主文
1 原判決中,控訴人の敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 控訴費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 当事者が求めた裁判
1 控訴人
主文同旨
2 被控訴人
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
1 当事者の主張
原判決2丁表10行目から3丁表末行までに記載のとおりであるから、これを引用する。ただし,次のとおり補正す
る。
(1) 原判決2丁表16行目の「(以下「総代会総会」という。) 」を削除する。
(2) 原判決3丁表2行目の「原告の」の次に「名誉を」を加える。
(3) 原判決3丁表2行目及び5行目の各「別紙」を「原判決添付別紙」に改める。
2 控訴経緯
原審裁判所は,本件会議における控訴人の発言中,被控訴人に対する出講の依頼を取り消した経緯に関する部
分は,被控訴人の社会的評価を 直ちに低下させるべき内容を含んだものではないとして,被控訴人に対する名誉
毀損の成立を否定した。しかし,同発言中,被控訴人が本件研修会当時,酒の臭いをさせた状態で会場に来て,
体調不良」を理由に出講を辞退したと説明した部分は,被控訴人の僧侶としての品位を疑わせるものであり,被控
訴人の名誉を毀損する不法行為であるとして,控訴人に対し,慰謝料10万円及びこれに対する遅延損害金の支
払を命じたが,謝罪文掲載請求は棄却した。
これに対し,控訴人のみが控訴を提起した。
したがって,当審における審判の対象は,原判決が不法行為を認定した控訴人の発言についての不法行為の成
否及び慰謝料額である。
3 当審における当事者の追加的主張
【控訴人】
(1)(被控訴人の飲酒について)
被控訴人は,飲酒をしていなかった根拠として,「3月16日当日,被控訴人は自動車を運転して本願寺派本山に 出向いたのであり,飲酒など
全くしていない。」と主張していた(訴状)。しかし,被控訴人は,本件研修会の前日で ある平成14年3月15日,西本願寺の北隣にある「京都東急ホ テル」に宿泊して,翌16日に研修会場に出向いた のある(乙5の1)。この点,被控訴人は,本件研修会の当日,前夜から聞法会館の駐車場に止め ておいた自動車
で本願寺の宗務所の駐車場まで行き,そこに車を駐車させて,宗務所に出向いたと主張する。しかし,聞法会館駐
車場と宗務所との距離関係を考えれば,被控 訴人が上記のような行動をとることは全く不自然であり,信用できな
い。被控訴人が本件研修会当日,飲酒していた事実は,和治教文(以下「和治」という。)の陳述書(乙3)及び証言
により明らかである。
(2)(名誉毀損の成否について)
ア 名誉とは「人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価,すなわち 「社会名誉」をいうところ,被
控訴人は,実際に,朝から酒に酔って研修会場に来るような人物であったのであるか ら、その社会的評価が低下させられたとはいえない。したがっ て,名誉毀損は成立しない。
イ 控訴人の発言内容は,一般日常生活においても気軽に語られる程度のものであり,不法行為を構成する名誉毀 損には該当しない。また、慰
謝料請求権を発生させるような高度の違法性を帯びた行為であるということもできな い。
ウ 控訴人の発言は,特定少数者の前でのものであり,これによって控訴人の社会的評価が低下させられるようなこ とはあり得ない。仮に,社会
的評価の低下があったとしても,それは,被控訴人自身が、インターネットを 通して宣 伝したり,文書を全国の関係僧侶に送付したりして,控訴人 の発言を流布させたためである。
【被控訴人】
(1)(被控訴人の飲酒について)
被控訴人は,本件研修会の前日,自宅から自己の自動車で聞法会館に赴き,その駐車場に自動車を駐車した,東急ホテルに宿泊した。
翌日,同ホテルを出て,聞法会館の駐車場から自動車を運転して宗務所の建物北側の駐車場に駐車して宗務所に出向いた。
被控訴人は,同ホテルで水割り2,3杯の飲酒をしたが,二日酔いになるような飲酒はしていない。もっとも,研修会への出席問題を抱え,寝不足で宗
務所に出向いたのは事実である。
被控訴人は,理由が明らかにされないままで,出講をとりとめるわけにはいかないが,研修会を混乱させるのも不本意であるから,体調不良の理由で
講師を辞退した形にすると和治に述べたものでであり,「酒を飲んでこんな状態だから」などと述べていない。
(2) (不法行為の成否について)
ア 名誉毀損行為について,「当該行為が公共の利害に関する事実にかかり,専ら公益を図る目的に出た場合にお いて,摘示された事実が真
実であることが証明されたときは,その行為は違法性を欠いて、不法行為にならない ものというべきである。」とされる(最高裁昭和41年6月23日 判決)。
したがって,控訴人の発言について,摘示事実が公共の利害に関するものであり,控訴人が専ら公益を図る目 的で発言したことが立証さ
れなければ,違法性阻却の抗弁足り得ない。
イ 控訴人の発言は,基幹運動本部会議という本願寺派の公式行事において,被控訴人と本願寺派間で出講問題 について既に法的問題が発
生していることを認識した上でされたものであり,控訴人の本願寺派における地位を も考慮すれば,日常会話と同視はできず,慰謝料請求権を発 生させる違法行為である。
第3 判 断
1 事実の認定
上記第2の2で説示したとおり,当審では,原判決が不法行為を認定した控訴人の発言,すなわち,被控訴人
が出講を辞退した理由に関する発言が不法行為を構成するか否か,慰謝料額如何について判断すべきであ
る。
そこで,まず,この発言の経緯、内容等について、証拠(甲1ないし3,4の1,5,15,16,乙3,4,5の1,証
人和治教文,同岩本孝樹)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) 被控訴人は,本願寺派に属する正光寺の住職であり,本願寺派の立場からいわゆる同和問題に取り組も
うとする「基幹運動」に関与してきた。また,被控訴人は,本願寺派内の「連研中央講師」であり,同派の研
修会に講師として参加し得る地位を有している。
(2) 被控訴人は,平成14年2月20日,本願寺派から,全国門徒総代会 (以下「総代会」という。)を代理して,
西本願寺において同年3月16日に行われる本件研修会に講師として出講することを依頼された。
被控訴人は,これを承諾し,被控訴人と総代会を代理する本願寺派は,同年2月26日,被控訴人が本件
研修会に講師として出講する旨の契約(以下「本件出講契約」という。)を締結した。(甲1)。
(3) 被控訴人は,これに先立つ同月24日,「神通寺BBS」及び「坊さんの小箱BBS」というインターネット上のホ
ームページの掲示板に「 a y u 」のハンドルネームを用いて,本願寺派の宗会の予算委員会審議における
一委員の「基幹運動は(一時)中止してはどうか」という発言内容などを紹介する書込みをしていた(甲5)。
本願寺派の総局は,上記予算委員会についての審議が外部に公開されていないこともあって,上記書込み
の当否を問題とし,情報源などについて調査を進めたところ,被控訴人が書込みをしていたことが明らかに
なった(甲15)。
(4) 本願寺派は,上記のことから,被控訴人の本件研修会への出講依頼を取り消したいと考え,同派の庶務
部長である和治は,平成14年3月9日,被控訴人に対し,電話で本件研修会への出講を控えるように要請
し,同月11日には,電話で出講依頼を取り消し,更に同月13日,同月12日付の「諸般の事情により,ご
出講の依頼を取り止めさせていただきたく存じます。」 との内容の総代会の会長長野武一 (以下「長野」と
いう。)名義の文書(甲2)を送付した。
(5) 被控訴人は,これに対し,本願寺派の総局に同月13日付けの書面 (甲4の1)を送付し,上記出講取り止
めについての説明を求め,納得のいく説明がない場合は,本件研修会に出講する意向である旨を通知し
た。しかし,本願寺派の総局からは,返答がなかった。
(6) 被控訴人は,同月15日,自宅から,自動車を運転して西本願寺の北側に隣接する本願寺聞法会館の北
側にある東急ホテルに赴いて,同所に宿泊し,同ホテルで飲酒した。そして,翌16日の本件研修会当日,
西本願寺内の宗務総合庁舎に赴き,午前8時30分ころから,和治及び長野と話し合った。その際,被控訴
人は,酒を飲んでいる状態であり,法話ができないから講師を辞退したい旨の申出をしたが,和治は,同理
由は相当でないと考え,体調不良との理由で辞退することを提案し,被控訴人もこれを了解した。
(7) 和治は,上記の際の被控訴人の様子について,目が赤く,顔色も全体的に赤く紅潮し,舌がもつれるような
感じを受け,前日の飲酒の影響があると感じたが,酒の臭いが強くすると感じるようなことはなかった。
(8) 被控訴人は,和治に対し,総局に挨拶したいと申し出,総局公室長である山内教嶺が応対することになっ
た。しかし,総局会議があったので,和治は,被控訴人に対し,同会議が終わるまで待つように指示し,被
控訴人は待機していたが,結局,同日午後1時になっても総局会議が終わらなかったため,被控訴人は総
局公室長と面談しないまま西本願寺を退去した。
和治は,その後,本願寺派の責任役員であり,庶務部及び財務部を担当する総務の地位にある控訴人に
対し,上記16日の出来事を報告したが,被控訴人の酒の臭いをぷんぷんさせていたとは述べていない。
(9) 被控訴人は,同月20日,西本願寺に赴き,応対した控訴人と面談した。その際,被控訴人が控訴人に対
し,本件研修会への出講依頼を取り消した理由を尋ねたところ,控訴人は,「あなたがしたことを考えれば,
今回のことはわかるはずである。」などと述べた。
(10) 本願寺派は,同年6月4日,本件会議を公式的な行事として開催し,10名の基幹運動本部員および10名
前後の総局ないし宗務局の関係者が出席した。なお,本件会議は,公開されていたものではない。
その際,控訴人は,同会議に出席していた本部員から,本件研修会への被控訴人の出講が中止された事情
を説明するように求められ,おあよそ次の内容の発言をした(以下「本件発言」という。)。
「当日,こちら(控訴人側)から(出講を)お願いはしました。お願いはしましたけれども,取り止めさせていただ
きたい,ご了解いただきたいということは,お願いしました。しかし,ご本人は「いや,私は,出講する。」と,こ
ういうことでした。ですから,再度また,2回にわたって文書を出しております。これは,既に届いていると思い
ますが,2回にわたってお願い文書を出しているということは,一方的に取り消したのではなくて,ご了解をお
願いしているわけです。ところが,ご本人は「出講します」と,こういうことでしたので,したがって,代理の講師
は立てておりません。当日,代理の講師を立てないで,どのようにでも対応できるように待っておりました。そ
したら,ご本人がおいでになって,ここ(被控訴人自身が作成した書面を指す。)にもちゃんと書いてあります。
「長野会長および庶務部長に『体調不良』のため研修会の出講うぃ辞退させていただきたい」とお願いし,「庶
務部長より了解受ける」と,こういうようにはっきりとご自分で書いていらっしゃいます。そして,ご自分からご辞
退なさった。お酒を飲んで、酒の臭いをプンプンさせておいでになったということでございます。ですから,それ
を受けて,「庶務部長より了解を受ける。」と書いてありますので,庶務部長もそれを了解し,そして,当日その
講師は,したがってなしで,スタッフで対応したという,こういうことがことの事実でございます。」
2 判断
(1) 以上に認定した,被控訴人が本件研修会当日,酒を飲んで,酒の臭いをさせた状態で会場に来て,「体調
不良」を理由に出講を辞退したと説明した部分は,その内容自体は被控訴人の僧侶としての品位を疑わせ
るべきものであったとはいえる。
しかし,上記認定事実によれば,被控訴人は,仮に,混乱を避けるとの内心の意図があったとしても,自
ら,和治に対し,酒を飲んでいるから講師を辞退したい旨を述べていたのであり,これを受けて,和治との
話合いで,体調不良を理由として出講を辞退することとされたのである。控訴人は,和治からその旨の報告
を受けていたところ,本件会議において,本部員から被控訴人の出講中止の事情についての説明を求めら
れたため,本件発言をしたのであり,概ね和治から聴取した事情に基づく説明であったといえる。もっとも,
「酒の臭いをぷんぷんさせて」いたとの表現は,和治からの報告内容を逸脱するものであるが,全体の発言
の流れの中で捉えれば,被控訴人が酒に酔っていたため出講できなかったことを強調する表現であり,事
実関係を敢えて偽ったとまではいえない。そして,本件会議が非公開で,その出席者も10名の基幹運動本
部員及び10名前後の総局ないし宗務局の関係者という限られた者であったことを考慮すれば,本件発言
は,未だ,慰謝料請求権を発生させるほどの違法性を具備するものであったとはいえない。
(2) そうすると,被控訴人の控訴人に対する請求(上記第3の1の冒頭で摘記した部分)は,その余の判断をする
までもなく,理由がないというべきである。
第4 結 論
以上と結論を異にする原判決中の控訴人敗訴部分は相当ではないから,これを取り消し,被控訴人の請求を棄却することとし,主文のとおり判決す
る。
大阪最高裁判所第6民事部
裁判長裁判官 大 出 晃 之
裁判官 赤 西 芳 文
裁判官 瀧 華 聡 之
これは正本である。
平成16年2月18日
大阪最高裁判所第6民事部
裁判所書記官 辰 野 基 久
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2004年2月19日
支援者の皆さまへ
武田達城、野村康治
昨日、大阪高等裁判所において、私たちが支援を続けてきました大畠信隆氏の裁判闘争に対する判決が出されました。様々な立場から大畠氏を支え
励ましていただいた皆さまに、心より厚く御礼申しあげます。
さて、大阪高裁の判決は残念ながら我々が望むような結果ではありませんでした。判決要旨は今後皆さまにお見せ
することもできるかと思いますが、その内容は「『酒の臭いをぷんぷんさせて』いたという表現は、和治部長(当時)から
の報告内容を逸脱するものである」等と武田昭英元総務の一連の発言を事実誤認であるとし違法であるという認識をし ているにもかかわらず、この発
言を「未だ慰謝料請求権を発生させるほどの違法性を具備するものであったとはいえな い」といった理由で私たちの主張を認めないという非常に不透 明なものでありました。
いわばこの判決は、権力者の横暴を認めた一方で、迫害された弱者の痛みを平然と切り捨てた非常に権力的な判
決であったと言えます。
裁判という形式上、「慰謝料請求」というかたちではありますが、本当に訴えたいことは金銭ではなく、武田元総務の
人権侵害に対する「怒り」であるということが私たちの思いでありました。このことは私たちの慰謝料請求額からもご理解いただけると思います。
そしてそれは武田元総務の発言が事実とは異なるという趣旨で短い判決文の中に確かに明記されていました。しかし 一人の人間を私たちの同朋を権
力者によって差別され迫害された、すなわち心を殺された「怒り」を「悲しみ」を「慰謝料 を発生させるほどのものではない」という「その程度」の「怒り」で あるという考え方、人の痛みを「程度の問題」とする司 法権力の考え方をけして受け入れることはできません。
被差別者が差別者と向かい合うとき、「もうこのへんでよいであろう」ということは存在しえません。それは差別を認差別に屈服することになるからです。
私たちは、今回の判決内容に妥協することは一切ありません。
納得のいかない点がある以上は、この上もこの権力との闘争を続ける覚悟です。被差別者は差別されることで一度
殺されます。そしてその差別に対する闘いをあきらめた時、あきらめた自分自身に再び殺されるのです。激しい表現で
すが、これまでの運動で学び得たこの言葉を私は忘れることができません。
そのような意味で、今回のこの判決は、私たちが権力との闘いを示す新たな出発点に立ったことを意味するとともに、
新たな決意を確認するものであったと考えています。
今までお世話になりました皆さまにおかれましては、大畠氏に対してより一層のご支援とご理解をいただきますようにお願い申しあげます。
称名
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支援者の皆様へ
武田達城、野村康治
梅雨空が続きますが、皆様には日々、お念仏相続のこととお喜び申しあげます。既報の通り2003年5月26日、予定より2週間延期の後、ようやく判
決の言い渡しがありました。判決の内容は、大畠氏への名誉毀損の10万円の損害賠 償を認めるものでした。詳しくは、添付の判決文の中、裁判所の 判断を部分を参照ください。謝罪広告は認められなか ったものの、完全な勝訴判決であったと考えています。なぜなら、被告の武田昭英氏の大畠氏に 対する一連の行為が 法律と社会常識に照らして不当であると判断されたゆえの損害賠償だったからです。
振り返りますと、蓮如上人五百回遠忌法要を控えて、『本願寺新報号外』として『イノベーション通信』が発行されまし
た。その第13号で、現在、滋賀県立大学学長の西川幸治先生が、寺内町に言及して「仏法がすべてを支配し、人々は 仏法によって保護され、処罰もさ
れもする理想の世界「仏法領」の実現を願い、地上に寺内町を構築しようとしたのである」と述べられています。
「仏法によって処罰もされる」とは、当時の寺内町で極めて公平で、しかも高水準の裁判が行われた事実があります。強 い者が弱い者を踏みにじっては
いけない、暴力で解決してはいけないと、証如宗主は裁判を奨励しました。
私たちはこの裁判を支援することを通じて不正と不法を訴えてきました。多くの人々の支援をいただく一方、本願寺に は本願寺のルールがあると、裁
判などやめて穏便に済ませることを勧められる方々もおられました。しかし、そのように 弱者に我慢を強いることは、権力を握る者がなんのチェックも受 けずに好き勝手なことをすることを認めることになるのは明らかです。本来、権力をもつということは、否が応でもより強い責任が要求されます。それは、 権力をもつ者の努力 目標ではなく、その地位ゆえにより厳しい監視をうけることになるのは当然でありましょう。そのことを果たすことが、大畠氏だけで なく、多くの被害者を救済していくことになります。
あるいは、この度の判決は、あまりにも当然な社会常識を、裁判所が認定したにすぎないことであるかもしれまん。
しかし、教団という狭い社会の中で、私たちを含め、少しずつ社会常識や判断能力を失っていくという恐ろしい現実を示 しています。それゆえに、裁判と
いうのは、当たり前のことを確認する大切な方法かもしれませんが、この判断を組織と して受け入れ、共有するにはまた大きなエネルギーが必要となり ます。
本来は教団内部に自浄作用がはたらくことが最も好ましいことです。この自浄作用は、判決を受けとめ教団内で共有するためにも、確実に機能するは
ずです。
基幹運動の立場である、差別の現実に立つというのは、自浄作用としての基本姿勢であり、教団の持つ矛盾の中で
生み出される弱者・被差別者の声を抑えこまずに、皆で共有し解決していくための出発点です。
御同朋の社会をめざす基幹運動は、まさに当たり前のことを当たり前のこととして通用する教団を目指して行く運動で す。そのためにも、弛まぬ歩み
を一人でも多くの人々と続けていくことを、ここに呼びかけ、これまでのご支援の御礼とさ せていただきます。本当に有り難うございました。
称名
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主文
1、被告は、原告に対し、10万円及びこれに対する平成14年6月5日から支払済みまで年5部の割合による金員を支
払え。
2、原告のその他の請求を棄却する。
3、訴訟費用は2分し、その1を被告の、その他を原告の各負担とする。
4、この判決の主文1項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
当裁判所の判断
1 本案前の主張について
(1)原告は、被告が掲載すべき謝罪文の具体的な書式(活字の大きさ、書体、間隔など)や、掲載すべき回数を指 定していない。
しかし、原告の合理的意思を斟酌すれば、書式に関して特に指定していない事項については、当該謝罪文を掲 載すべき「本願寺新報」の見出
しや本文に通常用いられているものと同等の内容によるものとし、また、その掲 載回数については、1回で足るとする趣旨であると解することがで きる。
したがって、原告の請求内容は、必要な限度で特定されているというべきである。
(2)また、不法行為による損害を回復させるために、謝罪文の掲載を命ずることは、その文面が単に自体の真相を 告白し、陳謝の意を表明するに
止まる程度のものであれば、憲法が保障する内心の自由を侵害するものではな い。
(3)以上によれば、被告の本案前の主張は、採用できない。
2 第2・1(1)のうち、被告が本件会議において、原告に関する発言をしたことについては、当事者に争いがない。
3 このほか、甲1(「出向について」と題する書面)、甲2(「お詫びのこと」と題する書面)、甲3(平成14年3月15日 付の和治教文名義の書簡)、甲
5(「573.re:記事に関して」で始まる書面)及び弁論の全趣旨によれば、次の各 事実を認めることができる
(1)原告は、本願寺派に属する正光寺の住職であり、本願寺派の立場からいわゆる同和運動に取り組もうとする 「基幹運動」に関与してきた。
また、原告は、本願寺派内の「連研中央講師」であり、同派の研修会に講師として 参加しえる地位を有している。
(2)原告は、本願寺派から、全国門徒総代会(以下「総代会」という。)を代理して、平成14年2月20日、西本願寺に おいて同年3月16日に行なわれ
る総代会総会の研修会(本件研修会)に講師として出向することを依頼された。
原告は、これを承諾し、原告と総代会を代理する本願寺派は、同月26日、原告が本件研修会に講師として出向する
旨の契約(以下「本件出向契約」という。)を締結した。
(3)ところで、原告は、これに先立つ同月24日、「神通寺BBS」及び「坊さんの小箱BBS」というインターネット上のホ ームページの掲示板に「ayu」
のハンドルネームを用いて、本願寺派の宗会の予算委員会審議における一委員 の「基幹運動は(一時)中止してはどうか」という発言内容などを 紹介する書き込みをしていた。
(4)そこで、本願寺派の庶務部長である和治教文(以下「和治」という。)は、原告に対し、平成14年3月9日、電話で 本件研修会への出向を控える
ように要請し、同月11日には、電話で出向依頼を取り消し、さらに同月13日、本件 出向契約を解除する旨を記載した総代会の会長名義の文書を送 付した。
(5)他方、原告は、本願寺派の総局に対し、同日、上記解除の理由を開示するように求め、それが開示されなけれ ば本件研修会に出向する意向
である旨を通知したが、本願寺派の総局からは、本件研修会の当日である同月 16日になっても、解除の理由について説明されないままであっ た。
(6)そこで、原告は、同日、自動車を運転して西本願寺に赴いたところ、和治が応対し、和治から、本件研修会への 出向を辞退するように改めて求
められた。原告は、結局、本件研修会への出向を強行して混乱を生じさせること を避けるため、出向を諦め、和治及び総代会長である長野武一 (以下「長野」という。)に対し、体調不良を理由 に出向を辞退する旨を述べた。
(7)ところで、被告は、当日の原告の様子について、「二日酔いの様子で、目が赤く、顔も紅潮していた。」旨を主張 している。しかし、被告は、同
時に、原告が和治に対し、出向を辞退した際に「総局に挨拶したい。」と申し入れた こと、総局公室長である山内教嶺が応対することになったが、 総局会議があったので、原告に対し、会議が終わ るまで持つように指示したこと、原告がこれに従ってそのまま待機していたこと、ところが、結局、 同日午後1時に なっても総局会議が終わらなかったので、原告が総局公室長と面談しないまま西本願寺を退去したことを自認し ている。これ は、原告が被告の主張するような酒に酔った状況でなかったことを窺わせるものというべきである。
もとより、原告は、当日、酒に酔った状態で西本願寺に赴いたことを強く否認しており、そのような事実があったこ とを客観的に認める証拠もな
い。
(8)原告は、同月20日、西本願寺に赴き、応対した被告と面談した。被告は、本願寺派の責任役員であり、庶務部 及び財務部を担当する総務の
地位にある。
原告は、被告に対し、その際、本件研修会への出向依頼を取り消した理由を尋ね、被告の発言を録音したいと 申し出た。
これに対し、被告は、録音を断ったうえ、出向依頼を取り消した理由については、「あなたがしたことを考えれば、 今回のことはわかるはずであ
る。」などと述べた。原告はその際のやり取りを録音した。
(9)本願寺派は、同年6月4日、本件会議を公式的な行事として開催し、10名の基幹運動本部員および10名前後 の総局ないし宗務局の関係者
が出席した。なお、本件会議は公開されていたものではない。
同会議に出席していた本部員から、その際、原告について、本件研修会への出向が中止された事情を説明する ように求められ、被告がこれに
応じて、おおよそ次の発言をした。
当日、こちら(被告側)から(出講を)お願いはしました。お願いはしましたけれども、取止めさせていただきたい、
ご了解いただきたいということはお願いしました。しかし、ご本人は「いや、私は、出講する。」とこういうことでし た。ですから、再度また、2回に
わたって文書を出しております。これは、既に届いていると思いますが、2回にわ
たってお願い文書を出しているということは、一方的に取り消したのではなくて、ご了解をお願いしているわけで す。ところが、ご本人は「出講し
ます。」と、こういうことでしたので、したがって、代理の講師は立てておりません。
当日、代理の講師を立てないで、どのようにでも対応できるように待っておりました。そしたら、ご本人がおいでに なって、ここ(原告自身が作成し
た書面を指す。)にもちゃんと書いてあります。「長野会長および庶務部長に『体
調不良』のため研修会の出講を辞退させていただきたい」とお願いし、「庶務部長より了解を受ける」と、こういう ようにはっきりとご自分で書いて
いらっしゃいます。そして、ご自分から辞退なさった。お酒を飲んで、酒の臭いを
プンプンさせておいでになったということでございます。ですから、それを受けて、「庶務部長より了解を受ける。」 と書いてありますので、庶務部長
もそれを了解し、そして、当日その講師は、したがってなしで、スタッフで対応し たという、こういうことが事実でございます。
(10)被告が前期発言によって説明した内容は、要するに、本願寺派(の総代会)の側から原告との出講を一方的に 解除したわけでなく、当日は
代理の講師を立てないまま待っていたのであるが、原告が研修会の会場まで酒の 臭いをさせた状態で来て、「体調不良」を理由に出講を辞退し たというものである。
しかし、原告が本件研修会の当日、酒に酔った状態で来ていたものとは認めがたいことは、前記(7)に説示した とおりである。被告の説明は、
原告が出講を辞退する理由として挙げた「体調不良」の原因が、あたかも深酒に よるものであったかのように誇張したものといわざるを得ず、原 告が本件研修会への出講を不本意ながら諦め たという実態からも乖離している。
(11)なお、原告は、その場には居合わせておらず、後日、被告の発言内容を知った。
(12)ところで、被告の前期発言のうち、本件研修会の当日に至るまでに原告に対する出講の依頼を取り消した経緯 に関する部分は、本願寺派の
側から出講を辞退するように求めたことを述べるものであり、そのような「お願い」 をした事の当否は別として、いずれにしても、原告の社会的評価 を直ちに低下させるべき内容を含んだものでは ない。
(13)しかし、その後の部分、すなわち、原告が本件研修会の当時、酒の臭いをさせた状態で会場に来て、「体調不 良」を理由に出講を辞退した
と説明した部分は、原告が不本意ながら出講を諦めた実態から乖離しているだけで なく、原告における僧侶としての品位を疑わせるべき内容とな っている。
しかも、本件会議は、非公開で、その出席者も少数であったとはいえ、本願寺派の公式的な行事として開催され た「基幹運動」の本部会議で
あった。そして、被告の前記発言は、その出席者を通じて本願寺派の構成員を中心 に広い範囲で流布され、殊に「基幹運動」の関係者の間を中心 に、原告の社会的評価を低下させる恐れがあっ た。したがって、本件会議における被告の上記発言部分は、原告の名誉を毀損したというべきで ある。
4 以上によれば、被告の本件会議における原告に関する発言は、原告の社会的評価即ち名誉を毀損したものであ る。そして、これによって原告が
被った損害は、被告の発言が本願寺派の公式的な行事として開催された「基幹運
動」の本部会議(本件会議)でなされたものであることなどを考慮すると、慰謝料10万円に相当するというべきであ
る。
なお、被告の発言は、本件会議の少数の出席者に対してなされたものであったこと、原告は、後日、本件会議における被告の発言内容を知りえたこ
とからも窺えるように、「基幹運動」において必ずしも孤立している訳ではな いことなどを総合すると、被告の発言によって既存された原告の名誉を回復 する措置としては、上記慰謝料の支払いを以って足り、謝罪文を掲載する必要までは認められないというべきである。
5 よって、主文のとおり判決する。
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まず、私に意見陳述の機会を与えてくださったことに感謝申し上げます。
今回、私が提訴に踏み切ったのは、被告の発言が、権威・権力による支配を強要・正当化する行為であり、浄土真宗 本願寺派教団の基幹運動に取り
組んできた私の名誉を著しく傷つけるものであるからです。
私は住職となって今年で20年になります。住職となった当初、私には基幹運動についての意識は大変希薄なもので
ありました。教団あげて取り組まれている運動が、教団内外の差別をはじめとする、いのちを傷つけ貶める現実に取り 組む教団の本来化が基幹運動で
あるという認識は、ほとんどありませんでした。
そんな私が基幹運動に主体的に取り組むきっかけを与えてくれたのは、私の長男でした。今年17歳になる長男は、
生まれたときから視神経萎縮のため視力が大変少ない弱視です。彼の将来に少なからず不安を持ち、障害者について害者がさまざまな差別の中にあ
ることは衆知のことです。
家族、特に親はその差別に本人とともに立ち向かっていくもの と思っていました。しかし、日々の生活の中で「一番の敵」すなわち、誰より差別を克服で
きていないのは親である私なのかもしれないという先の言葉は、私に大きなきっかけを与えてくれました。
以来、私は私自身が、差別をする生き方からの解放を求めて基幹運動に参加してまいりました。いろいろなかたちで 本山にも出入りさせていただき、
障害者差別についてのブックレットの執筆などもさせていただきました。
私にとって、差別すること・されることからの解放を願って、さまざまな取り組みをすすめていく基幹運動は生きることそのものであり、いのちの証明であ
るといっても過言ではありません。多くの方々と、ともに運動をすすめていくことが何よりのよろこびであり、運動の中に自分の身があることは大きな誇り でありました。
その運動に対しての「運動潰し」といえる出来事が、一昨年頃からさまざまな形で表面化してきました。その代表的なも のが、本願寺のスキャンダルを
暴くという装いをもって出版された「宝島リアル」という本です。
昨年2月の教団の宗議会でも、この本に関しての質問が出されました。本の中で名指しされた運動関係者の処分を求めるものや、本の内容中、基幹
運動に関しての事柄を調査するために基幹運動の予算凍結、言い換えれば運動を一 時停止せよとの意見だったようです。ちょうどこの議会のころ、教 団が発行している新聞である本願寺新報第一面に、ハンセン病の元患者の方が本願寺に懇志を進納されたことが大きく報じられました。懇志進納がこ れほど大きく報じられることは大変珍しいことです。この記事は「ハンセン病の元患者」という差別を受けてきた方を利用しての懇志奨励、つまり記事そ のものが差別記載と言えます。事実、この記事に対しては多くの方々から総局に対して批判が寄せられま した。
私は、それ以前からよく投稿していた、あるホームページ掲示板に、こうした事柄を、基幹運動の危機として書き込みをしました。それが今回の裁判の
発端です。
宗会、中でも情報公開の流れに抗うかのように、秘密会でない宗会の予算委員会の内容に関して、私がインターネッ ト上の掲示板に記載したことが問
題とされ、調査特別委員会が設置されました。
その後、本山から既に依頼を受けていた出講や執筆原稿の掲載について「取りやめてほしい」との連絡が相次ぎまし
た。教団内でのさまざまな手続きと合意により進められてきた基幹運動が、その信憑性に極めて疑問がある一冊の本
のために大きな影響を受けようとしている。この事を運動の危機としてホームページ掲示板に記載し、しかも記載者が
私であると断定していない段階での、こうした措置に釈然としないものが残ったことは言うまでもありません。
そして3月9日、問題となった全国門徒総代会研修会の出講についての取り消しについて、和冶庶務部長から電話がありました。
最初の電話で和冶部長は「あなたの持っておられるホームページが宗会で問題となっていると研修部長から聞いたので」と仰いました。私が「ホームペ
ージは持っておりませんが」と答えると「情報が錯綜しているようなので、再度電話します」という事で電話を切られました。この時、私は大きな不信感を 抱きました。
早くから予定していた出講の断りをするのに、担当責任者が事情をよくわからないまま連絡してきたのですから、不信感 をもって当然だと思います。そ
の後の和冶部長とのやりとりについては、既に書面にて裁判所に提出している通りです。
和冶部長は、はっきりと「出講はお断りする」と申され、それが総局、つまり担当総務である武田被告の決定であると明言されました。更に理由は「ホー
ムページのことが問題になり委員会ができているので」とのみ電話では申されました。
状況が把握できていないで電話してこられた和冶部長の態度、その上出講取り消しが総局の決定であるということに
大変な疑問を感じました。ですから3月16日の研修会当日まで、出講するかしないか迷いました。
当日、研修開始前の会場で、以前から存じ上げている、ある総代さんと少し話す時間がありました。教団の将来を一
心に考えて下さるお姿に会い「やはり混乱をきたしてはいけない」とふんぎりがつきました。全国門徒総代会会長の長野氏とは面識がありませんでした
ので、和冶部長に引きあわせていただきました。この点、被告側第4準備書面・別紙1にて、和冶部長が証言している「研修室4にて長野武一会長と大 畠氏が会話しているところを見かける」は事実と食い違います。私は長野会長とは面識がありませんので、和冶部長から紹介していただいたというのが 事実であります。
長野氏と和冶部長に「書面にかかれている諸般の事情という不明確な理由による出講取り消しには同意できません。
しかし、研修会を混乱させることは本意ではありません。ですから、どうすべきかを考え昨夜もほとんど眠れませんでし
た。寝不足で体調に自信がありません。この状態で研修会に出させていただいても、十分なお話が出来ないかもしれま せんので、体調不良ということ
で、出講を控えさせていただきたいのですがよろしいでしょうか」と申し上げました。お二 人は「わかりました」と同意されました。この点も被告側準備書面 の、和冶部長が「体調不調のための辞退としてはどう か」と提案したという内容は事実に反します。
裁判官にご理解いただきたいのは、私は納得のできない出講取り消しの決定に合意したのではありません。後に申し
上げますが私にとって何より大切であり私の名誉は基幹運動に取り組むことです。権威主義や権力支配を克服し、僧
侶・門徒が互いを信頼しあえる教団を実現していくのが基幹運動のひとつの願いです。研修会を混乱させ信頼を損なう 事を避けたかったから私のほう
から辞退したのです。それに、合意したしない以前に、明確にできない理由で出講依頼 を取り消した事が既に問題であると思います。
3月20日、武田被告と面会いたしましたが、面会の冒頭、私は、出講を諸般の理由という不明確な理由で一方的に断
られたことを納得していない事を申し上げました。すると被告は憮然とした表情で私を睨み据えながら、こう仰いました。
あなたが面会を求められたのは、「自分の事を反省するので今後もよろしくお願いします」という話し合いを求めてのものだとばかり思っていた。まさか
総局への抗議をするための面会だとは思いもしなかった。
総局というのは、この組織、本願寺、御影堂を維持・護っていくのが務めである。教団内に様々な意見がある
中でものごとを決め、教団を動かしていくのが総局である。その総局の意向に従わず、批判する者を総局が認
めていたのでは教団の運営はなりたたない。
あなたが何をしてきたかを、よく考えてみればよい。あなたが何をしたのかを考えれば、今回の事は当然の事 のはずである。研修会などで、講師が総
局を批判していたら「なぜそんな事を言う者が講師なのか」と非難され る。その責任は総局が負わねばならない。総局の決定に従って動かない者を認 めていたのでは組織は成り立た ない。宗務員、例えばここにいる和冶部長が、総局の意向に従わなかったら、当然その責任が問われる。
既に依頼していた講師を断るのは、依頼した側にとっては当然あり得ることだ。断られた方が納得する理由を 一々説明する必要はない。こうした事は
一般的によくある話だ。
そして、何度も「自分のしたことを考えれば今回のことは当然だとわかるはず」と仰いました。 権威主義そのものです。総局の独裁の強要です。言論弾
圧です。戦時中の日本の姿と同様です。
武田被告は、その場しのぎの言い訳としてでなく、自信と信念に満ち溢れた様子で「総局批判」云々を申されました。
それは被告が権威主義者であり、そのことに何ら疑問を感じておられないからだと思います。
武田被告が「あなたが何をしたか考えろ」とは、私の掲示板への書き込みを指している事は明白です。しかし、その内容が教団において何ら責任を問
われるものでないことは、宗会の調査委員会の報告の通りです。更に出講取り消しが
行われた段階では、調査はまだ行われていませんでした。しかも調査委員会は宗会が設置したものであり、調査方法
や内容については極秘とされていました。問題発覚当初に掲示板書き込み者を私であると推測し、それを根拠に出講
を断ることは、大きな問題があるはずです。
宗会の調査・判断を待たず、言わばフライングと言える決定を武田被告が下したからこそ、取り消しの理由について
の明示を避けてきたのです。
今回、私が提訴に踏み切ったのは、単に私に対しての措置が正当性をもたないからのみではありません。6月4日の基幹運動本部会議において、被
告は多くのウソを並べて、責任逃れをなさいました。教団内において、何ら責任を問われることのない私の掲示板書き込みに対して、懲罰的措置を行っ た本当の理由を知られたくないからこそウソを並べたのです。
もう1点。これこそが、この訴訟、私への名誉毀損の主たる事実です。冒頭に申しました通り、私は自分自身が我が子に対して、誰よりも差別者であっ
たことからの解放を求めて、基幹運動に参加してきました。多数の同意をもって定められている基幹運動計画に基づいて言えば「私と教団の差別の現 実を改める」という事です。今、現に差別があるから運動をするのです。しかし、被告はこの認識を否定しておられます。被告が過去に宗会で行った質問 や、教団が毎月発行している宗報に掲載された被告の主張がそれを雄弁に物語っています。被告の考えは「私には差別ない」のだから今の基幹運動は おかしい、間違っているとするものです。もっと言えば、間違った運動を推し進める者は自分に敵対する者なのです。
人事に関する事など教団における重要な判断を下す総務の職を、被告は権力と履き違えておられます。だからこそ
「もしここにいる和冶部長が総局批判をすれば責任を問われる」などと言い放たれたのです。
以前から、被告が基幹運動の理念の反対者であったことは衆知の事実です。私への措置と発言からわかるとおり、権威主義者です。その被告の下し
た、宗会の調査委員会での結論が出ていない時期の不当な出講取り消しを、私が受け入れたと吹聴される事は、被告の基幹運動に対する迫害に私が 屈服する事であり、私にとって何よりの名誉毀損です。
私にとっての名誉とは、何よりも差別すること・差別されることからの解放を願っての基幹運動を進めていく事です。基幹運動、言い換えれば、そのもと
である同朋運動は、僧侶にとっては身を削っていく営みです。檀家制度を未だに根底にしての現状において、僧侶は一段高いところに身を置き、門徒に 対して教えてやる立場としての権威にあぐらをかいてしまいがちです。私と教団の差別の現実をつぶさに見つめていく時、居心地のよい一段高い権威の 座が、差別者の居場所であることが明白になってきます。権威の座が、自分の生活の糧であることも逃れられない事実として浮かび上がります。権威主 義を克服することなくして基幹運動の推進はありえません。
浄土真宗をひらかれた親鸞聖人が90年の生涯をかけて権威主義と権力による支配を超えていく道を求めて下さいました。親鸞さまは当時の権力によ
る不当極まりない弾圧に決して屈服されませんでした。権力者に認められた権威としての僧侶という生き方を否定され続けられました。何の権威も権力 もない大衆の中で、いのちの尊厳を念仏の教えの中に聞いていかれたお方が親鸞さまであります。権威主義・権力支配を肯定することは浄土真宗を名 告りながら、親鸞聖人に大きく背くことです。
被告は基幹運動本部会議という、私と考えを同じくしてくださる、今日の私を育ててくださった先輩方の前で「出講を取り消したのではなく、取りやめてい
ただくようお願いしたのであり、大畠氏本人が辞退したのだ」と申されたのです。先輩方は、どう思われるでしょうか。「総務に逆らって本山に出入りできな くなっては困るので、大畠は武田総務の言うことを聞いた。権威主義を認めた」こう思われても仕方ありません。誰も逆らえず、支配者・権力の座に総務 の職を摩り替えている人に、従ったとなれば、私がこれまで取り組んできた運動は、中身のない奇麗事になってしまいます。
人にはそれぞれ、いのちを掛けてでも守りたい尊いものがあると思います。それこそが名誉と呼ばれるものではない
でしょうか。私にとってはこれまで取り組んできた基幹運動が大きく歪められ、少しずつ克服してきた権威主義がまた教団に腰をおろしてしまう事は、何
より堪えがたい事です。本願寺新報という、教団関係者の多くが読む新聞に差別記事
が掲載さる。こうしたことを黙って見ていることは、私にとっては自分の名誉を捨てることです。これらの事に対しての批判を発端とした、被告の決定に従
ったとされることは、この上ない名誉毀損です。決して私は権威に従ったわけではありません。にもかかわらず被告が「出講を取り消したのではない。本 人が同意したものだ」と申されるのは、私にとって名誉毀損以外のなにものでもありません。
私と教団の現実から出発し、我が身を削りながらであっても差別・被差別からの解放を願う基幹運動に対して異議を
唱え、教団の権威主義を正当化しようとする被告の決定に私が従ったとされる事が、どれほど私と多くの教団人の名誉を傷つけた行為であるかご理解く
ださい。
今回の訴訟をきっかけとして、親鸞聖人の流れをくむ念仏者が、教団の差別体質、権威主義を克服していく一歩になることを念願します。ありがとうご
ざいました。
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