【社説】ロシア人少女に贈った中古フルート
鉄鋼製品関連の中小企業を経営している42歳の男性は今年8月、本紙でフルートの天才と言われるロシア人少女に関する記事を読んだ。リューボフ・ショコトワさんという18歳の少女が、韓国シルクロード財団が中央アジア・ロシアの恵まれない子供たちのために作ったオーケストラ団の団員になり、ソウルでコンサートの準備しているという内容だった。
男性は、「少女はソウル・鍾路の楽園商店街にある楽器店で、ロシアでの値段の半額に当たる500万ウォン(約36万円)という中古フルートを見つけ、買いたいと言った」という文から目を離すことができなくなった。5年前に女手一つで育ててくれた母を亡くして以来、学校で先生のフルートを借り、練習を重ねた末にモスクワの名門音楽大学に合格した少女は、店主に「(いつか)買いたいです。ほかの人に売らないでください」と頼み込み、涙を流したという。これを読んだ男性は、バイオリンを習う娘のことを思い浮かべた。
そして、その足で楽園商店街の楽器店に向かい、ロシア人少女が欲しいと言ったものよりもっといいフルートを約500万ウォンで購入、シルクロード財団を通じロシアに送った。自身の名前は明かさなかった。先週、モスクワにある韓国大使館でフルートを受け取った少女は「幸せです」と涙した。そして、少女はその場で「自分の楽器が手に入ったら真っ先に演奏したかった」というフランス人作曲家のフルート協奏曲を演奏、「立派なフルート演奏家になって御恩に報いたい」と言った。
この経営者は「新品のフルートをプレゼントできなかったのが申し訳ない。会社を経営しているといい時も悪い時もあるものだが、最近は良くない」と言った。男性は有名な資産家でも、篤志家でも、大企業経営者でもない。ただ、娘のような一人の少女の境遇に胸を痛め、その情に押されて楽園商店街まで足を運んだのだ。その気持ちは、数万キロ離れたロシアにまで伝わり、少女と周囲の人々の胸に「優しい韓国人と韓国」という思いを刻んだ。
男性は「以前から才能ある若者の夢のお手伝いがしたかった。今回はその第一歩。今後も折に触れて手助けしたい」と話す。今も身元を明かさないこのような奇特な人がいるのだから、この世の中もまだまだ捨てた物ではないのかもしれない。