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[18458] 現代兵器で勇者始めました(ネタ) 完結
Name: タンクさん◆74790b16 ID:addd9404
Date: 2010/10/27 01:19
先に投稿した作品に酷評を頂いたのでシナリオを全面的に改変してみました。

主人公は現代兵器のみで戦うこととなります。魔法の類は全く使えません。相変わらずネタに走ったり、文章が拙かったりしますが、御付き合い下さい。

この作品のジャンルはファンタジーです。純粋に軍事やリアルサバイバルを楽しみたい方は他を当り下さい。正直、突っ込み所だらけの作品です。

あと、勘違いされがちですが、この作品は主人公最強ではありません。作品内部では作戦次第で現代火器が前面に押し出て魔王軍を撃破する、とかはあるかも知れませんが、それだけで勝てるほど魔王軍は甘くはありません。

最初の雑魚には楽勝するかもしれませんが、中ボスくらいから苦戦し始める予定です。と言うか、それまでに相応の文章力を身に付けておきたいと思います。

現実の運用と作品の都合を天秤にかけた場合、他のSF作品やファンタジー作品を参考にして、作品の都合を優先する場合があります。その場合は設定に明記したいと思います。

6/3 閑話2に核に関する会話をUP。

6/6 設定を大量加筆

6/16 閑話5加筆

6/25 閑話5更に加筆

10/27 11話、最終話追加



[18458] プロローグ 勇者と現代兵器
Name: タンクさん◆74790b16 ID:addd9404
Date: 2010/05/22 08:15
Q.俺は誰?ここは何処?
A.俺は北条透。ここは異世界

こんにちは。少し現実逃避に走ってみた北条透です。俺は今、地球ですらない世界に居ます。何でそんな事になったのかと言うと、以下回想。

俺は部屋でガンカタログと兵器大全と自衛隊装備年鑑を眺めていた。

祖父の片方は帝国海軍で元連合艦隊旗艦長門型二番艦の陸奥に乗り込んだ戦艦乗り。

もう片方は戦前の柔道大会で国体に出るほどの猛者。そして、親戚には自衛隊関係者がちらほらと。

俺はそんな家系に生まれた。

俺は小さい頃からメカに興味を持っていた。

それが段々と兵器やSF系のアニメに移って行き、今ではメカ、軍、アニメの三つのオタクをやっている。

まぁ、お陰でどれも中途半端感は否めないんだけど。

で、そんな俺ですが、いきなり開いた穴に落っこちました。

落っこちた先は異世界。なんでさ。

「おお、勇者よこの世界は今、滅びに瀕しています。どうか、お力をお貸し下さい」

「俺、勇者?」

「はい。過去の勇者は皆、召喚と共に持参した書物から力をえり、世界を救われました」

あっるえぇぇー?

俺が持参したのってガンカタログに兵器大全と自衛隊装備年鑑ですよ?

これで世界を救えと?

普通こうゆうのって魔法とか剣とかでなすものとちゃいますの?

そんな俺の大混乱を差し置いて浮かれまくる神官たち。

何故か現代兵器と異世界に召喚されてしまった俺の冒険譚が始まります。



[18458] 第1話 戦力把握は戦術の基礎です
Name: タンクさん◆74790b16 ID:addd9404
Date: 2010/06/06 20:59
皆さんこんにちは。異世界に現代兵器と共に召喚されてしまった北条透です。

何でも俺は勇者としての責務と全うしたとこの世界の神様に判断してもらえないと帰れないそうです。

何だそれは?良い迷惑です。

愚痴ってても仕方ないので早々に異世界召喚時に与えられた能力の把握をするとしましょうか。以下俺の所持品。

ガンカタログ、エアガンのカタログだったけど、実銃として召喚できるっぽいです。

兵器大全、世界中の戦車と戦闘機が載ってます他にも軍艦とか載ってるけど、使えないでしょ、これは。

自衛隊装備年鑑、F-X候補から戦闘糧食まで自衛隊の装備は載ってます。

うん。戦争できるね。問題はこれ、使えるのかだよね。

試しに89式小銃召喚。出た89式小銃。重いな。これが本物の自動小銃。

…何個まで召喚できるんだろ? 連続召喚! ドサドサドサドサ。

…うん、やりすぎました。目の前には一個中隊を編成できそうな銃器があります。

「勇者様、これは一体?」

「いや、少し書の力を把握しておこうかと思って。これは俺の世界での主力武器、自動小銃だ」

「自動小銃ですか?」

「壊れても良い鎧、有る?」

用意してもらった鎧を案山子に被せて大体20メートルくらい離れて銃を構えました。

やべぇ、これで外したら恥じゃ済まねえぞ。緊張してきた。

ターン。

乾いた銃声が響く。良かった、当たった。

でも、皆さん微妙な顔。

「…地味ですな」「地味でね」「地味ですの」

うっせーぞ! 貴族ども。

反対に騎士団は何か戦慄している。

「王室騎士団のミスリル合金の鎧が…」「反対側まで貫通している…」

何かミスリルとか聞こえたけど聞かなかったことにしときましょう。

調子に乗った俺は色々と召喚を繰り返す。

FN-MINIMI

タタタタタタタタタタ。

200発一気に撃ちつくす。銃身から湯気が立ってる。

やっぱり連射のしすぎは良くないみたいだから、途切れ途切れに引き金引かないといけないんだろうな。

でも、銃身過熱の発生する弾数なんて知らねっつの。

「おお~」「さっきに比べれば凄いですの」「さっきが地味すぎたんじゃ」

おいこら、貴族ども。隣で好き勝手言ってんじゃねえ。

「あれを連射されたら…」「一個騎士団が壊滅する」

騎士団は顔色悪いよ?現代兵器の恐ろしさを理解しているみたいだね。

次、110mm無反動砲

チュドーン!

「ファイアボールと同じくらいですかの?」「いや、高位の魔法使いならもっと威力が有るものを撃てますぞ」「…勇者、期待外れですかの」

貴族ウゼー。あんま騒ぐとテメエらの領地で気化爆弾使うぞ、コラ。

「ミスリルが融けている…」「一体、どれ程の高熱なんだ…」

騎士団は変わらず戦慄しっぱなし。まぁ、高熱は副次効果で、本当に凄いのは秒速7~8kmのメタルジェットなんだけどね。

まぁ、形成炸薬弾なめるなって事ですよ。

単一の金属板なら70センチの鉄板だって貫通するんだからな。

防ぎたきゃ複合装甲持って来い。

「勇者殿、ようこそマケドニアへ。マケドニア騎士団の名において貴殿を歓迎いたします」

「騎士団が引き取ってくれるなら」「そうですの。魔王討伐に失敗した時の負債も半端ではないことですし」「今代の勇者に投資する気にはなりませぬ」

…もうこいつら的にして良いか?

「勇者殿、お気になさらず。あの金の亡者どもはこの道具の恐ろしさに気付いていないのです。見た目の派手さなんて飾りです。偉い人にはそれが分からないんです」

「ありがとう騎士殿。現代兵器の素晴らしさに気付いてくれて」

「私はジャスティン・クライトン。マケドニア第一重装騎士団団長をしています。ジャスティンとお呼びください」

「俺は北条透。透が名前で北条が家名。透で良いよ」

「はい。トオル殿」

金と銀を足して2で割ったような髪を腰まで伸ばしたジャスティンは天使のように微笑んだ。

…思わずこれがニコポかと赤面してしまったのは余談である。

「ところで魔王って?」

「この国の北に位置する谷に存在すると言われています。強力な魔法を扱い、その配下に精強な魔王軍を有し、定期的に我が国を始めとする各国に攻めて来るのです」

「それを俺に倒せと?」

「期待していますよ。勇者殿」

「\(^o^)/」

絶望した!召喚されるときに魔法関係の書を持っていなかった俺に絶望した! 欝だ…死のうorz。

「気は済みましたか?」

「ご免、ジャスティン。もうちょっと絶望させてて」

「はい。ではお待ちしています」

「………」

「………」

「………………」

「………………」

「あの、そこに居られると凄い落ち込み難いんですけど…」

「私のことは気にせずに絶望をお続け下さい」

「………」

「………」

「………………」

「………………」

「………俺の負けです」

「絶望はもう良いのですか?」

「もう良い。自分で何が出来るか考える」

「それでこそ勇者殿です」

「その呼び方止めて凄いプレッシャーだから」

「では、トオルと。ああ、この響きは実にアナタに似合っている」

「…ジャスティンって本当にこの世界の生まれ?」

「勿論ですが、何か?」

「いや、いい」

一瞬脳裏に赤い英雄が浮んだ俺だった。

「ところで、アナタの保護責任者は私になりました。これから私の家に向かいます」

「…マジで?」

「マジです」

ジャスティンの家、と言うか首都における活動拠点は中々に大きい屋敷だった。

出迎えは年配の執事さんとメイドさんが数人。本物のメイドさん初めて見たよ。

「お帰りなさいませ、お嬢さま」

「うん、セバスチャン。今帰った」

「彼が?」

「ああ、今代の勇者だ。ミスリル製の鎧を木っ端微塵にする道具を召喚する」

「それ程の者を貴族が持って行かなかったのですか?」

「地味だからな。見た目はファイア・ボールにも劣る」

「何と!? それだけの炎にミスリルを木っ端微塵にする威力を込められるのですか!」

「凄いだろう。貴族には分からないよ」

「勇者殿、自己紹介が遅れました。私、お嬢さまの執事をしているセバスチャンと申します。以後、お見知りおきを。こちらの3人は当屋敷でメイドをしている者達でございます」

「メイド長をしているキャサリンですよろしくお願いいたします」

金の髪を後ろでまとめている優しそうな女性。マブラヴの月読さんを金髪にした感じ。

「屋敷の保全全般を担当しているエイミーです」

何と言うか無表情です。シャッフルのプリムラが無感情のまま成長したらこんな感じになったんじゃね?みたいな。

「料理を担当しているソフィーです。今日はお嬢さまが初めて屋敷に男性を招かれた記念日です。腕に縒りを掛けますわ♪」

人生、何でも楽しいです。つまらなくても楽しみます。といった感じの女性。月姫の琥珀さんみたいな?

「ちょ、ちょっとソフィー。余計なこと言わなくて良いの(赤面)」

「北条透。透が名前で北条が家名。勇者なのに現代兵器を使うイレギュラーだ。よろしく」

「「「「はい!」」」」

ちなみに、その日の料理はとても美味しかったと言っておこう。



[18458] 第2話 勝手に動く戦車って邪道?でも、そんなの関係ねぇ!
Name: タンクさん◆74790b16 ID:addd9404
Date: 2010/06/06 21:01
「第一小隊構え!てぇーー!!」

耳栓をした俺の合図でジャスティンの第一重装騎士団の団員が一斉に引金を引く。

使っているのはAK-47。頑丈で有名なあのライフルです。

タタタタタタタタ

「安全装置確認。チェンバー内が空であることを確認」

的にしていた案山子は見るも無残な状態である。

まぁ、30発もライフル弾を受ければこうなって然るべきだけど。

俺は召喚された日からマケドニアの戦力増強に励んでいます。

貴族から噂を聞いていたのか、王様は今代の勇者である俺をガン無視して進めるそうです。

騎士団と国防軍の一部を俺の指揮下に入れることは認めさせたからこっちも好きにやらせてもらおう。

目的は元の世界への帰還。早く帰ってネット小説を読むんじゃい。

「次、第二小隊! マガジン装着! 初弾装填! 安全装置解除! 狙え! てぇーーー!!」

メガホン片手に次々と指示を出す。

それにしても、流石は傭兵や民間軍事会社を顧客に狙った高級品。

素人が扱っているのに弾詰まり一つ起こしません。

「ジャスティン。ここよろしく。俺、ちょっと書の使い方を研究してくる」

「行ってらっしゃい」

昨日と今日の実験で銃火器の類は無限に召喚できることが分かっている。

次は兵器に挑戦だ。尤も、戦車とかは扱い方分からんがな。

ジャスティンとは昨日の内にタメ語で話すようになった。

勇者様って柄じゃないから敬語を止めてもらった。

「召喚。高機動車」

自衛隊年鑑を見ながら召喚する。

『キタヨ、キタヨ』

あれ?何か聞こえた。

『ユウシャ、ユウシャ。ボク、ドウスレバイイ?』

あの、何かライトがピカピカ光ったり、ワイパーが動いたり、何より高機動車が俺に纏わりつくんですけど?

「高機動車が喋って動いてる?」

『セイレイ、セイレイ。書ニ、頼マレタ。ユウシャ、助ケテヤッテクレ、ッテ頼マレタ』

「高機動車の精霊なのか?」

『違ウ、違ウ。コノ世界ニ、昔カラ居ルセイレイ』

「もしかして、他の車両なんかも?」

『操レル。操レル』

「数は?」

『セイレイ、イッパイ居ル。数エ切レナイ』

「いよっしゃーー!! これで勝つる!!」

正直なところ、兵器関連の物は全て無駄になってしまうかと思ったが、流石異世界召喚。その辺もばっちり考慮済みか。

『デモ、気ヲ付ケテ。魔王軍手ゴワイ。トッテモ手ゴワイ』

ですよねー。つうかファンタジー相手に現代兵器ってどこまで通用するんだ?

「なあ、機械が動かなくなると精霊ってどうなるんだ?」

『依代ガ無クナッタセイレイ、還ル、還ル。デモ、呼バレタラ、マタ来ル』

「死という概念は?」

『セイレイ、世界ノ一部。セイレイ、死ヌトキ、世界ガ、死ヌトキ』

死という概念は無いのね。

良かった。俺の戦術じゃ、現代兵器は捨て駒になってしまう。

その度に精霊が死んでたら気が狂いそうだ。

『ユウシャ、優シイネ、優シイネ』

「…臆病なだけだい」

『ユウシャ、照レテル。ユウシャ、照レテル』

「うっせい」コツン

『イテナ』

次はこの世界の魔法の戦力把握と行きますか。

「ジャスティンの騎士団には魔法使いは居るのか?」

「勿論居るよ」

「攻撃魔法が使える奴を呼んでくれ。出来れば系統別に」

「分かった」

数人の魔法使いが呼ばれた。

「この世界の魔法の威力を知りたい。あの案山子に向かってそれぞれの得意とする攻撃をしてくれ」

「はっ!」

「一番手、炎属性、行きます! ファイア・ボール!」

召喚された炎の塊は案山子に直撃する。

ウッゼ~貴族が対戦車ロケットを地味と言っただけの事はある。

案山子は一瞬で炎に包まれる。が、

「……なあ、ジャスティン。あの案山子、何で出来るんだ?」

「丸太だけど?」

「普通に原型残ってるよな?」

「丸太を完全に焼き尽くす魔法使いなんて早々居ないよ?」

「………」

「二番手、水属性、行きます! アクアウォーター!」

大気中から召喚された水が丸太に向かう。

その水量は消防車の放水を上回るだろう。でも、

「なあ、ジャスティン」

「何?」

「あの丸太どれだけ地中に刺さってるんだ?」

「50センチ位かな?」

「傾いてもいないよな? これ威力あるのか?」

「相手が鎧とか着ていると耐えられることも有るからね。その代わり一度押し流せば鎧が重くて簡単には立てないよ?」

「……………」

「三番手、雷属性行きます! サンダーボルトー!」

ビリビリビリ。四方に飛び散る雷。

うおっ!? 危ねえ、こっち来た!

「どこ狙ってるんだ!?」

「雷属性は制御が難しいんだよ」

「…………」

「接触すれば問題はないよ? 威力を調整して流すと肩こりが取れるんだ」

「…………」

「四番手、土属性、行きます! アースニードル!」

トタタタタタと走り出す魔法使い。

「なあ、ジャスティン。彼は何をやってるんだ?」

「土属性は有効範囲が狭いからね。ここからでは完全に射程外だよ」

「…………」

「はぁはぁ、アースニードル!」

ドカーン!……ドサ!! 地面から盛り上がった土の槍は案山子を完全に貫通した。

「威力はそこそこあるのか? でも剣で斬りつけた方が早いな」

「元々土属性は防御専門だから」

「それなら使えるか」

「弓矢を防ごうと上まで壁を延ばすと魔法が切れた時に生き埋めになるけどね」

「使えねえな!? おい!!」

「最後、風属性、行きます! ハリケーン」

ヒュオオオォォォ

周囲の風が渦を巻いて強風が発生する。

「おお、これは期待できそう」

オオオォォォーーーー………

「…………え? これで終り?」

「そうだよ?」

「ただの強風じゃん!?」

「風属性ってこんなものだよ?」

「じゃあ、圧縮して鎌鼬にするとか…」

「風を圧縮? そんなことできる魔法使い、今居るのかな?」

「…………orz」

「どうしたの?」

「駄目だ。神は死んだ。欝だ死のう」

「団長? 勇者様はどうなされたのですか?」

「ただの発作よ。心配しなくて良いわ。時間がたてば勝手に治るから」

こうして、俺はこの日、兵器関係は精霊が操ってくれることと、この世界の魔法が全く使えないことを確認できたのだった。

「なぁ、ジャスティン」

「何?」

「魔法って戦闘でどんな感じに使ってるの?」

「う~ん? 例えば火の魔法なら油を流し込んだ落とし穴に発火させるとか、水ならダムを決壊させて押し流すための水を溜めるとか、雷なら地面に引いた金属板に電流を流すとか、土なら落とし穴を掘るとか、風なら土煙を起こして相手の視界を塞ぐとか…」

「早い話が、直接戦闘には参加しないのね」

「魔法ってそんな物だよ?」

「はぁ、魔法に幻想を抱いていた俺が馬鹿だった」

「幻想を抱いて溺死しろ」

「酷っ! しかも本当にジャスティンってこの世界の生まれ!?」

「当たり前じゃない?」

勇者(仮)の受難は続く。

「い~もん。メカと精霊だけがと~もだちさ~♪」

「悲しい子。皆に頼りにされているようで、その実、良いように利用されているだけなのに気付かないのね」

「うっさいよ!? しかも何、ジャスティン、キャラ変わりまくりだよね!?」

「だって楽しいじゃない?」

「orz」

「これはまた、見事なorzね。ほら、私の足をお舐め」

「帰って来てー! 召喚直後の騎士の名に相応しいジャスティンに戻ってー!」



[18458] 第3話 現代兵器と決戦前夜
Name: タンクさん◆74790b16 ID:addd9404
Date: 2010/06/06 21:09
さて、皆さんこんにちは。

昨日はジャスティンの豹変に振り回されっぱなしだった勇者(仮)こと北条透です。

今日は練成関係はジャスティンに任せて90式戦車の訓練を眺めています。

それにしても、鋼のボディに1500馬力のエンジンを得た精霊たちは無邪気に走り回っています。いや~癒される。

『ユウシャ、遊ボウ、遊ボウ』

いや、ちょっと待って。50tの車体で迫らないで! あーーー!!

「団長。今、馬車にひき潰されるカエルみたいな声が聞こえませんでしたか?」

「大丈夫よ。今はギャグパートだから大事には至らないわ」

「は?」

「何でも無い。それより、マガジン一つ使い切って的に15発以上命中させられなかった者は、戦車と綱引きさせるわよ!」

「ちょ、あの鉄の塊に勝てるわけ無いじゃないですか!」

「ええ。綱引きという名の引き回しだからね」

「うぉぉぉ、野郎ども、絶対外すな!」

ジャスティンの渇が利いたのか、透指揮下の騎士団と国防軍はめきめきと実力を上げて行った。だって、

「止まるんだ! キュウマル~」

『楽シイネ、ユウシャ、楽シイネ』

視界の隅に戦車に追っかけまわされている勇者が見えるから。

時速70キロで走る90式戦車から逃げられているあたり、やはりこの空間はギャグ仕様のようだ。

(((ああはなりたくない)))

騎士団の心は一つになった。

ちなみに、この日から勇者(仮)が精霊と遊んでいる日は命中率が普段の五割増しになったという。

俺が召喚されてから一週間が経った。

ジャスティンの第一重装騎士団と国防軍は少なくとも200m先の固定目標に当てることは出来るようになった。

硝煙で真っ黒になった顔と、そこだけ爛々と光る目に写る戦車に追っかけまわされる俺は無駄ではなかったと言うわけか。

「で、そんなある日に俺はあのウッゼ~貴族どもに呼び出されて王城を歩いているわけです」

「誰に言ってるの? トオル」

「気にするな。ただの現実逃避だ」

「まぁ、orzされるよりはマシだから良いけど」

会議室

見るからに我こそは貴族であるって感じのオッサンたちがふんぞり返って座っている。

大物ぶりたいのかもしれないが、せめてその狸染みた腹は引っ込めろ。

「さて勇者(仮)君。君はいつになったら魔王討伐に向かうのかね? 歴代の勇者は召喚の三日後には酒屋で仲間を見つけて旅立っていたぞ」

…酒屋で仲間見つけるとか、いつの時代のRPG?

つうか、チート能力で俺Tueeする人と現地勢力の協力が不可欠な俺を一緒にしないで頂きたい。

知ってるか? 歩兵部隊の随行の無い機甲部隊はあっと言う間に全滅するんだぜ?

「人は人。俺は俺だ」

「それでは困るのだよ~。世界は魔王の侵略に怯えながら暮らしている。一刻も早く安心して暮らせる世を作るのが勇者の使命なのではないのかね?」

言ってることは間違ってないが、完全な他力本願ここに極まれり。

「一つ聞くが、何でどいつもこいつも、目が¥のマークになってんだ?」

「そりゃ、勇者が立つとお金になるからね~。討伐に使われる武器、食料、その他諸々。直接儲かるのは商人だけど、そこから税が入ると思えばね~」

そう冷笑しながら言い捨てるジャスティンに貴族達は口角泡を飛ばして反論する。汚ねーな、おい。

「第一重装騎士団長! 何を言っているのかね!?」

「我々は市民の安全を願って!」

「金の事しか考えていないように言われるのは心外だ!」

「じゃあ、資金提供してもらえます? 魔王討伐軍の編成は今現在、騎士団の予算から抽出して行っております。指揮下の軍は我が第一重装騎士団と国防軍一個中隊のみ。今代の勇者は配下の兵が多ければ多いほど強力になります」

「むぐっ!? そ、それは」

「しかしだね、それは本来、騎士団が負担すべき…」

「ええ、ですから負担しています。しかし、騎士団の予算内からの抽出では現状以上の兵力動員は出来ません。勇者が発った後に国家を護る騎士団の予算がなくなってしまいます」

「それを何とかするのが騎士の役目だろう!」

「いいえ、違います。そこで何とか予算を捻出するのはアナタ方、貴族の役目です」

「むぐぐ…はっ! そうだこうしようではないか。今現在、アルデフォン地方を荒らしている魔王軍を討伐してきたまえ。そうすれば、勇者の実力を認め、我々も資金提供をしようではないか」

「確か、アルデフォン地方はアナタ方の直轄地で騎士団派遣の要請が何度も出されているのにも関わらず、あ・な・た・が・た・が! 財政を理由に却下されていたと記憶していますが?」

「うぐっ!?」

「そもそも領地の治安維持は領主の責任でしょう。自前の戦力で治安維持ができないのなら早急に援軍を依頼するのが筋のはず」

「地方の財政は厳しいのだ!」

「厳しいのは貴方達の財布の紐でしょう! 中身はガッツリ入っているんだから偶には緩めなさい!」

「何を!?」

「何よ!?」

いかん。脱線してきた。話が進まないな。俺は生憎と政治については疎い。ここは早々に片付けるか。

「まぁ、そう言うな、騎士団長。さて、貴族の皆さん。今回の遠征ですか、我が部隊はお世辞にも練成を終了しているとは言えません。しかし、アナタ方が騎士団と国防軍の遠征費用を負担してくれるなら、我が部隊は、あ・な・た・が・た・の! 直轄地へ魔物討伐の遠征に赴きましょう」

「うむむ、仕方ないかの」

「そうじゃな」

「早々に行きたまえ」

会議室を出て、廊下を歩く。

通り過ぎる人は全てビシッと直立不動で道を譲る。

これは、俺じゃない。ジャスティンへの敬意だ。

「良かったの? この条件で。本来は領内の治安維持は領主の部隊が行うものなんだし、騎士団や国防軍が遠征するときに領主が資金を負担するのは普通なんだよ? 領内に資金がないって言うなら考えるけど、あいつら普通にケチってるだけだし」

「問題ない。俺が従来型の勇者とは戦法が違うと言ってもそろそろ動かなくちゃならない時期に来ているのは確かなんだ」

なまじ勇者への期待が大きい分、中々動かない俺への風当たりは強くなりつつある。正直、一ヶ月は練成したかったがな。だが、仕方ない。過去の勇者どもは召喚された当日に既に戦果を挙げていた奴だって居たのだ。

演習場に部隊を集めて訓示する。

部隊は大隊規模の第一重装騎士団と一個中隊の国防軍。

騎士団が240名に国防軍が120名。合計で360名。

現代装備の練度こそ不安が残るが、元々、精鋭部隊である。

「さて、俺たちの初出撃が決まった。アルデフォン地方の魔物討伐が今回の任務である。諸君はまだ、銃に触れてから日が浅い。そこで、今回の任務では銃はあくまで予備として扱い、従来どおりの少数には通常攻撃、大群にはトラップによる戦法を用いる。
現地到着後、魔導部隊は即座に展開、トラップの作成に入れ。騎士団と国防軍は周囲を警戒。トラップ陣地の設置が終了し次第、魔物との交戦を開始する。何か質問は?」

「銃の携行はどうするのですか?」

「基本的にしてもらう。AK-47は壊れにくい銃だが、まともなメンテナンスを行えないため2丁配布する。前に教えたとおりコッキングしても使えない場合はその銃は使用を諦め予備を使用すること」

「移動手段は?」

「こちらで車両を用意する」

「指揮は誰が執るのですか?」

「最終決定は俺がするが、基本的にはジャスティン団長と、ジョン・スミス国防軍中隊長にとってもらう」

『僕タチハ、僕タチハ?』

「道中森が多く道は高機動車が通るので精一杯でしかない。戦車は一旦、返還し、現地でまた来てもらう。また、戦場も森林部が大半となる。平野部も狭く機動戦闘は難しい。固定砲台として運用する」

『分カッタ。マタネ、マタネ』

「さて、森林部というのは現代兵器に限らず、攻める側にとって鬼門である。今回の作戦は可及的速やかに敵を平野部に誘き出し、トラップと銃砲撃にて殲滅することである他に質問は?…よし、では出動だ!」

アルデフォン地方

俺が召喚された首都マケドニアから北へ200km程行った所に有る。

普通なら5日は掛かる道中だが、我が部隊の展開能力を侮る無かれ。

夜間の移動を制限してでも2日で着いてしまった。

いや、これ以上は無理よ? 生い茂った森の中の林道みたいな道を走ってるんだから。

「良く来てくださいました。勇者殿!アルデフォン地方駐留軍一同、心より到着を歓迎いたします!」

うん。トップがあのウッゼー貴族でも現場に責任は無いよね。

この地の守備隊が涙ながらに喜んでいる。

つうか、ここ街じゃねぇし。明らかに街の外です。

街の外周には堀が掘られて壁が立てられちょっとした要塞になっている。

「いえ、この位しないと防ぎきれないんです」

そうか、大変だったんだな。

あの貴族が俺を急かしたのはテメエの懐可愛さだが、言っている事は間違っていなかったということか。

この国は限界に達しつつある。下手に長引かせると内部から瓦解する。

「守備隊長。この地の地図が欲しい」

「はっ、こちらに」

天幕の中に入ると守備隊の幹部達が一斉にビシッと起立する。

どの顔も連戦で疲れきっている。人と魔物では人は常に苦戦する側だ。

そこで出された地図。何じゃこりゃ。白紙に街と道と川が書かれてるだけじゃん。

「我が国マケドニア全域で言えることですが、森が多く、測量が進まないです。我が国の地図では主要な道路と河川しか書かれていません」

「……軍議一時中断」

俺は外に出て比較的開いた場所で自衛隊年鑑を開く。

「召喚、OH-1」

『ユウシャ、呼ンダ? 呼ンダ?』

「うん。少しこの辺の航空写真撮って来て」

『任セテ、任セテ』

ヒュンヒュンヒュンヒュンとプロペラを回転させ離陸していくOH-1。

それにしても移動にヘリを使わなくてよかった。

全員ヘリで運んでいたら着陸待ちでガス欠が出てたわ。それくらい平地が小さい。

「勇者殿、今のは一体?」

「情報を制するものは世界を制する。戦術の基礎だ。その情報を集めに行ってもらった」

「情報?」

「取り敢えずは地図な」

暫くするとOH-1が戻ってきた。

『ユウシャ、戻ッタ、戻ッタ』

「お帰り。じゃあ、早速」

機体にプリンターを繋いで周囲の航空写真をプリントアウトする。

それを大きな台に乗せて巨大な周辺図が完成した。

『ユウシャ、森ノ中ニ魔物沢山居タ。皆隠レテタ』

そう言って機体のディスプレイに表示されたのは森の中。

しかし、赤外線映像で魔物の周囲だけ赤くなっている。

「あ、そっか。可視光線の他に赤外線の観測装置も積んでたな。つうか、昼間でも使えんだ。そっちの情報も出せるか?」

『出ス、出ス』

周辺図に赤外線映像も加えて、敵情は手に取るように分かる。

「凄い。魔物の位置が予め分かっているなら、平地に追い出すのも簡単になる!」

守備隊長が言うとおりなのだ。

今まで人が魔物に対して劣勢を強いられてきた一番大きな理由。

それはマケドニアの国土の実に七割が森林部だったことに由来する。

視界が大きく遮られる森林部では視覚に頼って行動する人間は簡単に不意を突かれてしまう。

「よし、明日の日の出を待って展開を開始する。この平野、ポイントAに魔物を追い込む様に半円状に展開。包囲網は二重とする。上空にはOH-1を飛ばして戦域管制を行う。各分隊長には無線を支給。部隊の足並みは揃えるので自分より前に動くものが居たら敵だ。撃て」

明日の朝一でOH-1を飛ばし、魔物の場所を再確認。

それを元に部隊を展開させる。

アルデフォン駐留軍は疲労が半端ではなかったので全員休ませた。

何と、今まで街の外の陣地にテントを張って野戦をしていたらしい。

一応、水系統の魔法使いもいるから衛生面なんかは問題なかったらしいけど、この日は全員家に帰らせた。

森の中に複数のセンサーを設置したし、新しく召喚した90式戦車や89式戦闘装甲車がFCSを常時起動させて睨んでくれる。

地図の上に戦車型の駒を置いて防衛体制を確認していた俺のところにジャスティンが暗い顔をして姿を見せた。

「ねぇ、トオル。アルデフォンなんだけど…」

「何かあったのか?」

「うん。ここ最近の魔物の異常発生で流通が途切れているんだ。食料を始めとした生活必需品も満足に出回ってない。それで…」

「騎士団の物資を開放したい…か?」

「うん」

「良いんじゃね? 何か問題があるのか?」

「今現在、騎士団の所有する食料は二週間分。街に充分な物資を行き渡らせるには八割以上を放出しないと…」

「それは流石に問題だよな~」

考えろ、俺の頭脳。俺に出来ることは何だ? 基本的に書の力を使うこと。

……あ。俺は自衛隊年鑑をめくり出す。これに載っているのは戦闘装備だけじゃない。

あった野外炊具。でも食材は流石に無さそう。

ここは素直に戦闘糧食を配るか。

あ、でも戦闘糧食って湯煎が必要じゃん。いや、必要なのは米飯だけか。

でも、この世界じゃ米を食うという習慣が無いっぽいし、洋食だと極端にメニュー減るよな。

でも、まぁ、洋食でも余りの不味さに落ち担当の米軍MRE食わせるよかマシか。

えーと缶詰のⅠ型なら乾パン。オレンジ味の水飴がついていて、ソーセージの缶詰とセットか。…缶切がいるな。

Ⅱ型ならクラッカーか。クラッカーにハムステーキ、ポテトサラダ、卵スープか。こっちはレトルトだから特別な道具は必要ないな。良し、召喚!

ドタドタドタドタ。

目を丸くしているジャスティンを他所に俺はその一つを手にとって食べ方を確認する。

幸いどちらも特に難しくは無さそうだ。パックの破り方だけ教えて高機動車にたらふく積んで街に持って行ってもらった。

これで一安心と地図上での架空演習に戻った俺だが、アルデフォンの住人どころか騎士団や国防軍も大いに気に入ってしまい、しばらく炊事班の仕事が無くなったのは余談である。



[18458] 第4話 勇者(仮)と初の実戦
Name: タンクさん◆74790b16 ID:addd9404
Date: 2010/06/06 21:08
皆さんこんにちは。異世界に召喚されて勇者(仮)やっている北条透です。

遂に我が無双の現代兵器が活躍する時が来ました。

現代兵器の火力、とくと思い知れ、なのです。

「今回の作戦の目的は敵群の確実な殲滅である。進軍速度より索敵を重視せよ」

特化部隊を呼び出して砲撃をガンガン加えても良いんだけど、今回の作戦の目的は敵軍の無力化ではなく、敵群の殲滅である。

軍事行動というよりは害獣駆除に近い。

そもそもマケドニアの森はジャングルと言うほどではないが、それでも木が生い茂っている。

ここに砲爆撃を加えても確実な殲滅は期待出来ない。

ナパームなんかを使えば出来そうだが、火の始末が面倒すぎる。

街が近いから火事になられても困るし、そもそも余計な熱源を与えると赤外線映像が使えなくなってしまう。

結局、森林の敵を確実に排除するには歩兵部隊の投入をするしかないのだ。

ベトナムの米軍が実証している。

太平洋戦争の総使用量を超える爆弾を叩き込んでもベトコンを殲滅出来なかったのだ。

現代兵器も大自然の前には無力…とまでは行かないが、大きく威力を割かれてしまう。

それに敵殲滅より森が焼け野原になる方が早そう。

作戦通りに上空にOH-1を飛ばして、その情報を82式指揮通信車で受けながら指揮をしています。

今回、第一重装騎士団と国防軍の分隊長以上の指揮官には無線を配備しているんです。

尤も、あちらからの通信は原則緊急時のみですが。

「現時刻をもって状況を開始する。各部隊は所定の方針に従って行動を開始せよ。繰り返す…」

魔物の集団を広場に追い立てるように半円状に展開した部隊が一斉に動き出す。

これからはOH-1からの情報を元に各部隊の足並みを整えさせないといけない。

しばらくすると半円を描いていた部隊の形が段々と歪になってくる。

「第一小隊、遅れている。前方600m以内に熱源反応無し。行軍速度を上げろ。第六小隊、突出しすぎだ。その場で再度指示が出るまで停止。第三小隊、前方に熱源。確認せよ」

『こちら第三小隊。魔物と接敵、交戦します』

 無線の向こうではタタタタという銃声が聞こえてくる。

「了解。深追いはするな。目的は森林部での殲滅ではない」

『了解』

OH-1から送られてくる赤外線映像を見ながら指揮をする。

時々偶発戦闘を行いながらもじわじわと魔物包囲網が狭まっていく。

従来どおりに部隊が点になって移動していたならば奇襲も出来ただろうが、今、俺の指揮下の部隊は線で動いている。奇襲などさせんよ。

結果、じりじりと追い込まれている。

そうだ、魔物ども、そのまま進め。

その先には魔法部隊が作成した各種トラップと十字砲火が待ち受けている。

「全部隊、包囲網が狭まった。左右から友軍が合流するが、注意せよ」

それにしても魔物も一方的に逃げてばかりだ。

完全包囲網で奇襲が出来ないと理解しているのか? それとも初めてみる銃に怯えているのか?

見た目は魔法の方がよっぽど派手なんだが。

騎士団と国防軍による包囲網は直径400mにまで狭まった。

それにしても、上空にいざと言う場合に備えてAH-64Dを待機させておいたが、結局出番なかったな。

味方の包囲網を一点突破で抜こうとしたら鼻先に攻撃して足を止めさせる心算だったが。

「魔導師部隊、戦闘準備。司令部より全部隊へ。前方に向けて一斉掃射を開始せよ。身体は物陰に隠せ。両端の部隊は前方からの流れ弾に注意」

ダダダダダダダダ

来た! 突然の一斉射撃に驚いた魔物の群が森から飛び出してきた。

「魔導師部隊、まだ待機だ。後続が森から出るまで待て」

『勇者殿! まだですか!?』

「まだだ。待て」

魔物の先頭と部隊との距離、200m。

だが、まだだ。まだ森の中に居る。

『勇者殿!』

「待て!」

150m、100m、50m…。

「よし、やれ!」

『了解!トラップ発動!』

その瞬間、地面が沈んだ。

土系統の魔法使いによる地下に空間を作り、それを複数の柱で支え、柱を任意で取り払うことによる巨大な落とし穴。

対魔物集団戦闘の基礎らしい。

土を地面より上に出して操るのは有効範囲が極端に狭い土系統だが、地中を操る分には数百メートル先でも操れるらしい。

「待機部隊隠匿解除! 十字砲火撃ち方始め! 包囲部隊前進開始! 森に残った奴を焙り出せ!」

タタタタタタ ダダダダダダダダ

森から残りの魔物を殲滅するための銃撃が開始され、トラップの前面に設置した軽機関銃が偽装を払って銃撃を開始する。

東京ドームと同じくらいの面積の落とし穴にはまった魔物に容赦無く浴びせられる銃撃と魔法。

そして、止めとばかりに軽油を満載した樽を転がり落とし、曳光弾と炎系統の魔法でで狙い撃つ。

そして、上空に待機させていたAH-64Dも攻撃に参加。

30ミリチェーンガンと70mmロケット弾が身動きの取れない魔物に降り注ぐ。

一発一発は手榴弾よりは威力が有る程度のロケットだが、76発を連続発射すれば結構な面制圧が可能である。

ボアアァァァ

穴の中から燃え上がる炎。

まだ死んでいなかった魔物が上げる断末魔と生き物の焼ける匂い。

血抜きしていない肉が焼ける匂いは饒舌しがたい。これ夢に出そう。

結局機甲戦力は使わなかった。

日本の車両は油圧で姿勢制御できるものが多いが、今回は極端な撃ち下ろしになったので射角がとれなかった。

落ちていないのを狙おうにも90式戦車の120mm滑腔砲は生き物相手に使用するには威力過多だし、89式装甲戦闘車の35mm機関砲にしても多少の木々は貫通して森の中の味方に被害を与えかねない。

やっぱ、森林部だと現代兵器使い勝手が悪いわ。これからもどうやって平野部の野戦に持ち込むかが鍵になりそうだ。

残敵掃討が終った戦場跡を見ながら俺はこれからの兵器運用を考えていた。

周囲では守備隊が魔物の死体に軽油を掛けて燃やしている。

一体二体ならまだしも、これだけの数を放っておくと伝染病を招きかねない。

アルデフォンに流通が戻り、市民の生活が回復するまでにどれだけの時間が掛かるだろうか。

さっさと魔王倒して帰る心算だったが、多少なりとも関わってしまうと情が湧く。

実は街で、既に伝染病らしい物が流行っているのだ。

だが、俺には症状が分からないし、医療キッドの中に複数の抗生物質も入っていたけど、怪我した時に飲む物はともかく、病気に対するのはどれか何か全く分からない。

衛生兵が欲しい。自衛隊年鑑に写っている災害救助中の医官、召喚出来ないかな?……無理だった。

取り敢えず、病人は隔離して医療キットの中からピンポイントで大量のアルコールを召喚。

食器なんかは沸騰したお湯で消毒。シーツなんかは洗って天日干し。病人の周囲は特にアルコール殺菌を徹底させた。

戦闘糧食はかなり多めに召喚。

アルデフォンの住人が三ヶ月過ごせるだけの量を召喚した。

三ヶ月の間に物流が回復するように貴族殿には頑張っていただくとするか。

さすがにそこまでは面倒見切れん。

「トオル、大丈夫? 顔色が悪いけど」

俺に割り振られた天幕内でこれからの戦術戦略を考えているとジャスティンが声を掛けてきた。

そんなに顔色悪いか。さっきの光景が目から離れず、魔物の断末魔が耳から離れず、生き物の焼ける匂いが鼻から離れない。

「あまり、大丈夫じゃ無いけど、問題ないよ。しばらくは菜食主義者にならせてもらうけど」

「あまり強がらないの。手、震えてるわよ?」

言われて気が付いた。

確かに俺の手は小刻みに振動している。

さっきから作戦書の字がミミズがのたくったような字になっていると思ったらこのせいか。

「はは、生き物の死ぬ場面に出くわすのは、いや、生き物を殺したのは初めてだったから。元の世界じゃ生きるためでも食べるため以外で動物を殺す必要が無かった。あの光景が脳裏から離れないや」

元の世界のゲームでは勇者のレベルアップの為に存在しているような魔物だったが、ゲーム内では断末魔など上げない。

火にまかれてのた打ち回ったりしない。

何より、無残な死体を残さない。

火葬した後に土葬したが、ずっと吐き気に堪えていた。

「そっか」

 あれ? 俺は今、柔らかくて温かい物に包まれてますよ?

「あの? ジャスティン?」

「大丈夫。今は、今だけは弱くても良いんだよ?」

俺の中で何かをせき止めていたせきが切れた。

この世界に来てから一週間と少し。

誰にも弱みを見せることは出来なかった。

だって、(仮)とはいえ、俺は勇者だったから。

何をするにもその肩書きは付いて来た。

元の世界じゃ軟弱大学生に過ぎなかったのに。

男の子としての最後の意地で声は上げなかった。

でも、押し殺した嗚咽が漏れてしまうのは止められなかった。

ジャスティンはただ、黙って頭を撫でてくれた。

「泣いて良いのですよ? だから人は泣けるのです」

「…ごめん、何か色々と台無しなんだけど? あと、本当にジャスティンってこの世界の生まれ?」

「えっ、何で!? 私、今、凄く良いこと言ったよね!? あと、私は間違いなくこの世界の生まれだよ!?」

その台詞を言ったのが、貴女が最初だったならね!

あ~、何かこのまま甘えるって雰囲気でもないし、久しぶりのギャグパートでテンションも回復した。

復活しますか。アルデフォンの再生はウッゼ~貴族どもにやらせるとして、こっちも戦力増強に精を出しましょう。

天幕から出た俺のところにアルデフォン守備隊隊長がやって来ていた。

「勇者殿、今回は真に御助力に感謝致します。アルデフォンの護りを担う我らが不甲斐ないばかりに勇者殿には大変なご迷惑をお掛けいたしました。今後、アルデフォンを絶対に護るべく精進します!」

 …ええ人や~。これでトップがあのウッゼ~貴族なんだから可哀相で仕方ないぞ。

「うんうん。頑張ってくれ。出来る限りの食料と医薬品を置いていくから」

「申し訳ありません、勇者殿。魔物の討伐をして頂いたばかりか、物資まで…」

「良いの良いの。この国に必死になって戦っている軍人が居るって分かっただけでもここまで来た甲斐あったから」

主に俺のモチベーション的に。

こうして、俺の初陣が終った。

離れていく車両隊に守備隊と市民は見えなくなるまで手を振っていた。

余談だが、今までのただ戦うだけだった勇者と違い、土木作業や食糧支援を行う我が部隊は着々と市民の支持を集めていくのだった。

「ふんっ。歴代勇者どもよ、ス○クじゃあるまいし、戦術が戦略を上回って堪るか!」

「トオル、誰に言っているのですか?」

「いや、ちょっと現実逃避しただけ」

「orzよりは見てくれが良いですが、今、トオル指揮下の国防軍に志願者が続出しているのです。さっさと書類を片してください」

「だから、その書類から現実逃避してたの!」

 何でテレビ第9話で第七使徒の迎撃に失敗したのミ○トさんみたいな量の書類を片さなきゃならんのだ!?

「…ソフィー。今日の夕食だけど、肉汁たっぷりのレアステーキでお願いするわね。ええ、勿論トオルの分も」

何か、俺の渡した無線機で何か言い出したジャスティン。

いや、ちょっと待って。俺、まだ肉は!特にレアはらめ~!

「お仕事してくださいますか?」

「……やらせていただきます」

泣く泣く書類の山に向き合った俺。

指揮下の部隊が増えるのは良いことだけど、志願者が増える→練成に時間が掛かる→国境付近に魔物出現→討伐→新しい志願者が来る。この繰り返し。

いや、確実に指揮下の部隊は増えているんですよ?

でも、肝心の魔王討伐は国境付近で小競り合いを繰り返すばかり。

俺、何時になったら帰れるの?



[18458] 第5話 とある貴族達の陰謀と勇者の旅立ち
Name: タンクさん◆74790b16 ID:addd9404
Date: 2010/06/06 20:56
さて、皆の衆。こんにちはじゃ。

我輩はマケドニアでも有数の大貴族である。

名前はまだない。勇者からはウッゼ~貴族と呼ばれておる。

特に名前を考える必要も無いようなのでこのまま行くそうじゃ。

で、ワシ達、ウッゼ~貴族は現在、とある貴族が持つ王都の屋敷に集っておる。

これからの事を考えなければならんのでの。

「正直、あの地味勇者がここまでやるとは予想外じゃった」

「うむ。これまで国境の町々に魔物の討伐に赴いては成功させておる」

「お陰で国内の治安は回復しつつある。国境の町々にも流通が戻った。それは良い。…だが!」

「そうじゃ! 問題は、奴らが大半の装備を自前で揃えてしまう事じゃ!」

「買うものと言えば新鮮な野菜や果物といった軍事食に向かぬ物ばかり! 肝心の剣にしたところで異常なまでに売れ足が悪い!」

「折角、行軍に備えて、軍馬を大量に揃えたのに大赤字じゃ!」

「ワシも保存食を大量に揃えたのにトンと売れん!」

「王都に集めた鍛冶屋に全く仕事が来ない!」

「これは忌々しき事態ぞ!」

「今代の勇者に投資しても見返りが全く無い!」

透やジャスティンにしてみれば配下の部隊が続々と増えているのに予算が全く増えない現状の方が問題なのだが、黒字か赤字かでしか判断出来ないウッゼ~貴族達には分からない。

透たちが買い物をしないのは、貴族達が普通に投資をケチっているため、透たちが深刻な予算不足で本来支給すべき剣や槍をケチり、銃剣突撃に適した38式歩兵銃と銃剣を支給して槍の代わりにしろ、何て無茶をしているからである。

しかし、自動小銃が普通に支給されるので、敢えて38式歩兵銃で銃剣突撃したがる者は居なく、接近戦の為に持つ程度である。

しかも、接近戦用のサブウェポンがメインウェポンのAK-47より大きくなってしまうので、大半の者は剣を自前で調達するのだが、あくまで予備なので殆ど磨耗しないのだ。

食事にしたところで遠征中は戦闘糧食を食べているので下手な保存食を用意する必要が無いのだ。

ただ、糧食には野菜や果物の類が足りないので、これを調達する程度である。

ジャスティンや騎士団、国防軍の幹部あたりはお陰で王都の商人達が大損していることは知っているが、無い袖は振れぬ状態なので如何ともし難いのだ。

予算不足解消のために戦闘糧食を売ろうなんて話も出てきているが、それには幹部陣は慎重である。

勝手に食料の流通を作ってしまったら、それが消えた時の影響が読めないからだ。

結局、貴族側・商人は早く魔王を倒せとか物買えと騎士を突っつき、騎士は騎士で練成が足りない、金が無いと突っぱねるという循環が出来ている。

「もう我慢できぬ! 早々に勇者には魔王討伐に赴いてもらおう!」

「そうじゃ! 現代兵器だか、何だか知らないが、歴代勇者の中には召喚されて三週間で魔王の討伐を成功させた者もおるのじゃ!」

政治家が軍事に口を出すと碌な事にならない。

軍人が政治に口を出すと碌な事にならない。

何時の時代でも変わらぬ真理である。

「はぁ~!?『残り一週間で準備を済ませて魔王討伐に出ろ』だ~!?」

「ええ。貴族が騎士団の反対を押し切って国王に認めさせたそうよ」

「ウッゼ~! マジウゼッ!」

「流石に国王からの命令には逆らえないわ」

「あれか? 今の国王は暴君か!? それとも、貴族の言うことを鵜呑みにする馬鹿殿か!? 人が必死に滑走路造ったり、OH飛ばして魔王城の所在探している時に何を無茶言ってくれるんだ!?」

「不思議ね。何で歴代勇者は簡単に魔王城を見つけることが出来たのかしら?」

それはねっ、マップどおりに進めば必ず魔王城に辿り着けるって言う修正力のお陰なんだ。詳細な場所も分からないのに、伝説だけ頼りに魔王の討伐に赴く勇者って凄いよね。

「あら? トオル、何か言った?」

「オノレ、貴族ども。そんなに金が欲しいなら、空から世界一高価な鉄屑を降らしてくれるわ! 単位重量当りの価格は金以上のYF-23舐めんな!野晒しにするくらいなら日本に寄越せってんだ!」

ユウシャは、サクランしている。

「う~ん、確か右斜め45°から、えい!」

ガツン!

「はぐぅ!?」

ユウシャは、キゼツした。

「あら、失敗したかしら? トオル~。生きてる~?」

返事が無い、ただの屍のようだ。

「まぁ、この空間はギャグ仕様だし直に復活するわよね」

そう言って峰打ちに使った剣を鞘に戻すジャスティン。

…剣って諸刃の筈というツッコミはいけない。何故ならこの空間はギャグ仕様。

その証拠に勇者は血を流さずにタンコブを拵えただけである。

しかし、敢えて突っ込もう。

ジャスティンさん。右斜め45°は普通、チョップでする物です。

所変わって、練兵場。ここに勇者指揮下の騎士団と国防軍が集められた。

「諸君! 一週間後、我々は戦争に赴く! 全てを得るか、地獄に落ちるかの瀬戸際だ! どうだ、楽しいか!?」

「マム、イエス、マム!」

「野郎ども、私達の特技は何だ!?」

「殺せ! 殺せ! 殺せ!」

「この討伐の目的は何だ!?」

「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」

「私達はマケドニアを愛しているか!? 騎士団を愛しているか!?」

「ガンホー! ガンホー!! ガンホー!!!」

「良し! 行くぞっ!!」

「ウオオオォォォーーー!!!」

「もう突っ込まんぞ…」

ハイテンションの騎士団とこめかみを押さえる透。

その脳裏には某軍曹と某都立高校ラグビー部が浮んでいた。

部隊は遠征準備に入り、俺とジャスティンは行動方針の決定に入る。

「で、トオル。これからどうするの?」

さっきまでのハイテンションは何処に行ったというくらい冷静に作戦会議をしているジャスティン。

「北の谷だったか? そこに向かうしかないだろ? 幸い、北にはでっかい湖がある。空母でも召喚すれば水上要塞として使うことが出来る。谷の手前の荒野までなら詳細な地図もある。しばらくは荒野手前の湖に拠点を構えよう。荒野手前なら森も魔物が潜めるほど深くは無く、高速で突破できるほど浅くも無い。天然の要塞になれる」

「空母?」

「馬鹿でっかい船さ。それこそ下手な街より大きな。このサイズの湖に出したら全く身動き出来なくなるな。この周囲を切り開いて要塞化するか。それにしても首都郊外に造っている滑走路が全く無駄になったな。いや、それとも部隊を一部残して補給の確保にあてるか?駐機は心許ないが、離着陸は出来るレベルだし…」

「この湖、結構大きいよ? それで身動きできなくなるって…」

「まぁ、全長333m、全幅77m、喫水12m、満載排水量101,264トンの巨体だからな。呼び出すのはニミッツ級三番艦のカールビンソンでいいか。普通に運用しようとすれば五千人以上は必要な艦だし」

「ご、五千って…」

「その空母一隻で運用する航空機だけで俺の世界の小国に匹敵する戦力となる。まぁ、正直な所、頑張って滑走路造るより、これ一隻呼び出す方が楽ではあるな。滑走路も造るけど」

 尤も、現代の滑走路みたく2kmクラスなんて造らないけどね。

どう頑張っても1kmですよ。森林を切り開くのは大変なのです。

それだけあれば大抵の戦術輸送機と一部戦闘機が使えるので十分です。

それから一週間、色々と準備を始めたのですよ。

全軍を連れて行くわけにも行かないので基本的には志願制。

そしたら志願したのはおおよそ七割。

残り三割は家族を置いていけなかったり、国防軍で割と重要な地位に居たり、単純に戦闘糧食を食いたくて志願しただけだったらしい。

こいつらで首都郊外の滑走路を維持させ、補給路を確保する。

これから拠点にする予定の湖にSH-60Kを飛ばして湖の状況を調べた。

合計三つの湖が連なっており、上流から面積1.86k㎡、周囲長6.65km、最大水深58m、平均水深29.0m、推定貯水量0.054k㎥。流入量と流出量が計算に合わないので、恐らく湧水があると推測される。

次が、面積0.14 k㎡、周囲長2.20km、最大水深12.0m、平均水深5.7m。推定貯水量0.0008 k㎥。

三つ目が面積1.4k㎡、周囲長6.5km、最大水深29.5m、平均水深17.9m、推定貯水量0.025k㎥。

うん。上流の湖に二隻と下流の湖に二隻。

合計で大型艦を四隻は浮かべることが出来るな。

水系統の魔法使いを使えば津波もさして問題にならずに済むだろうし。

行軍は車両隊を中心で行うが、騎馬隊も連れて行く。

森の中では車両よりも動けて、歩兵より機動力がある。

でも、生き物で行軍するとなると速度は落ちるな。

これだけの大軍が移動するとなると片道二週間は掛かるか?

今まで五人前後のパーティーで魔王討伐に赴いた勇者と違って随分と大所帯になったものだ。

出発の日。魔王討伐軍は国儀を行う広場へと集まっていた。

「太古より続く魔王の侵攻により、我がマケドニアは多大な損害を被ってきた。圧倒的な魔物を相手に我が国の騎士団や軍は幾度と壊滅様態に陥り、その度に復活を遂げてきた。我らを突き動かすものは何か。満身創痍の我等が何故再び立つのか。
 それは全身全霊を捧げ絶望に立ち向かう事こそが、生ある者に課せられた責務であり、マケドニアの防衛に殉じた輩への礼儀であると心得ているからに他ならない。
 森に眠る者達の声を聞け。荒野に果てた者達の声を聞け。谷に散った者達の声を聞け。彼らの悲願に報いる刻が来た。そして今、勇者達が旅立つ。鬼籍に入った輩と、我等の悲願を一身に背負い、孤立無援の敵地に赴こうとしているのだ。
 歴史が彼らを数ある勇者パーティーの一つと忘れ去ったとしても、我等は刻みつけよう。歴史に名を残すことすら許されぬ彼等の高潔を我等の魂に刻みつけるのだ。
 旅立つ勇者たちよ。諸君を勇者に祭り上げねばならない我等を許すな。異界より召喚されし若者よ。貴君を召喚してしまった我等の無能を許すな。願わくは、この旅立ちが、最後の旅立ちとならん事を」

愛と勇気の御伽話な基地指令の名演説に良く似た演説を行う神官長。

透の召喚を執り行った最高責任者でもある。

「諸君! これより我々は魔王討伐に赴く! 我々は必ずここへ帰ると手を振る人に笑顔で応えろ! 誰かがこれをやらねばならぬ! 期待の人が俺たちならば! ここに帰ると想い続けろ! 信じる想いは力となる! 諸君! 自分を信じろ! 俺が信じる諸君ではない、諸君が信じる俺でもない、諸君が信じる諸君を信じろ!」

どっかの歌の歌詞と某アニキの名言から引用したセリフをさけぶ透。

「魔王討伐軍一同へ! 捧げ剣!」

マケドニア騎士団と同国防軍から選出された魔王討伐軍三千名。

史上最大規模の討伐軍がこの日、マケドニアを旅立った。



[18458] 閑話  とある執事の一日
Name: タンクさん◆74790b16 ID:addd9404
Date: 2010/06/06 21:14
 さて、皆さまこんにちは。

もう忘れた方が大半だと思いますが、私はセバスチャン。

クライトン家で執事をしています。そんな私のとある一日の物語です。

私の朝は誰よりも早くございます。

夜明けと共に起き、乾布摩擦で心身を研ぎ澄ます。私の日課でございます。

次に、メイド長であるキャサリンの怒声が響きます。

「くぉら~! エイミー! ソフィー! テメエら、仕事を交換するなって、何回言ったら判るんだ!? 朝っぱらから余計な仕事増やしやがってー!」

表向きは優雅で非の打ち所の無いキャサリンですが、身内しか居ない場合はいつもこんなものです。

ジャスティンお嬢さまの使用人には個性的な面子が揃っているのです。

「でも、料理って楽しい。複数の食材を化合させてどんな味になるのか。でも、最近、試食係のマウスが減っちゃった。また捕まえてこないと」

何をするにも無表情、無感動のエイミーが唯一、興味を持ったのが料理なのです。

しかし、その才能は逆の方向に天元突破でございます。

その破壊力はジャスティンお嬢さまがしつこく交際を迫る貴族への最終兵器に使うほどでございます。

見た目は美味しそうに見えるのに、どうやったらあの味が出せるのか。

世界中の料理家を逆の意味で追い込んでしまいます。

「テメエのは料理じゃなくて実験ってんだ! このアホンダラが! ソフィー、テメエもテメエだ。掃除するのかガラクタ増やすのかどっちかにしろ!」

「不思議ですわ~。何故、私が掃除をするとガラクタが増えてしまうのでしょうか?」

「箒をかけるのに、火の魔法を応用したマジカルジェットローラーとかほざいて変なスケートを履くからだ! 器物を片っ端から吹き飛ばしやがって! 妙なモンこれ以上増やすんじゃねえ!」

基本的に器用なのですが、それを間違った方に発揮するのが得意なソフィー。

私は彼女が真面目に掃除をしたところを見たことがございません。

何時も、面白アイデアを用いては屋敷内の器物をガラクタに変換します。

結果、キャサリンから掃除禁止令が出ているのですが、守っていませんね。

ははは。今日も皆、元気で何よりです。

さて、屋敷に関してはキャサリンが居れば問題ありません。

私はお嬢さまから仰せつかった任務をこなすとしましょうか。

…私は、とある屋敷に潜入しています。そして、丁度今、私から1mと離れていないところを見張りが通り過ぎました。

しかし、私には気付きません。何せ私にはトオル殿から頂いた万能スニーキングツールであるダンボールがあるのですから! 某蛇の戦士もこれを愛用していたとか。

…いえいえ、言っておきますが、今回はギャグパートではありません。

本気でダンボールを被るだけで気付かれないのですよ。

それは何故かって?簡単です。屋敷の廊下にダンボールが溢れかえっているのです。

しかし、今はトオル殿の世界で言うところの中世ヨーロッパ。当然ながらダンボール何てありません。しかし、ここには現実に存在しています。

では、このダンボールは何か? 答えはトオル殿が魔物に悩む国境付近の町々に支給した戦闘糧食なのです。

最初にアルデフォンで配布してからあっと言う間に王国全土に広まった戦闘糧食。

しかし、その流通量は雀の涙程度でしかありません。

トオル殿がこれを流通させることに危機感を抱いているからなのです。

何せ、無限に呼び出せるので、大量に流通させた場合、従来の食料流通がどうなってしまうのか?

そして、トオル殿が元の世界に帰った場合、即座に元の流通ルートが復活できるのか判断出来ないとのことです。

売ればとんでもない金になる。しかし、トオル殿は中々流通させない。

ならば、どうするか? 貴族どもはトオル殿を国境付近の町々に派遣させ、そこで支給した戦闘糧食を税として絞り上げたのです。

しかし、それでも、その町々に的確なフォローがあればお嬢さまもこんな強硬手段を取りはしなかったでしょう。

しかし、貴族どもは奪うだけ奪い、代替の食料を送ることすらしなかったのです。これには普段飄々としているお嬢さまもキレました。

で、私は今現在、その証拠集めと言う訳ですね。

デジタルカメラという掌サイズの機械で次々と撮影。

いや~、便利な世の中になりましたね。

次は、ウッゼ~貴族の部屋に侵入します。そして、盗聴器という物を設置します。

こんなに小さいのに会話を盗み聞きしてくれるとか。元々は密林などで敵軍の展開状況を調べるために設置するのだそうです。

「発セバスチャン、宛キャサリン。盗聴器の感度はどうですか?送れ」

『発キャサリン。宛セバスチャン。感度良好。問題ありません。送れ』

部屋の中で普通の声量でしゃべりましたが、イヤホンから無線を通じてキャサリンの声が聞こえました。どうやら設置場所や電波状況などは問題ないようです。

では、次に帳簿でも探しましょうか。悪役は必ずこれを残すお約束ですからね。

金庫に聴音機をあてながらダイヤルをカチカチカチと回します。ふふふ、こう見えても昔は色々とやんちゃをしたものです。

その時の技能がこうして役立つんですから世の中分かりませんね。

カチカチカチ ガチャ

お、開いたようです。では失礼して。

ギィィィ

見つけました、見つけました。これでもかという金貨の横に立てかけられています。それを机に広げて写真撮影。

カシャカシャカシャカシャ

撮影完了です。では、脱出しましょう。

ウッゼ~貴族の屋敷から色々と証拠品を手に入れた私はその足で大聖堂に向かいます。

ここには勇者一行の出発式で見事な演説を行った神官長どのが居るのです。

クライトン家の名前で面会申請をすれば割とあっさり通ります。

「お待たせしました。ハウル・ラタヒノットです」

「クライトン家で執事を務めているセバスチャンと申します」

「そうですか…。あなた様が伝説の」

「昔の話です。今はしがない一執事なのですよ」

「そうですね。それで、今日はどういったご用件で?」

「ジャスティン・クライトンからある貴族の調査を命じられていたのです。今代の勇者どのが国境の町々を救うために召喚した食料が貴族どもの懐を温めるのに使われていると」

「あの戦闘糧食という物ですか?中々に美味でしたが」

「恐らく神官長殿が食せられたのも不法に流通させた物でしょう。勇者殿は、あれを魔物のせいで流通が途切れた町々でしか配布していません。本来ならば首都にあるはずが無いのです」

「何と!?」

「貴族どもはあれを欲しいが為に勇者殿を流通の途絶えた地域に派遣し、そして配布した戦闘糧食を税として徴用するのです。しかし、お嬢さまも流通が戻り、市民が普通に生活できるのならばそこまで目くじらは立てません。問題なのは、流通を戻す事より戦闘糧食を集めることを貴族が優先しているが為に、魔物討伐前よりはマシ程度にしか市民の生活が回復していないのです」

そう言ってウッゼ~貴族の家に山積みにされたダンボールと帳簿の写しを見せる。

「何と言うことだ。貴族が勇者を金儲けのネタにすることはいつも苦々しく思っていましたが、それもまた必要と黙認して来ました。しかし、それが市民の生活を脅かすという事ならば話は別です。我がマケドニア国教の神に誓ってウッゼ~貴族を処罰すると約束しましょう」

…このウッゼ~貴族という名詞、神官長にまで広まっていたのですか。

「よろしくお願いします。勇者殿もお嬢さまもマケドニアの行く末を案じています。今のままでは魔王を倒したとしても内側から倒れると」

「…お恥ずかしい限りです。今回の勇者殿の急な出立も貴族が強引に決めたこと。異世界からこちらの都合で強引に召喚した勇者殿に更にこちらの都合を押し付けてしまった」

「元々は魔王の圧倒的な戦力を前に滅びに瀕したマケドニアが異世界に助けを求めたのが始まり。当時は貴族も非常に協力的だったと聞いております。それが何時から困ったときには勇者を呼べ。勇者は魔王を倒して当たり前、といった風潮が根付いてしまったのか」

「全ては教会の不手際のせいでございます」

「いえ、教会ばかりのせいではありますまい。人は一度便利な生活を手に入れればもう元には戻れないのです。そして、一度受けた厚意は何度でも受けられて当然と思い込む。二度目三度目を断れば今度は逆恨み。とことん人は愚かな生き物ですな」

「ジークフリート様……」

「その名は捨てました。私の今の名はセバスチャンです」

「はい……」

「神官長殿。そう落ち込む事もありますまい。貴方は良くやっている」

「しかし、かつて世界を救った貴方様に私どもは…」

「世界を救ったのは私ではありません。先代勇者です。私を含めたパーティーメンバーは偶々一緒にいただけ。魔王討伐時に異能を発動した私達パーティーメンバーを巡って内紛が起こってしまった。メンバーは散り散りとなり、私はクライトン家に拾われた。今はしがない執事です。今はお嬢さまのお役に立てればそれで満足なのです」

「はい……」

「ですが、出来ることなら勇者殿をこれ以上、政治や商売の道具にはしたくないですな。今回の戦闘糧食の事にしても勇者殿には内密に進めております。人間の汚い面を見せるには、勇者殿は若すぎる。流石にマケドニアを見捨てはしないでしょうが、絶対に良い方向には進みません」

「勇者殿の耳に入る前に決着を付けたいものですね」

「頼みましたよ、神官長殿」

「お任せ下さい。セバスチャン殿」

私はそうして教会を後にしました。帰り道、私は勇者殿から頂いた73式小型トラック(新)で移動しております。それにしても、このエアコンというのは快適ですね。余り多用すると身体に悪いそうなので走行中は窓を開けるに留めますが。

『セバスチャン、セバスチャン。前ニ人、沢山居ル。武器ヲ持ッテ隠レテル』

ほう。ボンクラな貴族にしては中々ですね。私が色々と嗅ぎ回っていることに気付きましたか。

『魔法準備シテイル。撃ッテ来ル。撃ッテ来ル』

「構いません。応戦します。MINIMIの餌食にしてくれましょう」

魔法の発動にはそこそこ時間が掛かります。引金を引けば直に弾が出る鉄砲とは違うのです。

タタタタタタタタタ

「ぎゃわ!?」「ぐお!?」「前口上も聞かずに攻撃するとは卑怯なり!」

「盗賊相手に前口上を聞く必要はありません。このセバスチャンの前に出てきたことを不幸と思うが良い」

タタタタタタタ

「くっ!? これが先代勇者の右腕、『呪われし聖剣』の実力なのか!?」

「いえ、ただ引金を引いているだけです。全ては今代勇者の実力ですよ」

「オノレ! こんな事をしてただで済むと思っているのか!? 我らはウッゼ~貴族様の…」

「私が死ねばただの盗賊になるのでしょう? ならば何の問題もありません。撃って良いのは、撃たれる覚悟のある者だけです。死に晒せーー!」

タタタタタ……カチカチカチ

「はーっははは! 弾が尽きれば鉄砲などただの鉄の棒。者共、掛かれーー!」

「ふんっ。このセバスチャン、舐められたものだ」

そういって一振りの短剣を取り出すセバスチャン。

「馬鹿め! たった一本の短剣で何が出来る!」

「覚えておきなさい。武器の差が戦力の決定的な差で無い事を」

そうしてセバスチャンは一陣の風となった。一瞬にして賊の間を駆け抜ける。

「また、つまらぬものを斬ってしまった」

そう言うと、賊が血飛沫を上げて次々と倒れる。マケドニア有数の剣士にして先代勇者パーティーの一員。二つ名は『呪われた聖剣』。それがセバスチャンの正体である。

さて、賊の始末は駆けつけてきた国防軍に任せ、さっさと屋敷に帰還しましょう。

既に表舞台からは消え去った老骨。日の当たる場所に私の出番はのうございます。

勇者殿には日の当たる道を歩いていただきたい。いえ、寧ろ勇者殿が日の当たる道だけを進めば良いようにするのが、この老いぼれの仕事でございましょう。

屋敷に帰るとエイミーとソフィーが木から蓑虫にされて吊るされており、額には『餌をやらないで下さい』と書かれた紙が貼られております。

「あ、セバスチャンさま。お帰りなさ~い」

「…お帰りなさい」

「はい。只今、帰りました」

しかし、普通に挨拶して来る辺り、二人とも慣れたものです。

木から吊るされるのに飽きれば勝手に抜け出して仕事に復帰しているでしょう。この二人にとってこの程度の縄など、簡単に抜けられるのですから。

それでも大人しくしている辺り、反省はしているようです。反省しているならやらなければ良いものを。しかし、二人に言わせれば『反省しても後悔していませんから』との事ですが。

お嬢さま。今日もクライトン家はいつも通りの一日でございました。

余談ですが、勇者殿の言うところのウッゼ~貴族達はお家断絶こそ免れたものの、直轄地の殆どを失い、教会に取り上げられたとの事です。良い気味でございます。

オール・ハイル・マケドニ~ア。



[18458] 第6話 難攻不落の要塞を造ろう
Name: タンクさん◆74790b16 ID:addd9404
Date: 2010/05/22 09:03
さて、皆さんこんにちは。勇者(仮)の北条透です。

あれだけ盛大に見送りをしてもらいましたが、魔王討伐はゆっくりやろうというのが我が軍の基本戦略です。

要塞予定地への到着は出立から二週間を予定。

俺は一足先に土木作業をする予定の土系統魔法使いと水系統魔法使い、それと護衛の騎士と共にMH-53Eで拠点予定地の湖に来ています。うむ、良い景色です。

「では、この設計図通りに要塞建設を行う。最上流の湖全周には空堀を造り、その内側には壁を造る。その内側は湖畔まで約500mあれば良い。滑走路は1kmクラスが一本。滑走路脇にはアーチ型のハンガーを造る。土魔法でアーチ型に成型し、セメントで固めろ。湖との間には小さくて良いので堤防を設けること。作業は精霊と共同で行え。水の魔法使いはこれから俺が大型艦を召喚するからその津波が岸に到達させないように押さえてくれ。では作業開始!」

自衛隊年鑑を開いて次々と施設科車両を召喚する。

施設作業車、グレーダ、掩体掘削機、バケットローダ、特大型ダンプを次々と召喚。

『オシゴト、オシゴト』『働クヨ、働クヨ』

魔法に負けない速度で作業を、寧ろ土砂の移動なんかでは魔法使いを上回る速度を見せる。

それを尻目に湖の中心へと向かう俺。MH-53Eでホバリング。水系統の魔法使いはここを中心として円状に展開し、水面に立っている。

「召喚! カール・ヴィンソン!」

排水量10万トンを超える質量が突然現れた事により、水が押し退けられて津波が発生する。

しかし、それを周囲に展開した魔法使いが押さえ込み、何とか空母召喚は無事に終わった。

「召喚! ミズーリ!」

次いで、カール・ヴィンソンの艦尾方向に戦艦ミズーリを召喚します。満載排水量5万3千トン。50口径40.6cm砲を3連装9門搭載する戦艦です。他にもハープーンやトマホークを搭載しています。

『ユウシャ、ユウシャ。艦体(カラダ)ガ大キ過ギル。動ケナイ』

「うん。色々と済まない。出来れば我慢して欲しいんだが?」

『面白イ装備、タクサン有ルカラ我慢スル』

「サンキュ」

これで航空戦力が艦載機限定で使用可能になりました。

ジャスティンによれば、これからは魔王軍の幹部クラスが出てきてもおかしくないとの事。戦力は多いに越したことはありません。

それに、艦内に五千人以上を収容可能な大型艦です。これからの拠点になってくれそうです。

地上部の方も次々と作業が進みます。

いや~、作業が速いですね。旧帝国軍はこれを人力でやってたって言うんですから感心します。本隊到着までには陣地の構築は終了するでしょう。

では、俺は周囲の森にセンサーを仕掛けに行きます。

対人センサーと指向性散弾を設置します。これは遠隔コントロールで起爆します。

国際条約で無差別に爆発する地雷は所有が禁止されたんですよね~。

設置を自国内に限れば許可しても良さような物を。つーか、これでMLRSまで禁止されたら数で劣る日本の防衛、大打撃です。

指向性散弾。元は対車両用の地雷です。

流石に装甲車両への効果は未知数ですが、非装甲車両はスクラップにできます。

当然、元が対車両用なので米軍の対人地雷、M18クレイモアより破壊力は上です。当然サイズも大きいですが。

ただ、森林部だと本体の隠蔽には有利なんですが、破壊力が削られるんですよね。

陣地予定地に戻ってきました。

湖は基本的に湧水なので、流入河川は小さいので問題ないのですが、下流の湖に流れている川にだけは橋を架けなくちゃなりません。

これは91式戦車橋を架けておきました。尤も、要塞内の大部分で、この川、地下に埋めます。

でも、気付かすに大重量で踏んでしまうと、空気の混ざらない管路で流れている川、破裂するんですよね。

都市部で不用意に戦車を動かすと水道管が破損するのと同じです。結果、戦車はこの部分、橋を通ってもらいます。

で、呼び出す車両ですが、例によって90式戦車と89式戦闘装甲車、82式指揮通信車。

新参が99式155mm自走榴弾砲、87式自走高射機関砲、MLRS。

後は、水際ということで海兵隊の水陸両用装備から幾つか引っ張ってきましょう。

LAV-25、八輪の装輪装甲車で25mm機関砲を搭載。最大速度は陸上で100km/h。水上で12km/h。

AAV-7、主に上陸戦を想定した装軌装甲車で兵員25名を搭載可能。40mm自動擲弾銃とM2重機関銃を装備。最大速度は陸上で72km/h。水上で13km/h。

日本には水陸両用車が無いので助かります。流石は世界中に展開する合衆国海兵隊です。

次に、回転翼部隊としてAH-64DとOH-1。UH-60JとCH-47Jを召喚。

部隊を分けて、陸上に駐機する組と空母に駐機する組に分けます。

定期的に上空から偵察をしてもらいましょう。30mmチェーンガンなら多少の木々は吹き飛ばして敵軍に損害を与えます。

今までみたいに魔物の確実な殲滅が目的ではないので大火力の面制圧が可能です。

よし。戦車橋とヘリポートもありますし、これで運用態勢は整いました。

土の魔法使いに格納庫(と言ってもアーチ型の屋根があって、開口部が防水シートで覆えるだけ。一応周囲より少し高くなっている)も造ってもらいましたし、これで滑走路が出来れば難攻不落の要塞の完成です。

それにしても、土の魔法とセメントの組み合わせは便利です。中に鉄骨と鉄筋を入れればそれだけで高強度の鉄筋コンクリートモドキの壁が出来ちゃいます。

監視塔も一瞬で完成しました。尤も、セメントが固まるまで土の魔法使いには代わる代わる魔法をかけ続けてもらわなくちゃいけませんけど。

二週間後、魔王討伐軍本隊が到着しました。

すると、何と言うことでしょう!森を抜けるとそこは要塞でした。

10m近く掘られた空堀、底には先端を尖らせた丸太が落ちて来る者を待ち構えます。

その上に高さ10mの壁が湖を囲むように造られています。

空堀の底から登ろうとすれば合計20mもの高さを登らなくてはなりません。

入り口は要塞側に上がっている巨大な板を下ろすことで架けられます。普段は内側に跳ね上げられるので、城門に匹敵する部分は無いんです。

周囲は完全に空堀と壁に囲まれます。空堀と城壁の間は三車線分ほど空間が有り、そこに車両を展開させることも可能です。

そして、城壁の一番下には指向性散弾がセットされています。必死に登ってきた魔物さんをお出迎えです。

中に入ると50m間隔で造られた監視塔が目を引きます。

城壁から少し内側に5m程高く建てられ、12.7mmM2重機関銃と7.62mmを使用するM134ガトリングガンとFN-MAG(M240)軽機関銃がそれぞれの死角をカバーするように設置されています。

これは対空射撃も可能となっていて、少数ですが、空を飛べる魔物を迎え討ちます。城壁の上にもFN-MAGが設置できる銃座が有ります。元々、地面に置いて伏せた状態での射撃を前提としているFN-MAGはちと重いので、これが有ると便利です。

唯一、堀の無い川の部分ですが、川底には機雷が仕掛けられており、銃座が沢山設置されているので、攻略の難易度は大して変わらないでしょう。

川も要塞内に入ったら100m以上を水道みたいに完全に空気を混ぜずに、専門用語で言うところの管路状態で流れており、その管路を流れに逆らって通れたとしても、一定以上の大きさの物体は動体センサーに引っかかるので進入は容易ではありません。

そして、一番目立つのが遠くからでもその大きさが判る航空母艦です。

その艦体サイズたるやマケドニア王宮にも匹敵します。

正規の運用には五千人以上を必要とする巨大艦。討伐軍を全て収容してもお釣りが来ます。

そして、火力支援を担当するアイオワ級3番艦ミズーリ。その16インチ砲は戦術兵器としては最強クラスの攻撃力を有します。

「呆れた。たった二週間でこれだけの要塞を造っちゃうなんて」

「魔法と施設科車両のお陰だな。それにしても魔法便利だな。目的の形に成型してもらって、鉄筋仕込んで、セメントと水を混ぜれば即席のコンクリートになったし。流石に強度の出る細骨材、粗骨材の混合比なんて知らないが、石を積み上げるよりはよほど強度が出てる」

「セメント?」

「水を混ぜれば固まる粘土の親玉だよ」

「へぇ~。滑走路も出来てるんじゃない。でも、壁なんかとは色が違うんだ?」

「壁はセメント、滑走路はアスファルト。材質が違うからな。尤も、ハリアーの発着スペースだけはセメントだけど」

それぞれの問題は、セメントだと施工に時間が掛かる。濡れると滑る。補修が大変。

アスファルトは高熱に弱い。絶対強度が低い。といったところか。

まぁ、現代日本でも建築資材を二分している材料だし、それぞれの利点を活かして行きましょう。

「へぇ~。もう戦闘機、呼び出したんだ~」

「ああ。空母の方もだが、即応戦力は用意している。流石に常時エンジンを掛けているなんて事は出来ないが、俺が居なくて召喚できませんでした、なんて言ったら折角造った滑走路が泣く」

「結構大きいんだね?」

「いや、コイツは最小の部類に入るぞ?この滑走路は平均の半分しかないからな。JAS-39グリペン。航続距離と攻撃力は物足りないが、それは空母搭載の大型機で補えば良い。何より整備性が他の機体より高いらしい。毎回飛行後に機体を召喚しなおすのは大変だし、数回は整備無しで戦ってもらわないと」

「あっちの飛行機は大きいね?」

「あれはC-130っていう輸送機だからな。首都滑走路との間で補給路の確保に役立ってもらう。まあ、20tの物資を運べるからな。そんなに運ぶ必要無いだろうが」

「20t!?」

「まぁ、この滑走路じゃ運用出来んが、122tを積める機体だって居るし」

「122t!? 私の常識が崩れていく。馬車で必死に補給路の確保をしてきた私達は何なの?」

「この滑走路でも77tを空輸可能な輸送機を運用できるけど、明らかに性能過多だから使わない。それに余り重量級の機体を運用すると滑走路の劣化が早まるし。まぁ、最悪、滑走路は戦闘機専門にして、その辺の地質がしっかりした所をローラーで均して1km確保すれば使えるんだけどね」

「…もう良いわ。現代兵器の非常識さは充分理解したから。これ一機あれば、補給部隊を十分の一に出来るわよ」

「何時でも何処でも迅速に、が勇者軍のキャッチフレーズだからな。今度、兵隊に空挺訓練受けさせようかな。今までも迅速だったけど、今度は規模が違うぞ。千キロ先にでも数時間で展開できる。風の魔法使いが居れば降下速度も落とせるし、ある程度コントロールも利く。そんなに難易度高くならないだろうからな」

「…こんな要塞を二週間で造ることと言い、兵隊をそんな遠くまで運ぶことと言い、末恐ろしいわね、ホント。そんな展開されたら世界中の戦術家が泣くわよ?」

「攻撃力の面で、歴代勇者に勝てないからな。便利面で勝たないと」

「ネギ○」なんかじゃ、魔法使い単体で戦車とかイージス艦上回るとかどんだけだよ。しかも主人公の父親、地形変えるとか完全に戦略級ですよね。

湖にはカール・ヴィンソンとミズーリの二隻が浮いているが、拠点にするのはカール・ヴィンソンの方。

馬は要塞内で適当に馬舎を作って繋いでおく。定期的に草むらに行かせて運動させますけど。

カール・ヴィンソンまでは軽徒橋が架けられています。これは浮力を利用した浮橋でオートバイまでなら走行できる構造です。

で、最初はうきうきしていた討伐隊面々もカール・ヴィンソンに近付くにつれて段々、口数が少なくなっていきます。

だって、近付けば嫌でも大きさが判りますからね。

東京駅が海に浮いていると想像してください。東京タワーが横になっているでも良いです。

艦測面まで行くと飛行甲板までタラップが降りています。これ登るの地味に大変なんですよね。でも、一気に飛行甲板まで行かないと絶対に迷うので仕方ないですけど。で、登りきると全員を一度整列させます。

「傾聴! この船が今後、我等の拠点となる。艦内はどこもかしこも似たような構造で、迷えば比喩ではなく遭難する。先遣隊では実際に遭難者が出ている。艦内にはいたる所に飛行甲板への道案内が貼ってある。迷った場合はそれに従って一度、艦外に出ること。これより艦内簡易地図を配布する。自身の所属部隊ごとに区画が決まっているので、基本的には、そこと食堂以外へは行かないように。迷うぞ。では、第一小隊から移動開始」

既に艦内にある程度馴染んだ者が案内を開始します。にしても、この艦内、本気で迷いやすいんですよね。下手したら遭難した後に死者が出ます。先遣隊では実際に遭難者が出て、精霊に誘導してもらってようやく見つけました。

さて、ツッコミ役のジャスティンも来た事だし、ここらで少しネタに走っておきますか。

「は~ははは! この艦は俺の城だ~! 俺はこの地に自分の王国を作る! 魔王城へGO!」

『ユウシャ、ユウシャ。コノ船、動ケナイヨ?』

「精霊様、気にしないで下さい。偶にトオルはこうして発作を起こすんです」

『ワカッタ、気ニシナイ』

…ツッコミが入りませんでした。折角、続な感じの戦国な自衛隊の海兵隊大尉を真似たのに…。

「マイナー過ぎて解る人、居ないのでは?」

「でも、面白かったんだよ。続な感じの戦国な自衛隊。小説で続編も出てたけど、現代に初代の伊庭三尉の娘が居ましたとか、やっちゃ駄目だろ。あの人、戦国時代で浮気っぽいことしてたぞ」

「よく解りませんが、全員収容完了しました」

「うん。今回は完全に外したね。警戒は先遣隊から人員を選出してやっておくから、休んで良いよ?」

「ええ。屋根の下で休めるのは久しぶりです。それにしても、狭さに我慢すれば首都より快適な生活が送れそうですね」

こうして、魔王討伐軍は本隊を加えて、要塞の本格稼働に入りました。しかし、これからは魔王軍の戦力も次々と強化されてくるらしいです。早く魔王城の所在を突き止めないと。



[18458] 閑話2 とある要塞の日常
Name: タンクさん◆74790b16 ID:addd9404
Date: 2010/06/03 15:07
さて、皆さんこんにちは。遂に要塞建設を行った北条透です。

今、首都に向かってC-130が飛び立って行きます。首都に残した家族と文通が出来ると知って手紙の量がえらいことになってます。

まぁ、流石に何年もここに篭る心算はありませんが、魔王城が見つからないうちは動くに動けません。

で、滑走開始。魔王討伐軍の面々、ガン見です。そう言えば、貴方達、固定翼機が飛ぶところ見るの初めてでしたね。

積んでいるのが手紙だけで軽量のC-130は滑走路を使い切ることも無くふわっと浮き上がります。

オオオォォォーーーー!!

歓声も上がります。そして、首都の方向に飛び去る輸送機が見えなくなるまで手を振っていました。

あちらから輸送機が帰ってくるのは、手紙が家族に渡り、返答を待ってからですから、数日は掛かりますかね。

「それにしても凄いよね。こんなに首都と離れているのに手紙のやりとりが出来るなんて」

「設備があれば数分で送れるんだがな」

「またまたご冗談を」

いえ、本当ですよ?ただ、送れるのは紙に書かれた文字などであって、紙自体じゃ無いですけどね。人、これをFAXと呼ぶ。

今現在、要塞内では二交代制に分けて生活しています。

二日に一回は空母に。もう一日は地上に建てられたプレハブ小屋に。

いくら軽徒橋があるとは言え、空母から直にこっちに来て戦闘配置に着くのは容易ではないんです。

そこで二交代制でプレハブに泊まってもらうんですが、これが暑い。野宿の方がマシと野営みたいに寝る者もいる始末です。

余りに不評だったんで、土の魔法使いに頑張ってもらって、コンクリモドキの宿舎を建てました。快適性は……まぁ、そこそこです。

で、今日はカール・ヴィンソンからの初発艦の日です。F/A-18Eにちょっくら荒野を越えて魔王の谷まで行って来てもらいます。

『ジャ、ユウシャ。行ッテクル、行ッテクル』

「おう、頼んだぞ」

手を振って機体から離れる。…真横に居れば影響ないよね?

カール・ヴィンソンからF/A-18Eが飛び立ちます。汎用性の高いマルチロール機は使い勝手が良いですね。

今まではヘリで偵察してたんで航続距離の問題上、魔王の谷まで行けなかったんですよね。

シュワァァーーーン!!!

う、五月蠅い。流石は騒音で訴訟にまで至ったホーネット。つうか、この距離でジェットエンジンに近づいたの初めてだし。

キィィィーーーン。

…あ、耳がいかれた。流石はパチンコ屋の騒音にも耐えられない俺の耳。

って、危ない! 飛び出したF/A-18Eは失速しかけ、水面すれすれで翼が揚力を得て、飛び上がりました。

あ~、ビックリした。…それにしても、何で全備重量に届いていないF/A-18Eがあんなにギリギリの発艦したんだ?

Q.飛行機が飛ぶために必要なもの
A.揚力

Q.揚力を得るために必要なもの
A.対気速度

ポクポクポク、チーン!

あ、そうか。空母が完全に停止しているからか。カタパルトだけじゃ速度不足なのかな?

仕方ない。次から風の魔法使い呼んで発艦の時に風を吹かせてもらおう。一度高度を取れさえすればその後はどうにでもなるべ。

トントン。ジャスティンに肩を叩かれました。

パクパクパクパクパク。…え、何? ご免。ジャスティン、何を言ってるのか、分かんない。読唇術なんて会得していません。

パクパクパクパク…「トオル、大丈夫?」

あ、ようやく耳が回復しました。いやー、調子に乗って、映画みたいに中腰で指差してGO! とかやるからですね。今度からしっかり耳を塞ぎましょう。

「随分とギリギリな発進だったけど、あれで大丈夫なの?あと、どの位で帰ってくるの?」

「どうやらカタパルトだけじゃ速度不足らしい。あと、帰ってくるのは、凡そ2~3時間ってとこじゃないかな。魔王の谷、どうなってるかよく分からんし」

そう言いながらタラップを降りて、軽徒橋を渡る。

要塞内は結構活気に満ちています。

何せ、今まで見たことが無いような構造ですから。皆興味津々です。

俺はと言うと、滑走路近くの地下壕に造った兵器庫のチェックをします。

召喚を前提にしているからそんなに貯蔵量は必要ないけど、やっぱりある程度は入れておかないと。

火気厳禁、立ち入り禁止。誘爆すれば基地の半分は吹き飛びます。

入り口が重いので開けるには車両に手伝ってもらわないといけません。

兵器庫はコンクリートで造られ、地下三メートル位に設置してあります。

搬出は高機動車あたりに繋いで牽引です。

次に武器庫のチェックを行います。

こっちは個人携帯の武器が収容されています。

AK-47やMINIMI、FN-MAG、M2なんかですね。

監視塔の中にスペースを設けてある程度入れてあるんですが、量的に少し不安です。

全部口径が違うのでやり辛くはありますが、野戦でもないですし、弾丸を大量に配布するので問題はないでしょう。

AK-47は要塞内に居るときは75連ドラムマガジンを使ってもらいます。少し重くなりますが、特に問題は無いでしょう。

MINIMIとMAGはベルトリンク。予備銃身も用意しないといけません。

他にガトリングガン専用のマガジンやバッテリー、M2用のベルトリンクもです。

全部、油紙に包んで箱に詰めます。この箱、結構重くなってしまったので、これもリアカーに乗っけて車両で牽引してもらいます。

城壁の上まで上げるのは人力ですけど。この武器庫、要塞内に六箇所あります。

全部を回りますが、移動は徒歩じゃ大変なんで高機動車です。

ここは各小隊長以上なら開ける権限を持っています。一番気を付けるのは湿度ですね。

一度開けて閉める場合は風と水の魔法使いに湿度を下げてもらいます。

今日もその辺にいた魔法使いを捕まえて同行させています。

「勇者殿、発電機の調子が良くないのですが」

「勇者殿、この重機関銃は何処に据え付けるのですか?」

「勇者殿、車両隊の待機場所は…」

「勇者殿、馬が暴れて仕方ないので一旦綱を解いて、草むらに放してもよろしいですか?」

「勇者殿、居住性確保の為にエアコンを宿舎に導入しませんか?」

稼動したての要塞には不都合が付き物です。

中の人間も慣れていないですし、何より構造的な欠陥が見つかる場合もあります。

実際に運用してみないと分からないことって結構あるんですよね。

あと、最後の奴。簡単に言うけど、エアコン据え付けたり、電源確保するの誰だと思ってるんだ。そもそも、宿舎は仮眠施設なんだから我慢なさい。プレハブや天幕に比べればマシでしょうが。

ゴオオォォォーーー

あ、どうやら偵察に出ていたF/A-18Eが帰ってきたみたいです。急いで空母に戻りましょう。高機動車――!!

『呼ンダ? 呼ンダ?』

「軽徒橋まで送って」

『ワカッタ。乗ッテ、乗ッテ』

さて、撮影された偵察写真を確認している俺ですが、久しぶりにorzな気分です。

「これは……凄い数ね」

そうなんです。魔王の谷の最深部に魔王城ありました。……沢山。

「何なの、この数!? 和式洋式中華にアラビアっぽい奴まであるよ!? あれか、これは歴代魔王の数だけ魔王城がありますよって事なんか!?」

「勇者によって魔王城の形の証言が異なると思っていたら、こうゆう事だったのね。で、どうするの?」

「これは、流石に全部破壊するのは容易じゃないべ。どうしよう。広域爆発系は建物内に与える損害が小さすぎるし、徹甲爆弾は効率悪すぎるし。そもそも魔王をそれで仕留められるって保障が無いし」

「でも、無限に呼び出せるんだし、問題無いんじゃない?」

「十、二十ならまだしも、この数じゃ俺の気が萎える。ひ弱な現代人、舐めるなってんだ」

本気でどうしましょう。

これ、地道に一個ずつ壊して行くしか無いんですかね。

アウトレンジは現代兵器の基本です。これが失われると現代兵器のウマミ半減です。

でも、今回の偵察で魔王の谷までの詳しい道のりと、谷内部の地形が把握できました。

谷とは言っても、絶壁に挟まれているだけで、内部は森になっています。

しかも、中は結構広い。山手線の内側と同じ位でしょうか。

しかも、結構密度濃いです。ここまで見事な森だと、谷と湖の間の荒野ってどうやって出来たのか非常に気になります。

「でも、ここまで見事な森だと車両での移動はかなり制限されるわね」

「はぁ、欝だ。世界はそこまで魔法を贔屓にしたいか。現代兵器を操る俺が嫌いか。もう、いっそ、カール・ヴィンソンに積んであった核を使って全部吹き飛ばせば戦争なんて終るのにな」

「核って何?」

「国境という線を消し去ってくれる消しゴムさ。ただ、放射能っていう目に見えない有毒物質を撒き散らしてくれるがな。要塞染みた城には効果が薄いが何十発も打ち込めば確実に蒸発するだろうし」

「放射能って?」

「俺の世界じゃ健康に害の無いレベルでもアレルギー反応が出る物質だ。いつの間にかハゲになったり、白血球が無くなって病気が治らなくなったり、ゴ○ラみたいな放射熱線撒き散らす巨大生物が生まれたり、言い出せばキリが無いな。水脈と気流を調査しないとマケドニアに到達するか、しないかも判らないけど、調査の方法が感想板と設定に載せた方法だからやりようが無いんだよな~」

「要するに、放射能の行く先が特定出来ないのね。うん、判った。絶対使うな」

気分は円卓の鬼神の相棒、片羽の妖精です。いっそ、観賞用にF-15C一機呼んで片羽赤く塗ろうかな。

ユウシャはウツになっている。

「え~と、右斜め45°から、えい!」

ガツン!

「あぐぅ!?」

キシからツッコミがはいった。ユウシャはモンゼツした。

「うおぉい、ジャスティン! 俺の頭は昭和のテレビか!?」

「え? 壊れたモノを直すにはこれが一番じゃないの? メイド・イン・タイワンは叩けば直るんでしょ?」

「そのモノって物だよね!? 俺は者だから! それに、俺はメイド・イン・ジャパンだよ! そもそもそれ、十年以上前の話だよ! お前は何処のロシア人宇宙飛行士じゃ!?」

「ジャパンって何?」

「タイワン解って、ジャパン解らないんかい!? 日本だよ、黄金の国だよ、神の国だよ!」

「トオル、貴方は少し、考え方が古いようね」

「じゃあ、日本だよ、オタクの国だよ、平和の国だよ! って言うか、絶対に知ってるだろ!?」

「ワッタシ~、ニホンゴ、ワッカリマセ~ン」

「こ、コイツ……!」

結局、ジャスティンは本当に知りませんでした。ギャグパートって怖いな、オイ。

で、後日、本当にF-15Cを呼び出して右翼を赤く塗って片羽の妖精仕様なんて喜んでいたのは内緒です。

今度はF-14Aを呼び出して北の海から来る悪魔兼英雄仕様とかやってみようかな。

いや、そう言えばコイツは艦載機だから普通に使えるんだった。

今度、使おうかな?でも、妖精と違って、悪魔兼英雄はほぼ、全体を塗り直さなくちゃいけないので大変です。

しかも、整備に手間隙かかる機体なので、一~二回使ったら新しいのと変えなくちゃいけません。…やっぱり観賞用にしときましょう。

で、忘れた頃にC-130が帰ってきました。しかも、結構な補給物資を積んで。

何でも、あのウッゼ~貴族どもが公的資金の私的流用で捕まったそうです。ざまぁ見ろ。

で、教会は王様を説得。討伐軍にそこそこの予算が与えられました。

つーか、俺は会ったこと無いんで知りませんでしたが、王様まだ十二歳だそうです。それじゃ、周囲に流されても仕方ないか。



[18458] 第7話 幹部クラス襲来
Name: タンクさん◆74790b16 ID:addd9404
Date: 2010/05/22 09:13
皆さん、こんにちは。今日はローテーションで地上の宿舎で書類仕事をしている北条透です。

マケドニアから補給物資が送られてくるようになりました。

お陰で食事のレパートリーも増えて隊員の士気も上がったようです。それは結構ですが、同時に俺の書類仕事も増えました。

ようやく、スタンドアロンに行動し始めて書類仕事から開放されたと思ってたのに。orz

で、書類仕事をしています。真昼間から屋内に篭る俺、大変健康によろしくありません。

ピピピピピピ!!

おや?緊急連絡ですね。

『こちら航空指揮所! 本部、応答願います! 送れ!』

航空指揮所とは定期的に哨戒飛行をする航空隊からの情報を捌くところです。

航空指揮はしてません。だって、精霊たち、優秀なんで必要ないんです。

「はい、こちら本部。どうしました? 送れ」

『哨戒飛行中のJAS-39より入電。魔王の谷と砦中間部の荒野にゴーレム出現との一報です! その数、大型1、中型50、小型400以上! 現在の速度だと第一次防衛線の森林部まで六時間! 送れ!』

「ご苦労。JAS-39は即時帰還。写真撮影を忘れるな。代わりにOH-1とUH-60を向かわせろ。通信終了」

我が軍の防衛線は全部で三本あります。一本目は荒野から森林への境界線。二本目は森林からこちらで伐採した空地への境界線。三本目が空堀と城壁です。

「総員第一種戦闘配置発令! 中隊長以上の指揮官は司令部に集合せよ。全航空部隊及び機甲戦力は対地対戦車装備で即時出動態勢!」

さて、今回はシリアスパートですかね。

十五分後、全指揮官が集りました。

やっぱり空母で休息中の隊員は来るのに時間が掛かります。

緊急時は当直の部隊だけで活動を始めるんですが、今回は猶予があったので、全中隊長に集ってもらいました。

「先ほど、JAS-39が帰還した。で、これが今回の敵だ」

そう言って大量にプリントアウトした写真を幹部に回す。

俺はと言うとモンスター図鑑という、歴代の勇者が接触した魔物の情報を集めた図鑑を開いている。

「大型ゴーレム。通称ガ○ダム。全長18m。武装は実体剣のみ。しかし、その質量が既に武器。コアは腹部のコックピットに位置する場所にあり、それを破壊しないと無限に再生する。
中型ゴーレム。通称アーム・スレイ○。全長9m。武装はナイフのみだが、投擲してくるので注意が必要。動きは速く、100km/hで動くなんて報告もある。これもコアを破壊しないと無限に再生する。しかし、再生速度はガ○ダムに比べれば遅く、一度損傷を与えれば一時間は動けない。
小型ゴーレム。通称パワード・スーツ。全長3m。武装は実に多種多様。再生速度は遅く、一度損害を与えれば半日は動けない。…以上で間違いは無いな?」

ジャスティンが無言で頷く。

「では、この情報を元に作戦を決める。現在輸送機のC-130と戦闘機のJAS-39、F/A-18Eが対地爆撃装備で出動態勢を始めている。まず、作戦の第一段階としてJAS-39とF/A-18Eがクラスター(親子)爆弾を大量に投下する。次いで、C-130がデイジーカッターという大型爆弾を投下。周囲一帯を吹き飛ばす。これで、敵小型ゴーレムは殆ど無力化されているはずだ。
第二段階は作戦域にSH-60とUH-60を飛ばしてまだ無力化されていない個体にレーダーとレーザー照射を行う。それを目掛けてミズーリ搭載の巡航ミサイルと艦対艦ミサイルと大量に召喚している地対艦ミサイルの一斉射を行う。これで中型ゴーレムは大部分が撃破されているはずだ。
第三段階として、コブラAH-1とアパッチAH-64Dが対戦車有線誘導弾(TOW)と20mmガトリングガン、対戦車自律誘導弾(ヘルファイア)と30mmチェーンガンで一斉攻撃。同時に森林手前に敷設してあるトラップを発動して地雷を一斉起爆。出来ればここで大型ゴーレムに戦闘不能になってもらいたいが、最悪の事態を想定する。城壁外周に90式戦車を展開。ミズーリと99式自走砲の支援射撃の元、要塞の持ち得る火器を総動員して迎撃に当たる。全部隊員に110mm対戦車ロケットを携帯させろ。軽機関銃以下の火器は恐らく役に立たない」

対戦車火器というのは一般の想像と違って加害半径が小さい。

戦車の装甲を貫くために可能な限り攻撃を凝縮しているのだ。

故に、そこから発射されるメタルジェットが正確にコアを直撃しないと成果は出ない。

爆撃や砲撃で破壊されてくれよ。

「フェイズ・1を開始する。航空機部隊発進開始!」

デイジーカッターを搭載したC-130と搭載量限界までクラスター爆弾を搭載したJAS-39とF/A-18Eが次々と発進する。

ゴーレムは既に第一次防衛線から20kmまで接近している。

まずは、JAS-39とF/A-18Eがクラスター爆弾を次々と投下する。

対人兵器としてはデイジーカッターよりも威力があるとか。

投下された爆弾は途中で202発の小型爆弾に分離し、次々とゴーレムの周囲で爆破する。

表面が無駄に厚い中型以上には余り利いていないが、小型ゴーレムは次々と投下される小型爆弾に損傷を負っていく。

小型爆弾とは言え、一応装甲車両にも有効であるのだ。

次いで、C-130がパラシュート付のデイジーカッターを投下する。

ふわふわと風に揺られながら、大型ゴーレムの近くで起爆した。

元々は密林を切り開いて即席のヘリポートを作るために使用される伐採用。

核と見間違えられる爆発力は一瞬で小型ゴーレムを四方に吹き飛ばした。

爆発の影響が収まってから、OH-1から送られてくる映像を見ながら俺達は苦虫を潰したような顔になる。

小型ゴーレムの大部分を無力化できたのは良いが、中型と大型に損傷が殆ど無い。

所詮は広域殲滅用の爆弾。重装甲の相手には効果が薄い。

「フェイズ・2に移行する。航空機部隊は即時帰還。対艦ミサイルと徹甲爆弾に換装し、発進準備を整えろ。SH-60、UH-60はレーダー及びレーザー照射を開始しろ。ミズーリ、誘導弾発射準備。レーザー誘導のトマホークから発射開始」

湖のミズーリから轟音が上がり、トマホークが発射される。

今回、レーザー誘導にセットしてあるトマホークは粉塵などでレーザーが届かないと誘導が出来ないという欠点を持つ。

先のデイジーカッターのように粉塵が収まるのを待ってはいられない以上、殆ど同時に着弾させなくてはならない。

32発のトマホークが1体の大型ゴーレムと31体の中型ゴーレムに突き進む。

750km/hと、ミサイルとしては低速だが、それでも充分な速度を持つトマホークはあっと言う間に目標に着弾する。

当然、周囲には爆発の影響で粉塵が舞い上がる。

しかし、今回は粉塵が収まるを待たない。

次々とレーダー誘導のハープーンと地対艦ミサイルが発射される。

発射台に限りのあるトマホーク巡航ミサイルと違って、かなりの数を召喚していた対艦ミサイルは百発単位で、粉塵の中のレーダー反応へと突き進む。

これで、決着が着いてくれよという俺達の願いも虚しく、粉塵の中から現れる大型ゴーレムと中型ゴーレム。

しかし、数は減り、残った個体も四肢が欠けていたりと、多少は損害を被っているようだ。

特にミズーリから放たれたトマホークはレーザー誘導だけあって正確にコアに直撃したようだ。

しかし、全部が直撃したわけでは無さそうだ。直前で腕を盾にした奴も結構居る。

その後の対艦ミサイルも何だか損害の与え方がおかしい。

木っ端微塵になった奴と、損害を殆ど被っていない奴に分けることが出来る。

…奴ら、密集して外側の個体を盾にして中央部を護りやがったな。

ハープーンにしてもトマホークにしても、爆発力重視で貫通力はさほどでもない。

密集されれば外側の個体を無力化しただけで終ってしまう。それにしても、

「おい、大型ゴーレムは再生早すぎだろ…」

右腕は完全に吹き飛んだ以外は、所々が欠けているだけの大型ゴーレムだったが、そこが目に見えて回復し始めた。

二つの目に、V字アンテナは伊達ではないということか。

それにしてもゴ○ラに挑む自衛隊の心境っていうのはこんな感じなのかね。

「フェイズ・3に移行する。AH-1とAH-64Dによる精密攻撃を開始。確実にコアを破壊せよ。目標がトラップエリアに入ったら爆破する」

爆撃やミサイル攻撃に比べれば精密な攻撃が可能な攻撃ヘリである。

特にAH-1のTOWは有線誘導なので撃ちっ放しのヘルファイアに比べれば弾着地点まで誘導できる。

巡航ミサイルの直撃や対艦ミサイルの釣瓶打ちに耐える相手にどこまで通用するかは不明だが、諦めてやる道理は無い。

それに、対戦車ミサイルっていうのは貫通力だけなら対艦ミサイルにも劣ってない。

ヘリは次々とミサイルを放ち、機関砲を撃つ。しかし、ここで問題が生じた。

ドォォォーーン

一機のAH-1がいきなり墜落したのだ。

「何だ!? 何が起こった!?」

「ナイフだわ! 奴らナイフをヘリに向けて投擲したのよ!」

ナイフを投擲!? ああ、そういや、全金属の騒動な某軍曹も第一話でそうやってヘリ墜としてたな、こん畜生!

コブラのTOWは有線誘導という関係上、発射から着弾までヘリ本体の機動は制限される。

「AH-64D。中型ゴーレムを最優先で対処しろ! 数が少ない今なら力勝ち出来るはずだ! AH-1。大型のコアをピンポイントで狙え!」

AH-64Dのヘルファイア対戦車自律誘導弾は発射した後は勝手に目標に向かってくれるので、高機動下での使用も容易である。

それにしても、あの投げナイフ、どれだけ速度出てるんだよ?下手したらAH-64Dの最高速度上回ってるんじゃないか?

「トオル、ゴーレムが地雷原に入ったわ」

よし、来た! 対戦車地雷をふんだんに使って造り上げた地雷原だが、普通の地雷原と言うよりは、トラップと言った方が近い。

第一段階は地下空洞の支柱を爆破し、落とし穴に落っことす。第二段階で地下に大量に設置した地雷と爆薬を爆破。デイジーカッターからトマホークの弾頭やミズーリの砲弾まで流用し、穴で指向性を与えられた爆発力は、地下から罠に掛かった獲物ごと地面全体が盛り上がるほどの爆発をしてくれる…はず。

「ヘリ部隊、一時退避。……よし、爆破!!」

ズドォォォーーーーーン!!!!

うお!? 揺れた! ここまで振動が伝わって来る程の爆発。これで動いていたら心が挫けるぜ。

爆発で生じたキノコ雲。これ、どんだけで収まるんだろ?さてさて、

……挫けた。中型ゴーレムは木っ端微塵になっているってのに、あの大型、どれだけ強度あるんだよ!?

畜生。心の中だけorzだ。流石に現実ではやりませんけど。

「トオル……」

そんな不安そうな顔をしないで下さい。俺が一番泣きたいんだから。

「…全隊員を空母に集結させろ。最悪、砦の破棄も視野に入れる」

「でも!?」

「どの道、人間の扱う武器じゃ、兵器を上回る戦果は期待出来ない。砦はまた造れば良い。だが、これだけの討伐軍を再編するのは容易じゃない。心配するな。当然、撤退と言うのも最悪の事態を想定した場合だ」

「…分かった。そうだね。生きてさえ居ればどうにでもなるよね」

「ああ」

指揮所の重苦しい雰囲気は少しは軽くなった。そこに複数の緊急連絡。

『こちら航空指揮所! JAS-39とC-130、CH-47が爆弾を積めるだけ積んで発進しようとしています! と言うか既に発進を始めています! 送れ!』

『こちら、カール・ヴィンソン! 補給を済ましたF/A-18EとCH-47が勝手に発進を! 送れ!』

え?ちょっと待って。精霊には別名あるまで待機って言っておいた筈だが?

慌てて、指揮所を飛び出して高機動車を捕まえる。精霊は基本的にリンクしていて、現代兵器としてのデータ共有は無理だが、精霊としての意思は共有できる。

「おい! アイツら、何をしているんだ!?」

『ユウシャ、コノ砦、苦労シテ造ッタ。僕タチモ楽シカッタ。歴代ノユウシャ、僕タチニ見向キモシナカッタ。僕タチト向キ合ッタノ、ユウシャガ初メテ。ユウシャノ為ナラ、何デモ出来ル』

「お前ら……」

確かに万策尽きた。後は、あのトラップを抜けた相手に命中の期待出来ない艦砲射撃や、戦車砲や自走砲で勝負を挑まなくちゃならない。

俺の所為か?俺の力量不足で、コイツ等にカミカゼ染みた事をさせなくちゃいけなくなったのか?

『精霊、死ナナイ。呼バレレバ、マタ来ル。ダカラ、皆、“サヨナラ”ジャナクテ、“マタネ”ッテ言ッテル』

「…ああ。“さよなら”じゃない。“またね”だ。次はもっと強い依代(からだ)を用意して置くって言っておいてくれ」

「分カッタ、分カッタ。……ユウシャ、泣イテルノ?」

「いや、別れは笑顔で。愛と勇気の御伽話でも、そう言ってたからな。それに今生の別れじゃない」

素人の猿真似だが、飛んで行く機体を敬礼しながら見送る。

周囲の騎士や兵士も事情を察したのだろう。それぞれ、捧げ剣を行って見送った。

十五分後、森林部の入り口に先のトラップを上回るクレーターが出来た。

どうやら、大型ゴーレムは一度に大量の爆発を受けるより、断続的な、回復速度を上回る爆発に弱かったらしい。

もっと早く気が付けば、あいつらにカミカゼなんてやらせなくて済んだのだろうか?…いや、止そう。所詮はIFの話だ。

取り敢えず、要塞の強化から進めるか。もう二度と、俺の力不足の尻拭いを精霊にさせないためにも。

討伐軍は歴代勇者でも苦戦を強いられたゴーレムに勝利を収めた。でも、それは大きな犠牲と引き換えに掴み取った、とっても苦い勝利だった。



[18458] 閑話3 自重を止めた勇者
Name: タンクさん◆74790b16 ID:addd9404
Date: 2010/06/06 21:17
さて、皆さんこんにちは。先日ゴーレム相手に大苦戦した北条透です。

どうやら少しばかり自然環境に遠慮して自重しすぎたようです。

しか~し!もうそんなのは過去の話です。

そもそも滑走路を要塞の中に入れようとするから全長1kmなんて野戦飛行場サイズになってしまった訳です。

今、討伐軍は要塞から160kmほどマケドニア側に滑走路を建造中です。

先の作戦で投入したデイジーカッターを本来の用途で使っています。

C-130から次々と投下され、地上の木々を薙ぎ倒します。

ヘリで降下した俺はそのまま要塞の建築にも使った施設科車両を呼び出して、土の魔法使いと共に仕事を開始してもらいます。

それにしても、密林を切り開くのが速いこと速いこと。

日本帝国軍が見たら目を丸くすること請け合いです。

今回作るのは大型機でも運用可能な3kmクラスの滑走路を3本です。

面積が小さくても良いように三角形の各辺が飛び出した形にします。

中央部にはここに俺が常駐出来ないので大量の武器弾薬庫とハンガーを造りましょう。

外周は防壁と空堀で覆い、防壁は強度を高くして、上に87式自走高射機関砲と35mm連装高射機関砲を備えます。

人間が殆ど居ないんで、その分を機甲戦力で補うしかないですし。

俺と魔法使い達は泊り込みです。トラックの荷台に寝袋敷いてそのまま寝ています。

体には悪いでしょうが、まぁ、気にしない。全ては、討伐軍は強いの為に(某ビールのCM風)。

飛行場の建設は順調に進んでいます。

要塞としても、戦艦の援護こそないですが、完成度はこちらの方が高いんじゃ無いだろうか?

まぁ、あちらの方が使い勝手が良いので移りませんけど。

こっち、全周防御をするには防衛線が長すぎます。

それにしても、直径5kmの円状の空間を切り開いたんで20k㎡もの面積が破壊されました。本当に環境に悪いな。

飛行場のモデルにしたミッドウェーのサンド島でも面積6.2 k㎡しか無いっていうのに。

でも、防衛線を考えると広めに空間を開ける必要がありますからね。

森林にぽっかりと開いた空間。正しく陸の孤島です。

うん、ここはサンドトウ飛行場と名付けましょう。極西の飛行隊です。F-5EもF-4Gも居ませんし、位置的には極北ですが。

自重を止めた航空戦力もえらいことになってます。

まずは、戦術機部門から。

近接航空支援としてA-10サンダーボルトⅡ。

無駄に巨大な30mmガトリングガンを機体中央部に備えるため、前輪は右側に寄せられるほどです。戦車の上部装甲すら貫通可能で、装甲車なら正面装甲も貫通できます。搭載できる爆弾も多種ですが、基本的に低高度を飛ぶ機体なんで、誘導爆弾の類は積みません。無誘導爆弾か誘導弾を搭載します。最高速度は音速に届きませんが、その分、滞空時間が長く、近距離での航空支援には最適な機体です。

遠距離での航空支援にF-15Eストライクイーグル。

戦後4.5世代機に分類され、4.5世代機の中では設計が最も古いのでステルスとか全く考慮されていないですが、そんなの俺には関係ないです。M2.5という最高速度と、戦闘機の中ではトップクラスの搭載量、長大な航続距離、良好な運動性能。遠距離まで高速で駆けつけて爆弾をたらふくばら撒いてくれる頼もしい機体です。

戦略機部門。最近は戦術爆撃にしか使われない戦略爆撃機、B-1ランサー。

元々は敵領内に低空を超音速で侵入し爆撃、という機体だったのですが、最近はA-10なんかと同じような扱い。最大で34tもの爆装が可能な大型爆撃機。無差別爆撃が行なわれなくなったのでその爆弾搭載量が活かしきれていない一面も。爆撃機としては珍しく、可変翼やアフターバーナーを搭載していたりします。

世界最大最重の実用機、An-225ムリーヤ。

分類は輸送機でペイロードは安全値で250t。実際は300tはいけるらしい。ソ連版スペースシャトルを胴体上部に括り付けての空輸も可能。鈍重な外見を裏切り、非常に高機動だとか。愛と勇気の御伽話でも多数出演している。

分類が輸送機だし、空爆は出来ないし、ここにしか降りられないから呼び出す意味も無いんだけど、ノリで呼び出してしまった。反省はしているが、後悔はしていない。…いいじゃん! 男の子は最大とか最強とかいう単語に弱いんだよ! しかも、今年の二月に来日したし。見たかったなー。

基地防衛用にAH-64Dも呼び出して、地対艦ミサイル、自走砲、戦車。これで負ける訳が無い。

要塞とはC-130とC-17、CH-47で定期便ですよ。下手に車列組むより効率良いし。何より、C-17を使えばサンドトウ飛行場の車両の補給を要塞に居ながらできるっていうのが良いですね。

ふ、ふふ、ふふふふ、ふもっふ、ふもるる、ふんもっふ。

現代兵器は自重を止めればここまで出来るんじゃーー!!

ガ○ダムがなんじゃい! 対戦車の鬼、A-10の前にはただの的だ!

ミノ○スキー粒子の無いモ○ル・スーツが地上で活躍できる訳が無いだろーが!

硬いだけが取得の二足歩行が偉そうにすんな!

まぁ、もうゴーレムは出ないらしいんだけどね。

一度倒した相手は次代勇者になるまで出ないそーな。

それにしても、モンスター図鑑厚すぎるべ。

これ全部に目を通すとか、これ何て受験勉強?

空を飛べる奴も少し居るし。表面が無茶苦茶硬い奴も居るし。地中から来る奴も居るし。……最後の滅茶苦茶脅威度高いじゃん。

で、一週間後。サンドトウ飛行場稼働。

……早すぎね? 滑走路三本の本格飛行場が一週間で稼働とか良いのか?

そら、確かに百人単位の魔法使いとか、ずっと召喚し続けて、最終的には師団単位の施設科車両、とか大人気なくしまくったけど、普通、この規模の工事には数年とか掛かるものですよ?まぁ、早く出来る分には良いか。

現在、魔王討伐軍所有戦力

F/A-18E 空母カール・ヴィンソン常駐24機

JAS-39 要塞飛行場常駐12機

F-15E サンドトウ飛行場常駐108機

片羽の赤いF-15C サンドトウ飛行場常駐1機

黒い機体に赤い尾翼のF-14A 空母カール・ヴィンソン常駐4機

A-10 サンドトウ飛行場常駐36機

B-1 サンドトウ飛行場常駐12機

C-130 要塞飛行場常駐4機、サンドトウ飛行場常駐12機、マケドニア首都滑走路常駐2機

C-17 要塞飛行場常駐2機、サンドトウ飛行場常駐4機

An-225 サンドトウ飛行場常駐1機

AH-64D 要塞ヘリポート常駐12機、サンドトウ飛行場常駐36機

UH-60 要塞ヘリポート常駐2機、空母カール・ヴィンソン常駐2機、サンドトウ飛行場4機

SH-60 空母カール・ヴィンソン常駐2機

CH-47 要塞ヘリポート常駐4機、空母カール・ヴィンソン常駐2機、サンドトウ飛行場常駐12機

90式戦車 要塞108台、サンドトウ飛行場324台

89式戦闘装甲車 要塞36台、サンドトウ飛行場108台

99式155mm自走榴弾砲 要塞324台、サンドトウ飛行場972台

87式自走高射機関砲 要塞36台、サンドトウ飛行場防壁上固定12台、通常36台

88式地対艦誘導弾 要塞16台96発、サンドトウ飛行場32台192発

35mm連装高射機関砲L-90 サンドトウ飛行場城防壁上、360基

12.7mmM2重機関銃 要塞城壁上、サンドトウ飛行場防壁上。車輪装備の銃座ごと移動可能。普段は格納。

その他は必要に応じて召喚。例を挙げればAH-1は有線誘導のTOWを使いたかっただけなので常駐はしていない。

やたらと航空機や車両の数が多いが、主人公が毎回召喚するのも面倒なので予備も含んだ数字。

飛行場は、ゴーレム相手に撤退寸前まで追い込まれた反省から建設された。直接防御力も高く、要塞を破棄する場合はここが一時避難所。

航空戦力は要塞と飛行場で共有可能なのでノーカン。

直接戦闘力にすると、相手が軽機関銃以下の通じない場合なら最初から重武装の飛行場が有利。

飛行場は防壁上に戦車を除く車両も上がることができる。対空射撃用の自走高射機関砲は約440m間隔で配備される。

連装高射機関砲は有人操作。防衛戦の時は要塞から人手を回さないと使用不可。

要塞を放棄してこちらに立て篭もった場合を想定した装備。運用方法としては要塞の重機関銃を機関砲に昇華させただけ。

複雑なレーダー関係は使用できず、目視照準のみ。連装高射機関砲は約44m間隔で配備されている。

まぁ、飛行場はこんな感じで良いベ。

次は第一次防衛線の強化ですよ。ここは基本的に無人での迎撃を前提として装備を組みます。

前回のゴーレム侵攻で使ってしまった落とし穴ももう一回造り直します。ただし、爆薬の量は前回の二倍ですけど。

第一次防衛線も高さ20mの防壁を張り巡らします。

ここに大量の96式多目的誘導弾を高機動車ごと設置。ミサイルは赤外線映像を本体に転送。その映像を元に誘導するので周囲と温度差を持たない敵には誘導し難いですが、その辺は精霊が何とかしてくれるでしょう。

『任セテ、任セテ』

任せました。敵が来るまでこんな所に押し込めてご免な。

『気ニシナイ、気ニシナイ』

本当に良い子達です。

これは最初から車両搭載を前提としたミサイルなので舟艇や戦車の正面装甲も貫通可能との事です。

便利な世の中になりました。ここから要塞までは凡そ50km。

ここまで侵攻されると言うことは、要塞は直そこです。要塞の直接防御力向上にも取り込んでいますが、正直、現代兵器は強力な物は殆どが長射程です。

数で押された場合以外に要塞まで到達されると言うことは事実上の敗北でしょう。

そう言った意味ではここが最終防衛ラインと言っても過言では無いです。

お、上空をF-15Eの編隊がフライパスして行きます。

精霊たちから新しい依代(からだ)に慣れたいという頼みだったので試験飛行を許可しましたが、…どう見ても遊んでいます。

だって、F-15Eでブルーインパルス並の密集隊形で曲芸飛行とか自分の目を疑います。しかも、

ドォォーーーン!!(ソニックブーム)

……超音速で。

正直、正気の沙汰とは思えないですね。アグレッサー(教導隊)でも出来ないでしょう。っつーか、人間には不可能でしょう。

あれだけ密集して超音速。流体力学とかどうなってるんだと突っ込みたいです。

機体の情報を五感を経由せずに把握できる精霊ならではですね。

つーか、超音速でホイホイ飛ぶな、耳が痛いです。

『皆、楽シンデル、楽シンデル』

高機動車に憑依した精霊も何だか楽しそうです。でも、ご免ね。あっちは空を超音速なのに、こっちは地上で待ち伏せで。

『セイレイ、皆、繋ガッテル。問題ナイ。ボクモ、感覚、共有シテル』

…便利ですね、精霊って。

ドォォーーーン!!

今度は何ですか?

シュワァァーーーン!!

上空をF-15E以上の密集隊形を組んだF/A-18EとJAS-39がパスしていきます。

…お前らは機体の慣らし必要ないでしょうが。

ドォォーーーン!!

今度は何なの?

上空をパスしていくB-1。

…あの大型機が超音速で密集隊形は途轍もなく凄いんですが、お前ら、確か超音速は制限速度ギリの筈だよな? 機体に無理させてんのか?

B-1は、要塞滑走路じゃ離着陸できないから機体交換の時には俺が、サンドトウ飛行場まで出向くんだが?

グォォーーー!!

…亜音速組まで参戦してきましたか。A-10にC-130、C-17、An-225。

An-225を中心に上下左右に立体的な密集隊形を組んでいます。

ホント、無駄に才能を使ってますね。大型の異機種編隊で密集隊形なんて難易度滅茶苦茶高いでしょうに。

バタバタバタバタ!

締めはヘリですか、そうですか。機体の交換作業が面倒な事になりそうですが、良い物が見られたと納得しておく事にしましょう。こんなアクロバット、現実世界じゃまず見られないですからね。

要塞に帰ると皆、浮かれていました。傍目にでも凄いのは分かりますからね。

でも、あのアクロバットがどれだけ非常識だったか理解しているのは俺だけです。

あのアクロバットを人間が行えば成功まで何人のパイロットを殺す羽目になることやら。そもそも成功できるのか否かも微妙ですね。

『ユウシャ、ゴメンネ、ゴメンネ。ハシャギ過ギタ』

その日の内に全滑走路とヘリポートを回って黙々と機体の再召喚を行う俺に精霊がはしゃぎ過ぎたと謝りましたが、良いものを見られたのでチャラですよ。



[18458] 第8話 ジ○リ襲来
Name: タンクさん◆74790b16 ID:addd9404
Date: 2010/05/22 09:29
さて、皆さんこんにちは。サンドトウ飛行場が本格稼働に入って怖いもの無しの北条透です。

今日は、非番なんで湖畔から糸を垂らして釣をしています。

この湖の鱒は中々に美味なので重宝します。…ブラックバスみたいな奴の方がかかる確率高いですが。

『ユウシャ、ユウシャ。JAS-39カラ連絡。敵襲、敵襲』

隣の高機動車が教えてくれる。…人が良い気分で釣をしながら読書しているのに本当に空気を読みませんね。

例によって即座に写真撮影を行って帰還したJAS-39。その写真には信じたくない物が写っていました。

「これ、オ○ム?」

風の谷の物語に出てくる森の王者さまです。

「ワームね。外殻がとても硬くて、しかも群で襲ってくるから脅威度はとても高いわよ」

ワーム(ミミズ)?どうみてもダンゴ虫でしょうが。全長80mの甲殻類が群で襲ってくるとか悪夢ですね。

しかも、確かあれの外殻はセラミック鋼より硬いとか言っていたが。

原作の戦車砲がどれ程の威力だったのかは知らないが、オ○ムには全く利かなかったようだし。

「今まではどう対処を?」

「正面突破」

「…正面突破? 弱点は?」

「…記載には無いわね。強いて言うなら腹部の防御が弱いらしいわ。今までは正面突破で何とかなっていたらしいし。そもそも守勢に回っている今回が異例な訳だし」

「……チート勇者共が。…俺はサンドトウ飛行場に移る。ジャスティン、指揮任せた。総員第一種戦闘配置。ミズーリ全兵装開け、地対艦誘導弾発射準備。要塞ゲート開け、90式戦車、99式自走砲を第一次防衛線まで押し上げろ。全航空戦力発進準備」

「「「了解」」」

直にグリペンに乗ってサンドトウ飛行場に。

ぐっ!? 流石は戦闘機。発進だけでも結構なGが掛かるな。

B-1を連続召喚。爆弾満載で。

巨○兵のビームで軒並み吹き飛ばしてもまだ残る物量。愛と勇気の御伽話も真っ青だ。

飛行場では既に発進態勢を整えていた。こちらと入れ替わる形で発進を始める。俺はJAS-39から降りると即座に召喚を始める。

爆弾満載のB-1よ来れ。34tの火薬と鋼鉄を降らせてやれ。A-10よ、東側戦車の物量に対抗する為に造られたその能力、見せてみろ。

次々と召喚されて、発進していく爆撃機と攻撃機。頼むぞ。前回の二の舞はご免だぞ。

上空ではF-15EとF/A-18E、JAS-39が細長いヘ○ケラとか言うムカデが空を飛びました的な蟲とウ○アブとか言うハエみたいな奴と空中戦を繰り広げている。

まぁ、空中戦はこっちの圧勝ですけど。数もオ○ムほど多くないですし。機動性もこっちが上ですし。20mm機関砲が利く相手で良かったよ。

で、地上部だが……駄目だ。爆発地点に居る奴は大抵吹き飛ぶが、通常爆弾じゃ効果薄だな。

デイジーカッターの使用を許可するか。物量には大量破壊兵器。それがこの世の真理です。

目を真っ赤にしてひたすらに向かってくるオ○ム。

…人類はコイツ等を怒らせたのだろうか。オ○ムの怒りは大地の怒りらしいが、飛行場建設とかやり過ぎたか?

まぁ、良い。文明と自然は相反するものだからな。

現代兵器を司る者として避けては通れぬ道なのだよ。それに、似ているだけで別物だしな。

荒野の方から大量のキノコ雲が。無誘導爆弾とデイジーカッターが次々に投下される。

まぁ、最終兵器はトラップだがな。先の反省から大きく強化した落とし穴だけど、それでもあの数を倒せる自信は無いな。

連続で投下される爆弾と爆ぜる大地。

この大威力、この爆発力こそ現代兵器よ。

それにしても、これだけの火薬と鋼鉄を降らせて殲滅出来ないとはファンタジー恐るべし。2000ポンド爆弾やトマホークを降らせれば半径500mは加害半径だ。

デイジーカッターを降らせればそれがkm単位に広がる。…なのに、何で殲滅出来ない!? 召喚を続けまくって今では百機単位の爆撃機が飛び回ってるんだぞ!?

それはね、数多くのファンタジー作品で現代兵器はファンタジーより下位に置かれているからその因果律が流入してるんだよっ。

ナレーションウゼー! ああ、そうだな、そうだよな。結局、風の谷の物語じゃオ○ムとか倒せなかったよな! ゴ○ラ相手に勝てた通常兵器は居ないし、G兵器でも勝てたのは極少数だ! ウ○トラマンとか、エヴ○ンゲリオンとか、F○TE-ZEROとか、愛と勇気の御伽話でも大苦戦だったよな! でも、も○のけ姫とか頑張ったじゃん! ファンタジーに人類の英知で善戦したじゃん!

でも、結局はシ○神が首なしデイダラボッチになった途端に負けたし。

ほっとけ!! だぁ~、B-1、連続召喚。C-130、デイジーカッターをばら撒いて来い! あの質量で押されたら第一次防衛線は保たないぞ!

『勇者殿! 地対艦誘導弾、発射始めました』

「うし、慣性誘導で荒野に向けさせろ! 荒野に着弾すれば何処だろうと敵に当たる!」

『了解!』

とは言え、百発に満たない対艦ミサイルじゃ大した影響にはならないだろうな。

『敵勢力、残存29%。あと少しです。頑張ってください』

まだ三割弱も残ってるんかい。何機の爆撃機召喚したと思ってるんだ。心が挫けるぞ。でも、巨○兵とか出てこない分、マシなのか?

『目標、トラップエリアに入りました』

「被害が最大化するタイミングで起爆しろ。起爆はそっちに任せる」

『了解』

俺にも映像は入って来ている。モニター、小型だけど。

お、起爆した。残存三割の内、二割は罠を超えたか。と言うより、見逃したか。でも、残りは殆ど吹き飛んだか。ジャスティンも中々タイミングが判ってきたな。

新しい罠は荒野方向に傾斜を持たせて、吹き飛んだ敵が後続の上に落ちるようになっている。

デイジーカッターや各種爆弾を大量に使ったトラップの爆発力は以前の2倍。今頃砦は結構な地震に見舞われているだろうな。

『自走榴弾砲、発射開始します』

直撃すれば対象を無力化できる。でも至近弾では怯ませる位か。威力自体は500ポンド爆弾にも劣る。

『残存戦力に向けて多目的誘導弾、発射開始します』

戦車の正面装甲も破壊可能な多目的誘導弾。いくら巨大とはいえ、生物であるオ○ムが耐えられる訳が無い。しかも、これは器用に誘導できるのだ。

確実に個体個体に誘導できる。一体に念を込めて三発の誘導弾を叩き込む。

着弾を受けて次々とオ○ムが各坐していく。

『戦車部隊、砲撃開始』

120mm滑腔砲がタングステンの装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)を次々と発射する。

ダーツの矢を火薬で飛ばすという表現が似合うこの砲弾は、砲口から発射と同時に加速を得るための装弾筒を分離させ、弾芯が音速の4倍で飛び出し、従来の徹甲弾とは比較に出来ない貫通力を誇る。

反面、破壊力は全て運動エネルギーに頼るので、装甲貫通後に爆発する従来の徹甲弾に比べれば劣る。

正直、巨大生物相手に効果は未知数だ。とは言え、今となっては貫通後に爆発する大砲用の徹甲弾なんて無くなってしまったが。

滑腔砲を受けたオ○ムはやはり、一撃では死なない。複数弾を受けてようやく倒れる。駄目だ、押し切られる。

ダガァァーーーン!!

防壁に次々と体当たりするオ○ム。だが、戦車も自走砲も高機動車も撤退済みだ。

「…最終トラップ発動」

『判ったわ』

防壁の中に仕込んだ大量の指向性爆薬が爆発する。

爆発に指向性を与えるのは意外と簡単だ。手榴弾を和式便器に放り込めばそれだけで爆発は指向性を持つ。

今回は防壁をコの字に鉄筋コンクリート。開いてる部分はただのレンガ。爆発はレンガを吹き飛ばしてそちらに向かう。

防壁に辿り着いたオ○ムも結局、完膚なきまでに吹き飛ばされた。

な、長かった。心が挫けるかと思った。

『ユウシャ、第二派、第二派!』

うそ~ん!? orz

「OH(偵察ヘリ)の情報、こっちに回して…」

そして、画面に映ったのは…。

「ロボット?」

正式名称は無いが、城が空に浮ぶ物語でロボットと呼ばれていたビーム装備の二つ目のロボットだった。しかも、その後ろには飛行戦艦が続いている。

「冗談だろ…。飛行戦艦は置いとくとして。あれ、確かセラミックで出来てた筈だぞ。成型炸薬弾とAPFSDSの天敵じゃねぇか」

複数の素材を重ねて防御力に優れる複合装甲だが、その中で成型炸薬弾やAPFSDSに対抗するために使用されるのがセラミックである。

正確には金属ではなく、陶磁器なので、科学力が劣れば金属か粘土か理解出来ないのも頷ける。

瞬間的な衝撃には強いが、何分、割れ易い。だから、低初速の攻撃は有効なのだが…。

「現代兵器で低初速……。移動目標に命中させる精度が必要…。しかし、重機関銃レベルでは耐えられてしまう…。……A-10に30mmで攻撃させるか? よし、それで行こう。AH-64Dも居るし何とかなる! …多分」

『トオル、聞きましたか?』

「新手だろ? でかいのは戦闘機を対艦兵装で発進させろ。小さいのはAH-64Dにロケット弾を積んで発進させろ。こっちからはA-10を出す。対戦車弾は積むだけ無駄だから積むなよ」

『対戦車弾が? 何故?』

「あれの装甲は対戦車弾に対抗する目的で使われる物だ。効果は期待出来ない」

『了解』

はぁ、それにしても、ロボットはともかく、戦艦はこちら(科学の)側じゃ無いのかよ?魔物図鑑確認……ロボット、愛称なし、カテゴリーは無機物兵士。飛行戦艦、愛称はゴリ○テ、カテゴリーはロボット母艦。…って、あれが母艦なのかよ!?

オ○ムが砲戦距離まで近付いたので航空機が帰還していた要塞では補給を急いでいる。

サンドトウ飛行場では新たに装備満載で召喚した方が早い。次々とA-10を召喚する。

あのロボットの機動性は不明だが、亜人型である以上、そこまで高くは無いはずだ。A-10やAH-64Dでも勝てるだろう。

F-15E、F/A-18E、JAS-39は対艦兵装で飛行戦艦に向かう。あの飛行戦艦の対空装備は明らかに超音速に対応していない。

でも、下方への艦砲を持つので要塞に到達させると厄介だ。流石に要塞でも航空攻撃には対応していない。

次々とロボットを吐き出すゴリ○テ。全く、どうなっているんだか。

「航空部隊、母艦を最優先で叩け! これ以上の発艦を許すな!」

百機を超える戦闘機から放たれる二百発を超える対艦誘導弾。迎撃も回避も出来ずに着弾する誘導弾。

元々、軽量化の為に装甲など高が知れている飛行戦艦。誘導弾は装甲車にも劣る装甲を次々と破り艦内で爆発する。

黒煙を上げて傾くゴリ○テ。今度は次々と上空に舞い上がり、急降下染みた動きで爆弾を投下する。

そして、対地下用に信管をきつく設定した爆弾は艦内に侵入して爆発する。

ゴリ○テは見事に二つに割れて爆発炎上した。そのまま、ゆっくりと地上に落下していく。

…呆気無かったな。武装と装甲の設定は原作遵守なのか? それにしても、軍艦が、あれだけ派手に燃えるって、色々問題あるんじゃないか?

一方のロボット戦は熾烈を極めていた。ロボットは30mm機関砲やロケット弾を受ければ破壊される。しかし、ロボットのビーム砲も直撃すればAH-64DやA-10を破壊する。しかし、どうやら数の多いこちらが優勢のようだ。

飛行戦艦を撃破した戦闘機隊もロボット駆逐に動き出す。しかし、戦闘機は飛行速度が速く、機銃を用いた対地攻撃には向かない。

それでも毎分6000発の連射速度で20mm弾を発射するのだから一瞬の射線が取れれば敵を蜂の巣に出来る。

空に浮ぶ城の敵は何とか撃破できた。でも、複合装甲じゃなくて良かった。これにチタンや鋼鉄まで使われてたら、俺マジ泣きだったよ。

『ユウシャ、第三派、第三派!』

もう、泣いて良いですか?orz

『トオル、orzしていないで、早く指示をください!』

うお!? ジャスティン、何故に俺がorzってるのが判った!?

『トオルは単純ですから。それより早く次の指示を』

え~と。……ト○ロじゃん。こいつ戦闘能力あんの? 魔物図鑑…、森の精霊、愛称ト○ロ、所構わず木を生やして森にしてしまう。あ~、基地を持つ俺との相性最悪だな。

『トオル、指示を』

「…え~と、とりあえず、レーザー誘導で下の独楽だけ吹き飛ばしてください」

『コマ?』

「あのくるくる回ってるヤツ」

『了解』

ト○ロは独楽を吹き飛ばされるとそそくさと逃げていきました。

「………」

『………』

どんなリアクションを取れば良いんだろうか?

『ユウシャ、第四派、第四派!』

次の敵がモニターに映し出される。

「お~い?」

魔物図鑑、B-29、愛称スーパーフォートレス、爆弾を落とす、近づくと機銃で撃って来る。……これ、魔物?

次に出てきたのは皆さんご存知、B-29。米空軍の戦略爆撃機である。

レシプロエンジンのプロペラ稼動機としては頂点を極めたと言っても過言ではない機体である。

しかし、それは1940年代の話。当然ながらミサイルに対する装備など持っているはずが無く、

「まだ残弾が残っている機体に攻撃させて」

あっと言う間に全機撃墜された。

『ユウシャ、第五派、第五派!』

次は、何だこれ? 飛行船? 武装を積んでいるようには見えないが?

いや、何かぶら下げてる。これは…パトカー?

魔物図鑑、飛行船、愛称無し、敵の上でパトカーを降らす。……良く分からんが、近寄るな。

『トオル、どうしましょうか?』

「俺が聞きたい。…OH、人は乗っているのか?」

『ムジン、ムジン』

「なら墜としてくれ。機銃弾で、あの胴体を狙えば良いから」

『了解』

あ、そう言えば、ゴリ○テに人が乗っているか確認するの忘れてた。

…まぁ、大丈夫だろ。それにあっちは飛行戦艦、軍艦だし。

次に出てくるのは何だい!?

『ユウシャ、第六派、第六派!』

そーか、そーか。次は水上戦闘機(戦闘艇)に飛行艇か。紅いヤツとか、青いヤツとか、でっかいヤツとか居るが、知ったことかい。

魔物図鑑、戦闘艇、愛称色々、機銃で攻撃してくる。……性能はオリジナルと一緒。さよですか。

「AH-64D、人は?」

『居ナイ、居ナイ。ア、撃タレタ。イタ、イタタタ』

「気にするな。お前の装甲を貫ける装備は無い。反撃しろ」

『リョウカイ、リョウカイ』

戦闘機が出るまでも無かったな。戦間期の機体じゃ、ヘリにも勝てないよ。

それにしても、30mm弾、エンジン部以外は反対側まで貫通してるし。対装甲用の砲弾じゃ、信管が作動すらしないか。

『ユウシャ、第七派、第七派!』

はいはい、次は何ですか?

「……お化け? 百鬼夜行か?」

『トオル、あれは?』

「…OH、熱源反応とレーダー反応は?」

『ナイ、ナイ。何モ、映ラナイ。映ッテルノ、可視光線ダケ。デモ、りあるたいむデシカ映ラナイ』

「録画出来ないって事か」

『ウン、ソウ』

『トオル…』

魔物図鑑、狸の化学、愛称妖怪大作戦、特に害は無し。……どうせよと?

「生憎と実体を持たない物には攻撃出来ない。魔法で対処は?」

『無理ね』

「じゃあ、ほっとこう」

これは結局、第一次防衛線に到達する前に消えたけどね。

『ユウシャ、第八派、第八派』

で、次は何?

プギィィーー、プギィィーー!

魔物図鑑、猪、愛称ヌシ、猪突猛進に注意。

…猪ですか、そうですか。でも、ご免な。種子島以前の鉄砲に敗北するお前等が、現代兵器に挑むなんて千年遅いわ! 千年前に遡って出直して来い!

ここから先は一方的な虐殺なので割愛。何か、明らかに最初の方が苦戦したぞ。


今回の襲撃を何とか凌いだ俺はヘリに乗って要塞に帰ってきた。

俺だけ疲れているが、兵器補給を担当した兵以外は元気なものである。

最近、敵が強大化してきたこともあって、歩兵の出る幕が無くなって来たな。

「トオル、お疲れ様です」

「お疲れ~。本気で疲れたぞ」

「それにしても、荒野がえらい事になったわね」

「ああ。戦場処理が大変だ。ったく、どうしてゲームみたいにやられたら消えないかな~」

「トオル、現実と創作の混合は危険だわ」

「それを、異世界の住人である貴女がいいますかねぇ!?」

「で、あの戦場、どうするの?」

「…とりあえず、全域をナパームで焼き払って、穴掘って埋める」

そう、俺の仕事はまだ終らんのですよ。結局、カール・ヴィンソンからF-4にナパームくっ付けて発進させて戦場全て焼き払いましたよ。

え、何でF-4かって?ナパームつったらF-4でしょ、拘りです。

でも、オ○ムとか、どないせえっつーの。重すぎるでしょ。小型の軍艦が丘に上がったくらいあるよ? しかも、数多すぎ!

「………これは放置! こんなの一々処理してたら年が変わる!」

結局、谷と砦間の荒野はオ○ムの墓場と化しましたとさ。

対艦ミサイルの射程内だけは土の魔法使いに頼んで地下に落としてもらいましたけど。皆、げっそりでしたよ。

範囲を限定しても洒落にならん数でしたからね。余りの異臭に作業はガスマスク着用で行いましたよ。あ~、酷い目に遭った。


補足:何作品か足りなかったり、最新のが無かったりしますが、作者が見てなかったり、内容を忘れたり、どんな敵を出せば良いのか判らなかっただけなのでお気になさらず。



[18458] 閑話4 第一次防衛線修復&強化
Name: タンクさん◆74790b16 ID:addd9404
Date: 2010/05/23 16:43
さて、皆さんこんにちは。先のジ○リ襲来を何とか乗り越えた北条透です。

第一次防衛線は切り札の内蔵地雷を使っちゃったので半壊状態です。

空爆で終らせる心算だったのに、オ○ム恐るべし。


で、旧第一次防衛線は第二次防衛線となり、再び製作中です。

今回は凄いですよ。見た目が万里の長城なのは変わりませんが、内部に空間を設けて戦車が複数配備できるようにしました。

も○ののけ姫の踏鞴場みたいに防壁中腹からの発砲が可能になったわけですね。

で、最上部には多目的誘導弾と155㎜自走榴弾砲とMLRSに陣取ってもらいます。この程度じゃ、オ○ムクラスの敵にはしんどいんですけどね。

防壁の高さは約40m。

その手前に20mの最終トラップ内蔵の攻性防壁を設置しました。これははっきり言って爆薬の塊です。

TNT(高性能爆薬)やダイナマイト、C4(プラスチック爆弾)といった爆薬を可能な限り指向性を持たせて仕込んでいます。

どれもこれも衝撃に強い爆薬なので、こちらの指示以外で誤爆することは有り得ませんし。

全部爆発したら結構凄い事になりますね。まぁ、デイジーカッターには劣りますが、あっちは爆風の大部分が上を向きますが、こちらは横を向いています。その分、与える損害も大きい…筈。

それにしても、この半ば自爆装置、先の第一次防衛線に仕込んだのは念には念を込めた以外の何物でもなかったのに、いつの間にやら、正規装備になっちゃいましたね。

それにしても、現代兵器は巨大生物との戦いを想定していないと思い知らされます。


そうそう、戦車を増やしました。

今までは120mm滑腔砲搭載の90式戦車だけでしたが、62口径105mmライフル砲を搭載するスウェーデンの戦後第二世代戦車、Strv.103に登場してもらいます。

砲を直接車体に固定した駆逐戦車みたいな戦車ですね。

何で態々、こんな戦車を呼んだかと言うと、粘着榴弾(HESH)の使用をしたいからなんですよね。

120mm滑腔砲に比べて長射程で、榴弾よりは直撃時の効果に勝る。

まぁ、相手が甲殻類じゃなきゃ余り意味が無いですけど。

この砲弾は着弾後に装甲に粘土みたいに張り付いて起爆。装甲の裏側の剥離を引き起こして、それで内部を破壊するんですが、これ、甲殻類にも応用できそうなんですよね。

剥離が引き起こせなくても、甲殻に爆薬が張り付いた状態で爆発されて無事で済む生き物が居るとは思えませんし。何より命中性が高いのが良いですね。同じFCSを積むなら、ライフル砲は滑腔砲に命中精度で勝ります。

そして、最終型のStrv.103Cはそこそこ優秀なFCSを積んでるんですよね。精霊が何とかしてくれるにしても、下地は大切です。

それに、砲は西側戦後第二世代の標準装備、51口径105mmライフル砲を長砲身にしたモデルです。

この砲は優秀で、米国のM1や韓国のK1といった戦後第三世代にも最初はこの砲が搭載されていました。

現在でも発展途上国では普通に現役ですね。日本でも富士を除いた本州や九州には本砲装備の74式戦車しか配備されていないですし。

それに、99式155mm自走榴弾砲に比べれば直射に効果的なんですよね。あっちは長射程の曲射を目的としていますし。

ただ、砲が車体に固定されているので照準には車体ごと動かさないといけません。

この戦車が配備されるのは攻性防壁の上です。最終トラップが発動しても影響は無いですが、発動するときは退避してもらいます。

普通の戦車が良かったんですが、自動装填装置の装備されている戦車の少ないこと少ないこと。ライフル砲を積んだ第二世代ではこいつだけではないでしょうか。

先の作戦で再び使った落とし穴ですが、今回は合計で五つの落とし穴から構成されます。

しかし、内蔵する爆薬量はそれぞれ違って、一つ目は普通に対戦車地雷が埋まっている程度ですが、二つ目から四つ目は2000ポンド爆弾やトマホーク弾頭を含む大量の爆薬が埋まっています。そして、五つ目はデイジーカッターを含むトン単位の爆薬が埋まっています。

これはかなり第二次防衛線から離されて、航空攻撃の限界点でもあるここを第一次防衛線にしました。距離的には空爆と第二次防衛線からの砲撃との合間の空間に設置しています。

この外側はオ○ムの墓場ですね。これより外は爆弾が真上から降り注ぐ空爆のみのエリアなので、敵はその墓標を盾にはできません。でも、オ○ムは巨体なので良い感じにバリケードになってくれそうです。

俺はあちらこちらに出向いて工事の指示を出したり、新しい装備を召喚したりします。疲れました。最近、過労気味です。疲労困憊で要塞に帰ると何やら皆さん、慌ただしいです。

パパパパパーーーン、ドドドドドド、シュパーーン…ドゴーーン!

おや、銃声です。これはAKとFN-MAGですね。最後のは無反動系の大砲。多分、110mmでしょうか? 何かあったのかな?

「撃ち方、止め! 即時移動。次弾装填、構えー!」

要塞の一角でジャスティンたちが何やら訓練に励んでいます。ハンガーの方ではJAS-39に群がって何かしていますね。見た感じ、給油と給弾の訓練でしょうか?

「ジャスティン、精が出るな。何かあったの?」

軽く耳を塞ぎながらジャスティンに訊ねます。俺の記憶にある限り、これだけ真剣に訓練に打ち込んだのは見たことが無いですし。

「ああ、トオル。…ねぇ、私達って役に立ってる? 先の襲撃でも殆ど何もできなかった。要塞の拡張にしても魔法使い以外は何もすることが無い」

「何を今更。幹部連の指揮能力や、魔法使いの能力、補給係の補給、兵隊の要塞維持、何が無くなっても立ち行かないっての」

何せ、俺は一人では何も出来ない勇者(仮)ですから。

「うん、確かに私達が討伐軍に必要なのは判ってる。でも、不可欠じゃない。本当に不可欠なのはトオルだけ。私達は何も出来ない」

そりゃね。唯一現代兵器を上回る可能性がある魔法があの有様じゃ、そんなものだべ。

「私達が今までどれだけ勇者に負んぶに抱っこだったか思い知ったわ」

今更? 勇者に頼って当然と言う空気は割と浸透してたんだな。俺もさっさと帰ることだけ考えて、その辺はスルーして来たが。

でも確かにあらゆる努力を笑い飛ばす力量を持つ勇者。並び立てるのはこの(ファンタジー)世界の住人でも極僅か。それじゃ、並び立とうとする気も失せるか。

でも、俺は多くの人間の随伴を必要として、それで幹部クラスとの戦いを目の当たりにした。今までは獣クラスの魔物としか戦いしかしてこなかったみたいだし。

事実上、国家存続の危機に対処してきたのは勇者だけか。

そもそも、国家存続の危機なのか? 敵の幹部クラスの襲来は荒野辺りから、それ以前は獣と変わらず。…何処か勇者を対象にした出来レース染みたものを感じるな。

「それを自覚しとけば問題ないんじゃね? 勇者がアホみたいな力量を持つのは事実、他の人間じゃ勇者クラスの力量を持たないのも、また事実」

力の無い者がある者を頼りにするのは悪いことではないだろう。しかし、それが依存まで行ってしまうと問題だ。人間が文明を離れて生きられないように。

「トオル…」

「勇者は所詮、一過性だ。聞いている限り、魔王はまた現れる。その時に勇者を頼るのは良い。だが、頼り切るな。俺みたいな例外が呼ばれる場合もあるんだ」

歴代の勇者の中でも例外中の例外、それが俺。俺自身には何の能力も無い。能力が自前の物ではないのは歴代も同じだが、俺は一人で完結出来ない。機甲部隊には歩兵の随伴が不可欠。戦闘機も給油と給弾をする人員は不可欠。要塞も運営する人員が必要。俺ってとことん勇者っぽくないなー。

「そうね…」

まぁ、やる気を出してくれたのは良いことですよ。

「ちなみに、ジャスティン」

「何?」

「俺的には、書類仕事を代わって貰えるだけで、とても凄く助かるんだが…」

「それは駄目」(キッパリ)

「そんな、即答しなくても」

「それは討伐軍司令官殿の仕事だもん。……そもそも、私だって書類仕事は嫌いだし(ボソ)」

「…最後、何か言わなかった?」

「気のせいよ、気のせい。とにかく、書類仕事頑張ってね。参謀の補助はつけてあげるから」

「…その参謀達が皆、目の下に隈を作ってるの、知ってる?」

「さぁ、射撃訓練、再開するわよ。第一小隊、構えー!」

「…逃げたな」

そうなのです。俺にとっては魔物の襲来より書類仕事の方が切実な問題なんですよ。

首都と輸送機で簡単に往復できるようになったことから、報告書の提出を求められたり、法事とか家内が出産だとかで、休暇を取りたいとほざく隊員の為に色々と手回ししたり、食料品の受取りを確認したりと、明らかに勇者っぽくないことをやっています。

大学の文化祭実行委員で皆の雑用、総務部に所属してたんで慣れた物ですけど。でも、あれですね、パソコンを使いたいです。

報告書は何故か俺は読み書きできるこの世界の言語で書いているんで、日本語のパソコンじゃ何も出来ないんですよね。

俺は要塞の増築もあるから割と免除されるんですけど、参謀達は書類の処理が仕事なだけあって、寝る、食う以外に自由になる時間は一日に二時間程度です。

これ、明らかに労基法違反ですよね。訴訟を起こされたら負ける自信が有ります。この世界に労基法があればの話ですが。

それにしても、あれですね。数多くのリリカルな二次創作で無限書庫のユ○ノがク○ノに過労死させられそうな描写をよく見かけますが、こんな感じなんですかね。俺も手首が痛いです。腱鞘炎にかかっているかもしれません。

結局、この日も参謀に混じって書類仕事を片付けました。俺も休暇が欲しいです。湖でゆっくりと釣り糸を垂らしたいです。最後に休暇取ったの何時でしたっけ?

「で、何で私までここに居るのかな?」

討伐軍No.2である貴女が逃げられるとでも思っていたのですか? そんなに世の中甘くねーです。

「私、書類仕事はちょっと…」

サインするだけでしょーが。口動かしてないで、手動かせデス。

「私、部隊の訓練を監督しないと…」

マダ何カ?

「…いえ、何でもないです」(ブルブル)

涙目で震えるジャスティン。

普段なら萌えーとか言ってたかも知れないですが、無我の極地に達した我等に煩悩は存在しないです。三大欲求のうち、極端に睡眠欲が強すぎる状態ですね。

書類仕事は結局、それから食事休憩を挟みつつ32時間後に終了しました。

「うう~、何なの、この書類の量」

ジャスティンが一番燃え尽きてましたが、貴女、32時間しか仕事してないでしょうが。って言うか、マケドニアに居るときは貴女もやってたでしょ?

「首都に居るときはフィリスの面が強く出るんだけど、遠征するとジャスティンの面が強くなるの~…」

フィリス? 誰ですか、それは?

「zzz……」

…寝ちゃいましたね。まぁ、今はゆっくり休むですよ。………これで、一週間とか経ったら、また同じ量の書類が届けられるんですから。



生まれ変わった旧第一次防衛線簡易要塞


第一次防衛線、空爆可能限界領域に設定。最後尾は第二次防衛線から30キロ。合計五つの落とし穴から構成。


第二次防衛線、旧第一次防衛線。要塞から50キロ前方に存在。高さ40mの防壁と高さ20mの攻性防壁で構成される。

第二次防衛線簡易要塞常駐戦力

90式戦車 108台

Strv.103C戦車 36台

99式自走榴弾砲 108台

MLRS 12台

多目的誘導弾搭載高機動車 36台

87式自走高射機関砲 12台


討伐軍要塞 カール・ヴィンソン

F/A-18E 24機→48機


サンドトウ飛行場常駐戦力

F-15E 108機→324機

A-10 36機→108機

B-1 12機→36機

JAS-39 0機→108機

常駐機数の増加に伴って、ハンガーを拡大。

発進速度は滑走路運用の限界もあって、若干速くなった程度。

全力出撃が必要な場合は全滑走路を発進専用とし、攻撃後に機体は返還、新しい機体を召喚する。その為、兵器格納庫は拡大していない。

JAS-39は適当な空間を1km確保し、そこを舗装して第四、第五、第六滑走路とした。第四~六滑走路はJAS-39とC-130、C-17が使用。

…保有する戦力的に在日の全戦力を相手にしても普通に勝てる気がしてきた今日この頃。



[18458] 第9話 エリア荒野上空制空戦
Name: タンクさん◆74790b16 ID:addd9404
Date: 2010/06/01 22:40
さて、皆さんこんにちは。ようやく休暇にありつけた北条透です。

何だか要塞がどんどん洗練されて、今では半端では無い事になっていますよ。

今なら旧ソ連軍戦車部隊の猛攻にも耐えられそうな気がしますね。

俺は今、実に五日ぶりくらいの休暇を楽しんでいます。

カール・ヴィンソンの艦尾から釣り糸を垂らしています。

でも、俺が休暇を取っていると碌な事にならないんですよね。

ウゥゥゥーーーーウゥゥゥーーーー

もうジンクスになってますね。俺ってば休んでいる暇ないんですけど。過労死させる気ですかね。だとしたら、何て有効な作戦。

航空指揮所

「超音速の飛行物体?」

「はい」

「…魔物って超音速で飛べるの?」

「今までそんな話は聞いたことが無いわね。そもそも、空を飛べるのからしてそう多くは無いんだから」

「OH-1、接敵します」

「映像、出ました。っ!? OH-1、通信途絶!」

接敵から一瞬で撃墜されたが、しっかり映像は録画されていた。

「…ウソだろ?」

「トオル、知ってるの?」

「…俺が召喚できる戦闘機なんて足元にも及ばない機体だよ。こん畜生。ここまで何分掛かる? 急がないと。俺はサンドトウ飛行場に移る。総員をミズーリの艦中央に退避させろ」

そう言いながらもう歩き出す。スーパークルーズなら一秒間に400mは進んでるんだ。時間を無駄に出来ない。

「ミズーリって、何で、どうして?」

「今の戦闘機の装備なら戦艦のバイタルパート(重要防御区画)は破れない! アイオワ、全人員を乗せたら浅瀬に移動。各坐しろ。対空戦闘用意!」

「待って! 対空戦闘なら私達も銃座に…」

「駄目だ! 重機関銃程度じゃ何も出来ない!」

「でも!」

「避難しろ! 死ぬぞ!」

「くっ、了解…」

そう言いながらも周囲に81式短距離地対空誘導弾、03式中距離地対空誘導弾、93式近距離地対空誘導弾を召喚する。

それは要塞滑走路に到着するまで続き、そこそこの数を召喚することが出来た。

元から居る87式自走高射機関砲は36台。これで何とかなって欲しいが。

今回の敵は物理法則や運用制限を極力簡略化させたシミュレーションゲーム、エー○コンバットシリーズの最強機体の一つ、X-49 ナイトレーベン。B-2を縮めて複葉機にしたような機体で、最高速はマッハ4。高出力のレーザーと各種兵装を持つ厄介な機体だ。しかし、これはAC 3世界の都市部で多用されている特殊粒子が無ければ並の機体と同等の性能しか発揮出来ないはずなんだが、その辺、どうなってるんだ?

2機目はAC 3のラスボスが使っていたUI-4054 オーロラ。こいつも最高速がマッハ3以上出る最強クラスの戦闘機だ。俺は最初、こいつ倒すのにミサイルが切れて機銃で倒した記憶があるぞ。

3機目は特殊な可変翼を持つX-02 ワイバーン。アホみたいに高い機動性を持つ。その翼は格闘戦時にはWの形。高速時にはΔっぽい形になる。格闘戦も強ければステルスでもある滅茶苦茶厄介な機体である。特殊形状の前進翼にカナード翼、推力偏向ノズルと高機動の条件を備えている。

4機目はADF-01 ファルケン。前進翼、カナード翼、推力偏向ノズル。挙句の果てには高出力レーザーと絶対に相手にしたくない機体である。5とZERO、Xでは最強機体として登場する。俺、5でこの機体を四機揃えるのにどれだけ苦労したか。それが敵なんて何つう悪夢じゃ。

5機目はFFR-31MR/D スーパーシルフ。…戦闘妖精じゃんか。アニメでは第一話で墜ちたけど、こいつも手強いぞ。でも、低速域の格闘戦なら勝ち目はある? でも、元が高速偵察機なんだから格闘戦に持ち込めるか?

6機目はFFR-41 メイヴ。スーパーシルフの高速性と格闘戦能力を併せ持つ機体。勝ち目ねーぞ、オイ。小説版じゃ、クルビットどころか逆向きに飛行できる事になってるんだからな。スーパーシルフでも出来るが、あっちでやるとエンジン止まるし。アニメじゃVTOLでも無いのにホバリングする非常識な機体だ。

サンドトウ飛行場に到着すると既に戦闘機隊は発進を始めていた。F-15EとJAS-39、F/A-18E。空対空戦が強い機体じゃ無いが、全部合わせれば500機近い戦闘機じゃ。6機で抜けるものなら抜いてみい!

でも、心配なんでF-22とSu-37、MiG-35を召喚しときます。メビウス・1はF-22で大戦果を挙げたんだ。頑張れよー! …こっちはミサイル十発前後しか積んでませんけど。

ピカッ!

接敵前に空が光った。

『ユウシャ、撃タレタ、撃タレタ』

くそっ! レーザーか。

「散開しろ。以後、戦闘はエレメント(2機編隊)を崩すな」

荒野上空。たった6機のスペシャル機と既に接敵した200機を超す戦闘機がドックファイトする様は異様ですらある。そもそも、これで勝負が成り立ってるんだからおかしな話だ。後続も発進を続けている。

オカシイ、オカシスギル。俺ハ、自分ノ目ヲ疑ッテイル。何デ200機近イ戦闘機ト、僅カニ6機ノ機体ガ互角ナンダ? コチラハ増援モ続々ト発進中ナンダゾ?

F-15EがF-15系列の優れた格闘性能を活かしてメイヴの後ろに回り込む。

しかし、メイヴはコブラでそれを回避した後に一瞬の射撃でF-15Eを蜂の巣にした。

そこに墜とされたF-15Eとエレメント(2機編隊)を組んでいたF-15Eが機銃を乱射しながら突撃する。

本来は僚機が墜とされる前に援護しなくてはならなかったのだが、F-15Eとメイヴでは機動性が違いすぎる。

横から発砲してきたF-15Eを明らかに物理法則を無視した横滑りの動きで回避し、次の瞬間には機銃の射界に捕えて発砲。

あっと言う間の出来事だった。

こちらの戦闘機を操る精霊達の技量は低くない。

超音速で密集編隊を組める実力があるのだ。操縦は巧い。

しかし、戦闘は微妙だ。例えるならガ○ダム種の最初期のキ○君みたいな? 彼は操縦は巧くても戦闘は下手だからね。

ナイトレーベンはメイヴより戦闘の速度域が速い。

メイヴは亜音速から音速での空戦が異常に強い。

だが、ナイトレーベンは超音速、それも極超音速付近での機動性が異常に高い。明らかに10G以上の機動を平然とやってのける。

速度域が速すぎて、最重量クラスのF-15やSu-37も全く付いて行けない。

しかも、レーザー砲は光の速度だ。一瞬射界に捕えられればそれでアウト。しかも、射程も長い。

スーパーシルフも同様だ。高速域での強引な旋回。

低速域の格闘戦ならJAS-39の方が強いだろう。だが、スーパーシルフは全く速度を落とさない。

性能的にはF-15を全体的に二回りほど強力にした感じだろうか。

オーロラの機動性は高い。元々、ナイトレーベンと編隊を組んで活動できるスペックを誇っているのだ。

周囲の機体が必死に後ろを取ろうと群がるか、平然と避けられる。

味方の動きを妨げないためには最大でも小隊~中隊規模での戦闘が限界となる。

しかし、その限界の機数の攻撃を平然と避けてくれるのがスペシャル機だ。

X-02 ワイバーンもSDF-01 ファルケンも機動性は異常だ。

更にファルケンは隙を見てはレーザーを撃って来る。

ファルケンなんて機体は阿呆みたいに大きい。あの図体で高機動とか絶対詐欺だ。

だが、こちらも対地戦闘に優れたマルチロール機から対空戦闘に優れたF-22やSu-37、MiG-35に代わって来ている。

それでも状況は好転しない。あの六機半端ねえ。

それにしても、SFだよな? あの機体SFだよな?

何でファンタジーの側に居やがりますか、こん畜生。


それはね、あのキルレシオは既にファンタジーの域に入っているからなんだよ。


ナレーションウゼー! そうかい、そうかい。確かに俺も一回の任務で20や30機くらい墜とすなんて珍しくなかったな! でも、400機超えてるんだぞ!?


累計撃墜数は?


…999。


カウント出来ないんだよね? そういったやり込んだパイロットの因果が流れてるんだよ。


…戦略級パイロットで悪うございました。あ、1機墜とした。


スーパーシルフは被撃墜経験機だからね。


って、ちょっと待て! 何か急に残りの動きが良くなったんですけど!?


ああ、AC5の因果流入だね。味方が墜とされると急に動きが良くなるの。


何だと? あのスーパーシルフ、乗ってるのダヴェンポ○ト大尉かよ!? ミッションJOURNEY HOMEかよ!?


この状態の敵機は手強いよ、頑張ってね。


黙らっしゃい! こっちにはF-22以上の機体なんて居ないんだぞ!…ん? あれは、前に俺がネタで呼び出した片羽の赤いF-15C? 何故に滑走してるのかな?


北の海から来る悪魔仕様のF-14Aも出たみたいだよ?


え?え?え? 確かに使えるけど、何で発進しとるん?


最初に発進したF-15EやF/A-18Eはほぼ全滅と言っても過言ではない。

身軽さに物を言わせたJAS-39と後に出たF-22、Su-37、MiG-35といった機動性に優れた機体が何とか生き残っている。

でも! あいつらミサイル何発積んでるんだよ! スーパーシルフとメイヴはとっくに機銃による戦闘に移行してるのに。

あ、またF-22が墜とされた。なんか、キルレシオが半端じゃ無いんですが。

もう残ってるのが全部合わせても50機残ってない。

500機近い機体がスクランブルして、しかも続々とF-22やSu-37やMiG-35やら最強クラスの機体を送り出したっていうのに。

今回空中管制機E-767が管制を行っており、俺もその情報を見てるんだが、…苦戦も苦戦、大苦戦。

あ、片羽の赤いF-15Cと北の海から来る悪魔仕様のF-14Aが接敵する。

…で、何でF-22が一方的に敗退する相手に、一世代古いF-14とF-15が互角に渡り合うのかな、かな。


それはね、ピクシー、ラーズグリーズ仕様になってるからだね。


……機体塗装で勝てるんなら苦労せんわい。


でも、実際に互角に戦ってるね。


納得いかねー。何でF-22が負ける相手にF-15が互角に戦えるんじゃ? 更に言うなら大遠距離でのミサイル戦を想定したF-14Aがドッグファイトとか無いよねー。まぁ、性能的に弱くは無いらしいけど第四世代機の標準くらいだろ?

機体の性能の差が戦力の決定的な差ではないとは言うが、これはありえん。推力偏向ノズルというのはそれだけで大きな差だ。特に低速域じゃ勝負にならない。ナイトレーベンに至っては……あれ、どうやって機動してるんだ? 空力?

周囲のF-15Eが次々とアタックする。あ、一機、ナイトレーベンの翼の間に挟まりやがった。

『ハハハ、挟マッチマッタ。全ク俺ラシイナ。オイ、聞コエテルカ……相棒! 俺ヲ狙エ! 今ナラ、コノ化物ニろっくおん出来ル筈ダ! 早クシヤガレ!』

精霊がネタに走った!? キ○スか? キー○なのか? あ、他の機体、割と遠慮無く撃った!

『……ソレジャ、相棒。…マタナ』

最後までネタに走りやがった!? でも、ナイトレーベンはこれで墜とした。あと四機!

あ、F-14Aも一機やられた。

『イケネ!』

『大丈夫デスカ? 被弾シマシタヨ?』

『マァ、大シタ事ハ無イ。中ノ人ハ無事ダシ、モウ暫クハ飛ベル』

『ユウシャ、機体ハ消耗品ダッタヨネ?』

まぁ、確かに討伐軍(ウチ)じゃ特にその方向性が顕著だがよ。

『良イゾ、ユウシャ。ユウシャラシイ科白ダゼ』

……勇者らしいって何?……ここはあれか? 諦めるな、チョッパー。頑張るんだ、チョッパーとか言った方が良いのか?

『ヘヘ、良イ声ダゼ』

『『『チョッパーーーー!!』』』

……お前等、ノリ良いな。

『『『ウォォォーー』』』

って? 残ったF-14Aの動きが急に良くなった!?


因果流入はどちらにも当て嵌まるんだよ?


そら、北の海から来る悪魔仕様のF-14Aを使うこっちが本場だけどよ。

……何つうか、現代兵器を扱う者として、喜んでいいものか、悲しんでいいものか。


こうゆう時は笑えば良いと思うよ?


……ナレーション、もう黙れ。

これで残ったのはメイヴ、ワイバーン、ファルケン、オーロラ。

メイヴは搭載量が常識の範疇なのでミサイルは弾切れだ。

戦闘力を有しているのはワイバーン、ファルケン、オーロラの三機。あ、でも、メイヴ腹に何か抱えてるな。

もうF/A-18Eは全滅。F-15Eも残存が三十を割った。その代わりF-22とSu-37、MiG-35は増え続けてるんだけど。

…戦域が段々と要塞に近付いている。あ、メイヴとオーロラが抜けやがった。

『ユウシャ、速イ、速イ。追イ切レナイ!』

そら、ミサイル並の速度が出せる奴に本気で逃げられたら、追い切れんわな! 対空誘導弾、射程に入り次第発射! ミズーリ、各坐は!?

『終ワッテル。終ワッテル』

人員を間違っても装甲内から出すなよ! 荒野上空の奴はワイバーンとファルケンの相手をしろ! くそ、要塞に急行できるのはF-22一個中隊が限界か。…保ってくれよ!

荒野制空戦ではF-14Aが修羅モードに入っている事もあって互角以上に戦っている。問題は抜けたメイヴとオーロラだ。

腹の下に何を抱えてるんだ? 爆弾? ミサイル? 何れにせよ到達させると碌な事にならない。

高度5万フィート以上の高高度をマッハ3を上回る速度で飛行できるメイヴとオーロラ。現実で最高レベルの高高度性能を持つMiG-25でもそこまでは及ばない。

F-22が下から一斉にミサイルを発射するが、回避らしい回避もしないのに当たらなかった。

「要塞陣地。対空ミサイル発射」

03式中距離地対空ミサイルが続々と発射される。

くそっ、こんなことならイージス艦でも召喚しておけば良かった!

高高度目指して一気に突き進むSAMだが、本来はECM(電波妨害)やチャフ(欺瞞体)をフル活用して回避するミサイルを平然と機動だけで回避するメイヴ。

近接信管で爆発する破片の有効範囲にすら居ない。

81式短距離地対空誘導弾や91式携帯地対空誘導弾を車載にした93式短距離地対空誘導弾、87式自走高射機関砲、20mmCIWSが次々と攻撃を行うのだが……何で戦闘機が機銃だけで地対空火器に勝てるんだ? いや、それ以前に何でこちらの攻撃が当たらない?

メイヴは地上火器を殲滅し、オーロラは増援のF-22を撃墜する。…本当にエースの戦闘力が半端じゃないな、こん畜生!

うん? メイヴが何か落とした? 何だあれは?

ドゴォォーーーーン!!!

んなっ!? あれは、核!? いや、違う。直前に何か拡散した。気化爆弾か! ファンタジーのクセに科学の兵器を使うとはふざけやがって!

「ジャスティン! 無事か!?」

『ザザ……ザザザ……トオル、一体何が?……』

「奴等、気化爆弾…デイジーカッターと似た爆弾を使いやがった。無事なのか!?」

『…ザザ……ええ、水密扉は言われた通りに閉めといたから……』

ふぅー、良かった。気化爆弾は爆風や高熱の他に酸欠にも気を付けないといけないからな。

これが切り札だったのか、その後、メイヴとオーロラはさしたる戦闘も出来ず撃墜された。

一方、荒野上空では…

『護リタイ世界ガアルンダー!』

『私ハ、モウ二度ト、私ノ一番機ヲ失ワナイ。何処マデモ援護スル』

『基地ニ帰ッタラ彼女ニぷろぽーずシヨウカト。花束モ買ッテアッタリシテ』

『俺ガとむきゃっとダ!』

『ヨウ、相棒。マダ生キテルカ? アリガトウ戦友。マタナ』

『飛バナイ精霊ハ、タダノ精霊ダ』

『ヨク見ロ、まけどにあ人。コレガ戦争ダ』

『まけどにあ空軍ノ皆サン、私ニハ戦争ノ事ハヨク解リマセン。ダケド、聞イテモラワナクチャイケナイ事ガアルンデス!』

……誰だ? コイツ等にネタ仕込んだの? しかも、微妙に判り難いものも多いし。

お、ワイバーンが火を吹いた。Su-37が止めを刺すのか。

『止メハ、ヤラセテクレ! レナ、借リヲ今返ス!』

また古いネタを。それやるんならせめてオーロラにやりなさいよ。Su-37は合ってるけど、ワイバーン相手じゃ作品違うでしょ。

あと、ナイトレーベンに借りは無い!

『勇者モ魔王モ、まけどにあモ、皆、無クナッタナ。サァテ、コレカラドウシヨウ?』

とりあえず、ファルケンと戦いなさい。勝手にエンディングに入ろうとしてるんじゃありません!

あ、ファルケンの上からくるくる回りながら一個小隊がダイブしてきた。

『我等ノ涙ト意地、トクト御覧アレ!』

相対したファルケンのレーザーで三機が墜とされて、一機が煙を吹いたが、そのまま突っ込んだ。

…それにしても、最近、精霊がよく解らなくなってきた。


後にエリア荒野上空制空戦と呼ばれる大空戦はこうして幕を閉じた。

討伐軍砦は気化爆弾の爆発で監視塔が倒壊。宿舎も大損害を被る。

ミズーリとカール・ヴィンソンは各坐していたところに爆風を受けて傾斜し、新しい艦と交換されることとなる。隊員の私物の撤去等、諸作業は三日間掛かった。


スクランブルした機体の生存機

F-15E 11機

F-14A 3機

F-15C 1機

JAS-39 21機

これにより、サンドトウ飛行場は更なる戦力増加に突き進む事となる。

僅か6機の戦闘機に防空網を破られた事は透の心に大きな影を落とした。

これにより、魔王城偵察は打ち切りとなり、討伐軍は透の勇者補正を前面に押し出して大戦力による短期決着を目指すこととなる。


NEW! 魔物図鑑に新たな固体が加わりました!

X-49 ナイトレーベン

音速の4倍の最高速と強力なレーザー砲、80発を超えるミサイルを有し、高い機動性を有する全翼で複翼な戦闘機。本来は高機動を得るには特殊粒子が一定濃度必要なのだが、何故か必要としていなかった。粒子を必要としない以上、弱点らしい弱点は無い。そのレーザー砲は海上移動都市を一撃で沈めてしまうほど。

UI-4054 オーロラ

マッハ3という最高速と高い機動性、80発以上のミサイルという攻撃力を有する。ナイトレーベンに追従できる機動性を持っている。高速域ではその機動性に大した差は無い。強いて言うなら低速域での機動性に難がある。

X-02 ワイバーン

WとΔという形状を持つ可変翼機。推力偏向ノズルを持ち、世界トップクラスの機動性を有する。低速でも高速でも死角の存在しない戦闘機。強いて欠点を上げるなら、最高速は通常の戦闘機の範疇を出ない。しかし、それでも音速の2倍は出るので充分速い。

ADF-01 ファルケン

メガワット級のレーザーを搭載する前進翼機。既存の機体より二周りは大きい機体にも関わらずワイバーンに匹敵する高い機動性を誇る。この機体の弱点を筆者は思いつかない。強いて言うなら最高速か? 常識で言えば弱点足り得ない速度だが。

FFR-31MR/D スーパーシルフ

本来は戦術偵察機。あらゆる敵を振り切る最高速と、自衛の為だけの高い戦闘力を誇る。所有する電子機器の出力はAWACSレベル。弱点は亜音速以下の低速域での格闘戦に弱い。機首180°反転もできるが、小説版ではエンジンが停止した。アニメでは第一話で墜落したが、小説だと主人公は全体の1/3~1/2はスーパーシルフに乗っている。空中空母バンシー暴走や地球でのエンジンテストなど、アニメではメイヴで行った幾つかのイベントも原作ではスーパーシルフで行っている。本機を運用するFAF特殊戦ではB-03雪風が墜落するまでは未帰還機を出していなかった。対空フル装備で長中短合わせて14発のミサイルを搭載できる。ミサイルの組合わせ次第ではもっと多数の搭載も可能。OVAで擬人化。CV大原さやか
原作:全長19.8m、全幅13.5m、全高6.2m、自重11.8t、偵察任務時24.5t、最大離陸重量38.0t
アニメ:全長22.0m、全幅13.2m、全高6.25m、自重12.2t、偵察任務時25.5t、最大離陸重量37.9t、最大速度マッハ3.2(地球大気内・高度16,000m)、巡航速度マッハ1.7(地球大気内・高度16,000m)

FFR-41 メイヴ

墜落したスーパーシルフ(B-03)の代替として配備された。元は無人機で、有人機は原作だとB-01、アニメだとB-03しか存在しない。飛行中に機首を180°反転させてそのまま飛行を継続出来る、ふざけた機体。アニメだとエンジン出力を調整して垂直にホバリングしやがった。実は機動だけで搭乗している人を殺している。無人運用時に16G旋回をやってのけた。複座なのに随分と長い間一人で運用され続けた。これは特殊戦が優秀なはみ出し者で構成されるからである。優秀な者もはみ出し者もそこそこ居るが、それを両立する者は中々居ない。しかも、雪風は搭乗員殺しで、スーパーシルフ時代から合計すると作者が覚えているだけでも三人死んでおり、一人は文字通り雪風が殺している(その人はパイロットだったが)。OVAで擬人化。CV水樹奈々
アニメ:全長18.0m、全幅14.5m、全高6.3m、自重12.2t、最大離陸重量37.5t、最大速度マッハ3.3(地球大気内・高度17,700m)、巡航速度マッハ1.75(地球大気内・高度17,700m)


実際のところ、この面子だと現代機、何機まで相手に出来るんでしょうね? そろそろネタが無くなって来たし、要塞強化もしようが無くなって来たので物語は加速します。……次の更新、何時になるか分かりませんけど。今の世代でエー○コンバット3のネタが解る人が居るか少し不安な作者でした。



[18458] 第10話 サンドトウ飛行場壊滅
Name: タンクさん◆74790b16 ID:addd9404
Date: 2010/06/06 21:26
さて、皆さんこんにちは。ファンタジーというよりはSFな機体に酷い目に遭わされた北条透です。現在討伐軍の幹部が集って会議中です。

「トオル。本気なの? 討伐軍は要塞を構えてじっくりねっとりしっとりと行くのが基本方針だった筈だけど?」

「俺もその心算だったんだが……先の制空戦、キルレシオ見たか?」

「……ええ」

「たった六機にこちらの航空戦力は壊滅状態。挙句要塞上空にまで侵入されて気化爆弾を落とされた。お陰で建物は半壊状態だ。幸い武器庫と兵器庫は地下式だったから被害は無かったが、あれが兵器庫を徹甲爆弾で狙われたら要塞の半分は吹き飛んでいた。それ以前に落とされたのが核兵器だったらその瞬間にジ・エンドだ」

「…今まで見たことの無い魔物。トオル、あれを知っているの?」

「あれは俺の世界で創作の中に登場する戦闘機だ。人間が将来的には、もしくは異世界ではこんな機体も造れるだろうと思ってスペックを作るわけだから当然、現実に存在する機体よりは強力になる」

「一見戦闘機と同じでも中身は別物って訳ね」

「魔法の存在しない世界の俺から見れば歴代勇者使う魔法も、この世界の戦闘に使えない魔法も、同じ魔法という言葉で括られるのと同じだな」

「一緒にしないでよ。全く別物なんだから」

「同じことがこっちにも言える。だが、今回はまだ良かった。敵が比較的現実に準じた技術力の作品の機体だったからな」

「…と言うことは、もっと強力な機体があると?」

「ああ。単機で一国を滅ぼしたりとかな。スーパーロボット系に出られると現代兵器じゃ手も足も出ない」

「スーパーロボット?」

「俺の世界のクリエイターが妄想力を全開にして生み出した機体さ。正直手に負えない。歴代勇者より強いものも居る」

「…冗談だよね?」

「俺の世界の住人の妄想力を舐めるなって事だ。大体、歴代勇者の能力にしたって、その創作の一部なんだからな」

「…魔王は歴代勇者に匹敵する魔物を従えていると?」

「知らん。だが今回、その片鱗を味わった。少なくともこれ以上守勢回るのは得策じゃない。拠点を巡る戦いはどちらも戦力を集中した戦いになる。特にウチは大所帯だからな。防衛線を易々と突破する敵に戦力の所在がハッキリしている防衛戦は自殺行為だ」

「勇者殿、宜しいか?」

「何だ、中隊長A」

それまで俺とジャスティンだけで進めてきた会議に討伐軍の中隊長が加わった。

「攻勢に出るのは構わんのですが、具体的なプランは?」

「無い。俺の勇者補正を前面に押し出して進撃する」

「…無計画と?」

「そもそも、歴代の勇者からしてそうだろ。まぁ、俺の場合は航空支援を常に受けつつ進むがな」

「航空支援?」

「作戦としては、輸送機で兵員を一気に谷まで空輸し、空挺降下。現地で戦車を始めとした機甲戦力を召喚。上空には戦闘機と空中給油機を待機させ常に支援を行わせる。サンドトウ飛行場には可能な限りの戦力を召喚するが物理的に限界はある。討伐軍の一部は飛行場で補給に当たってもらう」

「それは…補給係に志願が殺到しそうですな」

「逆だ、攻勢を志願制にする」

「…正気ですか? 人が激減しますぞ」

「本気かではなく、正気かと来たか。生憎と正気かは自信が無いが、本気ではある。撤退戦では生存本能は有利に働くが、攻城戦じゃ不利に働く場合が多い。死ぬのを前提にされても困るが、恐怖心を義務感で押し殺せる者じゃないと連れて行っても邪魔なだけだ。俺の世界でも精強と言われる軍は大概志願制だし」

「…勇者殿は死ぬのが怖くないのですか?」

「怖いよ。でも、これやり遂げないと帰れないし。俺はこの世界に骨を埋める心算は無い。それに、ウチの家系は軍人家系だったからな。祖父が爆沈した戦艦から生存したのは奇跡に近いし、その後、島流しにされたトラック諸島で米軍の空襲から生還したのは更に奇跡だ。俺も少しは奇跡って物を信じてみようかなと思ってるんだ」

「…奇跡は起こる物ではなく、起こす物ですぞ。最初から奇跡を当てにするのは問題です」

「解ってるよ。俺の世界のイスラムゲリラもあらゆる学問に精通し、発射角や距離を適切に定めた後に「神よ」って言ってミサイル撃つんだ。攻勢は無茶であっても無謀であってはならない。攻勢たって今日明日中に開始する訳じゃ無いんだ。作戦は念密かつ簡潔に、だ」

「それなら良いのです。私は攻勢部隊に参加させて頂きます」

「中隊長A…」

「代わりと言っては何ですが、名前を付けて下さい。ジョン・スミス中隊長は名前を頂いているのに、我等はAだのBだの言われたのすら初めてではないですか!」

「仕方ないだろう。闇雲にキャラを増やしても作者が捌き切れないんだから。ジョン・スミス中隊長にしたって、クライトン家の使用人一同だって全然出てこないし」

「しかし、それでも! 我等は名前が欲しい!」

「そうですぞ!」

「名前を、我等に名前を!」

一気に活気付く中隊長たち。

「いや、しかしだな。作者が洋名に疎くてだな…」

「簡単な物で良いですので!」

「勇者殿、私が言うのも何ですが彼等に名前を。……初めてのセリフ…(ジ~ン)」

「おおう、ジョン・スミス中隊長。そう言えばセリフ初めてだったな」

「ええ。討伐軍最初期からのメンバーなのにこの扱いは酷くありませんか?」

「だから作者が…」

『勇者殿!』×無数

「判った、判った。作者に掛け合っておくから!」

『本当ですが!?』×無数

「ああ! だけど、洋名に疎い作者だから期待するなよ! 下手したらMr.1とかMr.2とかになりかねんぞ」

『一体何処の犯罪組織ですか!?』×無数

「じゃあ、アインとかツヴァイとかドライ…」

『一体何処の殺し屋ですか!?』×無数

「…ビャーチェノワとかシェスチナとか」

『一体何処の愛と勇気の御伽話ですか!? 真面目に考えて下さい!』×無数

「判った、判った。作者に言っておく」

『頼みますよ、本当!』×無数

ああ、(作者の)宿題が増えたな。

「勇者殿!」

「今度は何だ!?」

「航空指揮所から入電中! 哨戒中の戦闘機が荒野に正体不明の飛行群と地上移動群を確認!」

飛行物体。嫌な予感しかしない。

「飛行速度は!?」

「遅いです! 集団が大きいため判断が付き辛いですが、100km/h未満!」

「OHの映像回せ!」

そこに映ったのは…

「飛蝗? それに鼠?」

飛蝗と鼠でした。ちなみに飛蝗はバッタの事です。蝗はイナゴ。飛ぶ蝗って事なんですかね?

日本では飛蝗ってあんまり一般的じゃないですし。どう考えても蝗の方が多いです。

にしても、凄い数だな。

「飛蝗の総数不明! 総重量は1億9500万tと推定!」

その推定量、どうやって出した?

それにしても雲なんて生易しい物じゃない。これは既に空だ。

鼠の方も絨毯なんて生易しい物じゃない。これは地面だ。

それにしても、飛蝗と鼠。どっかで聞いたな?

何だっけ。………あ、戦国な自衛隊の漫画書いた人がそんな漫画書いてた!

確か飛蝗と鼠は原作者も同じだったはず。

あれ、どっちも現代兵器が敗北してるんですが。本当に相性悪いな、こん畜生!

「総員第一種戦闘配置! 戦闘機隊、対地装備にて出動。デイジーカッターやクラスター爆弾、ナパーム、気化爆弾などの広域殲滅装備を装備しろ! 討伐軍、全員に火炎放射器と散弾銃を配備する。扱いは以前教えたとおり!」

意外と知られていない事実ですが、自衛隊では未だに火炎放射器を配備しているんですよね。尤も、武器と言うより、有害物質を焼却するための対BC装備ですが。

武器庫に隊員が走り、埃を被りつつあった火炎放射器を引っ張り出す。

同時に防壁の最上部に有刺鉄線が張られて、そこに発電機が繋がれ電流が流れるように設定された。要塞の空堀と防壁の間の指向性地雷も健在ですよ。

今回、初めてそう言った装備が役に立つかもしれない。

「今回は逃げろって言わないのね」

「ああ、今回はマンパワーが必要だからな。言っとくが、あの飛蝗と鼠、人をも襲うぞ」

「…冗談だよね?」

「狂気って恐ろしいな」

「ホントなんだ。…うぅ、嫌だな~」

飛蝗と鼠の移動速度は今までのどの魔物より遅い。だからそここちらも準備が出来る。

「ユウシャ、ユウシャ。航空部隊、準備デキタ」

現代火器に特定の高度で爆発するような装備は無い。そこで飛蝗には近接信管全開の対空砲弾を落としてもらう。

正直、いつ爆発するかと冷や汗ものだ。でも、精霊ってその辺も凄いのね。誤爆ゼロでしたよ。

あと、消火も出来るUS-2を召喚。水の代わりに航空燃料を群の上からばら撒いてもらいます。

殺虫剤なんて軍用装備に無いっつーの。まぁ、荒野なら環境破壊も最小限でしょ。

再編成したサンドトウ飛行場航空隊は飛蝗の影響を受けない高度を飛行しながら次々と各種爆弾とナパーム、気化爆弾、クラスター爆弾を落とす。

高度には気をつけないと漫画では飛蝗の威嚇に発進した機体がインテークに飛蝗詰まらせて墜落してるし。

広域殲滅系は中々効率よく飛蝗と鼠を駆除していきます。

その間にこっちも迎撃準備を始めましょう。鼠は正直、余り脅威にはなりません。

20mの高さのある防壁に電流を流す有刺鉄線を設置。その上に鼠返し、摩擦の少ない板を直角に付けましたから。

排水溝からの進入は無理ですね。あれは空気の混じらない管路で、しかも結構な水圧で流れてますから。

問題は飛蝗です。空中の群に被害を与える兵器なんて極端に限られます。

トマホークや対艦ミサイルのシステムを弄って群の中で爆発するように設定して発射していますが、効果はやっぱり薄いです。これだけ多いとレーダー反応も巨大なので誘導は楽ですね。

それにしても、群生相の飛蝗の禍々しいこと。

それにしても、これは魔物なのか、ただの自然現象なのか判断に迷いますね。

「マケドニアじゃ、飛蝗も鼠も大量発生することはまずありません! 間違いなく魔物です!」

あ、そうなの。それにしても、数が減らない減らない。デイジーカッターや気化爆弾の上昇気流でそこそこ焼き死んでるはずなんだがなー。

「1億9500万tよ? 湖の水ですら2500万tしか無いのに、簡単に殲滅できる量じゃないわ」

米空母1950隻分。個体数じゃなくて重量で数える辺り、半端ないなー。流石は東北六県を壊滅に追いやっただけの事はある。

「勇者殿! 飛蝗を視認しました!」

オイオイ、マジですか? 何キロ離れてると思ってるんだよ。

「うわぁー。雲を通り越して空ね」

雲を通り越して空だね。切れ目が見えないんだけど。

「あれ、ここを抜けたらどうなるんだろ?」

流石にマケドニアまで行くとは思いたくないが、中国大陸から渡洋して来日した連中だからな。油断は出来ない。

「…あれがマケドニアに襲来したらどうなると思う?」

…控えめに見て国家壊滅。

「…多めに見た場合は?」

…人類滅亡。

「…マジですか?」

…あれ、襲った地で第二世も誕生するから。マケドニアって全国民を二年間食わせるだけの食糧備蓄ある?

「…勘弁して」

とりあえず、風の魔法使いに奴らの高度を下げさせないと。対地兵器の上昇気流も効率が悪い。一番効率が良いのが航空燃料の散布なんだからな。だから俺がこうして湖に陣取って召喚を続けている訳だし。

「300mで離着水できるなんて凄いわね。でも、もう直、空爆限界線に到達するわよ?」

構っていられますか。最悪、サンドトウ飛行場に強行着陸させて飛行場を自爆させる。

「って、正気!?」

せめて、本気かと聞いてください。

「飛行場を失ったら私達…」

大丈夫だよ。カール・ヴィンソンもいるし。

「でも…」

あれを逃したらマケドニア、間違いなく滅ぶよ。

「っ!?」

OK?

「…風の魔法使いを集めるわ」

よろしく。

デイジーカッターや気化爆弾の上昇気流が飛蝗を焼き、殺虫剤代わりの航空燃料がばら撒かれるのに全く減った気配がありませんね~。

いや、間違いなく減ってるんだけど、それを実感出来ない。

鋼鉄でできた米空母が1950隻分。鋼鉄に比べれば遙に比重の軽い飛蝗。比喩ではなく、空が埋まりました。暗いです。日食とタメを張れます。

現在飛蝗は要塞上空を飛行中。それにしても、やっぱり要塞をフライ・パスしましたか。

「…勇者殿。風の魔法使い、配備完了しました。飛蝗の誘導を開始します」

ご苦労さん。ジャスティンは?

「陣頭指揮に立っておられます」

そっか。他の皆は鼠の駆除をよろしくね。

「…承知」

皆、航空戦力の強力さを知るが故に複雑なんだね。

でも、ここで躊躇うと間違いなく国が滅ぶ。人が死ぬ。それを見逃せますか。

俺の目的は元の世界に帰る、手段として魔王を倒す、結果として国が助かる。

他の皆の目的は国を護る、手段及び結果として魔王を倒す。

手段が目的より優先されることがあっちゃいけないんですよ。人、それを本末転倒と言います。結果は手段より下位なんですが、何で俺が国の心配しているんだか。

『ユウシャ、ユウシャ。飛蝗、飛行場ニ集ッタ』

そうか。それにしても、グロイ。遠目から見てもこれだけグロイんだから至近距離から見ればどうなることやら。

ジャスティン、これから飛行場を爆破する。対爆姿勢とってね

『…大丈夫よ。爆破して』

じゃあ、行くよ。ポチッとな。

ドオォーーーン

凄い凄い。気化爆弾の燃料が拡散され、次の瞬間にはデイジーカッターを含む爆弾が一斉に起爆する。

気化爆弾の爆圧は12気圧。これは深度100mの水圧を上回る圧力です。鉄でできたWWⅡの潜水艦でもギリギリなのに陸の生物が耐えられるはずが無い。

下の個体が圧死するほど密集させられていた飛蝗は3000℃にも達する高熱で極西の飛行隊の飛行場と共に蒸発しました。

…ジャスティン、帰還して。もう直、鼠が襲来する。

『…判ったわ』

さて、移動速度で劣る鼠は未だ荒野に居ます。

飛蝗の殲滅を優先した結果、こちらの航空戦力はJAS-39とF/A-18E、F-14A、輸送機とヘリだけになってしまいました。

片羽の赤いF-15Cも損失しました。ショボーン。

「鼠、第一次防衛線に接敵します!」

「第一落とし穴、発動!」

「鼠、第一落とし穴を突破しました!…何て強引な、あれでは圧死する個体が出ているぞ」

「第二落とし穴発動!……突破しました!」

「第三から第五も突破されます!」

「自走榴弾砲、MLRS、90式戦車、Strv.103C、高射機関砲、攻撃開始しました!」

「鼠、攻勢防壁に接触! 爆破します!」

「鼠、残存推定七割!」

さて、ここまで2~3時間か。総員、火炎放射器、散弾銃準備して。

森の中に設置した指向性地雷はIRカメラに接続して殺傷エリアの赤外線が一定を超えると爆破するようにセットしました。一々、マニュアル操作なんてしてられません。

それにしても、普通に突破して来ますね。来た!

「長距離攻撃撃ち方始め!」

「ミズーリ、砲撃始めました! 自走榴弾砲、MLRS、攻撃始めます!」

ドゴォォーーーン

おお、16インチ砲の射撃、初めて見た。凄い凄い。本当に湖に波紋が広がってら。

「90式戦車、自走高射機関砲、撃ち方始め!」

もうここまで来ると最終防衛ラインですね。

「M2重機関銃、96式自動擲弾銃、撃ち方始め!」

それにしても、流石に地面と言うほど多くは無くなりましたが、まだ絨毯と言って良い程度は残ってます。

「火炎放射器、散弾銃撃ち方始め!」

遂に奴等、空堀を登り始めました。そこに撃ち下ろしで火炎と散弾が襲い掛かります。

それにしても、野生動物は火を怖がるのに狂気に駆られた集団は寧ろ火に突撃してきます。

火炎が集団に押されて鎮火するとか誰が想像できますか。

遂に奴等防壁の下まで到達しました。そこで、指向性地雷のお出迎えです。

ドガァァーーン

…余り効果ありませんでした。

その内、戦闘集団が電磁柵に接触します。

バチバチと嫌な音が響き、こちらまで焼け焦げた匂いが漂ってきます。

「勇者殿! 発電機持ちません!」

「有刺鉄線も高熱化しています!」

仕方が無いか。この量が相手じゃな。くそ、有刺鉄線じゃ無くて、銅線にしとけば良かった。

「電磁柵、突破されました!」

心配ない! 人類の英知の結晶、鼠返しが有る! ガ○バの冒険でも大活躍したんだからな! まぁ、結局米倉に侵入されましたけど。鼠が梯子掛けるとか反則でしょう。

「…それにしても、これだけで本当に鼠が上がって来られない物なのね」

ふんっ、鼠共、人間様の英知の結晶を舐めんじゃ無いぞ!

「…これが英知の結晶って色々と問題あるんじゃない?」

全て些細!

「そう…。まぁ、あの群が入ってこられないのはありがたいけど。私、鼠、嫌いだから」

ハムスターやモルモットならまだしも、溝鼠を可愛いと思う奴は早々居ないベ。

「それにしても、現代兵器を駆使した挙句、最後の切り札が鼠返しとはね」

案外、昔に作られたものが現代にも通用するなんて例は事欠かんさ。それは現代兵器も同じこと。造られてから100年も経った拳銃の人気が高かったり、制式採用から80年も経つのに未だ現役の重機関銃があったり。

「何か違う気がする…」

それにしても、異臭が凄いな。これはまたガスマスク装着して撤去作業か。飛行場の再建もしなくちゃいけないし。はぁ、気が重い。

「私、鼠の撤去作業一抜けね」

良いよ。

「良いの!?」

代わりに書類仕事よろしく。

「うっ!?」

世の中、早々上手くはいかないんだよ。


NEW! 魔物図鑑に新たな固体(?)が加わりました!




餌となる笹の異常発生と鼠の天敵(猛禽類、鼬、狐、狸)などを人が無節操に狩猟したことで発生した鼠群。山林でアハンウフンしていたバカップルが襲われたことで事態が発覚。その後、主人公の警告にも関わらずに対処が行われなかったことで集落が襲われ、死傷者が出る事態となる。ガスホースを噛み切ってくれるので火災が発生。結局、暴徒集団の発生や何処かの狂信者がペスト菌をばら撒いた事もあり、山梨県は軒並み壊滅の憂き目を見る。続編ではテロを企てた阿呆が存在したこともあり、首都圏が壊滅する。火を怖がらず、寧ろ突進してくる狂気の集団。放って置いても勝手に自滅するが、自滅までの被害が半端ではない。奴らの通った後は骨しか残らない。

飛蝗

中国大陸から東北地方に1億9500万tもの飛蝗が押し寄せ、農作が壊滅。関東各県の難民受け入れ拒否や政府が首都圏の食料確保を優先した事もあって、東北六県が独立を宣言する。その後は飛蝗相手より、人間相手にドンパチする方が多かった。群で行動する群生相は凶暴で他の昆虫を襲う場合も有る。更に自動車、列車、航空機の事故の原因となった。体重とほぼ同等の草を一日に食すので、一日に米空母1950隻と同じ重量の草が消える。奴らの通った後には幹しか残らない。



[18458] 閑話5 進む準備 加筆
Name: タンクさん◆74790b16 ID:addd9404
Date: 2010/06/26 16:01
さて、皆さんこんにちは。飛蝗のせいで飛行場を失った北条透です。

おのれ飛蝗。人が折角攻勢に出ようと思ったのに出鼻を挫かれました。

現在、サンドトウ飛行場は再建中です。

まぁ、そっちは召喚しまくった施設科車両と魔法使いに任せるとして、討伐軍主力は現在、空挺降下の訓練中です。

C-130輸送機 高度3000m

酸素マスクが無くても行動できるギリギリの高度ですわな。そして、俺はネタに走る。

「お前達は何だ!? 飛ばなければ価値の無い連中だ! 悔しければ食らい付け、しがみ付け! ほら行け!」

「しかし、勇者殿! 高いであります!」

「低高度からの方が良いってか!? 難易度無茶苦茶上がるんだぞ!?」

「しかし、足が竦んで動けないであります!」

「監視塔からロープ降下が出来るのに、何故にスカイダイビングが出来ん!?」

「我々に空を飛ぶという習慣は無いであります!」

「俺の世界だって普通の人間は一生体験せんわ! 軍人だって空挺レンジャー有資格者ぐらいしかせん! 貴重な体験が出来るんだ! さっさと行かんか!」

しかし、誰も飛ばん。駄目だ、コイツら。早く何とかしないと。

「仕方が無え。俺が手本を見せてやる! 行くぞ! アイキャンフラーーイ!!」

「ギャアァァァーーー」

俺の直後ろから悲鳴とか上がりましたが、気にせず、割と躊躇無く飛び出す俺。絶叫マシンとか大好きです。

ちなみに、降下はタンデムで行っており、風の魔法使いが必ず一緒に飛びます。

本番は自身以外にも複数の落下傘を誘導してもらわなくちゃいけないので、早く慣れろです。

割と早い段階で落下傘を開傘。

「勇者殿! 恐いであります!」

「もう飛んでんだ! 四の五の言わずに、湖に降りられるように誘導せんかい!」

「チッキショーー!!」

下から風が吹いて段々と湖に誘導されます。

ちなみに、俺達はしっかりライフジャケットを着て、胸にパラシュートを切り裂くナイフを装備しています。

ドブーーン!

暫くの空中遊泳の後に着水しました。気候的に夏だと言うのに水が冷たくて心臓発作起こしそうです。直に待機していた短艇が拾いに来てくれます。

「勇者殿、空の旅は如何でしたか?」

「ふふふ、癖になりそうじゃ。これ、今度から討伐軍正規訓練メニューにするべ」

「……母さん。俺、燃え尽きたよ。真っ白にな」

一緒に降下した魔法使い君が燃え尽きているが気にしません。灰になってもガソリンぶっ掛ければまだ燃えます。全てCO2になるまで火は消したげませんよ?

ヴォォーーーー!!

上空から機関砲の発砲音が聞こえます。

ちなみに、輸送機の後ろにJAS-39が追従しており、誰も飛ばないようなら威嚇射撃しろと命じて置いたのですが、まさか本当にする事になるとは。

それで意を決したのか次々にパラシュートが空中に咲きます。結局、皆、無事に着水に成功しました。今度は陸に降りる訓練をしないと。

今現在、討伐軍は三交代制です。空挺降下、鼠の除去、休憩です。

ちなみに幹部は、空挺降下、書類仕事、休憩の三交代制。

魔法使いは、空挺降下、飛行場建設、休憩の三交代です。

いや~、書類仕事の期限、完全に無視してますけどね。

こっちの一週間の生活リズムを送ってやったら何も言って来なくなりました。

マケドニアは少し労働基準法とか人権とか考えた方が良いです。


で、今度は飛行場に来ています。今度は飛行場、三箇所同時建設です。

まぁ、先に吹き飛ばしたサンドトウ飛行場跡地は割と簡単に再建できます。

今度はもう二箇所に同規模の飛行場を造るです。

名前は決めてあります。ヴァレー飛行場とケストレル飛行場です。

航空戦力も中身は変わりませんが、数が増えます。

そうそう、F-22AとSu-37を常駐させるです。

また架空機に出られても困りますし。少なくとも、初期型の可変戦闘機くらいならF-22Aが頑張れば撃墜できるです。


で、今度は鼠処理です。

…ナパームや火炎放射器で粗方燃やし尽くしているので、炭しか残っていませんが。

それを次々とゴミ袋に放り込んでいきます。それを集めて、穴の中に捨てて行きます。

穴はミズーリの着弾跡を利用です。穴掘る手間が省けます。魔法使いは埋める作業に専念してもらいます。


最後に書類仕事。……ジャスティンが燃え尽きていました。

「トオル~、全然終らないよ~」

何と言うか、女性として越えてはいけない一線を越えてしまったかのようです。

幹部は三交代と言いつつ書類仕事の頻度が高いですからね。

特にジャスティンは俺かジャスティンしか捌けない書類を扱うので早々休めませんし。

「判った、判った。とりあえず、カール・ヴィンソン行ってシャワー浴びてきなさい。6、いや、8、いや、12時間休憩」

「ホントに!?」

一気に元気になりました。でも、その顔で迫らないで下さい。余り、言いたくありませんが、…とっても怖いです。

「高機動車――!」

『呼ンダ? 呼ンダ?』

「ジャスティンを湖まで送って。軽徒橋は渡せないで、短艇で送らせて。出来れば誰かに部屋まで送らせてもらいたい」

『判ッタ、判ッタ』

ちょっとヤバ目な事になっているジャスティンを高機動車に押し込んで発進させます。…さて、お仕事しますか。

書類に目を通してサインをして行きます。それをただひたすら繰り返し、いつの間にか、隣に俺の知っている顔に戻ったジャスティンが来ていました。

「…あり? もう12時間経ったの?」

「え゛!? …まさかとは思うけど、もしかして、ずっと仕事してたの?」

時計を見ると確かに12時間経ってました。夕闇だった空は朝日になってます。思い出したようにお腹がグゥ~と鳴ります。

「ああ、気が付かなかった。道理で腹減る訳だ。何か、食って来よ」

「ちょ、ちょっとトオル!?」

「うん?」

「最後に寝たの何時!?」

「え~と……鼠と飛蝗が来る前…かな?」

考えてみたら一週間以上前でした。最近、余り睡眠を必要としません。

今も身体は芯からだるいのに眠気は全くと言って良いほど無いです。

…でも、こんな体調じゃ空挺訓練は危険ですね。止めときましょう。

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

「何? ご飯食べさせてよ」

「最近、身体の調子どうなの!?」

「どうなのと言われても……。強いて言うなら……カユ・ウマ?」

ストレスからか背中が痒くて仕方ありません。今度、孫の手作りましょう。

ついでに、味覚がおかしくなってどんな食事でも美味しく食べれます。この前はMREとか普通に完食しました。ご馳走様です。

某全金属な騒動で、傭兵部隊の軍曹が都立高校に持ち込んで、副会長にどろどろでビニール臭くて食感のおかしいツナヌードルと言われた物も普通に食べちゃう今日この頃。

「何処の生物災害よ。……これ、何本に見える?」

「何言ってんの? 9本でしょ?」

「3本よ!! 片手の本数が5を超えてる時点でおかしいと気付きなさい!」

「……あり?」

目をごしごしと擦ってもう一回。

「…ああ、ごめん、ごめん。間違えたわ。12本だったね」

「何で増えるの!?」

「え? 12本じゃ無いの?」

「何で心の底から不思議そうな顔をするの!? 両手の指を合わせても10本よ!」

自分の両手を見ながら数えます。20+20は…40本? いやいや。それ、人間の手じゃ無いだろ。

視覚だとどうにも情報がおかしいので触覚を使って触りながら数え直します。

「………おぉ~、確かに10本だ」

「何でそんな新発見みたいな反応をする訳!? トオル、貴方少し休みなさい!」

「いやね、それが休めんのですよ。休むと要塞が火に包まれる夢を見ましてね? それ以来、睡眠が全く…」

「ストレスの末期症状じゃない!?」

「そなの?」

「そうよ! 全く。ちょっと医者の所、行くわよ」

「あ~、待って。ご飯だけ食べさせて」

「はぁ~。…12時間も働き通しで、最後に食事したの何時なの?」

頭の中で逆算します。……え~と。

「32時間前だね。腹空くわけだ」

「さんじゅうにじか~ん!?」

「その前も12時間は開いてたわ。通りでどんな食事も美味しく頂ける訳だ」

「……ちなみに、どんな食事を?」

「MREとか」

「………視覚だけじゃなくて味覚も………」

で、MRE食うのを止められて、サラダとかシチューとかパンとか普通の食事をさせられました。

…MRE美味しいのに。あの世間一般では不味いと言われる味が今の俺には堪りません。

あの味で気付け薬にもなりますし。眠くはならないですけど、意識がハッキリしません。

で、今、医者の所に来ています。

「ふ~む」

「先生、どうなんですか?」

「ストレスから来る不眠症ですな」

「ストレス……」

俺ってばストレス溜まってたんだ。自覚無かったな。

「まぁ、勇者殿の場合は見知らぬ土地にいきなり召喚されて、魔王と戦えと言われたのです。当然と言えば当然。寧ろ、今まで発病しなかったのが不思議なくらいですな」

「え~? 言っちゃなんだけど、俺、順応性高いよ?」

「しかし、聞いた話では勇者殿の世界は平和だったのでしょう。いきなり見ず知らずの世界に召喚されただけでも人は体調を崩します。歴代勇者でもその症状は確認されています。ましてや勇者殿は既に月単位でこの世界に留まっておられるのです。我が軍の中でも、同じ世界で遠征しているだけなのにホームシックを患う者が出ております。勇者殿が発病しても何の不思議もありません」

「それに加えて、働きすぎなのよ。確かに忙しいけど、休憩は取らないと余計に効率が悪くなるわ」

「だから、寝むれないんだってば」

「催眠効果のあるネムネムの実を処方しましょう。一日三回、食後に必ず飲むこと」

そう言って薬剤棚から干し葡萄みたいな果実を寄越す医者。毎食後一日三回。しかし、今の俺には問題があるのです。

「俺、食事、一日に一回を割ってるんだが」

あり? 何か医者とジャスティンの顔がとても怖くなりました。

「ドクターストップです。勇者殿はあらゆる業務を停止して休みなさい」

「え~、そうは言っても~」

「トオル、これは討伐軍副指令命令よ」

「ちょ、俺、討伐軍指令……」

「討伐軍副指令権限で討伐軍指令の権限を三日間凍結します。…三日間みっちり休むこと。良いですね?」

「ジャスティン、そんな権限持ってたんだ。知らなかった」

「良・い・で・す・ね?」

…12時間前のジャスティンとは別の意味で怖いです。

何か逆らえないオーラが。数ある二次創作のリリカルな魔法少女の喫茶店パティシエとか、魔法使いの子供先生の、ちづ姉さんとかさっちゃんとか。

「…はい」

当然、そんなオーラを出されたら逆らえない俺。

……軟弱者と笑いたければ笑うが良いさ! この威圧感は実際に対面した人間じゃないと理解出来ないんだよ!


で、降って沸いた休暇なんだけど……ネムネムの実を食べたのに眠れません。

他にもミルクティーやホットミルクなんかを飲んでいる訳ですが、全く効果なし。

余りにも眠れないんで、眠くなるまで書類仕事でも……。

「トオル? そんなに物理的に眠らせて欲しいのかしら?」

はっ!? 馬鹿な、室内には俺しか居なかったはず!?

「ギャグパートってね、主人公がいけない行動をした時に一瞬で参上できるのよ? 魔法使いの子供先生な物語でも、ちづ姉さん、戦闘にも対応できるガイノイドすら欺いたでしょ? そもそも、貴方何時からワーカーホリックになったの? キャラに合ってないわよ」

いや、俺もそんな心算は無いんだが、どうせ後に回してるだけなんだから出来る内にやっとくのが得策だと思いません?

「今の最優先事項はトオルを休ませる事です。四の五の言わずに寝なさい!」

ゴツン!!

おごぉ!?

勇者ニ右斜メ45°ガ炸裂。勇者ハ気絶シタ。

「ふぅ、一週間も寝てないのに、ここまでしないと眠れないなんて、どんな神経してるのよ…」

そう言って部屋を出ようとするジャスティン。しかし、いきなりトオルが魘され始めた。どうやら本人も言っていた要塞が火に包まれる夢を見ているようだ。

『そーいん、たいひ……さんどとうひこうじょうにしきゅうたいひ…ようさいはほうきする……』

「え、ウソ!? 頭を叩いて気絶させたのよ!? その状態で夢なんて見るはずが…」

トオルの魘され具合は半端ではない。ベッドから落ちそうな勢いだったので強引に上から抱きかかえて固定する。すると表情は険しいままだが、首から下は落ち着いた。

『帰りたい…(ボソッ)』

「っ!? ……寝言?」

トオルを見るが、寝たままである。しかし、目からは涙が溢れている。それをそっと拭う。

「……ごめんね、トオル。頼ってばかりで、私達、何もしてあげられてないよね」

勇者は戦って当然という気風はこの世界に蔓延っている。

しかし、勇者は常に軍人やそれに準じるものが召喚される訳ではないのだ。

トオルのように完全無欠の一般人が召喚される事もある。

確かに彼等は強大な力を持つ。しかし、忘れてはいけない。軍人や警察官と一般人の最大の違い。それは技能ではなく、覚悟なのだ。

どんなに優れた技能を持っても、覚悟を持たぬ者は武官足り得ない。そして、制服を着ることでその証とする。故に制服の持つ意味は重い。

人は非常時に制服を見ると安心し、制服を着た人間の指示に従う。

「トオルは宣誓もしてなければ、何の訓練も受けてないんだもんね。色々と背負わせちゃってごめんね…」

トオルが弱みを人に見せるのは稀だ。

一番長く側に居るジャスティンですら数回しか見た事がない。

それも、こちらから誘発させる形で自発的ではない。

何の訓練も受けていない一般人としては驚異的と言える。

まぁ、トオルの本音を言えば、(多分)年下の女の子であるジャスティンに弱みを見せれますか、なのだが。

そんなこんなで11時間後。

「…ここは誰? 俺は何処?」

トオルが目を覚ましました。

「あ、トオル。起きたの?」

「君は誰? そして、俺は誰? 何も思い出せない」

「…ちょっと強く叩き過ぎたかしら。もう一回」

ガツン!!

「はぐぁ!?」

勇者ニ右斜メ45°が炸裂。勇者ハ気絶シタ。

3分後。

「……何だか頭がズキズキする」

「あ、トオル。起きたの?」

何事も無かったかのように接するジャスティン。

「……頭が妙に痛いのは、とりあえず置いといて。ジャスティン。何故に君は俺を抱えて添い寝してるのかな?」

「もう、覚えてないの? トオルを寝かしつけたらトオルが寝ぼけて私に抱きついてベッドに引き込んで、そのまま放してくれなかったんだから。(ポッ)」

イヤンイヤンと腰をくねらせながら赤面するジャスティン。

「……マジですか?」

「うふふ」

「orz 絶望した。寝ぼけて他人に抱きつく自分に絶望した」

「(まぁ、本当は魘されたトオルを落ち着かせるために私がやったんだけど、言わない方が良いわね。その方が面白そうだし)」

「ジャスティン。俺、ちょっと旅に出るよ。探さないでね」

「駄目よ。三日間は完全休養。その後は書類仕事に空挺訓練、終ってなければ鼠の除去とお仕事目白押しなんだから」

「旅にすら出られない!? 俺はベッドに引きずり込んでしまったジャスティンにどんな顔して接すれば良いんだ!?」

「笑えば良いと思うわよ?」

「何で引きずり込んだ俺がこれだけ慌てて、引きずり込まれたジャスティンが平然とネタに走ってるの!?」

「だって、優しくしてもらったし…(ポッ)」

再び腰をくねらせて赤面するジャスティン。

「優しく!? 俺、一体何をしたの!?」

「それを私の口から言わせるなんて…トオルの鬼畜さん♪」

「ウガァーー! 俺は一体、何をしたんじゃーー!?」

した、されたで言うなら寧ろされた側なのだが、極度の睡眠不足と二度に渡る右斜め45°で記憶が混乱しているトオルはその事を思い出せない。

結局、トオルをからかって遊んでいるだけのジャスティンに良いように遊ばれて終了しました。

「とりあえず、お腹すいた。何か食べてくる」

「MREとか?」

「MREってアメリカの? 何で態々そんな不味いって評判の物食べなきゃならんの? 慣れない人間は匂いだけで戻すんだぞ?」

「…そのセリフ、半日前の自分に言って欲しいわね」

結局、何を食べたかって? 普通にパンとかシチューとかサラダですよ。

…野戦糧食? あれは調理が不可能な環境下で食べるものです。自衛隊員だって普段は野外炊具で炊いたもの食ってんですから。


で、俺は今現在、カール・ヴィンソンの艦尾から釣り糸を垂らしています。

平和だ。俺が釣りをしているのに警報が鳴らないなんて初めての経験じゃないでしょうか?

全金属な騒動の軍曹も釣りが趣味らしいのですが、この平和な時間は何物にも代え難いですね。

で、この休暇中、俺ってば寝る時に何故かジャスティンの抱き枕にされています。

抱き枕って言うのは普通、自分より小さい人間を用いるのではないでしょうか? 俺、ジャスティンより普通に大きいですし。

正直、そんな状況下でまともに寝られるのかと思いましたが、意外とあっさり眠りに落ちてしまいます。

俺の煩悩ってば睡眠欲に負ける程度の物だったのね…。

トオルは気付かない。自分が毎晩魘されている事に。

魘されている人間に一番効果的なのは人肌の体温と心拍音。

それにネムネムの実を併用することで、トオルはかなり久しぶりの熟睡を味わっているのだ。

そんなこんなで、こっちに召喚されて以来、絶好調じゃないかって体調で休暇を終えました。


「では、行きますぞ。ウィキャンフラーーイ!!」

C-130からそう言って飛び出す隊員たち。

三日前はあんなに嫌がっていたのに、随分と積極的になったものです。

パラシュートを開く瞬間は離れるものの、それ以外は何処のアクロバットじゃ、と言いたくなるくらいに密集してるし。

「勇者殿! 降下高度をもっと上げましょう!」

「これ以上は酸素マスクが必要になるから却下」

実際のところ、ヘリボーンが一般的となった現代じゃ、空挺作戦はそうそう行われないのですよ。

でも、要塞から谷までヘリじゃ航続距離が足りませんし、最高速が300km/h程度のヘリじゃ時間もかかり過ぎます。

二千人近い人員をヘリで空輸するのも大変ですしね。

隊員達は湖に着水する第一段階から、飛行場に降下する第二段階(今ここ)、そして、今後はカール・ヴィンソンの飛行甲板に着地する弾三段階に至ってもらいます。

いや~、風の魔法使いも随分と技量が上がりましたね。


次いで飛行場を査察します。俺の休暇中にサンドトウ飛行場は再建され、新たにヴァレー飛行場とケストレル飛行場が完成していました。

ここにKC-767を大量に配備します。このKC-767、F-15を15機満タンに出来るだけの燃料を搭載できます。

同様にC-130の空中給油仕様、KC-130も召喚します。KC-767はそのシステム上、ヘリや一部の戦闘機に空中給油できませんから。

更に新規配備のF-22AやSu-37、前から配備されていたF-15E、A-10、JAS-39、B-1、C-17、C-130もどんどん召喚を開始します。

同時に兵器庫と燃料庫も大量に設置します。空挺時、俺は最前線に出る事になるでしょう。それでも、後方から充分な支援を得られるだけの態勢を整えないといけません。

更に新規で二機種を用意しました。

EF-2000 タイフーン。この機体は対空でも対地でも結構な戦闘力を有し、更にスーパークルーズができるので使い勝手が良いです。何と7.5tの爆弾を搭載できます。全速度域で良好な運動性を誇り、正面のレーダー反射面積は通常機としては最小クラス。4.5世代機としては最強なのではないでしょうか?

F-111 アードバーク。F(戦闘機)の機体番号を持つ機体としては珍しく横の複座です。機体スペックではF-15Eを上回る性能を持ち、対地攻撃作戦ではF-16やF/A-18以上の信頼を勝ち得ている機体です。戦闘爆撃機に分類されますが、実質的には空戦能力は無いです。F-15E以上の大型機ですから。

ここに元の世界でも全世界の空軍力でも相手に出来る航空戦力を召喚しました。

F-22A ラプター 108機

Su-37 チェルミナートル/スーパーフランカー/ターミネーター 324機

F-15E ストライクイーグル 648機

A-10 サンダーボルトⅡ 324機

JAS-39 グリペン 108機+12機 (航続距離不足で作戦には参加しない)

EF-2000 タイフーン 324機

F/A-18E スーパーホーネット 48機

F-111 アードバーク 324機

B-1 ランサー 108機

E-767 空中管制機 3機 (念の為)

C-130ハーキュリーズ 120機

C-17 グローブマスターⅢ 360機 (部隊降下前に戦車や装甲車を搭載した本機が強行着陸。援護に当たる)

KC-767 空中給油機 120機

KC-130 空中給油機 48機 (F/A-18Eや現地で召喚するヘリの為)

RF-4EJ ファントムⅡ偵察型 12機 (毎日忙しく飛び回ってます)

うん、アメリカ空軍にだって喧嘩売れますね。

各飛行場には通常機用滑走路が三本、STOL機用滑走路が三本あります。

作戦決行当日はここに部隊を移動させて飛び立つ事になるでしょう。

まぁ、先の会議で言った作戦のさの字も構築できていないのでまだまだ先の話ですけど。


で、現在、幹部連で会議真っ最中です。

「百キロ単位で離れた地域に一気に千単位の兵力を投入する。恐ろしい戦法ですわい」

「空挺作戦。…奇策としては中々の物ですが、これを正攻法として用いるのには反対ですな」

「確かに囲まれる恐れがある。しかし、陸路をちんたらと進軍するわけにもいきますまい。我等は歴代の討伐軍に比べ、攻撃力で大きく劣るのだからな」

「左様。一気に敵の懐に飛び込んで戦うしか勝機はありませんぞ」

何か、参謀連が空挺作戦の有効性を論議している内に俺は魔王の谷の地図を広げて進軍ルートを探していた。

と言うか、参謀連。空挺作戦決行は既に決定事項なのだ。今更何を言い合ってるんだ?

『こうでもしないと、我等、セリフが無いでしょう!!』×多数

そんなやりとりしている暇があるなら、こっち来てルート探すの手伝えですよ。

『……ハイ』×多数

やっぱり、谷内部はかなり木が多いですね。広場らしい広場は城の密集地域のみ。

でも、流石にそんな所に降下する度胸は無いです。

敵が態勢を整える前に攻撃できて、尚且つ、直接的な迎撃の届かない所。…難しい。

「とりあえず、魔王城から五十キロ前後手前に降下すればどうでしょうか?」

まぁ、その位が妥当だろうな。現代兵器が全速で突っ走って凡そ一時間か。しかし、これ以上は近づくのは危険だ。降下中の兵隊なんてただの的だからな。

「360機もの輸送機が強行着陸する場所の確保も行わなければなりません」

デイジーカッターで切り開くにしても、爆発直後に降下する訳にも行かないし、事前に爆破すれば降下場所を教える事になる。…結構、問題山積みだな。

「トオル、そんな時こそ魔法使いの出番よ!」

ジャスティン? 魔法使いをどう使うと?

「前に飛蝗に燃料をばら撒いた飛行機が居たでしょ?」

ああ、US-2ね。

「あれに湖の水を積載して爆心地にばら撒くのよ。そうすれば水は蒸発し、それと共に熱も下がるわ」

水が気化するときに熱を奪うのは知ってるが、それだけじゃ足らん。勿論、他に案があるんだろ?

「ええ。風と水の魔法使いの合同作戦ね。問題は、水をいかに効率良く散布するかと、蒸発した水蒸気を拡散させるか。空中散布する水を魔法使いが増幅し、それを風の魔法使いが爆心地を抜けるルートを作る。これ、森林火災なんかで良く私達が使う方法なんだけど」

確かに理に適ってはいる。水が蒸発の時に熱を奪うのは事実。

だが、H2Oが消える訳ではない。液体から気体となったH2Oを速やかに拡散させないとそれはサウナと同じだ。

ジャスティンの言うことは一見正しい。しかし、言うほど簡単とは思えないが…。確かに熱が冷めるのは早まるだろう。しかし、それでも時間が掛かるんじゃないだろうか。

「勇者殿!」

声を上げたのは確か水の魔法使いの代表格の男。何じゃい? 何か妙案でも?

「水の魔法使いを代表して発言します。我等、充分な水源さえ確保できれば熱を拡散させるなど朝飯前です!」

…そなの?

「勿論です!」

そう断言する水代表。でも、熱の拡散なんて自然界でも勝手にやってる事なのですよ。問題は効率。その辺、どーなの?

「高効率です!」

…えらい自信ね。

「お忘れですか、勇者殿。我等、戦闘においては全くの無力! されど、裏方においては半端ではない力量を有するのです!」

言ってることは正しいのだが…。

結局、テストする事になりました。デイジーカッターを投下して、爆発。キノコ雲が上がります。…コイツら、15分で熱を40℃まで下げやがった。

…そんなに力があるなら早く言えですよ。飛蝗とか鼠とかの駆除、無茶苦茶、楽にできたじゃないですか。

「能ある鷹は爪を隠すのです!」

……。

ジャキン!

俺の腕の中にはいつの間にやらショットガンが。ベネリM3、全米のSWATで使用されるセミオートとポンプアクションの切り替え可能なコンバットショットガンです。全金属騒動で軍曹が西瓜割りに使ったり、生物災害3で主人公が使っていたです。

「おぉう!?」

皆、要塞の一大事に爪を隠しとくなんて、少し頭冷やしましょうか。

「勇者殿!? それは洒落にならんのです!!」

大丈夫、弾はゴム弾です。プロボクサーに殴られた程度の痛みしか無いのです。ギャグパートなのに非殺傷弾を使うなんて、僕、優しいよね。

「ぶへらっ!?」

空手同好会の会員に容赦なく撃ち込む軍曹のように。全発撃ち込んでやったですよ。

この日の会議は結局、勇者の乱心にて中止となったのでした。ちゃんちゃん。


「構え、撃てーー!!」

タタタタタターーーン

俺は現在、歩兵部隊に混じって射撃の練習中です。今まで自衛の技術は大して学んで来なかったですけど、これから先は何が起こるか分かりませんから。

『イタ、イタタタタ』

ちなみに的は90式戦車です。痛い痛い言ってますが、実際には全く痛くないそうです。寧ろ楽しんでる?

90式戦車には時速30キロで右に左に動いてもらって、俺達はそれ目掛けて射撃を続けます。

でも、装軌式の車両への射撃は装輪式の車両への射撃に比べれば難易度は下がります。だって、曲がる時に極端に減速しますから。

それにしても、世界中の軍隊が射撃の移動目標を作るのに苦労しているのに、我が軍は戦車を引っ張って来るとか豪勢です。

次は剣。と言っても、俺には中学高校の体育で習った剣道の経験しか無いですけど。ジャスティンと綿を巻いた木刀で向い合っているです。

「トオル、面白い動きね? 何処で習ったの?」

俺の世界の教育機関で習う剣技だよ。

「へぇ~」

と言っても、この動きは軽い竹刀を振るうように作られているので、真剣はおろか、木刀でさえも振り回すのには適さないのです。

尤も剣道とて基礎となった動きは剣術。違いは踵を浮かすな、程度しか俺も知らないですが。でも、この差は意外と大きいんですよね。幕末最強の剣客集団として有名な新撰組。近藤、土方、沖田といった主要メンバーが使っていた天然理心流。真剣を用いれば恐ろしく強いですが、竹刀剣術としては関東の田舎剣術に過ぎなかったとか。京都に出てくるまでは全く知られていなかったと言うんですから驚きです。


カツン、カツン、カツン、ドゴ!

オップス!?

ジャスティンの木刀が腹部に直撃するです。い、痛い。

「あ、綺麗に入った。トオル、大丈夫?」

だ、大丈夫…。

「少し休憩にしましょうか?」

頼む。腕がもう上がらない。

「軟弱ね~」

ほっとけ。俺の世界じゃ、剣を振り回す筋肉なんてそうそう鍛えないんですよ。

皆さん、木刀を振るなんて大した事ないと考えるかもしれません。実際に木刀を持っても、少し重いな程度にしか感じないでしょう。でも、これより遥かに軽い竹刀でも一試合振り回せば腕は肩より上がらなくなっちゃんですよ。中学の授業の班対抗戦で人数足りないからと二試合連続でやったときは泣きたくなりました。いや~、あれを平然と振り回す剣道部員って腕力凄いですよね。

「全く、大の男が情けない」

対してジャスティンは平然としています。肉体的に女は男より筋力で劣るものなんですが、どんな鍛え方してるんだ? どんな見方しても筋肉が付いているようには見えないんだが。

「それは鍛え方よ」

鍛え方?

「人間の筋肉は有酸素運動を担当する赤筋と無酸素運動を担当する白筋に分けることが出来る。でも、僅かながらその両方の性質を持つピンクの筋肉が存在するのよ」

知ってるよ。心臓を始めとした極一部にしか存在しない白筋の瞬発力と赤筋の持久力を有する筋肉。

「それを意図的に増強できるとしたら?」

…生物学に喧嘩売ってるよね? 何処の哲学する柔術家だよ。

「でも、これくらいしないと屈強な男共の中で女の私が隊長張るのは無理なのよ? 男が指揮官ならその風貌だけでそこそこの威圧感が出るものだけど、女の場合は全ての不信を実力で捻じ伏せなくちゃいけないんだから」

…男女平等が進んだ俺の世界でも女性の指揮官が中々居ないのも似た理由なのかね。

「さて、休憩終了。立ちなさい」

応よ。

「トオルは基礎技術を持っているから楽だわ。後は、技術を活かせる筋力と動体視力を持たせるだけ。寧ろ、幾つかの業は私に教えて欲しいくらい。それにしても不思議な鍛え方ね。基礎筋力が全く無いのに技術だけ持ってるなんて」

この技術は刀を使う事を前提としているから余りお勧めしないよ? それと、数分間の試合だけ保てば良いんだから、体作りは本格的な剣道部員でも無いとやらないよ。所詮は、心技体を鍛えるための武道なんだから。精神さえ鍛えればそれで良いって感じだったし。

石ころ満載(一応全校で石ころ除去はした)の真夏のグラウンドや雪国の真冬の体育館に裸足とか虐めだったな。そもそも、夏冬合わせて二回も体育で剣道する中学とかおかしくない? いや、俺は剣道好きだし、お陰で高校の体育、剣道部員を除けば圧勝だったから良いんだけどね。そして、化学部の顧問で理科の女性教諭(身長150cm)が実は剣道三段で体育の授業に出てきた時はビックリだった。

「刀?」

刃が両方についているのを剣。刃が片方にしか付かないのが刀。特に俺の故郷に伝わる日本刀は世界最高の刃物と名高いんだ。質量で叩き切るじゃなくて、円運動をもって斬る。これが出来る刃物は中々無いよ。この刀を使うことを前提にしているから突きと斬撃を両立している武術なんてそうそう無いし。

「その刀、欲しいな~」

そんな物欲しげな目で見ても、無いものは無いぞ。

「ぶぅーぶぅー」

ふっ、隙あり! 面―!!

「無いわよ」

へぶし!?

隙を突いた心算が見事に返り討ちにあいました。ちゃんちゃん。

でも、質量で叩き切る西洋剣は扱い自体は楽なんだけど、必要な筋力が半端ねーのですよ。剣道の日本刀を用いることを前提にした円運動の動きが役に立たない。と言うか、そんな動きをしなくてもスピードが乗っていれば質量で切れるので必要ない。それに、剣道で習った複数の業。これってば重くて慣性モーメントの大きい西洋剣じゃ全く使えないのですよ。この重い剣でフェイントとかまず無理です。

「じゃあ、とりあえず、一日素振り千回ね」

おいおい!? 今でさえ殺人的なスケジュールをこなしてるのに、俺に死ねと!?

「それもそうかー。…トオル、剣の使用は諦めなさい。貴方、拳銃出せたでしょ? あれは完全に威力不足だけど、あれを使った方がまだ良いわ」

…マグナムなら威力不足なんて事は無いやい。

「あの大威力の拳銃? あんな反動の強い物を使うくらいならライフル使った方が早いし、手首に負担が掛かるから却下ね」

…ふん。45口径のグロックでも使うべ。まぁ、所詮はサイドアーム。そこまで気にする必要も無いか。

用意は着々と進んで……いる?


さて、皆さんこんにちは。遂に魔王の谷侵攻を決意した北条透です。今現在、拡声器を使って全軍にスピーチ中です。

「我が軍は遂に魔王の谷侵攻を決定した。決行は6日後。サンドトウ以下三つの飛行場に集結し、輸送機に分乗。戦闘機の護衛の下、飛行。降下前に先行した輸送機がデイジーカッターで降下場所を切り開く。同じく先行する風と水の魔法使いがUS-2の支援を受けながら対象地域の冷却を開始。冷却完了と同時にC-17が強行着陸。機甲戦力を投入する。その後、主力部隊が落下傘にて空挺降下。俺が召喚した戦闘装甲車や兵員輸送車に分乗し、進行を開始する。
ルートは上空の爆撃機が爆撃で確保する予定だ。三本のルートを開き、中央のルートを進行、両端のルートは攻撃や索敵を容易にする為のいわば囮だ。本当は三本分の広い空間を一気に切り開ければ良いんだが、冷却の関係でデイジーカッターをほいほい使うわけにもいかないし、飛び道具を使われた場合はこちらの方が損害も出ないのでな。
魔王城に突入するのは俺と第一騎士団を予定しているが、出たとこ勝負を拭えない以上、その場その場で臨機応変に対応する。正直、今代の魔王がどの城を拠点にしているか不明な以上、こればかりは事前に取り決めるわけにもいかない。なお、城の探索には俺の勇者適性を前面に押し出して探し出す。まぁ、俺が最前列で戦車をマニュアル運転して辿り着けばそこが魔王城という訳だ。
これが、最後だ。補給科は飛行場に残ってもらって補給活動を続けてもらう。他の部隊からも補給科を募る。良いか、聞き間違えるな。“魔王城侵攻”に参加を希望する者は2日以内に自身の所属中隊長に申請しろ。申請が無い場合は補給科に配属とする」

そこまで言うと部隊にざわめきが広がる。当然だろう。普通なら明らかに危険な部隊の方を志願制にするなど有り得ない。

「魔王城侵攻に参加する者は家族に文の一つも出しておけ。今から書き出せば上手く行けば返事をもらえるかも知れないぞ。だがな、勘違いするなよ。魔王城侵攻は決死であって、必死じゃ無いんだ。死ぬ覚悟を持つのは良いが、死を前提とするな。昔、俺の世界の武人達が言っていた。『生きながらにして死線を跨ぎ、その向こう側に活路を見出せ』と。俺は諸君等に死する覚悟を求める。だが、諸君の死を求めるのではない。死に物狂いで戦って欲しい。そして生還しろ。以上だ」

その後をジャスティンが引継ぐ。

「魔王城侵攻部隊の志願は只今から2日後、明後日の日没までとする。志願する場合は所属中隊の中隊長までその旨を伝える事。今回ばかりは私も諸君を無事に連れ帰る自信が無い。討伐軍結成以来、初の戦死者を出すかもしれない。良く考えろ。志願しなかったとしても何も言わん。だが、マケドニア騎士団、国防軍に入隊した時の宣誓を思い出せ。以上、解散」

「総員、敬礼!」

号令係の号令で一斉に敬礼する討伐軍の面々。大分様になったな。それにしても、ジャスティン格好良い~。

「茶化さないで、貴方もでしょ。普段からその位堂々としてもらいたいわ。…全く。これで志願が全く来なかったらどうするの?」

……この世界の住人が、魔王の討伐を…マケドニアの守護を俺一人に押し付けるなら俺にも考えがあるよ。

「っ!!??……考えって?」

ひ~み~つ~。

「…もしかして私達を試してるの?」

まっさか~。

「そう。(さっきの目、本気ね。…トオルを怖いと感じたのは初めてだわ)」

俺は討伐軍要塞を回った。…次に出発したら、もう此処には帰らないかもしれない。

俺が続な戦国の自衛隊を参考にして造った要塞。何だかんだで余り活躍しなかったな~。

次に軽徒橋を渡ってカール・ヴィンソンへ。

初代は自ら浅瀬に乗り上げたところへ気化爆弾の爆風を受けて傾斜したのでこいつは二代目。

初代から私物を運び出すの大変だったな。だって、通路が完全に傾斜してるんだもん。

次にミズーリへ。こいつも二代目。

初代は討伐軍の皆をバイタルパートの分厚い装甲で護ってくれた。

実は今まで、この50口径16インチ砲が火を吹いたのって鼠騒動だけなんだな。どちらかと言えば長射程のトマホークの方にお世話になった。

俺はひとしきり要塞内を巡ると要塞内の執務室(仮)に戻ってきた。そこでは隣接する郵便局(仮)に長蛇の列が出来ていた。これ程に混むのは初回の郵便以来か。それを視界の端に入れながら執務室(仮)に。これも、気化爆弾を食らったときに半壊して建て直したのだ。

最後にマケドニアに決行が決まった旨を報告しなくてならない。

「発勇者、宛マケドニア騎士団司令部。

我が軍は荒野手前の湖に要塞を建設し、魔王の動向を調査。詳細な情報を入手してからの進軍を試みるも、幹部級の圧力予想以上。これ以上の防衛戦は不利と考え、この度、攻勢に出る事を決定せり。一兵でも多くの兵を連れ帰るために奮闘する所存なり」

……なんか、変な文章になったな。詳細も全く書かれてないけど……ま、良いか。真面目な文章はジャスティンが送ってくれるでしょう。

その日の夕方、手紙を積んだ輸送機がマケドニア首都に飛び立った。あっちに到着する頃には完全に夜だけど、妖精には余り関係ない。俺の書いた報告書も一緒に飛んで行った。

で、俺はその日の内に、要塞をジャスティンに任せた俺はRF-4Eのコックピットに居た。一回は魔王の谷を自身の目で見とかないとね。護衛はSu-37が36機。今まで迎撃を受けたって話も聞かないし、少し過剰な気がしないでもない。

討伐軍降下予想地域から魔王城密集地域までのルートを見て回る。…森だけでその下がどうなっているのか、肉眼では全く見えませんでした。まぁ、富士の樹海みたく、伐採後も車両の通行が出来ないって事は無いでしょう。…多分。

演説二日目。今日の夕方で魔王城攻略部隊の申請は締め切りです。今現在、1800名位が志願してきています。これが日没までにどれだけ増えるかですね。既に志願した部隊員は小銃を従来のAK-47から折り畳み銃床のAKS-47に変更して射撃訓練中です。空挺降下するんで折り畳めるこっちの方が便利なんですよね。基本的には同じ銃ですから少し訓練すれば直に慣れますし。面倒くさいので表記はAK-47のままにしますが。

その日の夕方。魔王城攻略部隊の申請を締め切りました。結局、部隊は2267名に決定。急いで部隊再編成を行ってもらいます。尤も、極端に偏った訳でも無いので、そんな大規模な再編成は必要ないですけど。

演説終了三日目。新生補給班は既に飛行場に移動し、元から補給班だった面々が戦闘機や爆撃機で補給活動を実践で教えています。作戦決行してから誤爆とか勘弁ですから。新しい補給班員には信管とか弄らせない様に徹底します。

魔王城攻略部隊は装甲戦闘車や兵員輸送車への乗降訓練や、車上での戦闘訓練を繰り返します。動いている車上からの射撃訓練を行ったり、自身も動いている状況下での移動目標への射撃訓練など。

互いに移動している状況下で狙って中てるのは容易なことではないのです。元自衛隊非正規戦部隊射撃教官のカメラマン、トミーも言っていたのです。目標を狙うのでは無く、目標が来る先に弾幕を張れと。

世界が塩に覆われた物語の元戦闘機パイロットで引き出しが多い人も、動いている車に命中させられる奴など早々居ないと言っていました。

でも、我が軍の兵士には中ててもらわないと困ります。基本的に我が軍の戦術は強行突破なのですから。今回は殆どの兵士は車上戦闘で重機関銃か軽機関銃を使ってもらいます。アサルトライフルは連射で制御するのは難しいですから。

使う車両は90式戦車と89式装甲戦闘車。

89式装甲戦闘車は35mm機関砲搭載で、対戦車ミサイルと7.62mm機銃を搭載、7名の兵員が乗ることが出来ます。

新顔でロシア製BMP-3。こいつは100mm低圧砲を主砲として副砲に30mm機関砲と対戦車ミサイル、護身用に7.62mm機銃を持ち、戦車に追従できる機動性を持った車両です。車両運用に関わる人員以外に歩兵を最大9名、通常7名搭載できます。

同じく新顔の米国製M113兵員輸送車。日本の73式装甲車以上に旧式の装甲車ですが、世界中で改修を受けながら現役で使われています。珍しい所では、とある米国のSWATが装軌式装甲車である本車を採用していたりします。まぁ、何でこっちにしたかというと、73式と同じアルミ装甲でも、こちらは実戦を嫌というほど体験しており、増加装甲が割と標準ですから。兵員11名を搭載可能です。

進軍の編隊は、外部に無人の90式戦車、次にBMP-3、89式、中央にM113と。路面の状況が分からないので全て走破性の高い装軌式の車両で揃えました。装輪式の車両は段差に弱かったり、穴を乗り越えられなかったりしますからね。装輪式の装甲車じゃ一般車両程度の障害物でも乗り越えられないんです。

装軌は装軌で、履帯が一箇所でも破損すれば行動不能になりますが、その時は新しい車両を呼び出せば良いだけですし、無人の予備車両も用意しましょう。

ただ、装甲戦闘車(AFV)は良いんですけど、最近の兵員輸送車(APC)は装輪式が主流ですから装軌式のは旧式しかないんですよね。想定される主戦場が未舗装の郊外から都市部に移ってきたので仕方ないですが。自衛隊の96式や米国のストライカーなど、最新式は全て装輪。でも、第二次大戦以上に不整地な戦場で戦う俺には完全に裏目に出てます。

ああ、そうそう。装甲戦闘車(AFV)も兵員輸送車(APC)もどちらも普通科に配備されている車両です。機甲科じゃ無いですよ? ここ重要、テストに出ます。装甲戦闘車は一見戦車にも見えますが、装甲車です。判らなければ、スペックに乗員の他に兵員何名という項目があれば、それは装甲戦闘車ですね。AFVとAPCの違いは、戦闘に積極的に参加するか、ただの装甲した輸送車なのかの違いです。見分けるのは結構簡単。大砲もしくは機関砲を積んでいるかどうかです。AFVは歩兵を乗せて戦車に追従するのを求められますからね。

何と言うか、ここまで来ると数人多く乗せられるだけの兵員輸送車止めて全部装甲戦闘車にした方が良い気がしてきた。でも、二千以上の兵員を輸送する上でこの差は結構馬鹿に出来ない。…M113、旧式ですが我慢しましょう。

ファンタジーだと火炎攻撃が怖いんですけど。アルミ装甲は融点低いですし。…追加装甲、頑張れ!

でも、装甲で護られると言うことは同時にこちらの攻撃手段も限定されます。兵員全員分の銃眼があるわけじゃ無いですから。車上の重機関銃とかで応戦しましょう。特にAPCは自衛以外の戦闘を想定していませんから。

で、今、的になっているM113はベコベコになってますね。流石はアルミニウム装甲。何だか不安になって来た。これでも増加装甲装着型のハンヴィーよりも防御力あるらしいんですが。元が非装甲車のハンヴィーと比べるのが間違ってるんでしょうか? ソマリアじゃハンヴィー、悲惨な目に遭ったらしいですし。…ちょっと、試しておきますか。

「火の魔法使い」

「はっ!」

「ちょいと、あれを魔法で攻撃してくれや」

「は? 宜しいのですか?」

「ああ」

「分かりました。…ファイア・ボール!」

ボア!!

一気に火に包まれるM113。さて、丸太でも原型が残る攻撃。融点が低いとは言え一応金属のアルミ装甲は耐えられるのか? …あ、もう火が消えやがった。早いな、おい。可燃物無きゃ一瞬で消えるんか。

一応、軍手をして扉を開けてみる。……温かいというレベル。100℃行ってないんじゃないか? 軍手越しなので全然熱くありませんでした。

「勇者殿、どうでしたか?」

「あ~、うん、ありがとう。訓練に戻って良いよ」

「はっ!」

ビシッ! と敬礼して去っていく魔法使い。……これっぽっちも参考になりませんでしたとは言い辛い。火炎放射器を使えば撃破出来るのは分かりきっているからやる必要もないし。…はぁ、攻撃を受けないようにするのが一番か。APCの割合は減らしとこう。

演説四日目。定期便の輸送機の中にちらほらと先の手紙の返事が混じるようになって来ました。皆、それを見て泣いたり笑ったりしていますが、少なからず一度志願した者がそれを取り消すように申し出てくるかと思ったんですが、全く無いですね。少し意外です。

「そりゃ、そうよ。私達は志願してここに来てるんだから。当人も家族も最悪死ぬ覚悟は済ましてるわ」

疑問に思っていると、そうジャスティンに言われました。そうですか。平和な世界の俺の感性だったらしい。まぁ、自衛隊でも自身の身の危険に省みずとかいう内容の宣誓をするという話だったし、当然か。

演説五日目。遂に作戦決行前日になりました。討伐軍は訓練を全面的に中止して、今は隊員達に好きに過ごさせています。俺は例によってカール・ヴィンソンの艦尾で釣りをしています。これが最後になるかもしれないと思うと少し寂しいような気がしますね。

「トオル…」

いつの間にか背後にジャスティンが来ていました。

「な~に?」

「貴方に一度お礼を言っておきたかったの。明日の作戦がどうなるかは分からない。でも、マケドニアの為に戦ってくれてありがとう」

俺は湖の方を向いていますが、ジャスティンが頭を下げたのが気配で分かります。

「まぁ、気にすることは無いよ。何だかんだで成り行きで戦っただけだし。そもそも、俺自身は殆ど戦ってない」

「それでも、ありがとう」

「……その感謝、受け取っときましょう」

「そうして」

いつの間にかジャスティンは俺のすぐ側にいました。そして、ほっぺに柔らかい感触。

「じゃあね。絶対に作戦、成功させようね」

ほっぺにキスをされたと気付いたのはそれから時計の秒針が一周してからでした。

「……参ったね。この世界に愛着を持たないように人との付き合いを最小限にして来たってのに」

ここは俺の居るべき世界ではない。中隊長達の名前を覚えないのも作者が考えるのが面倒くさいだけじゃ無いんだ。俺が帰るときに後腐れが無いようにしたかったってのに。

「…ちょっぴり愛着が湧いて来ちゃったじゃないかよ」

作戦決行前日。皆、思い思いの過ごしかたをしていた。



[18458] 第11話 魔王城道中記
Name: タンクさん◆74790b16 ID:addd9404
Date: 2010/10/27 01:11
実に月単位で久しぶりの投稿になりました。比率8:2くらいで色々と批判も頂いたり、応援もいただいたりしましたが、要約の完結となります。長らくのご愛読(?)ありがとうございました。最後まで突っ込み所満載の作品及び作者の姿勢でごめんなさい。
あと、この話、詰まんないです。恐ろしくグダグダです。書いてる作者が言うんだから間違い有りません。適当に斜め読みでお願いします。

皆さん、こんにちは。遂に魔王城侵攻を開始した北条透です。今現在、我が軍は各輸送機に分乗し、魔王の谷を目指して飛行中です。

輸送機の窓から見える空間には戦闘機、爆撃機、輸送機が所狭しと編隊を組んで飛行しています。いやー、第二次大戦中に日本を空襲してくれたB-29なんか足元にも及ばない数ですよ。

『ユウシャ、目的地、目的地』

お、どうやら着いたみたいですね。前方からピカッピカッと閃光が瞬き、煙が立ち昇る。もうすっかり見慣れたデイジーカッターの爆発です。……デイジーカッタークラスの爆発を見慣れるって現代じゃありえないんですけどね。

先行隊の魔法使いが急速冷却を開始する。…暫くお待ち下さい。

十五分後、今度は中に戦闘車両を満載したC-17が強行着陸する。その間にもB-1が大量の爆弾を落として三本の進撃路を切り開いていく。

C-17から弾き出された車両が円陣系を形成する。そして、次々と空に舞う落下傘。それは風の魔法使いの風によって正確に円陣の中へと舞い降りる。俺は比較的早く降りて車両の召喚を開始する。90式戦車に89式装甲車、BMP-3とM113。今まで散々訓練を繰り返してきた部隊は即座に分隊単位で集合し、各車両に乗り込んでいく。

「…進撃開始」

俺は先頭集団の二列目の90式戦車に乗り込んで運転する。いや~、戦車の操縦の楽なこと楽なこと。自転車感覚だわな。昔乗ったパワーショベルなんてレバー二本で操縦してたのに。でも、あっちの方が操作の小回りは利くけど。

走り出して直に先頭の90式が爆発した。と言っても、装甲は貫通していない。個人携帯対戦車火器の貫通を許すほど第三世代MBTの正面装甲は柔ではない。撃たれた90式戦車は即座に120mmキャニスター弾と同軸7.62mm機銃で反撃を開始する。

『トオル、囲まれたわ』

「ウソッ!? いつの間に! くそっ、キュウマル。後退、本隊と合流する。ユーハブ・コントロール」

『あいはぶ・こんとろーる』

90式戦車や89式装甲戦闘車のセンサー、上空の航空機やヘリのセンサーをどうやって誤魔化しやがった!?

戦車というのは操縦手の後方視界がゼロだから車長の乗っていないこの車両ではバックするのは自殺行為だ。そこで不思議センサーを持つ精霊に操縦を任せ、前衛から本隊まで後退してもらう。

「ジャスティン、敵は何物だ!?」

『えーと、ゾンビかしら? 良かったわね、トオル。今回はまともにファンタジーな敵よ?』

「…いや、最近のゾンビはウィルス感染でB(生物)兵器に分類されるから正直、ビミョーだ。最初の攻撃がロケット弾だった事を考えるとネメシスか?」

俺の思考に浮ぶのは生物災害3で主人公を散々追い掛け回してくれた黒衣の追跡者。あいつ、クリーチャーのくせにロケット砲装備とか生意気なんだよ。映画版じゃガトリングガンまで持ってるし。

ダダダダ ドォーン ダダダダ

120mm滑腔砲から撃たれるキャニスター弾。まぁ、早い話が大砲クラスの散弾銃だわな。100mm低圧砲からは榴弾が発射され、着弾地点の敵を吹き飛ばす。

他にも35mm機関砲と30mm機関砲が敵をミンチに変える。…俺が本隊と合流するまでに突破口が開いてました。…そりゃそうか。ゲームじゃ、所詮装備が武器レベルだから苦戦したわけだが、こっちは兵器を普通に使ってるんだから苦戦するわけ無いわな。幾らGウイルスの再生力が強くても肉片からは再生できるわけが無い。ピ○コロやセ○、魔人ブ○じゃ無いんだから。

でも、結局、俺は本隊と一緒に行動する事になったよ。考えてみれば、魔王城は一箇所に固まってるんだから途中までは一本道だ。

『ユウシャ、前ニ、ゾンビ、沢山居ル!』

「沢山ってどれ位?」

『ソノ数、10万!』

「……ごめん、もう一回」

『ゾンビノ数、10万!』

…これは、あれだろうか? ラク○ンシティの犠牲者全部連れてきたんだろうか?

『……トオル、どうするの?』

「いや、10万って……まともに相手してられるか。空爆で吹き飛んでもらおうか。B-1部隊、敵中に突破路を作れ。全部隊、円陣形で停止。魔法使い、爆撃後に車両が突っ切れるまでで良いから温度を下げろ」

『リョウカイ』

『了解』

再び前方で光る閃光。こっちは冷却が完了するまで足止め。そして、周囲に寄って来るゾンビども。でも、残念でした。所詮、人間ベースの生物兵器じゃ、戦車砲、機関砲、機関銃からなる弾幕は突破できません。ゾンビの強みはリミッター解除と痛みを感じなくなること。無力化が難しいという意味での耐久性は上がるけど、肉体自体が頑丈になるわけじゃありません。生物災害3で警官隊や傭兵部隊がやられたのは単純な火力不足です。

「「「「スターーズ」」」」

ああ、こいつも居たのね。それも結構な数が。でもここにはスペシャル・タクティクス・アンド・レスキュー・サービスのメンバーは居ませんよ? そして、残念。いかに最強のクリーチャーでも兵器の前には無力なのよね。

B兵器は何が怖いって、感染拡大が怖いのだ。その直接的な戦闘力は脅威にならんのですよ。直接的な脅威は戦車の方がよっぽど高いわ。

流石に十万全部を殲滅なんて出来るわけが無いが、突破口を開くだけで良い。それなら戦術レベルの兵器を有する討伐軍に出来ないわけが無い。

『ユウシャ、ユウシャ』

「今度は何だ!?」

『前方ニ現代兵器ガ居ル!』

「……は?」

『V-107ガ飛ンデテ、地上ニ60式装甲車ト、ジープ、トラック』

「おいおいおいおい、ちょっと待て。V-107って退役してなかったっけ? 少なくとも日本には無いだろ!? それに60式だ? それも退役してるだろ!」

『ミサイル、ミサイル!』

「あー、もう! 煙弾、チャフ、フレア発射! 戦闘車両は応戦しろ!」

戦車砲が対戦車榴弾(成型炸薬弾)を発射し、35mm機関砲が(APDS)装弾筒付徹甲弾と焼夷榴弾(HEI)を撒き散らし、30mm機関砲も徹甲弾(AP)と榴弾(HE)を発射する。

60式は元々、積極的に戦闘に参加することは想定していない兵員輸送車(APC)。戦車砲は勿論、重機関銃でも穴が開く。

…これはあれかな。初代戦国な自衛隊からのお越しかな? 六十年~七十年代の装備じゃ二十一世紀の装備に敵わないのは必然。しかも、あちらは基本的に普通科の装備だし。普通科が平野で機甲科に敵うはずが無かろう。

先程飛んできたのは有線誘導の64式対戦車誘導弾でした。ミサイルからワイヤーを出しながら飛んで行く有線誘導。速度は極端に遅い。コイツは秒速85m。時速300km程度に過ぎない。

有線誘導のミサイルに撃たれた場合、対処法は大きく分けて二つ。一つは煙幕で射手の視界を塞ぐ。煙弾で充分で、チャフ(欺瞞体)やらフレア(熱源体)やらばら撒く必要は無かった。もう一つは、射手に向かって弾幕を張って、誘導出来ない状況にしてやれば良い。射手は誘導弾の命中まで動けないし、伏せるわけにもいかないので、割と簡単に無力化できる。有線誘導のミサイルより、重機関銃の方が射程長いし。

他に、60式無反動砲とか81mm迫撃砲とか89mmロケット砲(バズーカ)とか、色々撃たれている訳ですが、これ運用に人間が必要なはずですが、その辺どうなってんだろ?

『兵器操ッテイルノ、ゾンビ』

……兵器を操るゾンビ、何と邪道な。俺は映画版生物災害Ⅲの金網を外したり、鉄塔をよじ登るゾンビを認めない人です。まぁ、あれは特殊な例だが。後、残念ですが、どれもこれも、90式の正面装甲を破る威力は無いのです。上から落ちて来る迫撃砲は注意が必要だが。30年の技術格差を舐めんな、コラ。そもそも、普通科の装備はMBTに真正面から立ち向かうことを想定していない。当然の話だ。戦車の相手は戦車なのだから。

『コチラ、AH-64D。攻撃ヲ開始スル』

本来は機甲部隊を相手にするAH(攻撃ヘリ)だが、対人戦闘でも充分な威力を発揮する。そもそも、スティンガー採用以前、六十年~七十年代の普通科に満足な対空火器は無い。12.7mmじゃAHは墜とせないしね。しかも、劇場版で迫撃砲でヘリを撃つとか馬鹿じゃないの? ただでさえ精度の低い曲射砲で対空射撃とか、マジありえねー。

で、アパッチから撃たれる30mm弾を防ぐ車両なんて当然居ないし、アパッチの装甲を破れる火器も所有しない。当然ながらあっと言う間に全滅ですよ。そもそも、続で戦国な自衛隊が西暦2000年位の装備で大苦戦するのに、三十年も前の装備で太刀打ちできる訳が無いのですよ。

戦闘機や地上部隊が出るまでも無い。AHだけで決着が着きました。でも、あいつ等、どうやってセンサーを誤魔化しているんだか。あれか、エ○スコンバットで突然、戦闘空域内に敵が現れるみたいな物か? AWACSが居るのに有り得ないし。

『空襲警報! 空襲警報!』

「今度は何!?」

『ジェット機隊ニヨル空襲!』

おいおい、今度はジェットかよ。また架空機だったら泣くぞコラ。

「機種特定急げ!」

『特定完了。A-4 スカイホーク、A-6 イントルーダー、A-7 コルセアⅡ、A-10 サンダーボルトⅡ、クフィル、F-4 ファントムⅡ、F-5 フリーダムファイター、F-5E タイガーⅡ、F-8E クルセイダー、F-14A トムキャット、F-15 イーグル、F-20 タイガーシャーク、F-100 スーパーセイバー、F-104G スターファイター、F-105 サンダーチーフ、F-111 アードバーク、X-29、AV-8A ハリアー、J35 ドラケン…』

…何じゃい、その八十年代初頭の中東某国家の88な傭兵部隊です、みたいな編成は。いや、むしろ、それが元なのか? 確かに外人部隊の傭兵が凄腕なのは認めるが、戦後第二世代~第三世代、初期の第四世代と第4.5世代、第五世代が勝負になるわけが無いだろ? F-22Aは制空権確保の為に敢えて時代に逆行し、マルチロールを捨てて産まれてきた機体だぞ? F-15だって、マイナーチェンジを繰り返した米軍仕様のF-15Cや空自のF-15Jならともかく、初期型だろう? F-4だって、世界最強のファントムⅡであるF-4EJならまだしも、下手すりゃD型以前も混じっているし。

結論。世代の差を覆すのは生易しい事ではありませんでした。どっかの赤い大佐が機体の性能の差が戦力の決定的な差ではないと言っていたが、それは有視界での話。特殊粒子で遠距離戦を封殺したからこそ言える台詞なんですよ。残念ながら現代戦では、物を言うのは機体の差。腕が物を言うのは機体が互角な場合なんです。どんなエースも、視界外から一方的に攻撃されちゃ、敵いません。

あ、何かFUGAのアレンジ曲が聞こえる。でもね、エ○ア88って、主力兵装がサイドワインダーなんですよ。赤外線誘導の近距離ミサイル。ご免ね~、こっちの機体は中距離のレーダー誘導ミサイル装備なんですわ。悲しいけど、これ戦争なのよね。

接近戦に持ち込めば機体の世代差なんてお構い無しにこちらを圧倒する技術を持ったパイロット達はそれを全く活かせずに墜ちていく。あちらのレーダーはこちらのECMで真っ白だろう。その状況下で的確な回避機動を行い、少なくないミサイルを回避する。つーか、レーダー真っ白な状況下でミサイル回避とかエ○ア88のパイロットは化物か。

レーダーに映らないという事は視覚で捕えて回避しているということだ。空対空ミサイルというのは相対速度が極超音速に至る世界で発見するには余りにも小さい。そして、その小さい目標を視認しなくてはまともな回避は出来ない。

で、そのミサイルの嵐をF-8EとF-5E、クフィル、J35、F-20、X-29、F-14Aが抜けてきた。って、あのミサイルの嵐を抜けただと!? いやいやいやいやいや、ありえん!

『Su-37、EF-2000、エンゲージ』

格闘戦に強いSu-37とEF-2000が即座にセンサーを切り替えてドッグファイトに突入する。この二機種は俺が用意した機体の中じゃ、特に格闘戦に強い。第三世代機がミサイルの不備で痛い目を見た教訓から第四世代以降の機体は格闘能力が必須になった。しかし、それでも向き不向きは生じる。

例えばF-15EはF-15Cと比べて重いけどエンジンが高出力になっているので、パワーウェイトレシオは大して変わらない。でも、翼面積は同じなので、翼面荷重は悪化している。翼面荷重が増えれば当然運動性は悪化する。制空戦闘機と戦闘爆撃機では重きを置くポイントが違うのだから仕方ない。その代わり、十トン以上の爆弾を搭載出来る機体剛性を持つ。

F-22Aはステルス性の為に航空力学的に妥協をしているので、ドッグファイトでは不安が残る。コイツの本領は中~長距離からのミサイル攻撃だ。だって、こんなずんぐりむっくりしたのが高機動なんて普通無いだろ。F-22Aの高機動は大面積で全稼動の尾翼と推力偏向ノズルに頼ったものだ。なのでドッグファイトには参加させない。対してSu-37は機体こそ大柄だが、高出力エンジンと優れた機体形状で高い機動性を持つ。EF-2000は最新の電磁制御のカナードデルタ翼で推力偏向ノズルを持たない戦闘機としては最高クラスの機動性を持つだろう。

F-8Eが早々に後ろに付かれて短距離ミサイルで撃墜された。いくら良い機体と言っても、それは第二世代機、六十年代の機体としての話。超音速の何たるかも満足に探求できていなかった時代の機体では仕方ない。幾らパイロットの腕がよくとも第二世代機と4.5世代機では勝負にならない。逆に勝負になるようなら、技術の進化に喧嘩を売っている。そもそも、今のご時世に後退翼を採用している戦闘機なんて居ない。皆、デルタ翼かデルタ翼の派生で、翼端を切り落としたクリップトデルタ翼を採用している。つ・ま・り、可変でもない後退翼は激しく時代遅れ。

次に後ろに付かれたのは同じく第二世代に分類されるJ35。その特徴的なダブルデルタ翼はSTOLと高速を両立させ、一般道に着陸して僅か十分で再出撃が可能と、使い勝手は非常に良いのだが、造られた時代が時代。機動性の絶対値は決して高くは無い。後ろに回りこんだEF-2000を振り切れずに機関砲の掃射を受けて爆散した。

次に狙われたのは意外も意外。米国製第四世代機F-14。この中では一番新しい機体だ。エンジンの出力不足に悩まされるが、自動で角度を的確に合わせる可変翼と平べったい胴体の組み合わせで機動性は意外と高い。しかし、いくら図体の割には高機動と言っても、F-14は本来長距離ミサイルを装備する艦隊防空用戦闘機。艦隊から先行し、長距離ミサイルで敵が近づく前に迎撃するという、ミサイルキャリアーだ。当然、格闘戦を前提とした機体と格闘戦をやらかすのは無謀と言うもの。航空力学に基づいた優れた形状と推力偏向ノズルで反則的な機動性を持つSu-37を振り切れる筈が無く、機関砲の餌食になった。

次に火を吹いたのはクフィル。第三世代機に分類されるが、基となったのは第二世代機のミラージュⅢだ。無尾翼デルタ翼機は低い空気抵抗と広い翼面積で高速飛行時の安定性と高い機動性を誇るが、反面、低速時の安定性と機動性が低く、充分な揚力が発揮できないので、離着距離も長くなる。

STOL性を高める簡単な方法はカナード翼を付ければ良いのだが、それを初めて行ったのがこのクフィルである。米国の海軍と海兵隊で仮想敵機に選ばれた機体でもある。だが、同じカナードデルタとしてEF-2000ともろに世代の違いを受けることとなった。何が違うのかというと、安定性。通常飛行時は良いが、低速時の安定性が低いとされる無尾翼デルタ翼機。EF-2000を始めとした新鋭機はそれを電子制御で補っている。それはもう、殆ど操縦に問題が無いレベルで。しかし、クフィルにそんな便利な物は無い。互いにグルグル回りながらのドッグファイト中に機体の挙動に気を使わなければならないクフィルとその必要が無いEF-2000。それが決定打となった。まぁ、元の機動性自体も随分と違うのだが。

残った機体は全てF-5系統の機体である。米空軍では制式配備はされなかったが、アグレッサーが本機を採用しているのは有名な話だろう。本機の兄弟機である練習機T-38が格闘戦の模擬戦闘でF-22Aを撃墜したなんて記録もある。デルタ翼のMiG-21に比べ、直線翼に近い形状の本機は、高速性は低いが、その分低速ではMiG-21に全く劣らぬ機動性を発揮する。寧ろ安定性が高い分、有利だろう。更には経済性、整備性の良さもあり、西側発展途上国ではベストセラー機だ。日本に近いところでは韓国と台湾が採用していた。

で、何が言いたいのかというと、F-5系統の機体は低速域での格闘戦は最新鋭機にも劣らぬ性能を持っているということだ。X-29なんて前進翼だし。しかも、すれ違いざまに正面から機銃を命中させる腕のパイロットが操っているのだ。何機かこちらの機体も墜とされた。00セクション、恐るべし。

『機動デ、コノF-22Aヲ上回ルダト!? バカナーー!』

…精霊。ネタに走ってないでさっさと墜とせ。愛と勇気の御伽話の日本通少佐を真似してるんじゃありません。つーか、F-22Aは参加するなと言っておいたはず。何さり気無く参加してやがりますか。

『イヤ、何トナク言ワナイト、イケナイ気ガシテ』

全く。こんな機体が出てくるならこちらも航続距離が短くてもMiG-35とJAS-39を連れて来れば良かった。つーか、格闘戦に強い≒小型機≒航続距離が短いって方程式が出来ちゃいますからね。結局、こちらは複数の機体が連携して、現代戦では滅多に行えない数の暴力で撃ち落としたわけです、はい。何時の世も数は力だ。でも、何故か映画なんかじゃ、世界最強最大の米空軍でも数の上では劣勢で戦うことがほとんどなんだが、何でだろ?

現代機に低速域での格闘戦を重視した機体は少ない。大抵は亜音速での格闘戦を意識する。どんな高揚力の翼でも充分な揚力を確保出来ない低速飛行で物を言うのは軽量さ。Su-37もこればかりはF-5やMiG-21などに劣ってしまう。これに対処できるのはMiG-29、F-16系列の機体とJAS-39くらいだろう。そもそも、低速ではミサイルの良い鴨だから戦闘機が低速で飛ぶメリットは少ない。

それにしても、最早ファンタジーどころかSFですら無くなっている件。

で、八十年代の中東某国家の傭兵部隊を退けた俺たちだが、次に現れたのは……ザリガニ? 無駄にでかいけど。うわ、しかも結構な数だよ。見てて気持ち悪くなるな。

『ユウシャ、ユウシャ。アレハ“サガ○・レガリス”』

……『海の底』から来た奴等かよ。自衛隊三部作“海”かよ。これもファンタジーじゃねー。SFと呼べなくも無いが、微妙だ。

『ユウシャ、ユウシャ。ドウスルノ?』

「あれは、現代兵器の前には無力だ。肉弾戦の機動隊なら苦戦するが、普通科の装備で充分。適当に蹴散らして前進続行」

機関砲どころか機関銃すら必要ない。耐久度で言えば生物災害の追跡者より低かったりする。頭部に適当にライフル弾を撃ち込めば無力化できるんだから。しかも、奴等、意外と学習能力が高く、こちらに敵わないと早々に学習して逃げ回ったし。追いかけるのも面倒なので放置。…何の為に出てきたんだ?

後、おやしお型潜水艦が何故か陸に打ち揚げられていましたが、全力で無視しました。陸に上がった潜水艦とか何の役に立つ?

次に出てきたのは……空が隠れた。何が出たのかと、そらを見上げると(戦車の操縦席からじゃ見るの大変)四方が四十キロはありそうな物体が浮いていた。

『ユウシャ、ユウシャ。アレ“白鯨”』

……『空の中』に居る奴ですか。自衛隊三部作“空”ですか。あれ、実は戦闘力が無茶苦茶高くて現代兵器じゃ手も足も出ないんだが…。刺激しないように通り過ぎましょ。高度二万mに浮いてるし。

……手出ししなかったら、向こうも何もしてきませんでした。温厚な性格だからね。と言うか、自己保存にしか興味ないっぽいし、こちらが生存を脅かさなければ何もしてこないのですよ。逆に生存を脅かせば恐ろしい事になるけど。航空力学を無視した機動に、レーザーやらビームやらSFの攻撃能力を備えているからね。

一機だけIFFに反応を返さないF-15が居たんだけど、これDJ型(複座型空自仕様)ですよ。何でDJ型が居るんだ? 何故か白鯨に着陸しましたが。

次にどしんと振動が響く。でも、俺の限られた視界じゃ何が起こったのか分からない。

『ユウシャ、ユウシャ。塩ノ塔ガ落チテキタ』

…海、空と来れば次は陸…、『塩の街』にそびえる塔か!

「至急! 全部隊宛! 塩の塔を見るな! 視界を塞げ! あの塔を見ると塩になるぞ!」

突然変異、超古代生物と来て次は宇宙からの侵略者。三部作の中では一番ファンタジーっぽい。しかも、百万単位で人が塩化して政府機能が麻痺しているという、世界観的には一番恐ろしい事になっている作品だ。

「F-15E、F-111。即座に対象を爆撃しろ。使用爆弾は徹甲、塔の中心部を狙え」

『了解』

即座に数機の機体が編隊から離脱して爆撃に向かう。暫くして再びずどーんと衝撃が来たので、爆撃に成功したのだろう。

『ユウシャ、爆撃完了』

我が軍の戦闘機が無人で助かった。有人じゃ、視界を塞いで爆撃しなくちゃいけないから大変なんだわ。

さて、お次は何だ? もう、何が来ても驚かないぞ。

『ユウシャ、F-14Aガ居ル!』

あれ? 八十年代の傭兵団のF-14A、墜としたよね?

『別口』

……あ~、あの引き出しが多い、元イーグルドライバーの人か。さっきの潜水艦やF-15Jといい、人間の側からも出演しているのか。何と言うか、見せ場を取られて怒ってるのか、さっきからF/A-18F(複座)を追っ掛け回してる。でも、攻撃してこないね。そんなこんなで気が済んだのか、どっか行っちゃいました。…それにしても、我が軍に複座のスーパー・ホーネットなんていたっけかな?

『あれも、IFFに応答なし』

……F-14Aと随伴機のF/A-18F、ワンセットなのね。何か疲れた。次は何?

『ふ~も ふもふも ふもっふも~♪』

そこに登場する犬だか鼠だかよく分からない着ぐるみ(複数)。しかも、軍隊がランニング中に歌うような歌を歌っている。

な、何だ…と!? ボ○太君…だと? あれを相手に戦えと言うのか!?

『ふもっふ!』

俺が攻撃を戸惑っている内にもボン○君の発射したロケット弾が前衛の戦車部隊に襲い掛かる。

『ユウシャ、応戦許可チョーダイ』

…くっ、許さん! 許さんぞ! 魔王―――!!!

「………応戦を許可する。…一体残らず殲滅せよ。……許せ」

『ちょっ!? トオル、あんな可愛い物を攻撃するなんて正気!?』

「俺もあれは攻撃したくない。全金属騒動は俺が初めて読んだラノベなんだ。思いいれもある。完結したばっかだし。だが……今は敵だ」

苦渋に満ちた俺の声。

『うん、判ってる。言ってみただけ』

「うぉい!?」

『魔物の中には可愛い物も居るしね。でも、中身も外見通りとは限らないから、騎士団は可愛い生き物を殺せないと勤まらないのよ』

「……じゃあ、何で訊ねたね?」

『いや、御約束かなって』

…もう良いです。このシリアスブレイカーが。人が空気呼んで真面目にやっているってのに、自重をどこかに置き忘れやがりまして。

『あ~ん? 聞こえんな~』

……言ってないんだから聞こえないのは当然でしょうが。

ライフル弾すらストップする○ン太君だが、重機関銃や機関砲を防ぐ防弾性能は流石にない。あの、全金属騒動のマスコットが無残な姿を晒す光景は俺の心を深く抉った。

『ふもっふ、ふもるる、ふもふも(貴様はミスを犯さなかった。相手を外見で判断してはいけない。戦場でそれは命取りになる。俺達は身をもってそれを教えたのだ)』

……何言ってんのか解んねーよ。

『……ふも~(やむをえん。ボイスチェンジャー、オフ)』

ヒューーーーーン、ガク

……あれ、黄色で十字傷のボ○太君が各坐した? 何かあったのか?

『(何故いつもこうなるのだ。ボイスチェンジャー、オン!)』

ヒュィィーーーーン

『ふんもっふ!』

あ、起動した。

『ふもふも、ふも、ふもるる(俺に伝えられることは何も無い)』←技術的に。ボ○太君語翻訳装置が無いので。

『ふもふも、ふもふも、ふもっふ(だが、君が故郷に帰れることを願っている)』

ちゅどーーーーーん!

そして、黄色くて十時傷付きのボン太君は特撮の悪役よろしく爆発した。しかし、ヘリのセンサーは何者かが直前に脱出したのを確認した。しかし、爆発に紛れて直に見失ってしまった。

次に出てきたのは……なんだこれ? タ○ミネーターでは無さそうだが……。あ、全金属騒動に出てくる人間大AS、アラ○トルか。五十口径機関を標準装備しており、個人携帯装備では苦戦は必至の戦闘マシンだ。でもさー、コイツら、同じく五十口径弾で普通に蜂の巣になったんだよな。という訳で、ご免なさい。爆撃で限りなく平野に近くなった戦場で現代兵器の前に出てくるには防御力不足です。山間部か市街地で出直してください。

これに関しては攻撃を躊躇う理由も無かったので瞬殺しました。パナジウム・リアクターの小型化に苦労したらしいけど、あっさり壊しちゃってご免ね~。でも、量産機だし、別に良いよね。

次、何が来る!?

『ユウシャ、前方ニ、イージス艦』

……はい?

『イージス、即ち、ギリシャ神話の無敵の盾の名を持つ、イージス艦こそ専守防衛の最も具体的な形でさえあると。しかし、敢えて言おう。陸に打ち揚げられた盾に何の意味があるのか。現状のままでは、それは護る術を失った、正に無力の盾でしかない』

…とりあえず、完全にチョイス間違えてるだろ。あ、でも主砲とCIWSが動いてる!? 蒸気タービンの旧式艦艇と違ってガスタービンは機関出力確保に水を必要としないからか。

『目標ヨリ、SAMノ発射ヲ確認!』

うそーん!? いきなり現れたと思ったらこっちの進軍路を横になって塞いで、即席の対空砲陣地になりやがった。

「電子戦機、ECM出力最大! 全機、チャフをばら撒きながら回避しろ! F-15E、対地ミサイルで目標を破壊しろ! 原型を留めさせるな!」

目標の装備は、127mm速射砲、20mmCIWS二基、ターターミサイル一基、VLS16セルといった装備を持つ。何より恐ろしいのが、コイツが同時複数目標に対応できるイージス艦という点だ。ミニ・イージスシステムなんて言われるが、規模がミニなだけで性能自体は本家と変わらない。VLSの数が本家より少ないのが唯一の救いか。

主砲が毎分40発で127mm弾を撃ち出し、CIWSが毎分3000発で20mm弾を撃ち出す。ターターは一発撃ってそれっきりだが、VLSは連続発射で対空ミサイルを発射する。

『よく見ろ、マケドニア人。これが戦争だ』

…それ、二度ネタだから。そもそも、人が乗ってんのかよ?

『二度ネタだと!? 馬鹿なー!』

F-15Eの爆撃で艦上構造物が完全に破壊され、ミサイルは誘導する術を失い、主砲やCIWSは物理的に破壊された。しかし、基準排水量だけで五千トン近い鋼鉄の塊は完全にこちらの進軍路を塞いでくれている。150mの全長は軍艦としては小柄だが、陸に上げれば五十階建てのビルに相当するのだ。

「C-130へ。対象艦艇を狙ってデイジーカッターを投下。円状に空間を作り出せ。円外周を通って迂回する」

全く、厄介な。対空砲陣地というより、純粋に障害物としての方がよっぽど厄介だわ。いくら最新鋭イージスとは言え、阻止能力には物理的に限界がある。本来は十隻前後の艦隊を組んで活動するのだ。一隻で何が出来る。現実に一騎当千など存在しない。最強の盾も百発近いミサイルを防御するなど不可能だ。

イージス艦を回避した俺たちの前に現れたのは………

「要塞? いや、陸上戦艦か?」

明らかにSFですよって感じの陸上戦艦の登場です。やってられますかなのです。これが今代の魔王城!? 明らかに城じゃねーだろ! これはあれか、竜退治にはもう飽きたがキャッチフレーズの、金属の伝説のティアマ○トですか!? 下手したらラスボスより手強かったりしちゃう陸上戦艦ですか!?

……現実逃避はこの辺にしとくか。さっきから上空の戦闘機に爆撃機、陸上の戦車部隊とテ○アマットとの間で壮絶な砲撃戦が展開されている。当然、戦車と戦艦が撃ち合って戦車が勝てる筈も無いので、有人部隊は早々に退避して今は精霊が90式で撃ち合っている。

……あれに戦車で勝っちゃう主人公スゲー。いくらMBTの複合装甲が頑丈とは言え、何百発も機関砲を受ければ破壊されるし、155mm以上の砲の直撃を貰えば一発だ。例え装甲が無事でも内部がボロボロになる。

まぁ、こっちはこっちで出来る事をするまでだ。99式自走榴弾砲を呼び出しながら上空から煙を引いて落ちる戦闘機を苦々しく見つめる。あれはどうみても文明が滅んだ世界で最終期に使われていた技術だろう。あの世界はWWⅡから現代までの技術がメインだが、時たまどえらい技術が出てきてくれる。やはり、レールガンなどが最後に出てくる世界に現代兵器では火力不足か?

でも、上空から落としている2000ボンド爆弾は40cm砲と同等くらいの威力が有るんだが…。いくら未来戦艦でも所詮は戦車に破壊可能な耐久値だ。出来ればさっさと壊れて欲しいな。

戦艦と航空機が実際に戦争をすれば、航空機優勢な引き分けになるのが普通だ。戦艦に致命傷を与えるには徹甲爆弾を使用するしかないのだが、その為には戦艦の直上に来なければならず、当然反撃を受ける。その上、現代の徹甲爆弾は移動目標を狙うようには造られていない。想定目標は固定目標の地下施設だからだ。反撃の来ない遠距離からは、命中精度こそ高いが重装甲艦には効果の薄いミサイルしか発射出来ない。

しかし、レーダーや主砲以外の武装は当然ダメージを受ける。そして、戦艦は事実上戦闘力を損失し、航空機優勢なまま引き分けになる筈なのだが……。

あの武装群どれだけ耐久値高いんじゃ!? 普通はど真ん中に爆弾が落ちればそれで周辺の火器は使用不能になるもんだろうが! あれか、一定ダメージを加えないと壊れませんってオチか!?

その後、こちらの航空機の半数が墜とされ、全機が弾切れになるまで攻撃を加えてよーやく無力化できました。さて、突っ込むぞー。

NEW! 新しい個体が図鑑に加わりました。

ゾンビ

ウィルスによって新陳代謝が異常に増加した人の成れの果て。ファンタジーではなく、SFに分類されるので死者が甦る事は無い。生存している内にウィルスに感染した後に仮死状態になり、その後に甦る事はある。墓場から這い出てくるのは仮死状態で埋葬されてしまった者。多かれ少なかれ腐敗しているので純粋な身体能力は生存時に比べて劣化しているが、リミッターが存在しないため。結果的に生者より力が強くなっている。
無力化するには脳を破壊するしかなく、胴体が二つに千切れても暫くは活動できるだけの生命力を持つ。しかし、肉体自体が頑丈になるわけではないので、充分な火力があれば集団相手でも無力化は難しくない。

80年代の航空傭兵団

内乱中の某中東国家の傭兵さんたち。元々、自前で一人前に育てるより、既に高い技量を持つパイロットを雇った方が安いというコンセプトなので、傭兵は当然ながら精鋭揃い。しかし、視界外からレーダーを無力化された状態でミサイルを回避するのは流石に無理。しかし、何機かミサイルの弾幕を抜けてきてしまった。第二世代から第四世代の最初期の機体を用いる。

ザリガニ

深海に存在するザリガニに良く似た生物。深海から上がってきて高栄養な状況下に置かれたことで際限無く巨大化した。警察用の38口径弾では全弾頭部に撃ち込んでも無力化は難しい。銃器無しの限定戦では、日本、いや、世界でも最強の戦闘集団である機動隊でも無いと壊滅的な損害を被る。曲がりなりにも防衛線が維持できたのは機動隊の練度あっての事である。……でも、陸自の普通科が出た途端に即日殲滅なの辺り、現場の警官が救われない。これが米国なら初日か遅くても二日目には州軍が出てきただろうに。つーか、一般のパトカーにショットガンやM-16を積んでいる上に、拳銃も予備弾ありの9mm~45口径なお国柄なので警察だけでも対処できたりして。

白鯨

四十キロ四方の巨大生命体。水に浸すとふやけるが、基本固い。解析不可能な原理で飛行する。人類が誕生する前から空に浮いていた。主に日光の光エネルギーで活動する。自己保存を第一に考え、基本的には平和主義者であるが、一旦敵と認識したものには容赦しない。それは彼の戦いが戦争ではなく、生存競争だからである。
可視光線からレーダー波まで完全な透過が可能で、しかも、レーザーやらビームやらSFちっくな攻撃手段と、現代航空力学では実現不可能な飛行能力を有する。某国からの圧力に屈した日本政府が米軍に白鯨への攻撃を要請。米軍からの攻撃に分裂した白鯨の1/3が最寄りの人類領である日本へ反撃を行い、その迎撃に出た自衛隊機は壊滅的な打撃を被った。

塩の塔

宇宙からの侵略者(?)らしい。視覚情報に働きかけ、視覚に塔を捉えた者を塩化させてしまう。機械的な処置を施した映像なら大丈夫らしく、モニター経由なら塩化しない。塔を物理的に破壊すれば塩化の効果は無くなる。

ミニ・イージスシステム搭載艦

元々は第三世代のミサイル搭載護衛艦(DDG)。搭載されているシステムはミニと言いつつ能力は本格的にはイージス艦と変わらない。従来艦の名残でSAMの単発発射基ターターが残っていたりする。元となったはたかぜ級はこんごう級イージス艦と一世代しか違わないのだが、それまでの一世代と、イージス艦になる時の一世代は次元違いの性能差になる。具体的には従来艦がSAMを二発同時にしか運用できなかったのに対し、イージス艦は十以上(一説では二十四)の目標に同時対処できる。

ティアマ○ト

金属の伝説なRPGのラスボスに匹敵する強敵キャラ。砂漠を暴走しまくっている陸上戦艦。詳しいスペックは不明。ただ、こんな戦艦が居たらボクはもう……。いや、マジで欲しいわ。



[18458] 最終話 責任逃れと状況に流されるのは日本人の特性さ
Name: タンクさん◆74790b16 ID:addd9404
Date: 2010/10/27 01:17
さて、よーやく魔王城に突入した訳ですが、騎士団や国防軍の主要戦力は外で敵勢力の逆突入を防ぐ為に防衛線を構築している。……見た目はゾンビな奴らが出たんだよ。日本だけでも千万単位の犠牲者が出たあの物語。あれのお陰で二千程度しか居ない我が軍は完全に劣勢に追い込まれてしまった。

お陰で突入出来たのは僅かに二十人程度ですよ。はぁ、欝だ。千人単位で突っ込んでロケット弾の釣瓶打ちで終らせたかったのに。

「トオル、世の中そんなに上手くは行かないものよ。歴代に比べて貧弱な私達が魔王城に辿り着けただけでも善戦しているほうよ?」

……ジャスティン、貴女いつから読心術を?

「う~ん、割と最初からかな。まぁ、状況次第の限定版だけどね」

さよですか。じゃあ、さっさと行きましょう。

ジャスティンは銃の使用をキッパリ諦め、伝家の宝刀を持って来ている。いやー、流石は貴族。良い剣、使ってるですね。他の人はAK-47とかFN MINIMIとか使ってます。

で、俺の装備はM2重機関銃×1と110mm個人携帯対戦車弾×複数。7.62mm弾と5.56mm弾無数に予備の銃を少々。……まぁ、リアカー引きながらですが。勇者に何かあったら討伐軍の根幹に係わるって後ろで支援役やってるわけですが、これって言い換えればただの荷物持ち? 新しく召喚した方が早いんだが、書で片手が塞がるからな。

ダダダダダ タタタタタ

「トオル、援護して!」

はいはい。防衛火器に阻まれて前進出来ないのね。食らえ、必殺の使い捨てロケットランチャー!

爆風ではなく、金属粉を噴出す110mmは従来の無反動砲に比べれば屋内でも比較的発射が容易なのだが、それでも後ろに立つと碌な目に遭わない。後ろに注意しながら発射しないと。

はぁ~い、撃つよ、撃つよ、撃ちますよ~。

敵の攻撃をSWATなんかで使うレベルⅣの防弾板を五枚重ねた特製防弾板に身を隠しながら発射する。これは下に小さい車輪が付いてはいるが、五枚重ねにしたことで非常に重くなってしまったので、押すのに全体重を掛けなくてはならない重量だ。

セントリーガンを無力化したのは良いが、盾がボコボコだ。流石はSFちっくな攻撃だけはあるな。次はどんな攻撃が来る?

ヴォォォォォーーーーー

で、俺たちは今、ガトリングガンの弾幕に晒されている訳です。これってあれだね。T1だね。T800とかT850とか、T1000とかT-Xとかが出てこないだけまだ良いが。この弾幕は12.7mm弾なので五枚重ねの防弾板でも貫通されかねない。つーか、現在進行形でバシバシ削られていく。もう穴が開きかけてますね。次々と新しい盾を召喚しつつ、こーゆー時は、超伝導電磁推進装置を備えた潜水艦が叛乱を起こす物語で、何故か特殊作戦は門外漢の潜水艦艦長が特殊作戦のスペシャリストである特殊警備隊の指揮官にしたアドバイスを参考にさせていただきましょう。

C4を団子状に捏ねて、信管が抜けないように中で結ぶ。外周に小銃弾を差して周辺への破片効果を増す。これをサイドスローで投げてやれば良しと。

はい、起爆。

ドカァァァーーーン!

さてと、加害状況はと。ミラーを突き出して確認。……ふむ、全損か。原作では精々テニスボール大だったのに、サッカーボール大にした甲斐が有るというもの。あ~あ~、盾がボロボロだよ。7.62mmのAP弾を防ぐレベルⅣを何枚も貫通してくれちゃって。盾と盾の間に土嚢とセラミックプレート入れて無かったら五枚重ねでも貫通されてたかもね。12.7mmの弾幕、恐るべし。

さて、T1の皆さんも残骸になったことだし、前進開始ですよ。

「トオル、次はどっち?」

う~ん、何となく下かな。本当は艦橋に真っ先に攻め込むべきなんでしょうが何故か下に行けと囁くんですよ、俺のゴーストが。

「でも、階段が無いわね」

余り使いたくないですけど、エレベーター使うしかないですかね。

「エレベーター?」

箱型昇降機ですよ。俺の世界でもワイヤーで上げたり下げたりして使われているんですが、この艦じゃどんな原理で動いているんでしょうね。

で、エレベーターらしき所まで来た俺たちですが、予想の斜め上を行ってくれた。転送ですよ転送。うわぁーい、SFだぁ。……はぁ、さっさと行こう。

そして、この転送装置。使用は一回きりで転送限界は二人とか、ちょっとご都合主義が過ぎるんじゃないの?

「勇者殿、団長。我等、ここでお待ちしております。ご武運を」

はいはい。どうせ俺とジャスティンで決定ですよと。盾を全方位に展開して転送。上の防御が手薄だけど、物理的に無理だし仕方ないな。どうか待ち伏せされていませんように。

結果から言おう。待ち伏せは無かった。出迎えはあったけどね。

『お待ちしておりました。今代の勇者よ』

何か凄いジャスティンに似ている女性がいた。ジャスティンの髪が金と銀の中間だとすれば、彼女は完璧な銀だった。

「ウソ……そんな……どうして…ジャスティン」

ジャスティンさんや。知り合いですかい? でも俺は時と場合によっては空気を読む男。ここは黙っておきましょう。

『ジャスティン……。今代の依り代の名前でしかた。あなた方には申し訳ないことをしました。私の現界にはその世界の人間を依り代として用いなければならないのです。…ああ、自己紹介が遅れました。私、今代の魔王です』

おお、目の前にラスボスが現れた。選択肢が出現。

→戦う
道具
話す
逃げる

…どこのRPGですか。

戦う
道具
→話す
逃げる

どうやら俺が何もしなくても勝手に選択肢が選ばれてしまったらしい。

「どうして、どうしてジャスティンの身体が魔王に!?」

『魔王システム。しかし、精神体に過ぎない魔王が世界に干渉するにはその世界の住人の肉体が、依り代が必要なのです』

「だからって、どうしてジャスティンが!?」

『依り代が私に適合したからとしか言い様がありません。依り代の選出は全自動で行われます。この依り代も役目を終えればお返しします。しかし、通常は魂が先に転生を行ってしまっておりますので…………いえ、大変珍しい事例ですね。貴女の中にこの依り代の魂がある。入魂を行えばこの依り代となった人間は生き返りますね。とりあえず、今は置いておくとして、早速魔王システム最終段階に入りましょう』

どうやら強引に話をまとめたようだ。

『では、今代の勇者よ。魔王討伐を終らせましょう。貴方が私に触れ、魔王システム一時停止と念ずれば今代の魔王システムは停止します』

…てーこうしないの?

『魔王は勇者に討伐するためだけに存在します。世界の平和を護るため、世界の秩序を護るため。社会秩序を護るには共通の敵が居れば良い。少し昔話をしましょうか』

昔々、この世界は繁栄の極地に至った。行き過ぎた文明の末路は滅亡。例に漏れずにこの文明も滅んだ。世界に僅かに残った指導者達は同じく僅かに生き残った人類を物質創生機で創生した世界に放り込んだ。

その世界は文明の進化に必要とされる物質が存在しない世界。例えば石油。例えばシリコン。領土戦争が起こらないように無駄に低い人口密度。そして、何より人間同士が争わない、いや、争いようの無い環境作り。それが魔王システム。人類は魔王と言う共通の敵を得たことで戦争を止めた。

しかし、魔王システムにより人類間の戦争こそ無くなったものの、文明レベルを大きく落とされた人類は魔王システムの生み出す魔物に対処出来なかった。そこで考案されたのが勇者システム。異世界の住人を期間限定で召喚し、その人間に強力な力を持たせて魔王の一時無力化を行うということ。

『私はシステムの一部。この世界が生まれてから既に何千年と魔王を繰り返しております』

何千年とはスケールの大きい話で。疲れないの?

『強制転生で勝手に魔王にされますので私に選択肢は無いのです。常に殺されるために依り代を犠牲として転生し、勇者に殺される。それが私です』

「そんな…。何とか出来ないの?」

『私も色々試しては見ました。私の魔王システムを破壊するにはその代の魔王城に設置された魔王システム中枢を破壊するしか無いのですが、その入り口は強固に施錠され、更にはAMFと言われる勇者の能力を封じる装置が働いているのでどうにも出来ないのです』

ふ~ん。とりあえず、そこに案内してもらって良い? 君を殺すしか選択肢が無くてもその前に色々試してみようよ。

『歴代の勇者もそう言ってくださいました。全て無駄に終りましたが。しかし、私も無駄と思いつつも今度こそと僅かな希望に縋りながら案内する事にします』

いや、本人を前に僅かな希望とか……その通りだけど。

そうして案内されたのは本当に強固な鋼鉄製の扉。……シュールだ。考えてみてください。未来型陸上戦艦の中に、いかにもファンタジーですって鋼鉄製の扉。これをシュールと呼ばずして何と呼ぶ。

『この鋼鉄製の扉は戦艦大和のバイタルパートに匹敵する410mmもの厚さがあります。とてもではありませんが、魔法を使えない人間にどうこうできる代物ではありません』

へぇ、410mmねぇ。確かにそれだけの厚さがあれば、砲戦距離から放たれた46cm砲弾でも防げるでしょう。しかし、この部屋に入っても俺の牽いているリアカーに積まれた装備は消えていないのです。試しに新規召喚を行ったら確かに出来ませんでした。

『どうです、勇者としての能力を封じられた貴方にこの扉を破る事が出来ますか?』

まぁ、結論から言えば出来るんじゃ無いかな?

『なっ!? ウソを言わないで下さい! 歴代の勇者たちが何も出来なかったのに、歴代に比べても大きく劣る貴方に出来るはずが無い! 私が貴方達を倒さないために半端な魔王軍幹部選抜にどれだけ苦労したと思っているんです!!』

あ、やっぱり加減してくれてたんだ。だよね~。本気でファンタジーが攻めてきたら現代兵器なんて保たないよね~。駄菓子菓子! 君は俺の能力を忘れている! 俺の能力を一言で言うと?

『……貴方の世界の兵器召喚能力……まさか!?』

その通り、召喚した武器はこの部屋に持ち込んでも消えていない。そして、現代の個人携帯対戦車弾は貫通力だけなら46cm砲弾を上回る。

『では!?』

十センチに満たない孔でも穿ちまくれば、やがて人が通れるだけの空間を確保できる!

そうして、全員でマスクとゴーグルをしてリアカーに積んだ物を発射しまくる。足りなくなれば部屋から出て召喚。二人で行っても結構な時間が掛かった。部屋は反動を殺すために反対に噴射される錘である粉で部屋は非常に埃っぽい。

人が通れる位のサイズの410mmの鉄板があちらに倒れ、ゴガァーーン!! と凄まじい音を立てた。それだけの厚さがあれば重さは当然トン単位。音は既に衝撃波と言って過言でない。閃光音響弾にも劣らない大音量のお陰で頭がクラクラする。

で、部屋の中には何と言うか、その。…ホルマリン(?)漬けの脳味噌が居ました。一体何処の最高評議会ですか?

『『『この部屋に至った勇者は貴殿が初めてじゃ。我等が魔王システム中枢である』』』

さよですか。つーか、音声どうやって話してるんだろ? スピーカーがあるようには見えないが…。

『『『我等を見ての初めての感想が音声か。貴殿は変わっておるの』』』

よく言われるよ。では、破壊しますか。

『『『ま、待て! 我等の言葉も聴かずに殲滅とは乱暴だろう!?』』』

いや、だって早く破壊して帰りたいし。

『『『全く。近頃の勇者は何を考えているのか』』』

何か遺言があるならどうぞ。

『『『我等はこの世界の根本を成す魔王システムの中枢ぞ! この世界を数千年に渡って管理してきた我等を排するだけの正義が貴殿にあるのか!?』』』

正義? なにそれ美味しいの? 俺が貴様等を排除する理由は魔王に同情したから。それで充分。

『『『そ、そんな理由で世界の管理者である我等を排すると言うのか!? 我等が居なくなったら世界はどうなると思っている!?』』』

知らん。そもそも、魔王システムとか過保護すぎるんだよ。人間って意外としぶといのよ? 放っておいても勝手に増えたり減ったりして存続して行くさ。

『『『この世界の人類は一度滅びかけたのだ! 人類の存続には我等の管理が必要なのだ!』』』

繁栄の末路は滅亡だ。普通だろ。まぁ、異世界だし俺には関係ないがな。

『『『貴様は我等を排した後、この世界の行く末に責任を持てるのか!』』』

持たないよ? その責任はこの世界の住人が負うべきだ。誰かに管理さられなくちゃ存続出来ない文明なんて滅んだ方が後の為だろ。つー訳で、さようなら。

『『『ま、待て! 議論はまだ終ってな……』』』

ああ、最後に一言。誰かの監督下で生存することは生きていくとは言わん。生かされていると言うんだよ。飼育と言い換えても良いがな。俺は正義やら何やらを掲げない。ただ、一人の人間としてのエゴで貴様等を排除する。

そこまで喋り終わったところで俺が話しながら設置していたC4が爆発を起こした。俺たちはドアの外に出て爆風をやりすごす。

『終ったのですか?』

そうだね。魔王システム中枢は破壊した。これで、君は転生の輪から解き放たれた。

『…永かったです。本当に永かったです』

…全く。何千年も悪役をやらされる魔王に感情を付けるんじゃないよ。

「トオル、魔王はもう現れないのね?」

ああ。

「魔王システムか。…一応、存在には理由もあったのね。ねぇ、トオル。管理者の居なくなったこの世界は滅ぶのかしら?」

そんな何千年も先の話には責任もてんな。まぁ、魔王が居なくなったから人間同士の戦争は起こるかもしれないが、滅ぶなんて事にはならないだろう。聞いた話じゃこの世界には石油すら無いらしいしな。

「……人間同士の戦争か」

野生の動物だって縄張り争いやら食料やメスを巡って争そうんだ。人間だけ闘争しないというのは無理さ。俺の世界も数千年の歴史が有るが、戦争の無かった時代なんて無い。それでも何とか世界は続いているんだ。意外と何とかなるもんなんだよ。

「管理下にある平和か、自由の末の闘争か…」

まぁ、俺的には管理下の平和も悪くは無いんだがな。実を言うとガンダム種運命でも、子供っぽい正義感で好き勝手する無印主人公より、現実的に平和のプランを実現しかけた議長の方が好きだったし。

「その割には躊躇無く爆破したようだったけど」

その管理が俺に何の影響無かったらあいつ等の考えに共感したな。俺が真っ先にここに召喚されていたらあいつ等の手先になっていた自信が有る。でもな、俺は先にジャスティンに出会った。魔王の悲壮な叫びを聞いた。その上であいつ等に共感できるほど、俺の意志は強くない。

「…格好良く言ってるけど、それってつまりは意志が貧弱って事よね?」

現代日本人の意志の貧弱さ舐めんな。そもそも、何かを犠牲にしてまで達成したい理念なんぞ持ち合わせておらんわ!

「…威張って言うことかしら?」

眉間に手を当てて頭痛を堪えるジャスティン。まぁ、誇りやら何やらより平穏を望む国民ですからね。尖閣諸島に中国船団が押し寄せたり、竹島が実効支配を受けても遺憾の意を表明するだけで政府は何もしないし。

『今代の勇者。ありがとうございました。これでようやく眠りにつけます』

良いの?

『この依り代を返さなくてはなりません。それに、私は本来精神体です。精霊同様に死という概念はありません。今代の勇者、貴方が元の世界に帰還する時は勇者システム停止と持って来た本に唱えてください』

そっか。お休み、良い夢を。

『トオル、私は貴方を愛している。……きゃっ、言っちゃいました。それと、クライトン家のご息女。私が停止したら速やかに入魂を。方法は分かりますね? それにしても、本来私の依り代は貴女になるはずでした。今の依り代は勇気と優しさを持ち合わせたのですね。八年間も身体を使ってしまい、申し訳ありませんでした』

「入魂の仕方は知っているから大丈夫。…最後に何を言えば良いのか思いつかないや。永い間お疲れ様。良い夢を」

…最後の最後にネタに走りましたよ、この娘。はぁ、締まらないな~。魔王システム停止。

微笑んだまま崩れ落ちる身体を支え、ゆっくりと横たえる。

「入魂を行うわ。そのまま支えていてね」

ところで、今更ですが入魂とは?

「私の本当の名前はフィリスって言うの。ジャスティンは妹の名前。八年前に私の身代わりになって身体は消え、魂は私と融合した。その融合した魂を二つに戻して、ジャスティンの魂を身体に戻す。…入魂!」

…ビックリ。ジャスティン、いや、フィリスの髪が純粋な金髪になっちゃいました。

「……うーん?」

「ジャスティン!」

「お姉ちゃん? そっか。私、戻ったんだ」

その後は姉妹が抱きしめ合っての号泣。俺は空気を読んで退出しましたよ。

その後、数十分後。

「「トオル」」

あ、終ったのね。

「これで貴方は故郷に帰ってしまうのね」

そうだね。ここは俺の世界じゃないし。願わくはこの世界が二度と勇者を必要としないことを。

「帰る前に一回、マケドニアに寄ってもらって良いかしら?」

別に急いでいる訳じゃ無いから構わんぞ。

「「良かった」」

…君たち、何か企んでません?

「「べっつに~?」」

こうして俺の異世界での魔王討伐は終了した。その後、あんな事になろうとはその時の俺は予想もしていませんでした。

俺たちは中継点を幾つか経由してヘリで要塞まで帰還。その後、要塞と飛行場は引き払い、俺たちは輸送機でマケドニアに帰還した。

で、今は王国を挙げての祝勝会中。で、俺は一組の夫婦に色々と絡まれている(?)。

「娘たちを頼むよ、トオルくん。…くっ、これが娘を嫁に出す親の気分か」

「ジャスティンを連れて帰ってくれてありがとう。そのまま、御嫁に貰ってね?」

あの、俺、元の世界に帰るんですが…。

「娘たちが付いて行くそうだ」

いや、ちょい待ち。付いてくる?

「「不束者ですがよろしくお願いします」」

…あの~、ジャスティンさんにフィリスさん。貴女達はどうしてウェディングドレスを着ているのでせうか?

「では、セバスチャン!」

「ははっ、旦那様!」

セバスチャンさんが合図をするとエイミーさんとソフィーさんが祝勝会と書かれた横断幕を紐で落とすと、その下からクライトン家、ホージョー家、結婚式と書かれた横断幕が参上しました。

あの、俺、結婚とか初耳なんですが!?

「「トオルは私達が嫌いなの?(ウルウル)」」

いえ、どちらかと言わなくても好きですが。それとこれとは話が……。

「ははは! トオルくん。覚悟を決めたまえ! 親の私が言うのも何だが、二人とも器量よしだぞ! 実家を捨てて異世界まで付いて行くというのに何が不満だと言うのかね!?」

いや、オッサン怖い。その暑苦しい顔、近づけないで!

「ホホホ、トオルさん。娘たちを頼みましたわ。…まさかここまで女に覚悟を決めさせておいて断ったりはしませんよね?」

奥さんもその黒い笑顔止めて! 怖い、怖いから!

「トオルさま、お嬢さま方を泣かすような事になれば異世界まで(ピーー!)しに行きますので、くれぐれも頼みますわね」

あの、キャサリンさん。その素敵笑顔止めて! 奥さんに負けず劣らす怖いから! あと、その伏字には何が入るの!?

「大丈夫ですよ、トオル殿。皆さん冗談を仰ってるだけですから。……四割程度は」

セバスチャンさん、それは半分以上本気と言う事ですよね!?

「汝、ジャスティン・クライトン、フィリス・クライトン。順境にあっても、逆境にあっても、トオル・ホージョーを夫とし、生涯を共にすることを誓いますか?」

「「はい!」」

何と、俺を差し置いて結婚式が進行していました。

「ほほほ、やったもん勝ちなのですよ、トオル殿」

おい、こら、神官長。アンタ、今までの登場じゃシリアスキャラだったよな!?

「では誓いのキスを」

無視か!?

「「ンチューー」」

…はぁ、もうなるようになれですよ。

そうして、俺は日本での戸籍やら何やらといった問題を全部先送りにして二人の可愛い嫁さんをもらったのですよ。……そこ! リア充とか言わない!



[18458] 番外編 ジャスティンの出生
Name: タンクさん◆74790b16 ID:addd9404
Date: 2010/05/22 09:33
さて、皆さんこんにちは。魔王討伐軍副指令のジャスティン・クライトンです。

今回は私の出生の秘密を明かすそうです。正直な所は作者が私の名前を男性の名前と間違えた事に端を発するのですが、いい加減ですね。

私の生誕したクライトン家は何代か前の勇者の子孫だそうです。

正直、勇者の数が多すぎて何代前かは誰にも分からないそうです。

ただ、勇者は稀にその能力の一部をこの世界に残すことがあるらしいです。

魔王討伐の後にこの世界に残ることを選択した勇者。その子孫が私。

19 years ago.

「双子とは、何と不吉な」

「勇者の血を引く我等クライトン家で双子、それも二人とも女子が生まれる。…過去、類を見ない事態じゃ」

「…これは、どうするべきか」

クライトン家の長老達が母親と父親をさて置いて勝手に色々と話が進んでいく。

「…長老方、勝手に話を進めないで貰いたいのですが?」

「おお、済まん、済まん」

「で、長老方としてはどう判断されますか?」

「少なくとも吉兆ではあるまい。過去、例が無いのでな。正直な所、何とも言えんよ」

「…クライトンに双子生まれし時、災い現る…ですか」

「まぁ、所詮は伝説じゃ。何とかなるじゃろうて」

「…それで良いんですか? 最初の重い始まりかたは?」

「ノリじゃ」

「初孫に悪いようにする訳あるまい」

「初姪に悪いようにする訳あるまい」

「いや~、最近は赤子も産まれて居なかったからの」

最初の威厳は何処にやら。典型的な初孫を甘やかす爺共である。

「さよけ」

幼少よりこの爺共に育てられたマイク(父)も慣れたものである。

「それに、マリア(母親)のあの幸せそうな顔を見るとの~」

「大人の都合で子と引き離す訳にも行くまい」

まぁ、クライトン家とはこんな家系である。

「しかし、あれじゃ。クライトンに女子の双子が産まれたとなると世間が煩い。片方は男子としておくとするか」

「名前は決めてあります。フィリスとジャスティン」

13 years ago.

「姉さん早く早く~」

「待ってよ~、ジャスティン」

クライトン家は小さいながらも領土を持つ。領土というよりは村長や町長と言った方がしっくり来るかもしれない。

クライトン領は治安も良く、良い環境なのだが、人が少ないのが欠点ではある。子供の数は更に少なく、姉妹は互いを遊び相手として育って来た。

「ジャスティン、危ないよ~」

「平気平気」

二人の子供はすくすくと育っていた。金と銀の髪をした少女達。

ただ、金髪のフィリスの方は体が弱く、病気がちではあったが。銀髪で戸籍上男の子のジャスティンではあるが、男の子なのは名前だけである。

でも、何だかんだで男の子っぽく逞しく育っている。

「くぉら~、悪ガキ共~!!」

「キャ~、逃げろ~!」

「も~う、ジャスティンのバカ~!」

悪戯をして領民に追っ駆けまわされたり。

「どうも、お嬢さま。私、執事の義娘、キャサリンでございます」

「へぇ~、うちに執事なんて居たんだ~」

「ジャスティン…。でも、確かに見たこと無いよね?」

「普段は傭兵として盗賊の討伐を行っておりますので」

「「執事が傭兵!?いや、傭兵が執事!?」」

「本業は執事です。ただ、本人の腕が立ち過ぎて騎士団が中々手放してくれませんが」

新しい友達と出会ったり。

「私、将来、騎士になる!」

「どうしたの急に?」

「だって、格好良いじゃん!」

「そんな理由?」

「お姉ちゃん。切欠なんてそんなので充分なのよ」

「キャサリン、そーなの?」

「フィリスお嬢さま、間違ってはいませんが、そのやる気を達成まで維持できるかどうかは別問題です」

「え~、出来るよ~。ぶぅ」

「では、明日から私のジョギングと素振りに付き合いますか?」

「あ、私、用事を思い出した」

「このように外見しか見ないと実際にその職に就いた時、あるいは就く為に必要な困難で早々に挫折する可能性が高いです。あ○ない刑事を見て刑事になったは良かったが、実際には踊○大捜査線のようだった。という事も珍しくありません」

「キャサリン、その例えは色々と不味いわ」

「そうでしょうか?」

11 years ago. 遂にその時が来てしまう。

「お父さん! お姉ちゃんが倒れたってどうゆう事!?」

「落ち着きなさい」

「落ち着いていられますか!」

「落ち着きなさい」

「……ぶぅ」

「で、フィリスだが、クライトン家の女子が低確率で発症する魔力衰弱の病だな。最後に発症が確認されたのは、10世代は前のご先祖なんだが」

「治るの…?」

「分からない。そもそも情報が少なすぎる。回復法どころか、症状の情報すら事欠く上に、余りに発症例が少ないんで病名すら付いていない有様だからな」

「そんな…」

「まぁ、努力はしよう。ジャスティンはフィリスの側に居てやりなさい。病気は気からと言うし」

「はい…」

クライトン家の女子が低確率で発症する魔力衰弱。

呼んで字の如しだが、魔力は生命エネルギーと置き換えても過言ではなく、これが衰退する=寿命が縮まるである。

「ねぇ、ジャスティン。私、死ぬのかな?」

「何言ってるんだか。死ぬわけ無いじゃない」

フィリスは日に日に衰弱していった。

外に出られる日も減って、部屋から外を見るだけの日々が続く。

大人達は過去の記録を漁り、国中の医者に当たり、あらゆる健康法を試す。

しかし、どれもこれも効果は今一だった。

「うわぁ~、いつの間にか紅葉の季節になってたんだね~」

「お姉ちゃん、外に出るの久しぶりだもんね~」

「ジャスティンお嬢様、車椅子を押す速度が速すぎです。もう少しゆっくり歩いてください」


フィリスの体調は良くなっていない。寧ろ悪化している。

今まで外に出られなかったのに何故今、散歩が許可されているのか。それは大人達がフィリスの回復を半ば絶望視していると言う事でもあった。

勿論、全員寝る間も惜しんで調べ物をしている。一人も音を上げない辺り、クライトン家の人間は根強い。

9 years ago.

遂にフィリスはベッドから起きられなくなってしまう。碌に休みも取らないで調べ物に明け暮れていた大人たちもやつれて来ていた。しかし、それでも治療法は見つからない。

しかし、そんな中、ジャスティンはフィリスを救う方法を見つけていた。それは偶然に近い。

キャサリンの養父である執事のセバスチャンの部屋に忍び込んだ時に見つけた古代の魔法書。

そもそも、元々はフィリスとジャスティンは一卵性である。余りに大きすぎる魔力故に双子になり、魔力を分散した。そして、マイナス面は殆どフィリスに行ってしまった。

フィリスとジャスティンが元は同じ存在である双子だから出来る芸当、魂の融合。

フィリスの魔力減衰を強大な魔力を持つジャスティンの魔力を融合させて回復させる。古代の禁じ手。しかし、それを行えばジャスティンという存在はこの世界から消えてなくなる。

とりあえず、その行い方だけ写しておくだけに留める事にする。

8 years ago.

遂にフィリスはいよいよ末期症状へと突入した。

「…私達は娘に何もしてやれなかった」

「…無力だ」

両親は激しく落ち込んでいる。他の使用人やキャサリンも沈痛な表情をしている。その中でジャスティンだけ何かも決心した顔をしていた。

「…うっ、ぐす。何で私だけ。…死にたくないよ」

普段は気丈に振舞っているフィリスだったが、一人になると本心が口から出ている。

「大丈夫。お姉ちゃんは死なないよ」

「っ!? ジャスティン!?」

突然現れたジャスティンに驚くフィリス。

「私は今までお姉ちゃんの分も外で遊んだ。色んな物を見てきた。今度はお姉ちゃんの番だよ」

「な、何を?」

「我、勇者の血を引きし一族。二つに分かれた魂を再び一つに」

「ジャスティン!? 何をして…」

「お姉ちゃん。私は何時もお姉ちゃんと一緒だよ」

「ジャスティン!」

次の瞬間、ジャスティンの姿は無くなっていた。まるで最初から存在しなかったかのように。

「……ジャスティン、…バカ」

あれだけだるかった身体が今は嘘のように軽い。産まれてから一度も体感したことの無い全快という状態だ。

そして、中にはジャスティンの存在を感じる。とても小さい、それでいてとても温かい存在が。

何より、金髪だった髪が金と銀を足した様な色になっていた。

「フィリス、何が!?……その髪は…まさか」

「父さん、母さん。ジャスティンが…」

「まさか、合魂の術を。では、ジャスティンは…」

「う、うわぁぁぁーーーん!!」

この日、ジャスティンという娘はこの世界から消えた。


「フィリス…」

「父さん、今日から私、ジャスティンって名乗る。私があの娘の存在を忘れない為に。皆がジャスティンが存在していたんだって忘れない為に。私が今、生きているのはジャスティンのお陰なんだって忘れない為に」

「フィリス……分かった。でも、勘違いするな。ジャスティンが自分の生命を使ってフィリスを助けたのは幸せになってもらいたいが為だった筈だ。それを理解しているならジャスティンと名乗りなさい」

「はい、父さん」

4 years ago.

「只今をもって、騎士育成学校卒業式を執り行う。卒業生…」

私は騎士になる事にした。ジャスティンがなりたいと望んだ騎士。ジャスティンの陰を何時までも引き摺る訳じゃ無いけど、それでも私はジャスティンが生きていた証をこの世界に残したい。

あの日からフィリスとジャスティンは一つなった。今の私はフィリスでもジャスティンでもない。二人の特徴を併せ持った存在、それが私。

特にジャスティンは騎士になりたいというのはかなり強い思いだったらしい。私は特になりたい職は無かったのでジャスティンに引っ張られた感じかな。でも後悔はしてないよ。

「ジャスティン・クライトン」

「はいっ!」

「第一重装騎士団に配属とする」

「はいっ!」

この先、何が起こっても私なら乗り越えられる。だって、私は私達、二人で一人なんだから。

たった四年間で団長って、どんな出世速度だって突っ込みは無しですよ?



[18458] 設定や説明
Name: タンクさん◆74790b16 ID:addd9404
Date: 2010/06/08 17:40
ここでは作中の世界観や登場するキャラクター、火器等の説明をして行こうと思います。作者の主観が混じるかもしれません。正確な知識を得たい方はご自分でも調べることを推奨します。

主人公 北条透 職業 勇者(仮)

理系大学生。とりあえずの目的は元の世界に帰ること。多くの兵器では俺Tueeするには威力不足。核は放射能の影響が読めないので使わない。デイジーカッターは割と使うが、広域破壊系は拠点攻略には向かないので城に対しては結局は使わない。本人は余り認めたがらないが、勇者補正を所有しており、普通に谷に行けば魔王の元に辿り着く。しかし、安易に空爆するとそのルートが潰れてしまうので、とりあえず保留中。結局、今現在は要塞で対処法を考案中。戦闘機や戦車、自走砲といった戦術級の兵器で戦術的な勝利を目指す。今は偵察と迎撃の日々。身長177センチ、体重68キロ。

ジャスティン・クライトン 職業 騎士 第一重装騎士団団長

適当に持っているゲームのキャラから引っ張った名前なのだが、実は男の名前でしたというオチでした。作者は感想で指摘されるまで知らなかった。修正するのも何なので、ジャスティンが男の名前を名乗っているのに適当なエピローグをつけて番外編を作ろうかと企んでいる。
身長165センチ、体重no date。金と銀を足して二で割った色の髪を腰まで伸ばしている。騎士としても優秀だが、指揮官としても優秀で多くの騎士から尊敬されている。しかし、その手腕を活かせるかどうかは作者の文章力次第。

異世界

主人公が召喚された世界。文明は中世欧州レベル。主人公が呼び出されたマケドニアは大陸中央北部に存在し、その更に北には魔王の谷が存在する。他国の存在も確認されてはいるが、交流可能な距離ではないので(馬車で半年以上掛かるとされる)国家間の交流は全く無い。その為、本来の意味での国境は非常に曖昧。作中で国境といったら、マケドニアの実効支配地域の境界線を指す。当然ながらこの国境は自称。

マケドニア

主人公が呼び出された世界に存在する国家。積極的に交流をできる距離に他の国家は無い。交流可能な距離にある町や村は全てマケドニア領。政治は王政で、国軍は騎士と国防軍に分けることが出来る。更に各地方で自警団も所有しており、国防軍が軍隊、騎士は軍警察、自警団が警察に相当する。魔王の存在ゆえに、もう百年単位で人間同士の戦争をしていない。
徴兵制の国防軍やパートタイムの自警団も合わせれば結構な人数になるのだが、国土が広く、戦力を集中させることは出来ない。作中の3000人という人数も割と限界ギリギリ。魔物はまだ存在しますし、治安維持も大切なお仕事ですから。
貴族も存在するがこれは、各地方領主に相当する。クライトン家も一応貴族。基本的には領内に居るものなのだが、弱小領主を従えた大領主は首都に出て来ている者も居る。ウッゼ~貴族はこれに相当する。
国防軍は徴兵制、騎士と自警団は志願制となっている。自警団が人手不足の時は国防軍から出向で人員が補強されるが、本来自警団は米国州軍みたいに非常勤なので、若い世代が居ない等の例外を除けば、その地方は全国から白い目で見られる。
アルデフォン等の北部は激戦区なので、国防軍出向者も普段から常駐し、平均して駐留軍の七割は国防軍出向者、残りは地域住民である。尤も、自警団が本格戦闘に駆り出されるのは稀。所詮はパートタイムの警察組織ですから。
国土総面積はカナダと同等程度。ただ、これには人が全く住まない地域も含まれ、最遠部と首都では殆ど交流が無かったりする。人口は2000万前後と推定されるが詳しい数値は不明。種族は人のみ。首都などの大都市では石造りの建物が目に付くが、それ以外は大抵木造。

魔王

魔物を束ねる首魁とされるが、詳しい事は何も解っていないのが現実。存在を疑問視する声もあるが、勇者が魔王を倒し帰還すると実際に魔物の動きが鎮静化されるので公式に存在するとされている。ただ、歴代勇者の証言する魔王像が、代によって全く異なるので、それも魔王疑問視に繋がる要因。周期は不明だがいつの間にか復活している。

勇者

魔物の動きが活発化すると神官達は勇者召喚を行う。成功する場合と失敗する場合があり、失敗する場合は未だ魔王は復活していないと見做される。しかし、明らかにその被害が大きすぎても失敗する場合があり、割とあやふや。その能力は代によって全く違うが、勇者以外にも扱える道具を用いて戦うのは透が初めて。魔王討伐後に元の世界に帰還するのが普通だが、何故かマケドニアに根を下ろす者も存在したらしい。



神官達は召喚は出来ても返還は出来ない。しかし、勇者は役目を終らせた後に勝手に帰るので、自身たちの宗教も絡んで存在するとされている。実はラストで……。いや、まだ語れませんよ?

魔物 (一般)

大半はゴブリンクラスの害獣レベルだが、森の多いマケドニアでは人は苦戦を免れない。これは、第08MS小隊で言うところの、線では無く、点で戦う事になるからである。相手の位置を特定し、線を半円にまでして前進することのできた透指揮下の討伐軍は善戦した。

魔物 (幹部クラス)

歴代勇者でも苦戦を免れぬ相手。何が出てくるかは代によって全く異なり、初見の相手も存在する。魔物図鑑に存在した物は記録されていく。この魔物図鑑は昔に召喚された勇者の能力で、電子媒体のオリジナルは消失したが、紙媒体のレプリカが残されている。紙媒体のポ○モン図鑑と思えば良い。誰が何時作ったかは不明。出現するのは荒野近辺から。何故か一部例外を除いて湖以南には全く来ない。勇者を伴わない討伐軍は大抵、荒野で全滅する。

自動小銃/アサルトライフル

現代の軍の主力武器。自衛隊の89式小銃や米軍のM-16、旧ソ連のAK-47などがこれに当たる。重量は大抵3kg前後で、引金を引いている間、ずっと弾を発射し続ける連射(フルオート)、引金を一回引くと一発発射される単発(セミオート)を備え、一部小銃では引金を一回引くと三発発射される三点射(スリーショットバースト)の切り替え機能を有する。
マガジンは30発と20発の箱型が多い。軽量な自動小銃では連射を用いると反動で銃身が跳ね上がるので、狙いがつけ辛い。弾幕を張りたい場合はそれでも良いが、無駄弾や誤射に繋がるので、映画などと異なり、大抵は単射で発砲する場合が多い。また、最近では映画でも単射で発砲する作品が増えてきた。民生品はアサルトライフルに限らず、フルオート機能が削除されている場合が多い。

分隊支援火器(SAW)

小銃と異なり、連射で弾幕を張ることを前提とした機関銃。二人以上での運用を前提とする軽機関銃と異なり一人で運用できる。自衛隊などで運用するMINIMIなど、軽機関銃をスケールダウンさせた物と、M-16やAK-47などの自動小銃を強化した物に分けることが出来る。前者はベルトリンクとマガジン双方で給弾し、後者は通常マガジンと増加マガジン(装弾数100前後)のみの給弾となる。世界の主だった自動小銃は強化させたSAW型を有しており、89、64式みたいに小銃のみというのは逆に珍しい。

89式小銃

透が書の能力を試すために召喚した小銃。大量に呼びすぎたが返還済み。陸上自衛隊の制式小銃。口径は5.56×45mm。単射、3点射、連射を選択可能。セレクターは64式小銃のアタレから左上から時計回りでアタ3レの順番に変わっている。アタレはそれぞれ安全、単射、連射の頭文字。
軍用ライフルとして採用されている以上、そこそこの堅牢性は持ってはいるのだろうが、限界領域まで使用されることがまず無いので、その辺はあやふや。資料によって使えるか、使えないか、判断が全く異なる。透も整備が期待出来ない異世界で不安の残る銃を使う気は無いのでもう出てこないかも。

FN-MINIMI

自衛隊や米軍で採用されているSAW(分隊支援火器)。一個班、もしくは一個分隊に一丁支給され火力支援を担当する。給弾はベルトリンクか、89式と同じ30発マガジンを使用する。ベルトリンクはボックス型マガジンに200発入れられているのが標準。ベルトリンクとマガジンで連射速度が実は違う。

FN-MAG(M240)

7.62×51mm弾を使用する軽機関銃。1950年代の設計だが、その信頼性の高さゆえに今でも世界各国で使用されている。米軍でもM60の後継(造られた時期は変わらない)として湾岸戦争以降配備を行っている(車載機関銃としてはもっと早く採用していた)。AK-47とは弾薬の規格が違うので共有は出来ない。

110ミリ個人携帯対戦車弾

使い捨ての対戦車ロケット弾。84mm無反動砲の後継として採用された。弾頭は基本的に成型炸薬弾。着弾と同時にメタルジェットが秒速7~8kmで前方に噴射され装甲を撃ち抜く。通常装甲での防御は難しく、複数の素材を重ねた複合装甲での防御が得策。正面以外なら戦車の装甲も貫通可能。
映画ほど派手な爆発は起こらない。映画などで歩兵相手に用いられ、大爆発を起こすのは榴弾使用時。しかし、榴弾では装甲貫通力は無きに等しい。透は成型炸薬弾を使ったので爆発は地味だった。後方に発射弾頭と同等の質量を持つ金属粉を飛ばして反動を抑えている。金属粉は空気抵抗で直に失速するので、爆風を出す砲に比べれば閉所からの発射も容易。

AK-47

1947年にソ連で制式採用されたライフル。故障が少なく、高い堅牢性と量産性を持っている。世界で最も使用されているライフルだが、紛争地域に出回っている分はその殆どが密造銃。生産が簡単すぎるのも考え物である。口径は7.62×39mm

90式戦車

陸上自衛隊が1990年に制式採用した戦後第三世代戦車。その性能は今現在でも世界最高水準にあるのだが、市街戦などで効果を発揮するC4Iシステムの搭載が困難として他の同世代戦車には0.5世代開けられてしまった。また、重量が50tあり、本州での運用は困難。それでも他国に比べれば10t以上軽い。FCSは優秀で走行しながらの砲撃でも命中精度が高い。
1500馬力ディーゼルエンジン搭載。44口径120ミリ滑腔砲搭載。最高速度70km/h。

Strv.103C

スウェーデンの戦後第二世代戦車。62口径105mmライフル砲を車体に直接据え付けた戦車。MBTに分類されるが、待ち伏せに特化しているので平野での機動戦闘は苦手とする。正面装甲は薄く、傾斜装甲による被弾経始に依存しているので、傾斜で弾くことがまず出来ない現代主流のAPFSDSには耐えられない。一応、前面に防御柵があるので成型炸薬弾には耐えられる(?)。本作では粘着榴弾と榴弾を持つ。滑腔砲の方が効率の良い装弾筒系統の徹甲弾は使用しない。

ハープーン対艦ミサイル

西側の代表的な対艦ミサイル。艦対艦、空対艦、地対艦とあらゆる状況で使用できる。自衛隊では国産の対艦ミサイルに更新している。射程は100km以上。

88式地対艦誘導弾

陸上自衛隊が運用する地対艦誘導弾。ミサイル96発、発射機16基、装填機16基、捜索・標定レーダー装置6組、レーダー中継装置12基、射撃統制装置4基、発射統制装置1基で構成される。尤も、討伐軍ではSH-60からのデータを精霊が統合して発射しているので大部分は略されている。大型ゴーレム級の敵に対抗する目的で配備され、レーダー反応が期待出来ない敵には慣性誘導で凡その場所に無差別攻撃を加える。主に戦艦を持たないサンドトウ飛行場の火力支援を担当。

トマホーク巡航ミサイル

射程1000km以上を誇る巡航ミサイル。派生が多く、中には射程3000kmに届く物もある。作中のレーザー誘導は「ジパング」を参考にしたオリジナル。実際は途中まで地形照合で飛び、予めインプットされた形状の物体に突入するか、ハープーンと同じレーダー誘導で突入する。

OH-1 ニンジャ

陸上自衛隊の観測ヘリコプター。二人乗りだが、コックピットは縦列に配備されており、外見的には戦闘ヘリに近い。観測ヘリとしては運動性も良好で、短射程の空対空ミサイルを4発搭載できる。機体もエンジンも全て国産。作中でOHと書いたらこのヘリを指す。

AH-64D アパッチ・ロングボウ

世界最強の戦闘ヘリと呼び名の高いアパッチに全天候での作戦能力が付加されたモデル。機体主要部は23mm弾の直撃に耐える設計で、どこに被弾しても30分は飛行を続けられるらしい。
30ミリチェーンガンを固定武装し、ヘルファイア対戦車ミサイル、70mm対地ロケットを機体側面に装備する。余談だが、作者は続戦国自衛隊で使われたロングボウ・アパッチという呼び名に馴染んでしまって、正式な名称のアパッチ・ロングボウに違和感を感じる。

UH-60 ブラックホーク

西側最新鋭の多目的ヘリ。ワイヤーで車両を吊り下げながら空輸することも出来るし、機銃やミサイルを積んでガンシップとして運用することもできる。レスキューウイングでお馴染みの航空自衛隊航空救難団でも採用している。

SH-60 シーホーク

UH-60の海軍版。ソナーや魚雷を積んで対潜水艦戦闘や、上空に上がって空中管制機の真似事も出来る。主に海上から水平線の向こうへミサイルを撃つ時は本機を上空に上げてデータをもらう。欠点として、レーダーが下方にしか付いていないので上空からの攻撃に弱い。

CH-47 チヌーク

兵員55名を空輸可能な大型ヘリ。ローターが二つとも地面と水平に回転するタンデムローター方式。テイルローターをメインローターのトルクを打ち消すのに使う通常型と違って、両方のローターで揚力を得ながらトルクを打ち消せるので効率は良い。ただし、小回りが利かない。熟練者が操れば、機体を着水させて、後部ハッチから部隊をボートごと収容なんて神業も出来る。

JAS-39 グリペン

透が陸上滑走路での運用の為に呼び出した小型軽量戦闘機。戦後4.5世代機の中では最小。スウェーデンは中立国なので先制攻撃を受ける前提で装備を整えているので本機は高速道路直線部での離着陸とトンネル内での整備で運用が出来るSTOLと整備性を与えられている。PCゲーム「群青の空を越えて」の主人公メカ。自重は僅かに6.5tしかない。

F/A-18E スーパーホーネット

米海軍の主力戦闘機。汎用性の高さからF-14を退役に押しやったF/A-18C/Dだが、出力不足から来る搭載量、安定性、航続距離の低さが問題となっていた。そこで大幅な改良を施した結果、C/D型とE/F型の共通部品は一割にまで減ってしまった。もはや、見た目が似ているだけで別の機体。
C/D型でも騒音がうるさく、訴訟沙汰になるほど。E/F型はそれより更にうるさくなっている。一応F-X候補の一つなのだが、その騒音の大きさと、4.5世代機の中では性能で劣ることから、F-X候補に載せない雑誌も存在する。A~Dまでをホーネット、E/Fをスーパーホーネットという。現役なのはC/DとE/Fで、CとEが単座、DとFが複座となる。

F-15E ストライク・イーグル

米空軍主力戦闘爆撃機。基本設計は戦後4.5世代機の中で最古だが、F-22の生産停止とF-35の開発遅延を受けて暫く主力機の座に留まる予定。C/D型以前とは六割を再設計しているので半ば以上別の機体。お隣の韓国がE型ベースのF-15Kを採用したので、C/D型ベースのF-15J/DJを扱う空自の優位性は失われつつある。F-X候補に本機を空対空戦用に再設計したF-15SEが提案されている。E型のキャッチフレーズはF-15シリーズの空対空能力を引継ぐ攻撃機なので、C/D型に比べて対空戦闘が強いわけではない。

F-4 ファントムⅡ

元々は艦載機として配備が始まった重戦闘機。優秀な機体だったので空軍型も製造された。運用開始は1960年。航空自衛隊でも採用しているE型は空軍使用で20mmバルカンを標準装備している。初期型は機銃を持たず、ベトナムでIFFの未発達で視界外戦闘を禁止されたので、格闘能力で勝る軽量のMiGに大苦戦を強いられた。その反省からF-15等の第四世代機は格闘戦闘にも対応しているのだが、皮肉にもレーダーとミサイルの性能向上で格闘戦は必要無くなりつつある。函館にMiG-25が強行着陸した際に、低空目標のレーダー探知能力(ルックダウン能力)の低さが露呈し改良された。高高度を飛ぶ戦略爆撃機の迎撃を想定した冷戦時代の機体らしく、上昇制限はF-15より高い。空自のF-4EJと改はそろそろ引退なのだが、後継機が決まらないので中々引退出来ない。西側の戦闘機としては生産数が最多。優秀という言葉は良く聞くが、何処がどう優秀という具体的な描写は少ない。
以前、ブルーエンジェルスが来日した際にF/A-18で騒音で訴訟を受けたと書いたが、訴訟を受けたのはF-4運用時だったみたいです。ごめんなさい。

Su-37 チェルミナートル/スーパーフランカー/ターミネーター

東側の主力戦闘機Su-27シリーズの最終形態。チェルミナートルは正しい発音では無いのだが、誰も気にしない。愛と勇気の御伽話トータル・イクリプスでその名称が有名になった。それ以前はターミネーターとしてしか知られていなかった筈。基本的にはベースとなったSu-27にカナード翼と推力偏向ノズルを付けたと思えば良い。実在機としては最高の機動性を誇る。しかし、本機の技術は全て一個前のSu-35にフィードバックされており、Su-37とSu-35は同列に語られている。そのSu-35も時代の流れには勝てず、カナード翼を取り去ってレーダー反射面積を減らしている。元々二機しか存在しなかったSu-37だが、その存在は完全に創作の中の物となってしまった。Su-27ファミリーは派生機がとにかく多く、見分けるのは至難の技である。

MiG-35 スーパーファルクラム

これも正式な名称では無いのだが、誰も気にしない。MiG-29に推力偏向ノズルを付け、アビオニクスの改修、主翼の面積拡大等を行った。元となったMiG-29はSu-27と同時期に同理論で造られたので非常に似通っており、また、北朝鮮が持つ唯一と言って良い近代機である。ソ連崩壊後はミグはスホーイに比べ冷遇されており、本機の行く末はどうなるのだろうと心配な作者である。機体自体は優秀で、速度域によってはSu-37を上回る機動性を持つ。

A-10 サンダーボルトⅡ

30mm七連装ガトリングガンを備える対地攻撃機。滞空時間の長い攻撃機を求めた米軍が開発した。異常なまでの撃たれ強さを誇り、機関砲の類で撃墜するのは容易ではない。ただ、低速なのでミサイル攻撃に弱い。30mmガトリングガンGAU-8はとにかくでかく、一度画像を見ることを推奨したい。本体は自動車と、弾丸はフィルムと並べると三日は笑える。

C-130 ハーキュリーズ

プロペラ稼働のターボプロップ・エンジンを四発備える戦術輸送機。1950年代の機体だが、1000mの未整地滑走路で運用できる能力を買われて現在でも現役で運用されている。多くの派生機を持ち、105mm榴弾砲、40mm及び20mm機関砲を持つ本家ガンシップや、空中給油を行う支援機、民間仕様機も存在する。
日本では国産のC-1輸送機が、『長距離を飛行でき、大量の物資を運搬できる輸送機は軍国主義の復活だ』という開発当時の笑えない国勢もあって意図的に能力を落とされた結果、北海道から沖縄まで無着陸飛行出来ないという機体になってしまったので本機が海外派遣でも使用されている。

C-17 グローブマスターⅢ

戦車も空輸可能な大型輸送機。それでいてC-130と同等の滑走路で運用できる。ジェット機ではあるが、未舗装の滑走路でも運用できるので世界中で活動する米軍には必要不可欠な機体である。

施設作業車

75式ドーザの後継として配備が進んでいる施設車両。外見は73式装甲車に排土板とショベルアームをくっ付けた感じ。レーザー検知機やスモークディスチャージャーを備えて航空攻撃に対する生存率を向上させている。

グレーダ

民間でも良く見かける土木車両。六輪車で前輪2つと後輪4つから構成された非常に細長い車両。排土板は胴体下に設置されている。雪国では除雪車として見かけることも。

掩体掘削機

まんまパワーショベル。操作はレバー四本で行い、二本を移動に。残りで上体の回転やアーム、バケットの操作を行う。先端のバケットはアームの伸縮に合わせて角度を変えないといけないので、素人がやると土をばかばかこぼす羽目になる。

バケットローダ

別名ホイールローダー。外見はブルドーザーを装輪にした感じ。雪国の人間には除雪車と言った方が馴染み深い。ハンドルを切ると胴体中央部が曲がるので外見からは想像出来ない回転半径の小ささを実現している。その関係上内輪差が存在しない。作者も小特サイズ(それでも自重10t近い)に乗った事があるが、あの操作性には感動した。

カール・ヴィンソン

勇者軍本拠地。ニミッツ級航空母艦の3番艦で、全長333m、全幅77m、喫水12m、満載排水量101,264トン。ニミッツ級は各艦で微妙にスペックや見た目が異なる場合がある。何でこの艦にしたのかと言うと、作者が「沈黙の艦隊」好きだから。

ミズーリ

アイオワ級3番艦。第二次世界大戦はこの戦艦の甲板上で終結を迎えた。米海軍最優の戦艦だが、対艦戦闘に限れば前級のサウスダコタ級の方が優れている。アイオワ級は高速を実現させるために全長270m、全幅33mと非常に細長い(大和は全長263m、全幅39m)艦体をしているので、波の影響を受けやすく、長距離で精密さを求められる対艦射撃には向かない。また、被弾時の復元性にも乏しく、容易に転覆してしまう。
しかし、33ノットという空母機動部隊に随伴できる速力を発揮し、大戦末期、カミカゼから多くの空母を護った。元々は日本の金剛級高速巡洋戦艦に対抗するために建造されたので、速度優先で防御力は二の次とされている。
50口径16インチ砲三連装砲塔三基搭載。5インチ連装両用砲、20mmCIWS、トマホーク巡航ミサイル、ハープーン対艦ミサイルを搭載。

クラスター爆弾

親子爆弾。親爆弾が空中で展開し、中身の子爆弾を広範囲に撒き散らす。百発単位の子弾を入れた対人用から十数発の子弾を入れた対戦車使用まで存在する。国際条約への署名をした日本からは近く姿を消す。MLRSはこれのロケット発射版。そちらも日本からは姿を消す。余談だが、米国、中国、韓国、北朝鮮、ロシア、台湾といった周辺国は所有禁止条約に署名していない。大丈夫か? 日本。

デイジーカッター

気化爆弾と混合されがちだが、全くの別物。これは単純に大きな爆弾である。兵器と勘違いされているが、本来は密林にヘリポートを造ったり、地雷処理を行うための工兵装備。主にC-130などの戦術輸送機からパラシュートで投下される。現在ではGPS誘導で投下される後継が作られ、米軍所有の最後の一発も爆破処分された。

勇者軍要塞

カール・ヴィンソンとミズーリの浮ぶ湖を中心に全方位を空堀と城壁で囲んだ要塞。モデルは「続戦国自衛隊」の大阪城編、さくら丸。詳しくは本編で書き尽くしたので特に書くことはない。
最新では荒野森林間の第一次防衛線簡易要塞とサンドトウ飛行場の2拠点と立体的に稼働するようになった。やたらと航空機や車両の数が多いが、主人公が毎回召喚するのも面倒なので予備も含んだ数字。要塞と第一次防衛線は約50km離れている。要塞と飛行場の距離は160km。第一次防衛線は荒野と森林の境目にあり、第一次防衛線を破っても、森林で行軍速度が大きく制限される。その間に撤退か迎撃かを選択し、行動する。第一次防衛線は万里の長城をイメージしている。ただ、車庫の類は殆ど無いので常駐戦力は少ない。



モデルは長野県大町市に存在する仁科三湖。15年くらい昔は湖畔で車のウィンカーを出すと蛍が寄って来たのに最近は見当たらない。「白線流し」「男はつらいよ」「犬神家の一族」などでロケ地として使われ、「おねがい☆ティーチャー」「おねがい☆ツインズ」では舞台となった。何でこんなマイナーな湖にしたのかと言うと、作者がリアルに見たことのある湖がこれだけだから。
リアルに行くには電車なら松本駅からJR大糸線に乗って一直線。長野市からは直通路線が無いので注意。
車なら長野自動車道豊科ICから高瀬川の堤防上を走る長野県道306号有明大町線を北上。この県道は国道147号線と合流して終るが、交差点の向こう側から市道が国道148号線と合流地点まで続くので北上は継続できる。余りに自然な路線変更なので、普通は道が変わった事に気付かない。蓮華大橋で高瀬川を渡り、市道と148号線の合流地点が仁科三湖最南端の木崎湖付近。1998年の長野五輪にて長野自動車道から白馬へのアクセスを容易にする為に造られたので県道市道合わせてオリンピック道路とも言われる。
松本市から国道147号線経由で国道148号線に出ても結局は合流するので行くことが出来る。ただ、途中自治体の中心部を抜けるルートなので信号が多い。
聖地巡礼に比較的好意的で、イベントを組んだりもしたらしいが、作者はやっているところを見た事がない。そもそも2002年当時おねがいシリーズの存在を知らなかった。

精霊の能力について。

兵器が無人で行えることはすることが出来る。逆に人力でやることは出来ない。例えば74式戦車を召喚しても砲弾の装填は人力なので無人では砲撃出来ない。また、憑依出来るのは兵器本体のみで、誘導弾や砲弾には憑依不可。なので、正規手順で発射する必要がある。
また召喚から憑依までタイムラグがあるので、空中で飛行機を呼び出す等は出来ない。結果、航空戦力は大きく制限されている。また召喚は半径10m以内。その為、物理的に一度に召喚できる量には限度がある。軍艦などの大質量を呼び出す場合は、距離と、津波にかなりの注意が必要。

魔物

多くは獣と言った方が良いレベル。作者が魔物と一括りにした場合はゴブリンに近いものを想像している。知性が低く、一応、魔王の命令も聞くのだが、目の前にエサがあるとそちらを優先してしまう。

ゴーレム

歴代勇者でも苦戦を免れない強敵。その真価は何と言っても固さ。コンクリートの五倍の強度があるスエズ運河の底の岩壁とタメを張れる。コアを破壊しないと無限に再生する。一撃でコアを破壊できれば良いが、出来ない場合は回復速度を上回る破壊速度を達成しなくてはならない。

オ○ム

全長80mの巨大ダンゴ虫。本来は知性が高く、慈愛も持っており、人が腐海で暴れなければ怒らないのだが、今回は何故か最初から怒りMAX。外殻がとても硬く、抜け殻はガンシップや日常品に利用されたり、目の部分はガラスの代用品になる。普通にセラミック鋼より硬い。でも、生き物なのでデイジーカッターの高温や高圧で死んでくれると信じたい。原作はジ○リ創立前の作品なので正確にはジ○リの作品ではない。

ロボット

頭部に大小二つのビーム発射口を持つ兵隊。初登場時は恐怖の権化として登場するが、実は飛行石の持ち主を護りたかっただけ。後にその忠誠心や、鳥の巣を心配する慈愛を持つことが確認できる。しかし、兵隊タイプはヒロインに勘違いされたり、某色眼鏡大佐の命令で働かされたりと不運が目立つ。装甲は劇中では触れられていないが、形状記憶弾性セラミック。原作は今でこそ有名だが、観客動員数はジ○リ作品中最低だったりする。

ト○ロ

皆大好き森の精霊。大人になると見えなくなってしまう。作中では寝ている時間が多く、ト○ロの由来も、何語だか知らないが、「眠いよ」と言ったのがト○ロと聞こえたから。人に好意的で、5月由来の姉妹を何かと気に掛ける。

B-29

戦時中に日本にたらふく爆弾をばら撒いてくれた戦略爆撃機。日本に原爆を落としたのも本機である。今の航空機同様、機内は気圧を保てるので高高度でも搭乗員は酸素マスクを着用する必要がない。反面、被弾によって穴が開けば気圧の変化で吸い出されるという欠点もある。この作品はハッピーエンドが基本のジ○リにしては珍しく救われない。

飛行船

クライマックスでト○ボくんがぶら下げられていた飛行船。作者はこれ見たの結構昔なので、なんでト○ボくんがぶら下げられる羽目になったのか覚えていない。

戦闘艇

アドリア海の空賊や賞金稼ぎの物語。子供にはちと難しいが、中学生以上になれば普通に楽しめる。この作品は数々の名言を生んだ。そこに出てくる、実在したりしなかったりの飛行艇。搭載火器は軽機関銃レベルなので残念ながらAH-64Dの装甲には歯が立たない。水上戦闘機と戦闘艇の違いは、陸上機にフロートを付けて水上機に転用したか、最初から飛行艇として造られたかの違い。作中で言えば、主人公は戦闘艇、カ○チスは水上戦闘機に近い。この当時は高出力化を進めると重力が増し、滑走距離に制限の掛かる陸上機では運用し辛かった。その後は高揚力の翼の開発が進み、陸上機も高出力化が進んだので、着水の為に重い装備を持つ戦闘艇は急速に廃れ、この時代が戦闘艇が活躍した最後の時代でもある。これ以降、水上機が陸上機を上回った例は少ない。(日本の二式水戦は零戦に最高速で劣るものの、米軍機よりは機動性に優れた)

狸の化学

化学はばけがくと読む。高度成長に沸く日本で自然が次々と破壊される状況を憂いた作品。これも、最後こそ明るいが、どこかバッドエンドっぽいのは否めない。これを見て自然保護に興味を持った人も少なくないはず。作中の妖怪大作戦、人間や土地に全く被害が出なかったので、どこかの企業が宣伝でしたと名乗り出て、結局神秘への畏怖を取り戻すには至らなかった。

ヌシ

神として崇められる獣達。主に猪のことを指す。日本では人の手の入らない森は殆ど無く、舞台となるような森は全国でも本当に少数。その最後の時代なのだろうか、ヌシ達は荒ぶる神々と人との対決で主力となった。しかし、火薬を用いた武器を所有する人に惨敗する。何気にあの石火矢、種子島より強いんじゃないだろうか。物語の主要人物は基本的に良い人しか居ないので、善悪という概念を超えたものを考えさせられる。

F-X候補

説明文で何回か出ている単語。航空自衛隊の次期主力戦闘機の事を指す。F-4EJの退役を埋める形で採用されるのだが、現在、選定作業は難航している。以下、候補。作者的にはF-22が候補から外れた今、どの機体を採用しても周辺国に今後の航空優勢が確保できるとは思えない。補足だが、空自では現在F-15J/DJ、F-4EJ、F-16ベースのF-2を運用している。F-15JはF-15Cの日本版なので、F-15Eの韓国版、F-15Kに比べて古い機体となる。
更に補足すると、中国はSu-27系統を輸入とライセンス生産し、殲撃十型という新型国産戦闘機を配備している。韓国はF-15Kを採用し、将来的にはF-35の導入を計画中とある。ロシアのステルス戦闘機は2015年の量産を目指すとしている。対して自衛隊はその時代時代で常に金銭に拘らずに最強の戦闘機を配備してきており、今現在の候補機はどれもこれも同水準にあり、数の差を覆せるレベルの性能を有するとは思えない。

F-22 ラプター

現在、世界最強の制空戦闘機。未だ実戦(空戦限定)で被撃墜無しのF-15を手玉に取る性能を持つ。3S(ステルス・STOL・スーパークルーズ)を持ち、その中のステルスとスーパークルーズ(超音速巡航)が第五世代機の条件とも言われる。しかし、同じく第五世代機のF-35がスーパークルーズを出来なかったり、4.5世代機のEF-2000がそれを出来たりと、曖昧な部分も多い。米国防省は本機の生産中止を決定。それに伴ってF-X候補からも外れている。

F-35 ライトニングⅡ

F-X候補に残っている機体では唯一の本格ステルスであり、最有力とも見做されている。しかし、未だ開発途中にあり、開発参加国ではない日本への輸出は遅れるとされている。ライセンス生産は話すら出ていない。本機の供給を待っていてはF-4EJの退役に間に合わないという現実的な問題もある。また、マルチロール(汎用)機と言うのは強みでも有るが、同時に器用貧乏にもなり易く、絶対的な制空能力を求められるF-Xというより、性能的にはFS(支援戦闘機)に近い。元々はF-22とのHi-Lo-MixのLoの機体なので仕方が無いとも言える。米軍はF-X候補に本機を推している。作者的には国産の心神が完成するなら、それまでの繋ぎやステルス機運用ノウハウの獲得の為に本機を採用するのもありだろうと思っている。

EF-2000 タイフーン

欧州連合が開発した4.5世代機。マルチロール性が高く、あらゆる任務を遂行できる。同じマルチロール機でも主力機として開発されたので、ステルス性以外の全ての性能でF-35を圧倒する。空自への売込みに最も熱を入れており、ライセンス生産も最初から認めるという好条件である。開発元はF-22には劣るが、F-35よりは空対空戦能力で勝ると自称している。F-4EJの退役に間に合わせるには最も有力。しかし、空自は米国製と国産以外の戦闘機を運用した実績は無く、本機を採用した場合、日米間に確実に陰を落とすと言われている。作者的には小型ステルスのF-35より、スーパークルーズと搭載量、運動性に勝るこちらの方が、レーダー波や警告をバンバン出しながら接敵するF-Xには向いているのではないかと思っている。

F-15SE サイレント・イーグル

戦闘爆撃機のF-15Eを空対空戦重視に再設計した機体。ミサイルは機内に納められ、正面からのみならステルスを自称して問題ないレーダー反射面積の小ささを誇る。しかし、候補機の中では基礎設計が最も古く、発展性を使い切った機体でもある。寧ろ、70年代設計の機体が最新鋭機と肩を並べている事実の方が驚きである。

F-18E/F スーパー・ホーネット

先に紹介した通り。一応F-X候補に残ってはいる。本機を運用している米海軍でも近くF/A-18C/Dを退役させてF-35を採用予定なので、本機とF-15Jの組合わせは色々と問題が有ると思う作者である。次期主力戦闘機なのに空対空戦闘ではF-15Jと同等、下手をすれば劣る。


砲弾の種類

徹甲弾(AP)

装甲貫通を目的とし、弾頭全てが重金属で造られている。軍用ライフル弾は殆どこれ。作者は徹甲弾と徹甲榴弾を混合していた感がある。

徹甲榴弾

装甲貫通を目的とし、砲弾の大部分を比重の重い金属で構成された砲弾。少量だが爆薬も入っており、信管で装甲貫通後に爆発する。戦車砲では第二次大戦以降は使われていないような気がする。質量で装甲を破るので垂直に落ちてきた方が貫通力がある。戦艦用の砲弾としては一般的。戦艦大和の九一式46cm徹甲弾で頂点を極め、大口径砲の衰退と共に姿を消した。

高速徹甲弾(HVAP)

砲弾の貫通力は「質量×速度の二乗÷正面積」で表すことが出来る。ならば、質量を増すより速度を増した方が効率が良いとの考えから生まれた砲弾。弾芯に劣化ウランやタングステンといった比重の重い金属を。周囲にアルミなどの軽量金属を用いている。近距離では初速の高さから高い貫通力を持つものの、質量が軽いので失速が早く、長距離ではAP弾に劣る。軽量金属部分は命中時に剥離するので、口径より数段小さい弾芯しか装甲を貫通しない。戦車砲では装弾筒を用いる砲弾の開発で廃れたが、機関砲弾などでは現役。

装弾筒付徹甲弾(APDS)

高速徹甲弾の理論を更に突き詰めた砲弾。発射と同時に周囲の軽量金属が分離し、弾芯のみが飛翔する。装弾筒は火薬の化学エネルギーを運動エネルギーに変換するための傘みたいな物体の事を指す。この類の砲弾は弾頭口径が砲身口径より小さいので、弾頭と砲身の隙間を埋めて、効率よく加速するのに用いられる。装弾筒が砲身を飛び出すと同時に分離するので、この砲弾が実用化された以降の戦車は引っ掛かるのを防ぐために砲口にノズルブレーキが付いていない。

装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)

APDS以前はライフリングによる回転で安定を得ていたが、この砲弾は安定翼にて安定を得る。砲弾の形からしてダーツに装弾筒が付いている様にしか見えない。平均して1500m/s、マッハ4の高初速。ここまで高速になると装甲に対する着弾角度が斜めでも構わず貫通する。滑る前に貫通するので砲弾を滑らせて弾いていた避弾経始は、砲弾が貫く距離が垂直よりは増す程度の意味しか持たなくなってしまった。砲弾は全くと言って良いほど回転しないので横風に弱い。理想状態で発射すれば1m近い均一圧延鋼板(以後鉄板)を貫通できる。ライフリングによる回転を与えられると寧ろ弾道が不安定になるのでライフル砲から発射するときは回転を抑える処置をする。低速だと従来の徹甲弾にすら貫通力で劣る。

榴弾(HE)

弾頭の内部の大部分を火薬にした砲弾。爆風の加害半径を増したいなら金属は極少量とし、デイジーカッターはこのタイプになる。しかし、通常の砲弾ではそれだけの爆発力を得られないので、普通は爆薬の周囲に金属を集め、それが爆発時に飛び散るようにする。戦車の上部装甲は通常、この破片に耐えられる程度の防御力しか有さない。着弾の瞬間に爆発するように設定されている場合が多いが、時限信管や近接信管をつけて対空砲弾として用いられることもある。

粘着榴弾(HESH)

榴弾なのに徹甲弾と同様、装甲への効果が期待できる砲弾。プラスチック爆弾など粘土みたいな爆薬を多用した弾頭が装甲にベチャリと張り付いて起爆。装甲の反対側の剥離を引き起こす。トリビアのバズーカvs10cm防弾ガラスで防弾ガラスは貫通を防いだが、多数の破片が飛び散るのが確認できる。あれが人員や機材に損害を与える量と速度で襲い掛かると思えば良い。一見すると装甲に穴も無く、撃破済みの車両には見えない。イギリスのチャレンジャー戦車が現役で使っている。

成型炸薬弾(HEAT)

現代の戦車砲で用いられるのは稀。高回転で発射されると効率が悪くなるので、ライフル砲からの発射には向かず、APFSDSに比べ複合装甲に対する威力も落ちるので滑腔砲でも使う理由は特に無い。砲弾初速と貫通力に関係性が無いので、主に低初速の無反動砲で用いられる。戦車砲としては多目的対戦車榴弾として榴弾としての役割も担っている。RPG-7クラスでも30cm以上、陸自の110mm個人携帯対戦車弾なら70cmの鉄板を貫通できる。

曳光弾

弾の行く先を確認するのに使われ、小は拳銃から大は大砲まで用いられる。誤解している人も居るが、通常、弾の軌跡はまず見えない。富士の演習、映画、アニメ、ゲーム等で弾の軌跡が見えるのは、全てこの曳光弾である。


装甲

均質圧延鋼装甲

とりあえず、普通に鉄板と認識しておけば問題ない。今現在の主力戦車に用いられることは無くなったが、徹甲弾の貫通力を表すのに用いられる。

複合装甲

戦後第三世代戦車の必須装備。二種類以上の物質から構成される。何が用いられているのかはハッキリしないが、セラミックは必ずと言って良いほど用いられている。これは現代主流の成型炸薬弾とAPFSDSに対抗できるからである。この装甲は均質圧延鋼装甲1mに匹敵する防御力を戦車に与えている。主力戦車でも用いられているのは正面装甲だけで、その事実から推測するに、重かったり厚かったりするのだろう。

中空装甲

文字通り、中に空間が空いている装甲。成型炸薬弾や粘着榴弾に有効な装甲。昔の装甲貫通後に爆発する徹甲弾は一枚目貫通後に爆発するので有効だったが、今の徹甲弾は爆薬と信管が付いていないので意味が無い。成型炸薬弾は一枚目の装甲で爆発することで、二枚目の装甲に対してメタルジェットの有効距離以前で起爆させられるので、貫通力が大きく削がれる。粘着榴弾は一枚目の装甲で生じた剥離が二枚目で受け止められる。一枚目の装甲は捨石として二枚目の装甲で防御する。その為、一枚目の装甲厚は二枚目に比べて劣る。

ケージ装甲(防御柵)

装甲車の外部に取り付けられている金網。RPG-7は信管が弾頭の先端にあるので、金網に着弾すると五割前後の確率で不発になる。不発にならなくてもメタルジェットの有効距離は決して長くないので、装甲手前で起爆すると貫通力が大きく削がれる事となる。イラクに派遣されている米軍の装甲車には高確率で確認できる。成型炸薬弾防御に特化した装甲で、他の攻撃には何の役にも立たない。

アルミ合金装甲

アルミは軽量なので水陸両用の車両や橋不足の時代に浮行前提の車両に用いられていた。しかし、成型炸薬弾の普及で、融点の低いアルミ合金は簡単に融解し、メタルジェットの貫通孔が大きくなり、被害も拡大する。RPGの脅威が大きい現代ではまず使われる事は無い。日本の73式装甲車はアルミ装甲を用いている。


放射能の行き先把握法。

1.気流。気球を放射能到達確率を0.01%まで把握するため一万個の気球を準備。同時に放ち、追跡する。気球には発信機を備え、何処に辿り着くのか0.01%まで把握。同様の実験を平均値を出すために五回繰り返す。現実問題、AWACSでも追い切れない。

2.水脈。勇者軍砦湖が湧水であることから水源の位置を特定。そこから魔王の谷に向かうものを地上、地下問わず特定。谷から先の河川、地下水の流れを追跡。集落に向かわないか、途中の生態系を壊さないかを確認する。追跡は海に出るまで。現実問題、ボーリング試験はおろか、超音波探知機を用いても十年単位の時間が掛かる。


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