柔道女子金メダリストの谷亮子(35)はなぜ引退したのか。
15日の引退会見ではその理由を「スポーツ振興に取り組みたい気持ちが強くなった」としたが、言葉通りに受け取る人はあまりいないだろう。谷は参院選出馬当初から、「現役選手だからこそ国政の場で言えることがある。ロンドン五輪で金メダルを目指す」と両立を公言。二足のわらじに批判があったとはいえ、民主党など周囲もその希望をくんだ形だったはずだ。
柔道界からは、全日本柔道連盟(以下、全柔連)の吉村和郎強化委員長が、「両立できないなら身を引いた方がいい」と引退勧告する厳しい声もあった。9月には強化指定ランクの降格、五輪出場のハードルである11月の講道館杯のエントリー問題もあった。ただ、全柔連関係者によると、基本的には現役続行を望んでいたという。
「谷が出場するとしないとでは収益面で大きな差が出てきますからね。選挙出馬自体が柔道側には寝耳に水の話だったので、その反動から厳しい声が出ていましたが、本音を言えば試合に出てほしかった」(同関係者)
実際、谷は選挙でも身内からの応援を受けている。35万票を獲得した選挙運動が富士山に登るという気楽なものだったのは、組織票を見込めたからこそのものだった。
一方、政界側の動きはどうだったか。谷引退の件を政治側から取材しているジャーナリストの山田厚俊氏は、「柔道側より政界の事情が引退を決めさせた印象がある」と話す。
「これまで五輪選手の出馬は自民党のお家芸で、スポーツ関連予算に反映されてきた背景があります。政権交代でその立場が逆転。小沢一郎元民主党代表による組織票ごとの獲得となったとすれば当然、二足のわらじはその彼が約束したものでしょう。でも、小沢元代表の立場が今、かなり危ういわけです」(山田氏)
ひょっとすると、党内での小沢離れが加速する中で、足場を固めなければならない状況に陥ったのかもしれない、というわけだ。引退会見に柔道とは無関係の小沢元代表が同席したのは、そうした見方をさせないためのものだったのか。
議員活動中もトレーニングを続けていた谷。予定外の引退にも、「特に悩まなかった」と本人は笑顔で語った。「海外では復帰する選手もいる」と現役に未練を残していたが、そこに悲壮感を全く表さなかったのは、並外れた負けん気の強さを持つ彼女ならではの姿勢だったように思う。問題はこれが議員の能力として発揮されるか、だろう。 (ジャーナリスト・片岡亮)