弾やAPC弾の先端に空気抵抗を減らすためのキャップを付けたAPBC弾[Armor Piercing Ballistic Capped]、APCBC弾[Armor Piercing Capped Ballistic Capped]が開発された。このキャップは中空で、装甲への着弾の際に吹飛んでしまう。日本語で直訳すると、APBC弾は低抵抗帽付徹甲弾、APCBC弾は低抵抗被帽付被帽付徹甲弾であるが、APBC弾を訳している資料は見つからず、APCBC弾は低抵抗被帽付徹甲弾と訳されているようだ。
APBC弾は第二次世界大戦中のソ連軍が戦車砲および対戦車砲用として主用した。例としては、76.2mm砲(F34など)用の砲弾BR-350AおよびBR-350B、85mm砲(Zis-S-53など)用の砲弾BR-365などがある。なお、BR-350A、BR-350Bともに少量の炸薬を内蔵している。
APCBC弾の例としては、ドイツの4号戦車H型の7.5cm戦車砲Kw.K.40で用いられた7.5cm砲用のPzgr.39、6号戦車タイガーI型の8.8cm戦車砲Kw.K.36で使用された8.8cm砲用のPzgr.39などがある。なお、ドイツ軍のAPCBC弾は小量の炸薬を内蔵している。
・APCR弾、APDS弾、APFSDS弾
その後、APCR弾(HVAP弾)、APDS弾、APFSDS弾が開発された。各徹甲弾の説明は別に準備してあるので、そちらを参照してほしい。
●徹甲弾の侵徹理論
リンク先(こちら)を参照のこと。
●徹甲弾の成分
旧日本海軍徹甲弾弾体の成分(規格値)を表3に示す。SL3は1944年(昭和19年)以前の20cm徹甲弾弾体の成分で、英国ハドフィールド社製の砲弾と同一成分である。SL4は、1924年(大正13年)に制定された大口径徹甲弾の成分で、これもハドフィールド社と同一である。SL6は、1944年(昭和19年)に改定された20cm徹甲弾弾体の成分である。大戦末期のNi(ニッケル)の不足を補うために、Niを約1.5%低下させている。Ni減分により機械的性質(特に靭性)を低下させないために、C(炭素)を低下させ、Mn(マンガン)、Mo(モリブデン)を添加している。
●徹甲弾の製造方法
リンク先(こちら)を参照のこと。
●各種徹甲弾の貫徹能力の比較
リンク先(こちら)を参照のこと。
●各種砲弾による装甲の破壊状況
リンク先(こちら)を参照のこと。
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・戦艦大和を護衛艦の対艦ミサイルで撃沈できるか?
図2 各種徹甲弾の写真 (写真提供および解説:お兄軍曹殿) (写真をクリックすると大きな写真が見られます) |
@90mm戦車砲用、M318A1徹甲弾(APBC)弾芯。弾帯つきは珍しい。 A105mm戦車砲用、L26A1装弾筒付高速徹甲弾(HVAPDS)タングステンカーバイト弾芯。 B105mm戦車砲用、M735装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)飛翔体 C120mm戦車砲用、DM33翼安定式装弾筒付徹甲弾(APDSFS)飛翔体(サボ付き) |
作成:2001/07/15 Ichinohe_Takao
更新:2003/01/16 Ichinohe_Takao