松田喬和のコラム

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松田喬和の首相番日誌:補選敗北に危機感不足

 「このままでは菅(直人)政権だけでなく、日本そのものがメルトダウンしてしまう」

 連立のパートナー、国民新党の亀井静香代表は、衆院北海道5区補選で民主党公認候補が敗れたことを契機に改めて露呈された政権内の混乱ぶりに警告を発する。だが、仙谷由人官房長官の補選総括は「一喜一憂すべきではない」だった。

 最大の敗因は「政治とカネ」問題にある。菅首相も国会での質疑で敗因の一つと認めたが、検察審査会の議決で、強制起訴が決まった小沢一郎元代表の国会招致問題には明確な方向性を示していない。26日のぶら下がりで、その点をただされたが「幹事長らに条件を整えるように指示している」と、語るだけだった。

 当の岡田克也幹事長も28日の会見で「私としては粘り強く、辛抱強くいつでもお会いしたいと考えている」と、小沢氏との会談は、めども立っていないと告白している。

 補選の結果が、その後の政局展開を大きく左右したケースは少なくない。古くは87年の参院岩手補選だ。前年の衆参同日選挙で大勝した中曽根康弘首相(当時)は懸案の大型間接税、売上税の導入を目指していた。ところが、「公約違反」「反売上税」を掲げた社会党候補が勝利したのを契機に、内閣支持率も急落。売上税導入は見送られた。

 小泉純一郎政権末期の06年4月の衆院千葉7区補選も典型だ。前年の「郵政総選挙」で圧勝した自民党は、「劇場型」選挙戦の再現を目指した。だが、女性県議を擁立した民主党は、小沢代表(当時)が提唱する「どぶ板選挙」を徹底させ、逆転勝利を果たした。翌年の参院選も大勝し、政権交代への道筋を付けた。

 菅政権の現状を象徴しているのが、企業・団体献金の一部受け入れ再開を決めたタイミング(26日)だ。小沢氏や鳩山由紀夫前首相の「政治とカネ」が、与野党間の争点になっている最中だった。来春の統一地方選を意識しての方針転換だが、慎重さに欠ける。危機管理なくして政権は成り立たない。(専門編集委員、65歳)

毎日新聞 2010年10月30日 東京朝刊

松田 喬和(まつだ・たかかず)
 1945年群馬県生まれ。69年早大文学部卒、毎日新聞入社。福島支局、社会部の後、74年から政治部。サンデー毎日、メディア企画本部、政治部デスク、横浜支局長などを経て、99年10月から論説委員、専門編集員。著書に「中曽根内閣史」(共著・中央公論社)「日本政党史」(共著・第一法規)。月刊「潮」に、政治コラム「永田町鳥瞰虫観」を連載中。BS11「インサイドアウト」(月、木曜日午後10時から)のコメンテーター。

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