野菜生活

食卓の安全

引き上げられた残留農薬基準値
■アメリカに負けた厚生省

残留農薬の規制は、
農薬取締法での登録保留基準と
食品衛生法での食品規格の残留農薬基準の二つがあります。


食品規格の残留農薬基準を超える食品は
「輸入し、加工し、使用し、調理し、保存し、または販売をしてはならない」
とされ強制的に回収、販売禁止されます。


この残留基準は、
1992年までは53種類の作物に
26種類の農薬の基準値が設定されているだけでした。
ところがここ数年の間に残留基準が次々と設けられ、
今や約180種類の農薬に設定されました。


厚生省は1968年、農薬の残留基準を5種類の農薬に初めて定めました。
当時、問題になった残留農薬に、
輸入レモンなど柑橘類に使われていた農薬OPP、TZBがあります。
米国で、鮮度を保つため収穫後に散布して用いられています。


当時厚生省は
「日本での使用は無許可の農薬だから、
それを使用した輸入柑橘類は食品衛生法違反」とし、
業者に輸入しないよう警告。廃棄・積戻しまでしました。


これに怒り狂った米国は
「日米レモン戦争」とまで呼ばれた強い圧力を政府にかけ、
その結果、残留を合法化するために、
農薬のOPPとTZBを「添加物」とすることになりました。


この「全面敗北」以降、厚生省は
「見ざる、言わざる、聞かざる」を決め込み、

・輸入食品から日本で無許可の物質が見つかっても、
輸出国で農薬扱いなら「食品添加物」でないので、
取り締まり対象外

・使用が
「カビ等による食物の腐敗又は変敗の防止を直接の目的」
でなければ対象外

などと、残留農薬問題に手を出さないようにしていました。


北海道消費者協会が1999年、
市販のパン20品目の残留農薬の検査を行いました。
北海道産小麦100%のもの6品からは農薬が不検出。
北海道産小麦を使用(他の小麦も混じっている)のもの1品からは検出、
残りの13品のパンからは全て検出。


全14品のパンから共通して検出された二つの農薬は、
有機リン系の毒ガスのサリンと同種の薬理作用。
慢性中毒では免疫やホルモン系、自律神経に異常を起こし
環境ホルモンの疑いが持たれています。
貯蔵庫や船倉で害虫駆除で用いられています。


日本では収穫後は使えませんので、
農薬残留輸入小麦⇒小麦粉⇒パン
という汚染のルートが推測されました。

残留数値は北米産小麦の9割に0.01~0.73ppmです。
1993年に厚生省が設けた麦での残留基準は8.0ppmですから、
違法ではありません。
しかし1992年当時、環境庁が設けていた基準値は、
麦類では日本の農薬使用方法を前提として0.5ppm。
その16倍の8.0という数値にまで残留基準が引き上げられているのです。


これは、育成中には農薬使用量は少なくても
ポストハーベストを行う米国産、カナダ産小麦を救済するためです。
日本では、残留基準がない農薬はいくら残っていても取り締まられないという事実上、
農薬残留が野放しになってきました。


国産神話にも陰りアリ
マラチオン(基準値は8.0ppm)
年度
 
検査数
検出数
検出範囲(ppm)
検出率
95
国産
25
7
0.002-0.02
28%
輸入
98
30
0.01-0.75
31%
94
国産
16
5
0.005-0.018
31%
輸入
62
16
0.01-0.73
25%


クロルピリホスメチル(基準値はない)
年度
 
検査数
検出数
検出範囲(ppm)
検出率
95
国産
6
4
0.007-0.018
67%
輸入
83
22
0.008-0.91
27%
94
国産
5
0
-
0%
輸入
22
7
0.02-0.25
32%

厚生省 残留農薬検査結果資料より(95年度・96年度)



このパンからの農薬検出発覚依頼、
生活者たちの不安は高まり
学校給食に国産小麦を使ったパンを!
という意見が多く持ち上がりました。


しかし、95年度・96年度の厚生省が発表した
残留農薬検査結果資料を見る限りでは、
国産小麦からも農薬が検出されているのです。


輸入・国産品にはほとんど差はなく
国産の方が検出率が高かったこともあります。
これはどういうことなのでしょうか。


ちなみに97年度の厚生省の
「加工食品中の残留農薬検査結果」では、
マラチオン、クロルピリホスメチルとも
全ての加工食品から検出されていません。


「北海道産小麦」が安心だという結果が出たということは分かりましたが
輸入品か国産品か、という点では
世間が騒ぐ安全性の論点が存在していません。


「一日許容摂取量」は適切か

残留基準規制の前提は
「農薬(毒物)はある量以下の摂取なら無害」との仮説です。
ある農薬の、人が毎日、摂取し続けても安全性に問題のないと考えられる最大量を「一日許容摂取量ADI」といいます。


そして200種類の農薬に相互関係、相互作用を無視して、
個々に基準が定められていますから
「ADI以下なら、何種類の農薬を摂取しても無害である」
という仮説が制度運用で前提とされています。


日本の残留農薬の規制は、大きく変わろうとしています。
国際基準がある場合、
加盟国は国際基準を受け入れる義務があるということになりました。


農薬の摂取量がADI一日許容摂取量を上回らない範囲において、
国際基準及びアメリカ、オーストラリア、ヨーロッパなどの基準を取り入れるという変化です。

殺虫剤マラチオンが小麦に米国基準の8.0ppm(コメの残留基準の80倍)残留していても、
それで私たちの摂取量が増加しても、ADIの範囲なら合格。


では、ADIはそれほど信頼できるものなのでしょうか。
農薬は毒物なので人間で実験するわけには行かず、
ラットやマウスでの動物実験をもとに推定された値です。
どんなに精妙な理論で以って導いても、
不安は残ります。

「ADIに基づく残留規制の施策が正しかったかどうかをチェックする機能がこ食品衛生調査会や国にもない。
事故が起こってから何かをやってしまっている行政の施策として、農薬がどこで、どのぐらい、どの時期に使われたというデータがちゃんとある訳だから、疫学 的な方法などを使って、必ず後を振り返るような研究や、モニタリングが今後必要だ」
(99年4月27日食品衛生調査会より一部抜粋)


発ガン性は摂取開始から20年後30年後に顕われる慢性毒性です。
発ガン性農薬の規制の有効性や、
そのADIの妥当性は、規制から20年後の現在と将来のガン発生と農薬との関連を調べなければ検証できません。


現行のADIが「が毎日、摂取し続けても安全性に問題のない」という事を検証するシステムすら30年経っても作られていません。
「ADI以下なら、何種類の農薬を摂取しても無害である」
という仮説は誤りだと言う意見が飛び交っています。


実際に私たちが摂取している量

厚生労働省は、
日常の食事を通しての
農薬の1日摂取量調査(トータルダイエット調査)
を1991年から始めています。


その結果、2000年度までに検出された農薬は19種類でした。
これらの摂取量を1日摂取許容量(ADI)と比較したところ、
臭素を除く16農薬ではADIの0.10~5.41%でした。


臭素は海産物、味噌、しょうゆなどの食品に含まれる
天然由来成分にも含まれています。
ゆえに臭素の推定1日摂取量は
ADIの12.08~16.30%という結果が出ましたが、
実際の摂取農薬はADIより低く、
安全上の問題はないと考えられる、
と結論づけています。


そして一般的に、複合汚染が発現するかどうかは、
物質の濃度に影響されると考えられており、
ADIよりさらに少ない残留量の農薬摂取においても
安全上の問題はないと考えられる、
と結論づけています。


しかし2003年6月、
産経新聞に永久歯が生えない子どもの記事が掲載されました。
原因は農薬(除草剤)と指摘。


農薬・化学肥料の使用は戦後に始まり、
大型スーパーの出店が相次いだ1965年頃から食品添加物が登場ました。
現在私たちは平均80種類の食品添加物を口に入れていると言われています。


食の汚染が始まってから、今の子供たちが三世代目。
ADIが動物実験で安全だと言われても、
ようやく出だした異常を前にして
「安全上の問題はない」と言い切れるのでしょうか。


志願者による人体実験がされた医薬品ですら、
使用開始後に高血圧薬、抗がん剤と同時に使うと死亡する
といった作用が判明します。


ADIのギリギリまで私たちに農薬を食べさせられるようになったら、
「安全上の問題はない」はずの複合汚染の害が
一気に表に出てくるのではないでしょうか。