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する?しない?マイカー規制

坂の上、下で異なる意見
観光客が車道にあふれ、車も立ち往生した昨年の紅葉シーズンの嵐山。交通規制にはさまざまな意見がある(2005年11月23日)
 離合待ちのバスの後ろに乗用車が数珠つなぎになる。大型バスが、店舗の前に壁のように立ちはだかり、道行く人から店は見えない。京都市東山区の清水寺へと続く五条坂。秋のお決まりの光景だ。
 「営業妨害ですよ」。坂の上り口近くで土産品店を経営する宮永悦子さん(五五)は憤る。坂の上の市営清水坂駐車場から歩いて下って来る観光客は少ない。「バスもマイカーも減らし、ゆっくり歩けるようにしてほしい」

今年、実施なし

今秋の五条坂での交通対策
 市は昨年、秋の観光シーズンに当たる十一月下旬の土日曜の計四日間、五条坂のマイカー通行を禁止する「交通社会実験」を行った。交通量が前々年の三分の二に減る効果はあったが、今年は実施しない。市は理由の一つに「地元住民と事業者の約四割がマイカー規制で負の影響を感じたこと」を挙げる。
 普段、五条坂の上の市営駐車場まで車で行き、年中「歩行者天国」の清水坂を歩く観光客は多い。実験は、こうした流れを変えた。
 昨年秋、清水坂のある八ツ橋販売店は、売り上げ増を見込んでいたが、結果は横ばいだった。五箱買おうとしていた観光客が「五条坂の下まで歩くので荷物になる」と三箱に減らしたこともある。店長はマイカー規制の影響だったと考える。  清水坂の商店約三十店でつくる清水寺門前会の田中博武会長(六一)は「マイカー規制は二度とやらせない」と強い口調で話す。観光客の出足は「水もの」で、規制することで不安定要素が増すとみる。「営業努力をすれば混雑するのは自然。車なしで今の社会は成り立たない」と言い切る。
 車両通行規制に対する賛否は坂の上、下で異なる。人と車の折り合いをつける未来図は地域でもなかなか描けない。

■市「不満4割」
 ただ、市の交通社会実験に関するアンケート結果を見ると「若干の影響はあったが問題はなかった」が住民、事業者ともに約24%で、「影響が大きくて困った」はそれぞれ17%、21%にとどまる。二つの選択肢への回答の割合を単純に足し、市が「不満四割」とするのが妥当かどうか。
 清水坂の土産品店経営田中俊子さん(八〇)は、営業面からではなく高齢の観光客が歩くのには急坂はきついと気遣い、「五条坂の上まではマイカーは入った方がいいのでは」と思う。自身も東大路通五条まで息子の車に乗る。ただ、観光シーズンには渋滞し、下まで一時間かかってしまうのは悩ましい。

■10分が1時間
 五年前から毎年、秋の土日祝日に長辻通が北向き、渡月橋が南向き一方通行に規制された嵐山でも、反応は分かれる。 右京区で酒販売店を経営する男性(六五)は、嵐山の飲食店や旅館に配達している。十一月は注文が普段の約三倍となる稼ぎ時だが気が重い。普段なら配達して十分で戻れる二キロ先から、一方通行のため三倍以上の距離を遠回りし、渋滞も重なって約一時間もかかるからだ。男性は「規制は迷惑」と訴える。
 一方、だんごやソフトクリーム販売店を構える西川義郎さん(六八)は一方通行でバスの通り抜けがスムーズになり、観光客が歩きやすくなったと感じる。「売り上げにつながるといいんですが」と期待する。

■散策の魅力も
 市内には、意見の違いを乗り越えた観光地もある。東山区の高台寺門前の「ねねの道」は、一九七二年に日曜祝日の車両通行を禁止、「歩行者天国」になった。当時、ねねの道沿いの住民をはじめ旅館、料亭は強く反対した。東山交通安全協会長だった湯浅卯之助さん(九二)は「観光客がゆっくり歩ける道を目指そう」と説得して回った。
 今、ねねの道は石畳になり、車のない土日は多くの観光客でにぎわう。現在、同協会副会長を務める息子の精一さん(六九)は「(通行禁止を)続けるうち、短期的な売り上げの損得よりも、散策できる街の魅力が徐々に理解されるようになった。発想を変えることで、状況は大きく改善する」と話す。