2010年10月27日22時3分
乗客ら107人が死亡した兵庫県尼崎市のJR宝塚線(福知山線)の脱線事故現場のカーブに、今月14日、快速電車が制限速度を超過して進入し、自動列車停止装置(ATS)が作動して、非常停止していたことがわかった。事故後、現場に設置したATSが速度超過で作動して電車が非常停止したのは初めて。JR西日本は非常停止について朝日放送(大阪市)が27日に報じるまで公表しなかった。
JR西日本は公表しなかった理由について「事故につながる具体的な危険性はないと判断した。公表すれば現場が萎縮(いしゅく)し、報告を妨げることにもなる」としている。
JR西によると、非常停止したのは、宝塚発同志社前行きの快速電車(乗客約350人、7両編成)。14日午後5時10分ごろ、現場付近を走行中、事故現場のカーブの手前105メートルの地点で、ATSが作動。時速60キロ以下で進入しなければならないカーブに同69キロで入り、160メートル走行して止まった。この電車は6分後に運転を再開した。
ATSが作動した地点は、制限時速95キロの区間で、電車は時速85キロで走行していたが、その先のカーブに制限時速以下で進入するためには、時速81キロを超えて通過してはならず、超えた場合、ATSは非常ブレーキがかかるように設定されていた。
JR西によると、男性運転士(23)はATSが作動するのとほぼ同時に通常ブレーキをかけていたが、十分に速度が落ちていなかったという。運転士は2006年に入社し、今年5月に運転士になった。運転士はJR西の聞き取りに対し、「考え事をしていてブレーキ操作が遅れた」と話しているという。
05年4月の事故当時は、現場カーブの制限時速は70キロだったが、事故車両は116キロで進入し脱線した。当時、ATSは現場に設置されていなかったが、事故後、国が設置を義務づけた。
JR西によると、同社管内でATSが作動し、列車が非常停止する例は年間100件を超えるという。
同社には明確な公表基準はないが、人的、物的被害が出た事故や、事故につながる具体的な危険性があった事態については公表し、オーバーランなどは非公表としている。同社はこうした運用について「社員から会社への積極的な報告を促すため」と説明している。