2010年6月29日
内子の入ったカンジャンケジャン内子とカニミソを具にしたビビンバアンコウと野菜を蒸し煮にしたアグチムマツタケを添えたアワビの醤油煮店内のインテリアもカニで揃えている
春から初夏にかけて、旬を迎える韓国料理にカンジャンケジャンがある。産卵期を迎えたメスのワタリガニを、生の状態で薬味醤油に漬け込んだ料理。醤油のほどよい塩気がぷりぷりの甘い身を引き立てるとともに、カニミソ、内子(未成熟卵)の混ざった部分も美味しい。ごはんともよく合うことから、韓国では「ごはん泥棒」との異名を取る。
そのカンジャンケジャンの専門店が今月1日、東京の赤坂にオープンした。ソウルの新沙洞(シンサドン)に本店を構える、「プロカンジャンケジャン」の日本初進出店。韓国では1980年に創業しており、同業態の専門店としては老舗格とされる。もともとはアンコウ料理店としてスタートしたが、むしろカンジャンケジャンで人気を集め、いまはそちらの専門店として名を馳せる。ソウルでカンジャンケジャンといえば、まず名前が上がる有名店であり、日本から足を運ぶ観光客も多い。「日本進出は日本から来る常連客の要望に応えた形」とソ・エスク会長。これまで日本でもカンジャンケジャンを提供する店はあったが、内子の入っているメスのワタリガニを扱う店はかなり希少であった。その理由としてあげられるのが、極端に短い旬の制限である。
「内子の入ったメスをいちばんいい状態でとるには、4〜5月の時期にわずか1週間しかチャンスがありません。今年は4月の第3週がその時期でした。その時にとれたものを1年分購入し、マイナス25度で急速冷凍します。これは鮮度を維持することが主な目的ですが、生で食べるものなので寄生虫を避ける意味合いもあります。お客様に出すぶんだけその都度解凍し、秘伝の薬味醤油に3〜5日間漬け込んでから提供します」。
また漁期が短いことに加え、漁場の制限もある。上質のワタリガニは朝鮮半島の西側、黄海沖でとれるが、この海域では中国、北朝鮮の漁船も操業している。旬のワタリガニは各国とも欲しがるので、韓国だけで独占する訳にはいかない。さらに、とれたワタリガニの中でも上質のものは限られるので、しっかりした仕入れルートを持つ専門店以外は、なかなか品を手に入れにくいのが現状だ。日本産を含む外国産を使う手もあるが、鮮度や輸送を考えると、やはり黄海産がいちばんとのこと。「プロカンジャンケジャン」では、延坪島(ヨンピョンド)周辺でとれたものを使用している。
赤坂店ではその貴重なワタリガニを冷凍状態のまま輸入し、厨房ではじめて解凍して自慢の薬味醤油に漬け込む。この薬味醤油も長年注ぎ足しで使っているものを韓国から運んできた。ベースとなっているのは、チンガンジャンと呼ばれる濃口醤油。そこにニンニクやショウガなどを加えて作るのだが、ワタリガニからほのかな甘味が染み出ている。長年、作り続けた醤油でないとこの甘味が出てこないそうだ。
オープンからまだ間もないが、韓国の店を知る常連客が通い詰めているとのこと。まだ日本での知名度は乏しいが、韓国好きにとっては待ち望んだ垂涎の料理ともいえる。専門店ならではのこだわりを生かし、ぜひとも広い定着を果たして欲しい。生ならではの艶めかしい味わいは一食の価値あり。興味のある方は是非。
●カンジャンケジャンの魅力
カンジャンケジャンを美味しく食べるコツは、まず手づかみ、そしてガブッと豪快にかぶりつくこと。殻ごと噛み砕くようにして軽く吸うと、柔らかな身がつるんと滑り出てくる。甲羅の裏に詰まったカニミソと内子は、スプーンでかき出すように味わう。このときごはんを甲羅に入れて、ビビンバのようにかき混ぜて食べても美味しい。好みで少量のゴマ油を加えると、さらに風味がアップする。
●店舗データ(地図)
店名:プロカンジャンケジャン赤坂店
住所:東京都港区赤坂3−11−7ソシアル赤坂ビル2階
電話:03−3588−8778
コリアンフードコラムニスト。1976年生まれ。東京学芸大学アジア研究学科卒業。1999年より1年3カ月間韓国に留学し、韓国料理の魅力にどっぷりとハマる。2001年に韓国料理をテーマにしたメールマガジン「コリアうめーや!!」を創刊。同名のホームページ(http://www.koparis.com/~hatta/)も開設し、雑誌、新聞などでも執筆活動も開始する。著書に『八田式「イキのいい韓国語あります。」』、『3日で終わる文字ドリル 目からウロコのハングル練習帳』、『一週間で「読めて!書けて!話せる!」ハングルドリル』(いずれも学研)がある。
日々、食べている韓国料理を日記形式で紹介するブログ「韓食日記」も運営中(http://koriume.blog43.fc2.com/)。 ※執筆者の新著が出ました。「魅力探求!韓国料理」(小学館)。