ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料加工工場の建設が28日、六ケ所村の日本原燃再処理事業所で始まった。核燃料サイクルの一角を担う施設の着工に、原燃の川井吉彦社長は「世界一のMOX工場を造っていこう」と力を込め、社員らは万歳三唱して工事の成功を祈った。一方、反対派からは異を唱える声が上がった。【矢澤秀範】
MOX燃料加工工場は、使用済み核燃料再処理工場(12年10月完成予定)の南隣に建設される。再処理工場で取り出したMOX粉末を燃料集合体に加工する施設で、商業用では国内初。燃料は通常の軽水炉原発のプルサーマルに使われる。
完成すれば年間最大で十数基分の原発燃料に相当する130トンを製造。現在は輸入品を使うMOX燃料の国産化が実現し、核燃料サイクルが国内で完結する体制に近づく。
着工式には担当社員や工事関係者ら約100人が出席。川井社長は「大きな一歩で意義深い。目指すは世界一のMOX燃料工場。『明るく、楽しく、元気よく』そして『安全第一』を合言葉に頑張ろう」と述べた。
着工に伴い、原燃は同日、燃料製造事業準備室を同事業部にするなど組織改正を行い、16年3月の完成を目指して責任体制の明確化などを図った。
一方、社民党県連や県平和労組会議などで組織する県反核実行委員会は同日、県庁前で緊急集会を開いた。参加者は「再処理工場の完成時期が延期されており、プルサーマルも計画通りに進んでいない中、着工は断じて許すわけにはいかない」などと抗議した。
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■視点
プルサーマル用の燃料を製造するウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料加工工場が着工した。日本原燃が事業実施を表明してから10年の月日が流れたが、核燃料サイクルの一角を担う施設の建設がようやく始まったことは、国のエネルギー政策上、大変意義深いことだ。
プルサーマルは九州電力玄海原発(佐賀県)で始まった。今月26日には東京電力福島第1原発(福島県)が国内3例目の営業運転を開始。国や電力業界は15年までに全国16~18基の原発でプルサーマルを実施する計画だ。現在は海外製燃料に頼っているが、MOX工場の着工は国が悲願とする燃料国産化の実現に向けた一歩となる。
一方で、事業者にはより慎重な安全対策が求められる。「高品質・低価格のMOX燃料を製造する世界一の工場」を目指す日本原燃は「安全がすべてに優先。安全確保なくして事業を進める資格はない」とする。工場は16年3月完成予定だが、安全第一に進めることを忘れてはならない。
資源が乏しい日本では、ウランの有効活用と自前の資源確保を目的に、核燃料サイクルがエネルギー政策の根幹に位置付けられてきた。サイクルの「本命」は再処理で取り出したプルトニウムを高速増殖炉で再利用することだったが、95年に原型炉「もんじゅ」(福井県)でナトリウム漏れ事故があり、たまり続けるプルトニウムを保有しないためにプルサーマルを推進した経緯がある。
このため、プルサーマルはサイクルの「つなぎ役」とされるが、MOX燃料の安全性や高コストを問題視する声も多く、ウラン専用の軽水炉で燃料を燃やすことへの不安も大きい。燃料の製造過程で事故があれば、プルサーマル自体も見直される可能性もある。気の緩みなく、安全対策を心がけてほしい。【矢澤秀範】
毎日新聞 2010年10月29日 地方版