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[22703] 「夜神」はやてにまつわる事件【ネタ】
Name: 並皿王手◆e0675072 ID:239c0595
Date: 2010/10/24 13:22
―――夜神事件?



ずいぶん昔の話を持ち出すんだな、フェイト。ええと、もう10年になるのか?
うん……ああ、わかった、いいとも。改めて詳しい話がしたいんだな?
いや、今からでいいさ。いくら昇進して忙しくなったと言っても、大事なことだからね。
ただ、これだけは肝に銘じておいてほしいんだが、この件はいわゆるトップ・シークレット、「マル秘」だということだ。
この件の肝心かなめ、「死神の落とし物」についてはエイミィにも、局のお偉いさんにも話したことはない。
アレについて知っているのは夜神本人と、なのはと、君と、母さんと、僕の五人だけだ……いや、「だった」というべきか。
局に虚偽の報告をしたのは確かに罪ではあるが、この件に関しては母さんが正しかったと信じているよ。
管理局法には記されなくとも、「人道的な罪」というやつは間違いなく存在する。
馬鹿正直にそのままの事実を報告してアレを上に提出すれば、「そういう」事になったかもしれない。
そう、母さんは正しい判断のできる、聡明な人だったさ。
……10年後には、自分の子と新しい医者の区別もつかなくなるとは思えないほどにね。



確か、何かの小説の探偵が言っていた。
「知っていることについて頭の中を整理するには、それを誰かに話して聞かせるのが一番だ」とね。
僕は彼の見解を全面的に支持するよ。
一度頭の中をまっさらにしてみて、僕の話を聞いてみてくれ。
そうしたら、新しい発見があるかもしれない。



昔の迷信には、「写真に撮られると寿命が縮む」というのがあったらしいね。
事の始まりはさしずめその迷信の、テレビ応用編というところだった。
地球の一部地域に放送されているテレビ番組に出演した人々が、相次いで死亡し始めたんだ。
死因は全て、心臓麻痺。ナイフも刺さっていなければ、病に侵されていた形跡もなし。
いや、まったく―――大混乱だった。そう、大混乱だったよ。
巨大な組織による計画犯罪説(誰がどうやって?)。
電磁波の人体への悪影響説(それは見ている方じゃないのか?)。
発展しすぎた人間の科学への天罰説(テレビに限って?)。
無責任な風説が無制限に流布され、人々はそれらの一つ一つに怯え惑った。
暗黒の時代だよ、フェイト。社会はこれ以上は無理ってくらいに混乱した。
誰も彼も疑心暗鬼の迷信狂いになってしまったのさ。
それも無理もない。まるっきり原因がわからず、おぞましい結果ばかりが提示されるんだからね。
ただ、僕らにはわかっていた。
いや、死因やら犯人(いるとすればだが)やらがわかったわけじゃない。
しかし僕達には「魔法の言葉」がついていた。理解不能なものを理解の範疇に置く魔法さ。



……そう、僕らにはわかっていた。「これはロストロギアの仕業だ」とね。



まるっきり雲をつかむような話だったよ。
被害者の間に共通点はまるでなし(いや、もちろんテレビに出たというのは除いてね)。
どうやら犯人は、我々に理解できるような動機は持ち合わせていないらしい。
適当にテレビをつけて、その時写っていた人間を殺す―――まあ、そんな感じらしい。
「そいつの好きなタレントをけなした」とか「髪型が気に入らない」とか、あったとしてもその程度の動機だろう。
……怪物だよ、まさしく。いや、殺しの能力のことじゃなく、その精神性がね。
冷蔵庫まで行って炭酸飲料を取ってくるくらいの気安さで、人ひとりを殺せるんだ。
これは本当に「神」とか「絶対者」の領域で、僕らが足を踏み入れるべきじゃないんじゃないか?
そんなことを考えたことも一度ならずある。
だがね、それは確かに人の仕業だった。
神なら、この人の子クロノ・ハラオウン風情に尻尾を掴まれるわけがない。



事例の数が集まると(つまり、どっさり死体の山ができると)、そこに一定の法則性が見えてきた。
殺しには顔がわかる必要があること。
それは直接テレビに映らず、写真や映像でも良いこと。
画面に写ってから死ぬまでには、最低でも40秒がかかること。
しかし、どれもこれもこの事件が人の手によるものなのか、そうだとしたら誰によるものなのか……
そういう本当に重要なところを掴むには足りない手がかりだったんだ。
卵の立て方を思いついたのは、びっくりするくらい時間が経ってからだったよ。
いや、思いついてみれば本当に簡単なことだった。
僕は世界一の大間抜けだと思ったよ、まったく。だが、最後まで思いつかないよりは余程マシか。
……何をしたかって?



テレビに出た「以外」の心臓麻痺による死者を調べたのさ。



世界中を調べようと思ったら、そりゃあ無理さ。
だが既にテレビの放送地域から、犯人が日本の関東地区にいることはわかっていた。
そこに絞って調べてみても大変は大変だったが、クルー達が頑張ってくれたからね。
ようやく一つだけ、有望そうな手がかりを見つけたんだ。
……なんと、なのはの故郷でね。



死んだのは公園で遊んでいた子供。
一人なら偶然で流していたかもしれないが、二人だ。
二人とも遊んでいる最中に急にばたりと倒れたという。
これはどういうことか?
少なくともその時、犯人は公園が見える場所にいたということだ。
そしてテレビの死者の方は、犯人が旅行に行ったり引っ越したりはしていないことを示していた。
つまり?



犯人はおそらく、その公園の近くに住んでいる。



そこからは簡単だった。どうやら犯人はよほど無用心な奴か、もしくは正常な判断力がない奴らしい。
郊外にあるその公園が窓から見える家は、数えるほどしかなかったんだ。
だが、その辺を嗅ぎ回ると生きた心地がしなかったのは確かだね。
恐怖だけで、心臓麻痺で死ななかったのが不思議なくらいさ。



そしてやっと、犯人の目星がついた。
名前は夜神はやて、女性、年齢は―――なんとまあ。
9歳。



その地球史上最悪の大量殺人者氏は、足が不自由で学校には行けず、ずっと家にこもりっきり。
死んだ両親は金持ちではなかったが、その知り合いのグレアムという人物はちょっとした資産家だった。
夜神嬢を孤児院にやるのを不憫に思い、彼女に家を与え、ハウスキーパーに面倒を見させていたそうだ。
そのハウスキーパー以外には、たった一人きりにして。
正直言って、グレアムの方を逮捕したいと思ったのは否定出来ない。
その中年女性のハウスキーパーが匂わせていたんだ。
彼は夜神嬢がもう少し成長したら……その……



……「手をつける」つもりだったんじゃないかと。



生い立ちがどうであろうと、犯罪者は捕まえないわけにはいかない。それが法というものなんだ。
「突入」についてはなのはから聞いたかな?そう、僕となのはで家に入り、君は外で待機だったね。
まったく、あの時は生まれたての子鹿みたいに震えが止まらなかったよ。
もちろん顔は隠していたんだが、だからって絶対安全と言うわけじゃないだろ?
14歳の僕はまっすぐ立っているだけで精一杯だった。たぶん24歳でも同じだろう。
だが9歳のなのはは……決意に満ちた凛々しい顔をして、まったく震えちゃいなかった。信じられるかい?9歳だよ?
でも彼女は、永遠に14歳になることはなかったんだ。
……この世は本当に、こんなはずじゃなかったことばかりだね。



夜神嬢は突入の時、逃げも暴れもしなかった。
ただ笑い続けていたよ。
穴の底みたいな、魂の感じられない眼をしてね。
ただ、笑い続けていた。
そして僕に、黒いノートを無造作に投げてよこしたんだ。
何故、そうしたのか?
さあ。
そもそも殺人の動機だってよくわからないんだから、今さら理解不能な行動が一つ増えても大したことはないだろ?
たぶん、彼女以外には理解しようのないことなんだ。
そして。



僕は、「死神」という他に言いようもない存在が、天井をすり抜けて上へ、上へと昇っていくのを見た。



それからアースラに帰投するまでのことは、よく覚えていない。
たしかなのはに支えられて帰ってきたんだったね。情けないが、それが現実だ。
夜神嬢は手と足に錠と、目隠しをして船内の一室に閉じ込めた。
そして僕たちはノートの「HOW TO USE」を読んだ。
死神のノートに説明書。馬鹿げてるが、それが現実だ。
顔と名前。
40秒。
死因を書かなかった場合は全て心臓麻痺。
母さんが紙のように白い顔をしてたのをよく覚えてるよ。あんな表情をしたのは、後にも先にもあの一度だけだ。
それでも母さんは冷静かつ聡明だったね。被害者の名前をノートに書かれた名前と照合してみた。
完全に一致。



間違いなし、死神のノートだ。



母さんはしばらく考え込んだ後、最近は空気が乾燥してるわね、と言った。
僕はそうですね、と答えた。
艦内で火が出たりしなければいいのだけど。



その数時間後、僕は灰になったノートを母さんに見せた。
局の上の連中には、過ぎた玩具だ。



夜神嬢はその頃には既に、舌を噛み切って自殺していた。
なのははその5年後、任務中の事故で死亡。
母さんは半年前、健康診断で脳に悪性の腫瘍が発見された。
誰も改まってそう言いはしないが、もう長くはないだろう。



これが夜神事件の顛末だよ。
どうだい、この救いようのないお話から何か得るところはあったかな?
……うん。
……うん。
すまない、ちょっといいかな?



***



さて、本題に入ろうか。



「都合が良すぎる」と言いたいんだろう、君は?



あのノートは心臓麻痺以外でも人が殺せる。
夜神嬢は狂気の人だったから、多分ただ面倒だという理由だけでその機能を活用しなかったのだろう。
彼女に警察やその他の人間の目をくらまそうという意図は全くなかったからね。
事実、彼女は一度も心臓麻痺以外で人を殺していない。ノートを見れば一目瞭然だったよ。
そして、僕らは局の上の方にはノートの存在を報告していない。
「犯人は確保したが、犯行手段不明のまま自殺された」―――公式にはそういうことになっている。
これが何を意味するか?



ノートを使って心臓麻痺以外の死に方で殺人を行っても、僕ら5人しかそれを疑える人間はいないんだよ。



僕はノートを燃やした顛末の時、「灰になったノート」と言ったね。
「灰になった死神のノート」とは言わなかったのに気がついたかい?



「都合が良すぎる」
そう、その通りだ。



夜神嬢の自殺。
なのはの事故死。
母さんの―――将来、当然そうなるであろう―――病死。



10年の間にこの世でノートの存在を知る5人のうち2人が死に、1人は近いうちに死ぬ。
そんな事は当然、偶然にしては都合が良すぎる。



リューク、今いいところなんだ。少し黙っていてくれ。



あのノートはね、どういう偶然の悪戯かは知らないが、一山いくらのキャンパスノートと規格が同じなんだ。
そういうノートを燃やして、その灰を代わりに見せてごまかすのは簡単なことだったよ。



ああ、君の持ってきたこの調査資料のことなんだけど、非常によく出来ているよ。
僕の出世や仕事の邪魔になる人間が平均よりはるかに多く病死や事故死を遂げたこと、
それが他の人間からすると死んで得なのはせいぜい一人や二人であること、
僕がノートをすり替えて持っておく機会があった唯一の人間であること。
とてもよくまとまっている。



でも一つだけ、君の想定外のことがあったようだね。
言ったろう、あのノートはキャンパスノートと同じ規格だって。
それから、これは君が知るはずのないことなんだが―――



死神のノートは、本体から切り離した方に人の名前を書いても死ぬんだよ。



ただのキャンパスノートのページを一部だけあのノートから切り離したページに差し替える。
ちょっとした紙工作だよ。簡単なことさ。
うまくやると、人前でもメモをとるふりをして名前が書けるんだ。誰も他人のメモの内容なんかいちいち見やしないしね。



でも―――殺す人間の目の前でその名前を書いたのは、今回が初めてだね。



正直ドキドキしたよ。かなりの冒険だった。
メモをとったろ、「ちょっといいかな」とか言って?
君は聡明だが、僕はノートへの知識という点で勝っていたからね。



想像もできなかったろう、君の名前を死神のノートに、君の目の前で堂々と書くなんて?



なあ、フェイト……ああ、もう聞こえるわけはないな。



***



ただの名前ネタが……どうしてこうなった


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