桐生市立新里東小6年、上村明子さん(12)が23日、同市新里町新川の自宅で首をつって自殺した。派遣社員の父竜二さん(50)は25日、「学校でのいじめが原因」と訴え、実名での取材に応じた。「娘は学校でいつも一人ぼっちだった。私が学校に相談に行っても解決策が示されなかった」と涙ながらに話した。SOSはなぜ届かなかったのか。教育現場に重い課題を突きつけている。【塩田彩、角田直哉】
竜二さんと母親(41)によると、事件は引っ越しを計画していた矢先に起きた。明子さんはクラスメートに無視されるなどのいじめを受け続けていると訴え、「お父さん、お母さん、転校したい」「どんなに遠い学校でもいいから歩いて行く」と話していた。このため、来春の中学進学を機に、引っ越しで校区を変えることを考えていたという。
明子さんは先週、火曜日から2日連続で学校を休んでいた。今秋から給食は決められた席ではなく、班をつくって食べるようになり、明子さんが孤立したのが原因と両親は見ている。木曜の校外学習に出席すると、同級生には「こんな時だけ学校に来るな」と責められ、母親に「もう学校に行きたくない」と涙ながらに訴えたという。竜二さんはこの日、学校に電話し、いじめや給食時のグループ分けについて「なんとかしてほしい」と頼んだ。担任は「話し合ってみます」と応じたという。金曜日にはまた学校を休み、事件は土曜日に起きた。
この日朝、明子さんは午前9時ごろに起き、朝食も食べた。明子さんに普段と変わった様子はなく、竜二さんは明子さんに「ジュースを買って」と頼まれ、外出してグレープソーダの缶ジュースを買ってあげたという。竜二さんは午前11時ごろ外出した。正午ごろ、母親が子供部屋で物音がしないのを不審に思って部屋をのぞくと、カーテンレールを使って首をつっていたという。遺書は見つかっていない。
明子さんは竜二さんの仕事の都合で転校を繰り返し、新里東小は4校目。以前通っていた名古屋市内の小学校では、友達も多く明るく振る舞っていたという。
竜二さんは「娘には『あと少しだけ我慢しよう』と言い聞かせていたが、もう我慢できなかったのか……」と話し、肩を落とした。
明子さんの通夜が25日午後6時から、みどり市内の式場で営まれた。明子さんが通っていた新里東小の児童の親や学校関係者ら約70人が参列。父竜二さんは焼香する参列者に頭を下げ、母親は終始うつむいて顔を手で覆っていた。また、明子さんの小4の妹(10)の泣きじゃくる声が式場内に響いた。
通夜には同小の岸洋一校長も駆け付け、遺族に深々と頭を下げて焼香した。明子さんの母親が「(娘を)返して」と泣き叫ぶと、岸校長はしばらく立ちつくした。校長はその後、両親の前へと歩み、両ひざを床について椅子に座る両親に話しかけた。
岸校長は通夜終了後報道陣に「二度と同じことを繰り返さないと約束しにきた。明子さんにつらい思いをさせてしまい申し訳ないと謝った」と話した。26日の告別式には同じクラスの子供たちを参列させる予定という。
参列した小4女児の母親(36)は「明子さんは礼儀正しくてあいさつもできる良い子だった。かわいそうとしか言いようがない」と話した。小5女児の父親(41)は「同年代の子供を持つ父親として焼香しに来た。自分の娘だったらと思うとやりきれない」と話した。【塩田彩】
新里東小の岸洋一校長(59)は25日午後5時から、同小の視聴覚室で記者会見に臨んだ。6年生になってからの明子さんの欠席日数は9月までに1日だけだったが、10月は5回に及んだという。
岸校長は明子さんについて「低学年の子や特別学級の子の面倒見が良かった半面、同級生と仲良くするのは苦手だったようで、1人でいることが多かった」と話した。
両親は「学校でのいじめが原因」と訴えているが、岸校長は「(一部同級生との関係が)良くない状態にあったのは間違いないが、いじめという認識はなかった。明子さんからの話を聞く機会もあったが、いじめとは判断できなかった」と釈明した。
明子さんの父竜二さんは、いじめ対策について学校側に何度も申し入れたと話しているが、岸校長は「5年生の2学期ごろに相談があったが、その時は子供たちに指導し改善した。6年生になってからは1、2回相談があり、21日にも給食について相談を受けた。(自殺前日の)22日に(給食について)改善したとの報告をするため担任が家庭訪問したが、家族は出かけていてお会いできなかった」と話した。【喜屋武真之介】
市教委によると、23日午後2時20分ごろ、同校の教頭から「児童が死亡した」と連絡があった。24日に岸校長らと意見交換したが「最近休みが多くなった以外、問題は浮かばない」との報告を受けた。
また同校からこれまで、明子さんのいじめに関する報告を受けたことはないという。児童が月6日以上欠席すると、学校は市教委に書面で報告するが、明子さんについては報告が上がったことはなかった。【塚本英夫】
明子さんの自殺を受け、新里東小体育館で25日午前8時半から全校集会が開かれた。岸洋一校長によると、自殺という言葉は使わず「23日に明子さんが命を絶った」と報告すると、児童らは驚きの表情を浮かべたという。
一方、25日午後4時からは同体育館で緊急保護者会が開かれ、約200人が集まった。参加した保護者によると、岸校長からは「いじめがあったかどうか、現段階では分からない。事実関係を調査している」との説明があった。
小5男児の父親(43)は「『調査中』ではなく、今、学校が把握していることを聞きたかった」と話した。また、小6男児の母親は「突然のことで親も子供もショックを受けている。当事者の保護者の気持ちを考えるといたたまれない」と話した。【鈴木敦子、喜屋武真之介】
毎日新聞 2010年10月26日 地方版