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防衛省有力OBが本誌に告発! 尖閣諸島問題で浮き彫りになった防衛省の怠慢

週刊朝日 10月27日(水)19時22分配信

いまだ尖閣諸島問題がくすぶっている。責任を検察に押しつけるばかりか、無為無策ぶりが目に余る政府に、だんまりを決め込んでいる防衛省。米国すらあきれ返る惨状である。これに対し、ついに自衛隊有力OBらが声を上げた。問題の本質が国民に伏せられたままだというのだ。 

「ここまでくると、もう黙っていられない」

 そう口火を切ったのは、幕僚級の重職も務めた防衛省の有力OBのひとりだ。

 尖閣諸島周辺で9月7日、中国漁船が領海を侵犯した揚げ句、海上保安庁の巡視船に激突、破損させた事件でクローズアップされた「尖閣諸島問題」についての発言である。

 漁船の船長は公務執行妨害の容疑などで逮捕されたものの、その後、那覇地検が外交への配慮を理由に起訴を見送り、9月25日に釈放された。その間、中国側は輸出や関税業務といった経済活動さえ釈放への圧力として利用した。

 この一連の動きに対し、防衛省では、多くの「制服組」(自衛官)、さらには「背広組」(事務官)の幹部連までが猛反発した。その声が、このOBの元に届き、集約され、今回の告発に至ったというのである。
 告発内容には、防衛省の持つ情報と分析能力、米国との連携具合など極秘事項に触れるものも含まれるが、以下、そのままお伝えする。

*  *  *

 まず言っておきたいのは、司法批判がナンセンスだということです。国会ではしきりと政府が検察に介入したのではないかという質問がなされましたが、問題の本質からずれすぎていて日本のためになりません。

 本質は、中国が何を考え、実際に何を行っており、それに対して日本は何ができ、どうやって国を守っていくかということなのです。

 いま実際に起こっているのは、中国による領土分捕りです。裏では軍が糸を引いているものの、表面上は漁民など一般人をたてて、実質的な居住を始めさせるなどといった形での実効支配を目指しているのです。したがって、この問題は終わっていない。いえ、むしろこれから巧妙化し、いろいろな中国側の仕掛けが行われるとみられます。それが防衛省の分析です。
 
 分析内容をさらにお話ししましょう。今回の行動で中国の主な動機は、

●軍事拠点の確保=太平洋に空母や原子力潜水艦を出すための航路の確保
●海洋資源の確保
●国民感情の操作(不満の矛先を国内から海外にそらすこと)
●日米の軍事的対応の見定め

 この4点にあるとみられます。

 こうしたことは、政治家たるもの、ある程度承知していて当然なのですが、現政権では、実はそうでもないことが露呈してしまいました。承知しておれば、検察に責任を転嫁するようなおかしな解決の仕方はしなかったはず。こんな中途半端な幕引きでは、中国が軌道修正するはずもありません。今回の情けないドタバタ劇の原因は、まず官邸の情報不足にあったのです。

 そして、意外と気づかれていないのが、実は防衛省背広組の怠慢です。これこそが、ぜひお伝えしておきたい、非常に由々しき問題なのです。

 今回、防衛省から官邸に正確な情報が上げられていれば、より的確な対応ができました。防衛省は前述のような情勢分析はもとより、イージス艦や各種レーダー、航空機を用いて、領海・領空をほぼリアルタイムで完全に掌握しているのです。

 もちろん今回も、海保と漁船が緊迫した状況にあったとき、尖閣諸島周囲に中国軍艦が出てきているか、潜水艦はどうか、航空機やヘリ、ミサイルはどういう状態か、すべてわかっていました。そして結論から言えば、中国軍はまったく動いておらず、その意味で危険はなかったのです。

 ただし、逆に自衛隊が出ていく余地がないという危険があった。まさか漁船相手に艦船を出すわけにいきません。そこが中国のあざといところです。こうしたことをすべて、防衛省は承知していました。漁船がおかしな動きをしつつあることも含めて。にもかかわらず、何もしなかったのです。

 本来であれば、遅くとも漁船の動きがあった時点で、防衛省は領土保全の観点から政府・官邸に状況報告を行い、緊急事態に対応するための助言をしなければならなかった。政府として可能な行動の選択肢を提示し、また、それぞれの選択肢ごとに必要となるであろう措置、連絡、指揮命令などを明示することです。

 いざ衝突が起こってからでは遅すぎます。防衛省の怠慢というそしりは免れませんし、こうしたことができていない以上、諸外国の笑いものになってしまうのは必定です。

 中国は日本の危機管理能力をゼロと見て、あきれ返るとともに手をたたいて喜んだことでしょう。この時代、緊急事態や危機管理のための情報収集はもとより、それに基づいた行動計画案やマニュアルを用意していない国はないのですから。

 ちなみに今回のような場合では、事前に衝突を阻止するための海上警備行動計画に始まり、実際に起こってしまった場合の対処方法、それに付随して必要となる関係方面との調整や連絡、役割分担などが遺漏なく提示されなければならなかった。簡単に言えば、艦船を出してプレッシャーをかけるとか、航空機の投入はこうする、武力行使はどうする……などということです。もちろん、身柄を拘束した場合、どんな扱いや処遇にするのかといったことも含まれます。

 しかし残念ながら、こうしたことが今回なされなかった。このままいくと、帝国主義傾向を強めつつある中国は、少なくとも尖閣諸島を占有し、海洋資源と海軍の太平洋ルートを確保してしまうことでしょう。防衛省の探知能力と人員、装備や事態対応能力はあだ花というわけです。

 同盟国である米国もあきれています。公言はしないものの、米国の防衛省に向ける視線は非常に厳しい。というのも、今回、防衛省は米軍との協調のために必要な作業をほとんどしなかったからです。

 いや、実を言えば、民主党政権になって以降、まったくといっていいほど防衛省は動いていないのです。米側は、「なぜ背広組は長期間にわたって戦略協議の場に出てこないのか」と不思議がっています。

 なお、米軍との関係では、背広組の問題はこれにとどまりません。言を左右にすることまであるのです。

 直近の例をひとつ挙げると、普天間基地移転計画に関連し、米側が激怒していたのは記憶に新しい。移転先にオスプレイという大型ヘリ用のポートを設置すると了承しておきながら、地元の反発が予想されるや、そんなことは言っていないと前言を撤回したのです。米側は猛烈に抗議し、日本が引いたのですが、信用をかなり失ってしまいました。

 肝心なときに黙っているかと思えば、言を左右にし、面倒を回避する。その一方で巨額の税をむしばんでいるのが防衛省、とりわけ背広組=防衛官僚の実態なのです。かくして日本がだめになる、国益が損なわれていくわけです。

*  *  *

 OBは自らの考えも加味し、以上のように防衛省の怠慢と失態を明かして早期の改善を迫った。

 さらに、「もっと性急な動きもある」と明かす。あまりの事態にしびれを切らした制服組が、機能していない防衛官僚に代わって米軍との協調を主導的に行い始めたというのである。

 もともと日米間で現場レベルでの情報交換、連絡調整などはうまくいってきた。合同演習の精度の高さがそれを示しているが、そういった共同歩調、信頼の醸成の成果が、11月に予定されるオバマ米大統領の来日直後の日米合同演習につながったというのである。

 この演習で米側は横須賀を母港とする航空母艦ジョージ・ワシントンやグアムに配備されたばかりの無人偵察機などを投入し、自衛隊とともに「尖閣奪還作戦」を展開するという。
「制服組は暴走とみられぬよう神経をすり減らし、慎重に事を運んでいるものの、こんなことが一日も早く解消されることを望んでいます。政府あるいは官邸からの問いかけが防衛官僚に向けてなされれば、すぐにも解決するのです。これこそが真の政治主導ではないかと思うのですが……」

 防衛OBはこう嘆息した。

 民主党政権の「政治主導」はいつ機能し始め、防衛官僚はいつ目を覚ますのか。中国は漁船の保護を名目に、尖閣周辺に監視船を常駐させ始めている。

 ジャーナリスト 時任兼作

最終更新:10月27日(水)19時22分

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