きょうのコラム「時鐘」 2010年10月29日

 白山にも立山にも雪が来た。初冠雪の知らせに深まる秋を思うのだが、ことしは勝手が違う。ふもとも早々に冷え込んで、冬が来たかと勘違いする

「吹き寄せ」という料理の趣向がある。風に吹き寄せられた木の葉や実に見立て、季節の食材を盛り付ける。クリ、ギンナン、キノコ、美味を増すエビ、と書き並べるだけで、ツバが出る。北陸に住む幸せである

木々が葉を落とし、雪が来て、山は静まる。俳句の世界では「山眠る」。緑したたる山を描き続けるために、冬枯れの山にも通い詰めた画家を知っている。山が眠るときは画家の情熱もお休みかと思えば、さにあらず。緑の衣装を脱いだ山は、木々が裸になり、山肌があらわになり、「土性骨まで見えてくる」

そんな姿を知らないと、緑の衣装をまとった山の生命力は描けないという。だから秋も冬も山に向かい、冬枯れの姿を前に緑したたる山容を描く。画家は不思議な目を持っている

もとより、白山も立山も、日本で無類の土性骨を誇る。雪が来て、その威厳は増す。早すぎる冬は遠慮したいが、頂を白く輝かせる姿は早く仰ぎ見たいと思う。