2010年8月31日 11時21分 更新:8月31日 22時22分
東京都世田谷区の小田急線沿線住民ら118人が小田急電鉄(新宿区)を相手取り、騒音や振動で生活環境を悪化させられたとして、計約7億8400万円の賠償を求めた訴訟の判決で東京地裁は31日、42人に対して計約1152万円を支払うよう命じた。村上正敏裁判長は「受忍限度を超える騒音で会話やテレビ視聴、睡眠を妨害され、精神的苦痛を受けた」と述べた。
原告側は、東北沢-喜多見駅間の騒音を日中平均60デシベル、夜間平均50デシベルに抑え、1人につき88年以降月額3万円を支払うよう求めた。
新幹線や航空機などと異なり、在来鉄道の騒音について国の基準はないが、旧環境庁は95年に新設路線などを対象にした指針(日中平均60デシベル、夜間平均55デシベル)を定めている。判決はこの指針を基に、小田急線の運行本数や技術水準などを加味して「日中65デシベル、夜間60デシベル以下にするのは可能で、達していない場合は違法との評価を免れない」と指摘した。
そのうえで、基準を超える騒音にさらされている42人の被害は「受忍限度を超えている」と判断、沿線居住者に1カ月3000円、沿線勤務者に1カ月1800円の賠償を認めた。原告側は騒音の差し止めも求めたが「生命や身体に被害が生じるおそれがあるとは認められない」としたうえで「更なる騒音低減を求めた場合には運行のあり方に大きな影響を及ぼし、沿線住民の生活に重大な影響を与える可能性がある」として退けた。
小田急線の騒音問題では、国の公害等調整委員会が98年、屋外の騒音レベルが平均70デシベルを超えた場合を生活被害と認めたが、裁定を不服とした住民らが98~99年に提訴。原告側の主張に時間が費やされたことなどから、異例の長期裁判になった。
原告の一部は「小田急が騒音を1日平均65デシベル以下に抑え、住民側に4200万円を支払う」条件で04年に和解に応じている。
住民らが国の事業認可取り消しを求めた訴訟では、原告敗訴が確定したものの、最高裁大法廷が05年に地権者以外の周辺住民にも訴訟を起こす資格(原告適格)を認める判決を言い渡した。【和田武士】
小田急電鉄の話 類似訴訟で住民と和解が成立したことにかんがみ、今回の訴訟でも基本的に話し合いを通じた解決を目指して努力してきた。判決は大変残念で遺憾。内容を十分検討し対応を決める。
混雑緩和や所要時間短縮を目指し、上下線の線路をいずれも2本にする事業。交通渋滞解消などを目的に踏切と線路を立体で交差させる東京都の「連続立体交差事業」と一体的に行われている。区間は東北沢(世田谷区)-和泉多摩川(狛江市)の約10.4キロ。89年に着工し、梅ケ丘(世田谷区)-和泉多摩川間は04年11月までに高架化が完了。残る東北沢-世田谷代田間(約1.6キロ)は地下化に向けた工事が進んでおり、13年度中の完成を予定している。
小田急線の騒音を巡る訴訟で、東京地裁は31日、受忍限度を「日中平均65デシベル、夜間60デシベル」と明示し、118人の原告のうち42人に計約1152万円を賠償するよう小田急電鉄(東京都新宿区)に命じた。在来線の騒音に対する環境基準がない現状で、具体的数値を示して「水準に達しない場合は違法」と指摘しており、大都市圏を中心にした鉄道事業者の騒音対策に影響を与える可能性がある。
新幹線や航空機などの騒音については、国が具体的な環境基準を設けている。しかし、在来線の場合は運行本数や沿線環境などに地域格差もあることから「一律の基準をつくるのは難しい」(環境省)という。
このため、在来線の騒音を巡る訴訟や紛争では、新設路線などを対象に旧環境庁が95年に定めた指針が一つの目安とされてきた。京成線の騒音・振動被害を巡って京成電鉄に賠償を命じた東京高裁判決(02年)もその一例だ。89年に複々線化工事が始まった小田急線は本来、指針の対象外だが、地裁は「今回の訴訟で考慮することも当然許容される」との解釈を示し、一部の住民が受けている騒音被害は「受忍限度」を超えているとの結論を導き出した。
一方で判決は、小田急線の公共性の高さと原告側の被害程度をはかりにかけ、原告側が求めた「騒音差し止め」を退けた。運行への影響に配慮しながら小田急側に努力を迫ることで、バランスを取ったと言えるだろう。【和田武士】