愛犬ジャッキーを囲む母子4人の写真がある。04年9月に殺害された愛知県豊明市の加藤利代さんと3人の子供たちだ。運動が得意な長男、ビーズ集めが趣味の長女、おばあちゃん思いの次男。利代さんの手作りみそでこしらえた赤だしが、みんな大好きだった。事件から5年。犯人に放火された自宅は取り壊され、更地になっている。【山本浩資、福島祥】
犯人を見たかもしれないジャッキーは、利代さんの姉天海(あまみ)としさん(47)宅に引き取られている。「おまえがしゃべれたらね」。天海さんは、のどをなでた。
4歳違いの2人姉妹。利代さんとは毎日、携帯メールを交わした。ともに3人の子持ち。晩ご飯のおかず、子供のクラブ活動のこと……。多い時は1日10件を超えた。
「読み返しても妹が元気でいるみたいな気がして。今も返信したい気持ち」。メールは消せない。消すつもりもない。待ち受け画面は姉妹の笑顔の写真だ。
「4人が生きた証しを残したい」と、今年8月19日、地元で初めて追悼式を開いた。約160人がヒマワリの花に囲まれた4人をしのんだ。
追悼式後の9月8日夕。天海さんは現場最寄りの名鉄前後駅前で、一人黙々とビラを配る男性を見かけた。声を掛けると、佑基君の空手の指導員だった目野昌南(まさな)さん(39)だった。
目野さんは事件の3年後から、独自に事件の情報を求めるビラ約1300枚を作り、教え子と配っていた。「空手は『身を守るための技』と教えてきたが、佑基は身を守れずに死んでしまった。自分の指導への後悔がある。事件解決のためなら何でもしたい」。目野さんは言う。
2009年11月21日
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