10月中旬、都内のスタジオで「ファントム」のけいこに明け暮れる杏を訪ねた。スタジオのエレベーターが開いた瞬間、透明感のある力強い歌声が聞こえてくる。オペラ歌手を目指すヒロインにふさわしい豊かな声量で、堂々たる存在感を放っていた。
「初ミュージカルですが、緊張より楽しみが大きくて、話をいただいたときも“やりたい”と即諾しました。小学生のころ、聖歌隊にいて、クセなく素直に歌うことが身についていたので、今回のようなクラシック音楽も受け入れやすかった。家ではお風呂の中で歌の練習をしています」と気負いはみじんもない。
今年7月期放送のフジテレビ系「ジョーカー 許されざる捜査官」まで連ドラに5クール連続出演。女優道を走り抜いた1年の成果を発揮する場所が初舞台となる。昨年末からボイストレーニングを受け、9月にけいこを開始。頑張りすぎてのどに炎症が起きた経験も財産になった。
「私は石橋をたたきすぎて壊しちゃうところがあって(笑)。今回、勉強になったのは『がんばりすぎることと上を目指すことは違うよ』とスタッフに言われたこと。調子が悪いときに無理して長引かせるより、ちゃんと自分と向き合って本当にいい状態を保つことが大事なんだって実感しました」。舞台は来場する観客にとって“一度限り”。「毎回の公演がどれも“最初で最後”と思って、自分のベストを尽くします」と宣言し、「私、生肉が大好きなんですが、のどにもいいと聞いたので、ユッケとかレバ刺しとか食べて体力をつけています」とお茶目に笑った。
美声は舞台上にとどまらず、CDデビューも決まった。「愛は勝つ」などラブソング6曲をカバーしたアルバム「LIGHTS」を11月10日にリリースする。
「モデル、女優とさまざまな形で表現をする中で、強烈なメッセージを発するには、私の場合、歌しかないな、と思って。歌うために伴奏が欲しくなって、独学でギターも覚えました。最初にマスターした曲? 猿岩石の『白い雲のように』。教本の一番初めに載ってた曲だったんですが、今でも弾けますよ」
次に挑戦したい役に、ハードボイルド漫画「シティーハンター」のヒロイン、槇村香をあげた。「香は背の高い、男の子っぽいキャラクター。もしやるとなったら、アクションも訓練します」とどん欲だ。
「今年はお芝居と音楽という点でターニングポイントになりました」。好奇心に満ちた24歳は、どんな表現者に成長するのだろう。
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