政治

文字サイズ変更
はてなブックマークに登録
Yahoo!ブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

日中首脳会談:中国拒否 関係修復、振り出し 日本、募る不信感

 <検証>

 べトナム・ハノイで29日、菅直人首相と温家宝中国首相による日中首脳会談の開催が、中国側が拒否する形で土壇場で見送られた。関係改善への象徴的シーンを演出したかった日本側、国内世論を注視した中国側。両国はぎりぎりまで神経戦を繰り広げたが、思惑は微妙にずれた。関係改善に向けた動きは振り出しに戻り、修復は遠のいたとの見方が広がった。【ハノイ浦松丈二、西岡省二】

 「驚いた。中国側の真意を測りかねている」。菅首相に同行している福山哲郎官房副長官は同日夜、ハノイで記者団に語った。別の政府高官は東京都内で「わからない。多分国内事情なんだろう」と語り、日本側は一様に中国側の対応に不信感を募らせた。

 同日午前に行われた前原誠司外相と楊潔〓(ようけつち)中国外相による日中外相会談は予定の30分間を大幅に超える約1時間20分に及んだ。中国側は、ハワイで27日にあった前原外相とクリントン米国務長官による会談で、尖閣諸島が日米安保条約第5条の適用対象と確認したことを日中首脳会談拒否の理由の一つにあげた。だが、日米外相会談よりも後に開かれた日中外相会談が「大変良かったのを受けて、日中首脳会談が(いったんは)セットされた」(福山氏)という経緯があるだけに、戸惑いを隠せない。

 菅首相と温首相は今月4日(現地時間)にブリュッセルで会談し、戦略的互恵関係の進展やハイレベル協議の適宜開催で合意した。しかし日中双方とも国内世論を意識して、これを正式な首脳会談とは見なさず「懇談」「交談」と位置付けた。

 ハノイでの日中首脳会談は、11月中旬に横浜で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議への胡錦濤中国国家主席の出席と、その際の日中首脳会談実現への地ならしの意味があったが、「これで胡主席のAPEC出席も危うくなった」(日本政府関係者)との見方も出ている。

 今回、日本側は早い段階からハノイでの首脳会談や外相会談の開催を中国側に打診してきた。だが、菅首相が出国する直前になっても「中国からは一切の返事がない」(外務省関係者)状態が続いた。背景には、日中双方に相手側の出方を見極めたいという思惑があったとみられる。

 日本では、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件のビデオ映像が27日、衆院に提出され、29日には衆参予算委理事らに限定して11月1日に視聴が認められることが決まった。また日本側では最近、対中政策の原則的立場の確認作業が始まっている。

 漁船衝突事件をめぐり、前原外相らが「尖閣諸島は我が国固有の領土であり、東シナ海には領土問題は存在しない」との原則論を繰り返している。今月26日には、1978年に当時のトウ小平中国副首相が尖閣諸島の領有権の「棚上げ」を日中両政府が約束したと発言したことについて、「約束は存在しない」との答弁書を閣議決定した。

 菅首相は29日開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳との会談で、漁船衝突事件での対応を紹介しながら「我が国は地域の安定と繁栄のため、両国間の懸案に冷静に対処し、解決を図っている」と訴えた。すると、南シナ海の領有権を中国と争うフィリピンのアキノ大統領は日本の対応を「高く評価したい」と述べ、日本支持を鮮明にした。

 ◇前原氏への打撃狙う?

 中国側が一度設定された日中首脳会談を直前に取りやめた背景には、尖閣諸島付近での衝突事件後、中国側を刺激する発言を続けてきた前原誠司外相にダメージを与えようという思惑がありそうだ。

 目撃者によると、中国政府の日本担当幹部は同日午後5時半(日本時間同7時半)ごろ、会談見送りを発表する文面を推敲(すいこう)していたという。この時点で中国側は見送りを決めていた可能性が高い。

 日中双方の現場担当者が午後6時35分(日本時間同8時35分)の日中首脳会談開始を申し合わせ、日本と香港のメディアに冒頭取材の案内をしたのは、その後のことだ。そして、会談は白紙に戻された。肩すかしを食わされた菅首相と前原外相は、約1時間待機した。

 中国側は、最初から会談見送りの準備を水面下で進めていた可能性がある。

 中国の胡正躍外務次官補は会談キャンセルの理由について、ハワイでの日米外相会談や日中外相会談後の前原外相の発言を問題視した。批判の力点が前原外相に置かれているのは明白だろう。

 一方、中国国内では30、31日の今週末にも反日デモが呼びかけられている。温首相が菅首相との会談に踏み切った場合、温首相への逆風が強まることも予想されていた。

 しかし、ブリュッセルで菅首相と懇談した温首相がハノイで正式会談を行って日中関係の修復に踏み出すことは既定路線だった。いったん設定された首脳会談が直前にキャンセルされた背景には、対日政策を巡って中国指導部内に足並みの乱れがあるという見方につながる可能性もある。

毎日新聞 2010年10月30日 東京朝刊

PR情報

政治 アーカイブ一覧

 

おすすめ情報

注目ブランド