2010年8月31日 2時32分
9月1日に告示を控えた民主党代表選は30日、菅直人首相と小沢一郎前幹事長の対決を回避する情勢となった。菅首相が30日夜、鳩山由紀夫前首相と首相公邸で会談し、小沢氏も含めた3氏の「トロイカ体制」を基本に政権運営していくことで一致。31日に首相が小沢氏と会談し、小沢氏の出馬見送りで最終調整する。小沢氏側近は30日夜、小沢氏は出馬しないとの見通しを示した。党分裂につながる対立激化への懸念が広がる中、挙党態勢構築を求める小沢氏側に、「脱小沢」を掲げていた首相が譲歩した。
首相が告示2日前というぎりぎりのタイミングで譲歩したのは、首相と小沢氏の全面対決に突入すれば、代表選後に党分裂につながるとの危機感が極限まで高まり、分裂回避が最優先と最終的に判断したためだ。首相周辺は「代表選をやめてくれと言う声は相当、首相の耳に入っている」と首相の判断に影響を与えたことを認めた。
党分裂への懸念は民主党の政権交代を後押しした党外からも強まっていた。官邸関係者は「首相は連合からも、(民主党の有力後援者の)稲盛和夫日航会長からも政治的空白を作らないよう言われている」と明かした。「首相対小沢氏」の構図が、支援者も含めた、「首相対党内外」に変化したことが首相を譲歩させた。「脱小沢」から「トロイカ」への変化は、鳩山氏との会談前からにじんでいた。首相は官邸で記者団に対し、小沢氏側が批判している仙谷由人官房長官や枝野幸男幹事長交代について「適材適所で挙党態勢を作ることを常に考えていきたい」との表現にとどめた。
小沢氏は30日午後、鳩山氏、輿石東参院議員会長と衆院議員会館で会談。小沢氏は「首相の言う挙党態勢の具体的な中身がわからない限り会うわけにはいかない」と指摘。首相を支持するグループも動向を見極めるため、当初予定していた30日のグループ横断の選対本部設置を延期するなど、首相の動向を見極めるムードが高まった。
こうした中、鳩山氏は局面打開に向け、30日夕、東京都内のすし店で、小沢氏の有力後援者で菅政権に影響力を持つ稲盛会長と会談した。稲盛氏は「党分裂を心配している。激突を回避し、代表選はしない方がいい」と懸念を表明。鳩山氏も「同じ意見だ」と同意し、29日に続く首相との再会談に臨んだ。
一方、前原誠司国土交通相は30日、東京都内のホテルで開かれた前原グループの会合で「自分たちが突出して発言するのはやめ、31日の首相と小沢氏の会談を見守ろう」と事態を静観するよう求めた。前原氏は首相と小沢氏の会談に、調整役として稲盛氏が立ち会う可能性があるとの見方を示した。稲盛氏が最終局面で動いたことも、対立回避への機運を高める要因となった。
首相と鳩山氏は約1時間10分会談し、その後、そろって記者会見。鳩山氏は「経済的にも円高などで対策が急がれている。挙党態勢を築くことが大変重要だ」と述べ、「トロイカ体制」の再構築の必要性を指摘した。
首相は「トロイカ体制と、輿石会長を加えた中でやっていくという原点を大事に考えて進めていくことに同意した」と述べ、「脱小沢」路線を修正する考えを表明した。鳩山氏は会談後、小沢氏に首相の考えを説明し、小沢氏は31日に首相との会談に応じる意向を鳩山氏に伝えた。
焦点の小沢氏の要職起用について首相は記者団に「鳩山氏から具体的な話は全くない。要求に応じた、応じなかったということは全くない」と強調。鳩山氏も「ポストや取引のような話をするつもりはない」と述べた。
ただ、首相は周辺に「人事権とカネをよこせと言われても無理だ。そこは妥協できない」と漏らしている。
「脱小沢」路線の修正で「反小沢」の急先鋒(せんぽう)、前原氏や野田佳彦財務相らのグループには不満がくすぶる。官房長官や党幹事長など重要ポストの扱いが焦点になるが、首相の対応次第では前原氏らが反発を強める可能性があり、政権運営にも影響しそうだ。【須藤孝】