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きょうの社説 2010年10月30日
◎原発差し止め訴訟 上告棄却は自然な成り行き
北陸電力の志賀原発2号機をめぐり、住民らが運転差し止めを求めた訴訟の上告審で、
最高裁第1小法廷が住民側の上告を棄却する決定を出した。そもそも予見が極めて困難な巨大地震の発生を想定して、「危険だから止めよ」という原告の主張を認めた一審判決には無理があった。上告棄却は、ごく自然な成り行きだったといえよう。北陸電力は控訴審で、国が改定した耐震設計審査指針に照らしても志賀原発2号機の安 全性は保たれていると主張した。新指針は、国の原子力安全委員会が阪神大震災などを受けて、2006年9月に改定したものであり、耐震基準を満たした原発施設であっても事故発生の恐れがあると訴える住民側の主張は合理性を欠いていたと言わざるを得ない。 下級審の判断が上級審で修正されるのは、珍しいことではないにせよ、全国各地で似た ような原発の差し止め訴訟があるなかで、住民側が勝訴したのは金沢地裁だけである。不合理な想定の下で、いたずらに住民の不安をあおる結果となった一審判決の功罪をあらためて思わずにはいられない。 原発は、将来起こりうる地震の規模を想定し、最大の揺れに耐えられるように設計され る。志賀原発2号機も、国が策定した「耐震設計審査指針」に基づいて設計され、詳細な安全審査を経ていた。一審判決は、予見がきわめて困難な強い地震を想定し、最大の揺れの見積もりについても計算方法が不適切と断じたが、これは裁判の法(のり)を超えた判断ではなかったか。 北電が控訴審で、志賀原発2号機の安全性を訴える論拠として持ち出したのは、国が改 定した耐震設計審査指針である。最新の基準を満たしてもなお危険があると言うなら、新指針の安全性を否定しうる客観的で説得力ある論証の積み重ねが必要だった。 一審判決に「功」の部分があるとすれば、安全性により厳しい目が向けられ、地元の理 解が進んだことだろう。志賀町に北電の原子力本部が移管され、金沢市に地域共生本部が発足するなど、原発事業の地元密着が進んだことも大きなプラス材料といえよう。
◎生物多様性の保全 都市の価値を高める活動
生物多様性条約の第10回締約国会議は、都市も豊かな生物の種や生態系の保全に大き
な役割を担っており、生物多様性に配慮したまちづくりが都市の「価値」をも高めることをあらためて認識させた。生物多様性条約事務局の公式ホームページに紹介された金沢市の活動は、そのことを示す具体例といえる。生物多様性の保全には、政府レベルの取り組みだけでなく、自治体の参画が不可欠とい う認識が近年の条約締約国会議で高まってきた。急速な都市化が生物多様性の減少要因であることから、前回のドイツの会議では、都市の活動を促す宣言も採択された。 こうした流れを受けた名古屋の締約国会議では、北陸三県を含む国内外190の自治体 による国際会議が併催され、「生物多様性の保全に配慮した都市づくり」に積極的に取り組むという宣言が採択されたのは意義深い。 宣言は具体的取り組みとして、自然や生態系に配慮した都市計画の策定や、都市と周辺 の農林業地域との連携強化、若者らへの啓発活動の強化などを挙げている。今後の都市づくりでは、単なる緑化で満足せず、野鳥やチョウ、トンボなどの保全、回帰ということまで意識した取り組みが重要であると認識しなければならない。最近の民間の都市開発などでは、生物多様性への配慮が不動産の付加価値を高めることにもなるという考え方が広がり始めている。 全国に先駆けて伝統環境保存条例を設けた金沢市は、用水保全条例や斜面緑地保全条例 なども制定し、起伏に富んだ自然と歴史の景観保全に努めてきた。こうした活動が、都市の生物多様性保全に役立つ先進事例として条約事務局のホームページで紹介された。歴史的・文化的景観の価値と生物多様性の価値を両立、向上させることが金沢の役割と考えたい。 また、最近の動きでは例えば、小松市のコマツ小松工場跡地の一角で「里山」を再現し 、ビオトープなどを整備する事業が始まったばかりである。生物多様性に配慮したまちづくりの良い参考例となることが望まれる。
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