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きょうの社説 2010年10月26日
◎止まらぬクマ被害 自治体による駆除隊も一案
全国各地でクマが山を下りて市街地に出没し、人を襲う被害が相次いでいる。目撃情報
は20日現在、石川県で265件に達し、金沢市の犀川緑地公園や富山市の海岸付近などでもクマに襲われる被害があった。主食となるブナの実の不作が原因と見られ、里山の荒廃でクマと人の緩衝地帯が無くな ってきたことも影響しているのだろう。クマの大量出没は今年に限らず、今後も定期的に繰り返されると見なければならない。 問題はクマの駆除を担っている猟友会会員の減少と高齢化である。石川県の場合、猟友 会員の登録件数はピーク時の3350件を大きく下回る約900件、富山県でも2千件超から約800件にまで減り、平日は自治体から出動要請があっても人集めに苦労するという。クマやイノシシ、ニホンジカなどの野生動物が増えているのに、駆除対策が追いつかない。 危機感を強めた富山県上市町は今年5月、「上市町役場有害鳥獣捕獲特別隊」を発足さ せた。狩猟免許を持つ役場職員8人で編成し、鳥獣被害の急報があれば役場で保管している銃器や弾丸を携行し、即座に出動する。土日祝日は猟友会が担当し、役割分担をすることで、ハンター不足を補っている。鳥獣駆除のプロを自治体で養成する上市町の取り組みは大いに参考になるのではないか。 2008年施行の鳥獣被害防止特別措置法で、自治体職員が率先して狩猟免許を取る試 みが広がっている。上市町のように専門職として組織化することは可能だろう。 狩猟免許試験を受けやすくために、石川県は年1回だった試験回数を2回に増やし、今 年度は3回に増やす。だが、猟銃の所持には更新料も含めて多額の費用がかかる半面、出動要請に伴って出る日当は金沢市の場合で千円に過ぎず、事実上のボランティアに近い。大幅な会員増は望めないだろう。 また、市街地での駆除は危険も伴う。今年1月には金沢市で駆除にあたった猟友会員2 人がイノシシに襲われてけがをし、警官が射殺する出来事もあった。猟友会頼みの鳥獣駆除には限界があり、自治体がもっと前面に出るべきだ。
◎初の死刑求刑 裁判員制度定着の試金石
東京地裁で審理されていた耳かき店従業員ら2人殺害の裁判員裁判で、検察側は被告に
死刑を求刑し、裁判員が初めて死刑適否の判断を迫られることになった。一般市民に死刑か否かの選択をさせることは、極めて重い精神的負担を課すとして制度導入時の大きな論点になっていた。来月にかけ、他にも死刑求刑が予想される事件が控えており、これらの評議の行方は裁判員裁判の定着へ向けた試金石となる。今回は5回の公判を経て評議が4日間行われ、判決は11月1日に言い渡される。時間 的制約を伴う集中審理とはいえ、評議ではこれまで以上に裁判員に対して行き届いた説明が求められる。どんな判決内容であれ、裁判員が納得して結論を導ける環境づくりが大事である。裁判官の責任は極めて重い。 死刑適用基準については、最高裁が1983年に示した「永山基準」が目安になってき た。犯罪の性質や動機、殺害方法の残虐性、結果の重大性(特に死亡者数)などを総合的に考慮し、他の事件との刑の均衡や犯罪予防の観点からやむを得ない場合に死刑が認められるというものである。 耳かき店の店員だった女性と祖母が、客だった男に刺殺された今回の事件では、被告が 起訴内容を認め、争点は刑の重さに絞られた。検察は論告で「永山基準」を引用して死刑の妥当性を主張し、弁護側は被告が反省していることなどから死刑回避を求めた。 殺害が2人というケースは判決が分かれる「境界事例」でもある。「永山基準」といっ ても判断の検討項目を示しただけで、生命を奪う極刑と仮釈放もある無期懲役との差をそこから判断することは難しい。厳しい遺族感情を前に、裁判員はぎりぎりの選択を迫られることになる。 死刑制度の存在を当たり前のように考えていた人たちも裁判を通して、より強く意識せ ざるを得ないだろう。今は8割以上が制度を容認する国民の意識、さらにはプロによる適用基準が変わってくる可能性もある。裁判員が極刑と向き合うことは、死刑制度の国民的な議論を深める契機になろう。
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