レームダック化する胡錦濤政権

ますます地歩を固める習近平、権力葛藤がヒートアップか?

2010.10.26(Tue) 阿部 純一

中国

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 このキャンペーンは、当時すでに後継者に決まっていた胡錦濤に政治的求心力が移行することを防ぐのが狙いであった。

 江沢民は第16回党大会で、この「3つの代表」を「重要思想」として党規約に書き込ませるとともに、中央軍事委主席のポストに2004年まで留任し、自らの影響力を確保したのだった。いわば、一種の「院政」である。

 胡錦濤に江沢民のような真似ができるだろうか。胡錦濤の「科学的発展観」はすでに第17回党大会で党規約に書き込まれてしまっている。江沢民の影響力を抑え、独自色を際立たせるためであった。

 しかし、結果としてそれは早すぎたようだ。政治的求心力を保つために、繰り返し同じ手は使えない。つまり、胡錦濤には新たな政治スローガンとキャンペーンが必要となるが、胡錦濤サイドがまだ十分に成果を挙げているとは言いがたい「科学的発展観」に代わるスローガンを打ち出す環境にはない。

 場合によっては、8月に温家宝総理が広東省深センで政治改革の必要性を訴えて話題になったように、経済改革の成果を保証するための「民主化促進」を含めた政治改革をアピールする可能性も残されてはいる。

 しかし、9月に同じく深センを訪問し、演説した胡錦濤は政治改革を強調せず、共産党の指導する社会主義体制の中での制度の改善を訴えたにとどまった。

 胡錦濤にはまだ政治改革に踏み込む胆力はない。いや、むしろ胡錦濤はイデオロギー的には極めて保守的なのだ。

 胡錦濤は党総書記就任後の間もない頃、盛んにマルクス・レーニン主義を強調してきた。中国社会科学院に「マルクス主義研究院」設立を命じたのも胡錦濤だ。イデオロギーの一貫性を称賛し「中国も北朝鮮の金正日総書記やキューバのカストロ議長を見習わなければならない」と述べたこともある。

 中国革命を原体験として持ち得ない世代である胡錦濤にとり、党への忠誠の証しとしてマルクス・レーニン主義への帰依が必要だったのだろう。そうであるならば、党の指導性を否定しかねない政治改革に、胡錦濤が積極的にはなることはあり得ない。

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