地雷で破壊されたM1戦車


死亡したのはM1エイブラムズ戦車の乗員か?
2003年10月末に次のようなニュースがありました。

Yahoo海外ニュース,2003年10月30日(木)1時19分
「イラクで米兵2人死亡 116人、戦闘中死者超す」
URL:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20031030-00000006-kyodo-intより引用

「【バグダッド29日共同】イラク駐留米軍によると、イラク中部のバラド付近で28日夜、米軍の戦車が移動中、仕掛けられた爆発物に触れ爆発し、米兵2人が死亡、1人が負傷した。」

この内容から「米軍のM1エイブラムス戦車の乗員が、仕掛爆弾によって、2人死亡し1人が負傷した」と読めます。一方、M1戦車の防御能力は世界屈指で、これまでの実戦の経験からも、乗員に死者が出ることはほとんどありませんでした。そのため「仕掛け爆弾程度で2人の死者が出るというのは本当だろうか?」という疑問が湧いてきます。これについて、興味深い情報を見つけました。それが下記です。

GlobalSecurity.org,The Quad-City Times ,November 16, 2003
「Arsenal worker involved in U.S. tank investigation」
URL:http://www.globalsecurity.org/org/news/2003/031116-tank-investigation.htmより引用

「An M1 Abrams tank was destroyed and two soldiers were killed by a mine in Iraq at the end of October. 」

翻訳しますと次のようになります(訳者:筆者)。
「1両のM1エイブラムス戦車が、10月末ごろイラクにおいて地雷により破壊され、2人の兵士が死亡した。」
前述のYahooニュースと日時的にも合いますので、M1戦車は地雷(または大型の仕掛爆弾)によって破壊され、乗員が2人死亡したようです。

この他、「WWW.IRAQWAR.RU」(URL:http://www.iraqwar.ru/)で下記の写真と解説が掲載されました。
引用します。

No. 写真
(クリックすると大きな写真が見られます)
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写真とともに掲載されていた解説は次の通りです。

・ロシア語の解説
「Американский танк "Абрамс" был полностью уничтожен взрывом мины в 60-ти километрах к северу от Багдада 27-го октября. Взрыв прорвал бронированое днище танка, убил двух членов экипажа и отбросил башню на несколько метров от корпуса. 」

・英語の解説
「A US "Abrams" MBT was completely destroyed by a landmine on October 27 45 miles north of Baghdad. Two crew were killed. The explosion ripped through the bottom of the tank and threw the turret clear of the tank's body.」


翻訳しますと、次のとおりになります(訳者:べちゅーしゅか氏、ロシア語の解説を翻訳)。

「10月27日、バグダッドの北方六十数km(著者注:英語の解説ですと、45マイル=約72kmになっています)で、米国の戦車「エイブラムス」は、地雷の爆発により完全に破壊された。爆発は戦車の底部装甲に穴を開け、2名の乗員を死亡させ砲塔を車体から数メートル吹き飛ばした。」

この写真の状況について、当WebSiteの掲示板において、次のような考察がなされています。
なお、考察の掲載順序は、掲示板に書き込まれた順番です。
また、これらの考察は写真の状況から推測したに過ぎず、公式発表ではない点に留意してください。

*** 考察ここから ***
●シメジ氏の考察
1、戦車回収車が見える
2、写真No.2を見ると後に引きずられたよーに見える
3、特に1〜2転輪が酷く損傷している
4、キャタピラが無く、サイドスカートが派手に吹っ飛んでいる
5、戦車の両脇にV字型の溝が見える

等から自分は遅発式の大型地雷だと思います。
V字型溝のため直進しかできなかったM-1が地雷を踏む→衝撃でキャタピラ切断、砲塔も外れて飛ぶ、サイドスカートも
その後、回収しつつの現場検証写真だと思います。
砲塔がひっくり返ってる所から見ておそらくは15榴砲弾を3〜4発束ねた物だと思います。
アフガンやチェチェンでは航空爆弾が地雷に使われたというのを聞いてそう思いました。

●筆者の考察
この写真の状況で死者が2人で負傷者が1人というのが解せないです(全員死亡しそうに思えます)。
ただし、死者や負傷者の直接の原因は地雷(爆弾)であって、戦車を全損させたのは、その後の火災と車体内積載弾薬の誘爆なのかもしれないと思っています。
つまり、地雷(爆弾)の爆発で、戦闘室の3名か操縦手が負傷(または死亡)し、2名は脱出できたものの、2名は脱出できない状態で、火災が発生、車体内の弾薬が誘爆し、2名は死亡し、戦車がこのありさまになったのかもしれないと思っています。
なお、M1戦車の弾薬のほとんどは、ブローオフパネルを装備しているバスルに搭載されていますが、一部(6発)が車内に搭載されているそうです。

●お兄軍曹氏の考察
私は、車体の状態から考えて地雷(爆薬若しくは、シメジ さんの考えた物と同じ榴弾砲流用の仕掛け地雷)により車体底板を突き抜けその爆破力が砲塔を吹き飛ばしたものと考えます。
死傷者は操縦手及び車長
仕掛け地雷はいわゆる「戦車道(幹線道路を壊さないために脇に設けられたオフロード)」に仕掛けられたんではないでしょうか?
しかも単に移動中だったとすると、砲手が乗ってないとか外に誇乗していれば死亡までは至らないと思います。爆破の位置は車体前部右側(操縦手右後方)付近と思われ、操縦手及び右側乗員(砲塔後ろだと装填手だけど)は即死でしょう。
車体弾薬架は装甲化されていますし、写真を見る限りでは誘爆していないように見えます。
(後に追記)
あと、私の推測に大事なところが欠けていました。
操縦手ハッチが跡形も無く吹き飛んでいるところからハッチは閉鎖状態にあったと推察されます。
とすると、単なる移動中ではないことになります。乗員4名フルに乗っていれば操縦手及び砲手は死亡を間逃れないでしょう。しかしながら車長または装填手のどちらかが無傷もありえません。
2名死亡2名重傷若しくは3名死亡1名重傷あたりが相当ですね。
*** 考察ここまで ***

なお、M1A1戦車の内部構造等については、下記WebSiteが参考になると思われます。

・AFV INTERIORS
URL:http://afvinteriors.hobbyvista.com/m1a2/abrams1.html

その後、べちゅーしゅか氏より下記のような情報を頂きました。
引用します。

タイトル:追加情報
投稿者:べちゅーしゅか氏
投稿日時:[2003/12/11,12:04:49]
投稿No.:No.176
*** 引用ここから ***
今月号の軍事研究に、この件についての記事有り。
発売直後の雑誌ですので直接の引用は避けますが、一見の価値有り。
参考になる話も多いので、ご確認を。
なお、本来の出所についても記述。下記参照。
http://strategypage.com/
*** 引用ここまで ***

この情報を受けて、StrategyPage(URL:http://strategypage.com/)の下記URLより引用します。
URL:http://strategypage.com/gallery/default.asp?target=anti_tank_mine.htm

タイトル:「Anti-Tank Mines Destroy M1A1 in Iraq 」
「In Iraq, a US 4th Infantry Division tank was destroyed (and two of the four man crew killed, another was wounded) when they rolled over three anti-tank mines, buried in the road, one on top of another. The incident occurred on October 28th, 40 kilometers northeast of Balad at about 7 PM.」

翻訳しますと次のようになります(訳者:筆者)。

タイトル:「イラクにおいて対戦車地雷がM1A1を破壊した」
「イラクにおいて、米国、第4歩兵師団の戦車が破壊された(4名の乗員の内2名が死亡、他の乗員は負傷した)。この際、彼ら(戦車)は、道路に埋められた3個の対戦車地雷(その内の1個は他の地雷の上に設置されていた)の上を走行中であった。この事件は、バラドの北方40kmにおいて、10月28日の午後7時ごろに起こった。」

なお、「その内の1個は他の地雷の上に設置されていた」(原文:one on top of another)の意味は、
地雷を重ねて埋めておくということで、地雷の除去作業を困難にする等の目的があるそうです。
(この部分の翻訳と解説は、けい氏より)。

この他、同じような事例に、パレスチナにおいてイスラエルのメルカバMk3戦車が仕掛爆弾で破壊されたことがあります。
それが下記です。

Mainichi INTERACTIVE,2002年2月16日,毎日新聞
「戦車大破受け報復攻撃 イスラエル軍 」
URL:http://www.mainichi.co.jp/eye/feature/article/chuto/200202/16-01.htmlより引用

「イスラエル軍の戦車が(作者注:2002年2月の)14日夜、ガザ中部のユダヤ人入植地ネツァリム近くの道路でパレスチナ人武装集団の爆弾攻撃に遭った。戦車は大破、兵士3人が死亡し、1人が負傷した。<中略>イスラエル側の情報によると、戦車が大破する前に、入植者専用道路で小型爆弾が民間の車列を襲った。このため、戦車が駆け付けるのを見計らって100キロ相当の強力な爆弾が仕掛けられ、爆発したとみられる。破壊された戦車は世界でも屈指の頑丈な戦車「メルカバ3」だった。 」

M1エイブラムズ、メルカバMk3とも、60トン以上もある重装甲の戦車ですが、車体下部などの部分は、重装甲化が難しいために、地雷や地下に埋められた大型の仕掛爆弾には耐えることができないのです。

以上


作成:2003/11/30
更新:2003/12/27