2010-10-28
「沖縄を踏みにじるな!」――緊急アクション実行委員会のQ&A
沖縄を踏みにじるな! 主張 | |
★まえがき
★歴史を知ろう――1995年以降の普天間基地移設問題と日本の軍事化をめぐる年表
★よくある異論・疑問に答えます!
Q1: 沖縄の普天間基地問題は、県内移設で決着したんじゃないの?
A: していません。
2010年4月の沖縄県民大会には10万人近くの人が参加し、今も沖縄のほとんどの人々が県内移設に反対し続けています。長年に渡って基地が押し付けられてきたことへの怒り、中でも普天間基地は住宅や学校の密集地に隣接した「世界一危険な基地」と呼ばれる場所だからです。
5月28日の「日米共同声明」は、単に日米のたった4人の閣僚が議会も通さずに発表しただけの代物であり、全く正当性がありません。そして公約違反の最悪の結論でした。鳩山元首相が引責辞任を演出し、それを「本土」マスコミが大々的に報道したことで、あたかも事態が決着したように思われただけです。その後「本土」マスコミからは報道が激減し、民主党は7月の参議院選挙でも争点化を避け続けました。政府もマスコミも、本当に卑怯で理不尽な振る舞いです。
そのため「本土」では急速に関心が低下しましたが、沖縄は全土で基地反対のたたかいを続けています。「本土」では「県内移設で理解を頂くよう、沖縄側と協議を続ける」といった政府発言ばかり伝わりますが、沖縄はすでに移設拒否の民意が明確に固まっているのです。だから私たちがすべきことは、問題への関心を高め、政府に「もう悪あがきや圧力はやめろ」と言うことなのです。
Q2: なぜ東京でデモやイベントをしているの?
A: 長年に渡って日本国内の米軍基地の75%を沖縄に押し付けてきたのは「日本本土」の政治家や私たちです。そして今、「沖縄の基地の抑止力が必要だ」と声高に叫んでいるのも、その圧倒的に多くが「本土」の人々です。沖縄県民の意志をかえりみず、「本土」側が自分たちの都合だけで基地を押し付ける事は、沖縄への許されない差別や暴力であり、私たち自身が日米政府にやめさせなければいけないことではないでしょうか。特に東京は国会、省庁、首相官邸、アメリカ大使館といった日米政府の機関が集中する場所なので、そこで行動することは必須であり有効です。
普天間基地移設問題は、基地を押し付けてきた「日本本土」の人々の問題です。それを私たちは多くの人に訴えかけるために、東京・新宿のど真ん中のアルタ前広場と繁華街を選んでデモをしています。デモは私たち一人ひとりの意志を表明する最も簡単な手段のひとつであり、本来誰でも参加できる民主主義の基本的実践だからです。選挙は四年に一度で政府に日程を決められますが、デモはいつでも何度でも出来ますし、日時も場所も手法も私たち自身が創り出せます。実際に、たとえばフィリピンでは、1991年に連日の大規模デモで米軍基地の撤去に成功していますし、日本でも、1960年の日米安保反対闘争では、最大数十万人ものデモ参加者が安保反対を訴え、政府の責任を追及しました。
また、沖縄に「癒し」を求めて旅行する人は多いですが、基地問題を無視して自分たちの見たい所だけを観光して消費するのも「本土」の身勝手ではないでしょうか。もし沖縄が好きであるなら、基地問題も見つめて反対するべきです。
そもそも商業広告に覆われた東京の街は、真に考えなければいけない沖縄や戦争の問題を覆い隠しているかのようです。広告都市の中心で沖縄や戦争の問題を話し合う場を作り出し、私たちの無関心を変えながら街のあり方を自分たちの手に取り戻すために、私たちはイベント「アルタ前大学」を開催しています。
Q3: 沖縄の米軍は日本を守る「抑止力」として機能しているんでしょ?
A: これも実態ではなく、漠然としたイメージで語る人が多いと思います。他国の兵士や戦艦が日本へ上陸してくるイメージは持っていても、こちらから攻め込むことなど想定していない人が多いでしょう。
しかし実際には、沖縄にいる米軍は「海兵隊」であり、戦場へ真っ先に乗り込む部隊です。彼らは沖縄でジャングルでの戦闘訓練を行っており、一年の半分以上は日本を留守にし、アフガニスタンやイラクへ送られています。日本にジャングルなどありませんし、一年の半分以上留守にしている軍隊がその地域を守る訳がありません。つまり彼らは他国への上陸部隊であり、「日本の防衛」が目的ではないのです。そうして01年からアフガニスタン、03年からイラクへ上陸した米兵は、これまでに数十万人もの人々を殺害し、今も戦争を続けています。米軍は「対テロ」と言いながら、実際には空爆に多数の民間人を巻き込み続け、イラク・ファルージャでの掃討作戦では「動くものはすべて撃つ」といわれたほど軍民の区別無く、民家に押し掛けるなど暴虐の限りを尽くしてきました。そのため両国の人々は沖縄を「悪魔の島」と呼んでいます。もちろん、沖縄をそうさせているのは基地を押し付ける日本「本土」の政治家と私たちです。
また、日本も04年にはイラクへ自衛隊を派兵し、それからも戦争参加を続けてきました。そして戦争の長期化により、米兵や自衛隊員の中でもうつ、PTSD、自殺が続出し、アメリカではホームレスになる帰還兵が増え続けています。
Q4: それでも、米軍が存在しているだけで防衛になっているのでは?
A: 沖縄は中国や朝鮮半島に近いため、米軍の駐留自体が「睨みを聞かせている」と思いたい人も多いようです。しかし侵略部隊である海兵隊が沖縄にあることで、むしろ地域の緊張を増す方向に働いています。
そして米軍は自らの都合で動いています。アメリカで「9.11事件」起きた後、沖縄の米軍基地では米兵が基地の外=住民の側へ銃を向けて警戒態勢を取っていました。このことは、彼らが守るのはあくまで自国の基地と兵士であることをよく表しています。
しかも、彼らが沖縄に駐留し続ける理由は、戦略的に重要な場所であるという事ですらない。日本政府がカネ(いわゆる「思いやり予算」)と土地を提供し続け、基地被害や米兵犯罪が起きても正面から問題にしないからです。
※ つけくわえれば、グアム・テニアンへの部分移転計画にまで、日本政府はカネを出すつもりでいます。しかしグアムを現地視察した山口響さんが報告しているように、軍事基地は沖縄と同様にそれらの島でも住民の生活基盤を破壊してしまうものです(山口響「「移転先」の現実――海兵隊移転にゆれる島・グアムを歩く」http://www.peoples-plan.org/jp/modules/article/index.php?content_id=53)。沖縄だけでなく他の島々への基地建設にまで、資金提供という形で日本政府が協力することを、許していいのでしょうか。
Q5: 日本の金額負担もたいした金額じゃないんでしょう?
A: 在日米軍の駐留費用を日本側が負担する「思いやり予算」は、1978年の62億円から始まり、2010年度は1881億円もの金額になっています。もちろん世界一の負担額です。しかもアメリカは海兵隊のグアム移転の経費負担も要求しており、2006年の日米合意では、移転費用総額102億7千万ドル(約9千億円)のうち、日本側の負担は何と約60億9千万ドルに上り、今はさらに増額を要求されています。あまりにもおかしい金額であり、例えば国内の福祉や教育に回せばどれだけ多くの人が救われるでしょうか。
そして、米軍基地は日本中に存在し、特に山口県岩国市の基地は、住民や前市長が反対するなか原子力空母が移駐するなど「日米軍事再編」の最前線にさせられています。また東京の横田基地や神奈川の厚木基地、座間基地、横須賀基地など、首都直下にこれだけ大規模な米軍基地があるのも世界で日本だけです。
Q6: 「基地被害」も我慢できる程度の被害なんでしょう?
基地は無害なレジャー施設ではありません。膨大な土地を使用し、地域産業を軍隊相手のものに変化させ、住民は飛び交う戦闘機の爆音や米軍兵士の犯罪に悩まされています。95年の少女暴行事件以降も、女性への性暴力、飲酒による市民への暴行、ひき逃げ事件は増え続けており、毎年50人以上の米兵が摘発されています。その多くが大して訴追もされずに釈放されています。
米軍犯罪 後絶たず 10・21県民大会から15年(10月21日琉球新報) http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-169081-storytopic-1.html
そして戦闘機が夜間も爆音で離着陸する普天間基地では、周辺の住民が長年生活妨害や睡眠妨害をされてきました。また住民には戦闘機墜落の恐怖もつきまといます。2004年には、米軍ヘリが沖縄国際大学に墜落・炎上して、あわや大惨事でした。住民は損害賠償と夜間・早朝の飛行差し止めを求めて、国に損害賠償を起こしています。
普天間米軍基地爆音訴訟 http://www.news-pj.net/npj/2007/futenma-20071124.html
少し調べればすぐにわかる基地被害の実態を調べもせずに、「沖縄に米軍基地は必要だ」と言えてしまうのは、その人が沖縄の拒否の意志や痛みを無視しているからです。それでも基地が必要だと思うなら、せめて自分の土地に誘致しようとするのが筋ではないでしょうか。
Q7: 沖縄は米軍基地が無くなったら食べていけないのでは?
A: 米軍基地による経済効果は確実に減少しています。むしろ基地は沖縄の自律経済の発展を阻害しています。『沖縄タイムス』2010年9月11日によれば、日沖縄県議会事務局は、次のような発表をしています。
「県内の米軍基地がすべて返還された場合、跡地を商業や農業に活用することで得られる経済効果は年間9155億5千万円に上るとの試算結果を発表した。米軍基地から現在生じている経済効果の2、2倍に当たる。一方、米軍基地があるため得られない逸失利益は年間4948億8900万円と推計している。……米軍基地があるために生じる雇用効果3万4541人に対し、全部返還すれば2、7倍にあたる9万4435人の雇用が生まれるとした。」http://www.okinawatimes.co.jp/article/2010-09-11_10096/
そして、そもそも沖縄で基地経済を受け入れざるを得ない現実を作りだしてきたのは「本土」の政治家です。給付金や公共事業といった沖縄振興策(アメ)と、基地の押し付け(ムチ)を引き換えにしてきたのも、彼らです。私たちもそれを許してきました。今なお基地を容認する人であっても、地域住民間の対立で疲れきっていたり、金銭的な問題から、やむにやまれずそうなるといった苦渋の思いに満ちています。「本土」側が「どうせ沖縄は○○だ」と決めつけたり、「沖縄にも基地賛成派がいる」と持ちだしたりするのは、こうした「本土」からの圧力という歴史的経緯を省みない、恥ずべきことです。
Q8: それでもやはり中国や北朝鮮が脅威だ、抑止力は必要だ!
A: すでに述べた通り、沖縄の米軍はイラク・アフガンでの侵略部隊であり、そもそも米軍は世界最大最強の軍隊です。それが沖縄や日本各地に存在し続けていれば、他国の人々は自分たちに銃口が向けられていると思っても、おかしくないのではないでしょうか。
さらに日本はことあるごとに、中国や北朝鮮に対して、アメリカと連携して圧力や制裁などの強硬な態度をとってきています。そして今、日本海での米軍と韓国軍の軍事演習に自衛官を派遣し、韓国海域で日韓の軍事演習を行っています。政府は中国や北朝鮮を睨んでの行動だと常に示唆しています。自衛隊側(しかも米韓と組んだ強大な軍事連合)の包囲行動の実際はあまり報道されず、私たちへの説明すら行われていない。しかし中国や北朝鮮で少しでも軍事的な動きがあれば、それは日本で大々的に報道され、さらに軍事強化の必要性が叫ばれます。「脅威」はこちらから火をつけている面も大きいのではないでしょうか? 沖縄に基地を押し付け、日米安保を維持するための道具として、そういう「脅威」が持ち出されているのではないでしょうか?
多くの人は「北朝鮮や中国が東アジアの緊張の種だ」という思考に慣らされすぎています。そうではなく、米軍とそれに追従し続ける日本こそが、東アジアにおける緊張を作り出してきたのであって、そのせいで日本は孤立を深めています。確かに中国は軍事力を急速に強化しています。しかしそれは近年の話であり、東アジアで先に強大な軍事力を保持してきたのは、1952年に始まった日米安保体制による、世界最強の米軍と、やはりアジア有数の軍事力をもつ自衛隊とのタッグです。それが目の前にいるために、彼らも軍事拡大をしなければ自分たちが危ないと思い張り合っているのではないでしょうか。軍拡競争はまず自分たちからやめようとしなければ終わりませんし、沖縄への基地押しつけをやめることはその大きな第1歩にもなるでしょう。
そして、こういうことなのだと思います: 「たしかに中国政府もまた、主権国家間のパワーゲームの論理にのっとって行動しています。しかしその主権国家間のパワーゲームは、ヨーロッパが世界に広め、そして東アジアにおいては日本が強力に貫徹させた(させている)ものです。もし中国の国家主義を批判し改めさせたいなら、なによりまず日本の国家主義、侵略主義、植民地主義を徹底的に批判すべきでしょう」。「また釣魚台/尖閣についても、ことの本質は、領有権がどちらの国民国家にあると正当化されるかということではなく、どの国が先に近代世界における力ずくの領土拡張(帝国主義、植民地主義)をはじめたのかこそが、この件にかんしてもっとも重要なのです」(ブログ『ヘイトスピーチに反対する会』の「釣魚台/尖閣をめぐる日本の国ぐるみの排外主義に抗議します・後編(現状編)」「六本木右翼デモに抗議してきましたが」よりhttp://livingtogether.blog91.fc2.com/blog-entry-65.html)。
Q9: じゃあ、自衛隊が自主防衛をするなら良いのでは?
A: これは今後の話ではなく、既に日本政府は「日米共同声明」に盛り込まれた「基地の共同使用」の文言に付けこみ、宮古島、石垣島、与那国島に自衛隊を配備しようとしています。年表の96年に挙げた「米軍の後方支援を通した軍備強化」は、今や自衛隊が単独で東アジアを睨んだ展開をする所まで来てしまいました。今の自衛隊は米軍と多数の共同訓練を重ね、米軍と一体になって動いています。つまり、「抑止力」と称して軍事拡大や他国への威嚇を行っているのは、自衛隊も同様だということです。米軍か自衛隊(日本軍)か、ではなく、ますます一体化していく米軍と自衛隊(日本軍)こそが問題なのです。
だから、米軍同様に、自衛隊にもそうすることは許されません。もちろん現地からの反対もあります。与那国島では、自衛隊もまた地域社会をさらに不安定に変えてしまうので、地元の人々が駐留に反対の声をあげています。
今の「本土」の人々は、自衛隊をまるで人助けの部隊のように思っている人が多いですが、しかし戦前の沖縄戦で日本軍に深く虐げられた経験のある沖縄にとって、それはあくまで、勝手な戦争をする軍隊です。「本土」の私たちは、自衛隊の進出を許せば、沖縄へのより直接的な加害者になります。だから、米軍だけではなく、自衛隊の進出にも反対しなければならないのです。
そして自衛隊が東アジアで銃口を向けようとしている中国と朝鮮半島は、先の戦争で日本が侵略や植民地支配をした所です。そこで人々が日本の軍事主義の復活と再侵略を警戒するのは当然ではないでしょうか。それでも日本政府と私たちが過去を忘れ現在の軍拡を許しているからこそ、東アジアの人々は怒っているのではないでしょうか。武力は緊張を生み出すことにしかなりません。沖縄の基地の痛みへの無自覚と、「抑止力」が東アジアに与える脅威への無自覚は、根元でつながっています。
沖縄と南西諸島は古くから東アジアに対して開かれた場所にあり、それを「本土」が囲い込むことはできません。「本土」の人々がやるべき事は、「日米政府は沖縄に基地を押し付けるな!東アジアへの敵対政策をやめろ!」と声を上げ、沖縄への無関心や差別構造を終わらせ、多様な行動を作り出していく事です。それを通して沖縄や東アジアの市民との連携を広げていくことができます。自分たちの力を信じましょう、世界を変革していけるのは一人ひとりなのですから。