長谷川千雨は小学校からの帰り道を一人で歩いていた。
彼女はいつも一人で過ごしていた。多少は人と話す事はあっても浅い付き合いしかしないようになっていた。
それは千雨が歳を重ねるごとに異常と感じるようになったことに原因がある。
マホラには異常なことが多かった。進み過ぎた科学。時折見る怪奇現象。そして夜になれば破壊音が聞こえ、怪光線が夜の空をよぎる。
千雨はそれを自分の両親に言ったが、信じてはもらえなかった。同級生に話してもウソツキと言われ、やがて仲の良かった友達も離れていった。
そして千雨は一人で過ごすようになった。
その日千雨は雨の中、傘をさし家に向かっていた。
マホラの治安は良く、広域指導員なる役職も存在していたので小学生でも一人で帰る者は少なくなかった。
そしてこれが今後の千雨の人生を大きく変えるものにあるのだった。
道路には車が行き来していて、水が跳ねる。
千雨は空から降ってくる雫の隙間に子猫が道路に飛び出すのを見つけてしまった。
マズイ!
そう思った瞬間に千雨は道路に飛び出す。
そして唸るような轟音、甲高いクラクション、そしてグシャリという妙に生々しい音を聞いて千雨の意識は遠くなった。
意識を失う直前、千雨には転生トラックという文字が見えた気がした。
千雨が目を覚ますと真っ白い空間にいた。
見渡す限り白。というか何処が果てなのか。周り中が白いため距離を測ることができない。
しかしとてつもなく広い空間という事は感じられた。
なんだ?ここ・・・。天国か?・・・・・・はは。笑えねぇ。
千雨は意識を失う前の事を覚えていたので、自分は死んだものと考えた。
まぁトラック?と思わしきものにはねられたら生きているとは考えにくい。
小学生ながら千雨は物事を考える事の精神を持っている。
”常識”で考えるならば自分は死んだもの思った。まぁマホラでどこまで常識が通じるのかは謎だが。
「おいすー。小娘ちゃん。元気ー?」
びくっ!と千雨は反応し後ろを見る。この空間に自分しかいないものと思い込んでいたらいつの間にか後ろに人がいた。
そして千雨は振り返って思った。
こいつ・・・・・・・・・人か?
振り返るとそこには羽を生やした幼女がいた。歳は千雨より少し幼いほど。
しかしその年頃の子どもと比べると理性がしっかりしているように感じる。
「はいー。では人間が定めた決まりごとにより、転生・・・・てんせい・・・・。・・・・あれ?」
千雨はその言葉を聞いてやっぱりあたしは死んだんだと思った。
しかしその幼女の言葉は千雨の考えとは違っていた。
「あるぇー?小娘ちゃんまだ死んでないですね。まさか転生トラックにはねられて死なない人間がいるなんて驚きですぅ」
幼女は目をまんまるにして言った。
「しかし困りましたねー。転生トラックにはねられた人間には何かの能力と主人公補正をつける決まりがあるんですが、普通転生した場合ですからねー」
そんなもん普通も何もないと千雨は思った。というか転生トラックってなんだよ転生トラックって。
「しょうがないのでとりあえず能力と主人公補正だけ付けときますねー。よかったですね。これでこの世界の主人公は貴方になりましたよー」
な、なんだそれっ!?
「なんだそりゃ!?あたしはそんなもんいらねぇ!普通に暮らしたいんだ!周りはおかしい事だらけだし、そんなもんまっぴらだ!」
「そう言われましてもー、世界のシステムですのでー。木からリンゴが落ちるというシステムがあるように転生トラックシステムも世界の規則ですのでー」
「ちょ、だから何なんだよ!?」
「ではでは、もう手続きは完了致しましたので起きてくださいねー」
幼女が目にVサインをあて叫んだ。
「幼女すぱーく!」
そして怪光線を浴びた千雨の意識はまたもや落ちていった。
「だあああああああああああああああああ!!」
千雨が叫び声を上げると、そこは病室だった。
その後、千雨の声を聞いた看護婦が先生を呼び、大騒ぎになった。
なんと千雨は1週間こん睡状態にあったというのだ。
両親も千雨が起きたのは夜中だというのに病院に駆けつけ、千雨に抱きつき大泣きした。
千雨はそれで、両親に愛されていたことを感じた。
最近、千雨は両親とあまり会話していなかったのだ。
千雨は少し嬉しくなり、あれは夢だったのか・・・。と思った。
しかし転生トラックは夢で終わるような存在ではなかったのである。
5年後、千雨は中学に進学していた。その間にいろいろなことがあった。
そうあの夢が現実のものとなったのである。
千雨は溜息を吐いた。
力と付き合っていく覚悟はもうすでに持っている。
むやみに力を振りかざさずに済んだのは千雨の人格、そして魔法使いとかいう長い赤い髪を持った先生のおかげだった。
なんでも先生はこの世界の人間ではなかったらしく、ある日、じゃあねぇとか言いつつ空間の裂け目に入っていったきり会っていない。
そして最近では何故かクラスメートにやたらと因縁をつけられ、今目の前にはどう考えても同い年とは思えない金髪幼女のクラスメートが宙に浮かんでいた。
まぁよくあることである。
以前はこんな光景を見ればぎゃーぎゃー騒いだころもあったが、今では慣れ切ってしまった。
「ククク、この闇の福音、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルに喧嘩を売るとはな」
「おまけに厨二病かよ・・・・」
千雨はやたらと厨二病患者に絡まれる。そしてなぜかそう言う輩は異能を使うのだ。
大方、力を使える事に有頂天になっているんだろうと千雨はあたりを付けていた。
まぁ、私も厨二病の塊か、と自嘲する。
千雨は自分の能力をいろいろ試したとき、どこの主人公だよ、と突っ込みまっくたものである。
あたりは暗く、人気がない。
おそらく目の前の幼女が結界とやらでもはっているのだろう。
なぜいつも絡まれるのかは知らないが、だまってやられるつもりはない。
千雨は意識を入れ替え、能力を解放した。
「な!?なんだ、そのバカみたいな魔力は!?」
「知るか」
千雨が魔力を背中に集中させ、あたりにも魔力が満ちる。
そして千雨の背中に物質化した光り輝く、羽が現れた。
周囲にも次々と不思議な形をした板が現れる。
ガノタと呼ばれる人々ならばそれは一目でわかる形をしていた。
ダブルエックスとフィンファンネルだと・・・・・!?
その人々ならば口をそろえてそう言っただろう。
「何のこけおどしかは知らんが、満月の夜に私に喧嘩を売ったことを後悔するがいい!」
エヴァンジェリンはそう言って魔力を集中し始める。
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック 氷の精霊十七頭 集い来りて敵を切り裂け 魔法の射手連弾 氷の十七矢!」
エヴァンジェリンは空を移動しつつ牽制の魔法の矢を放つ。これで敵の反応が遅れた後、中級魔法で仕留める。
そう言う算段だった。
しかし千雨には通じない。
「なん・・・だと・・・?」
千雨は一切、避けるというそぶりも見せることはなかった。
それどころか集中し、何かをしようとしていることが解った。
そして魔法の矢は千雨の周りのフィールドに苦もなく無効化される。
「やっぱりディストーションフィールドはすげぇな」
千雨が知る限り、魔法を放ってくる場合、このフィールドを破れたものはいなかった。そしてディストーションフィールドの内側にはIフィールドが存在し、千雨は物理的攻撃以外でダメージを受けたことはほとんどなかった。
今夜は満月だった。明かりもないはずなのにうっすらとあたりは月明かりで照らされている。
エヴァンジェリンの力が最も増す日でもあった。
しかしそれは千雨にもいえることだった。
「月は出ているか?」
そう言った千雨を雲から出てきた満月の光が照らした。
千雨の言葉にこたえるかのように月から一筋の光が千雨に突きささる。
しかしそれは千雨を害するものではなく、むしろ力を与える。
エヴァンジェリンは500年も生きてきたが、こんな現象を見るのは初めてだった。
月が人間に応えている!?
なぜか背中にぞくりと嫌なものがよぎる。吸血鬼の真祖であるはずの自分の生命がアラートを鳴らしているかのようだった。
千雨の背中の物質化した翼が光を帯びていく。
まるでエネルギーを溜めているかのように、光は広がっていく。
千雨の周囲の奇妙な放熱版も光を帯びていく。
その数は10。千雨の両肩から方針のようなものがこちらを向いていた。
あれは拙いモノだ。
エヴァンジェリンはありったけの魔力とありったけの触媒で、普段は封印されていて打つことのできない闇の息吹を放った。
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック 来たれ氷精 闇の精 闇を従え 吹雪け 常夜の氷雪 ”闇の吹雪”!」
満月の夜という事も手伝って、全盛期にはとても及ばないものの、普通の魔法使いには打てない一撃だった。
しかしその一撃が届く前に千雨の一撃は完成している。
いや、12門の砲身から打ち出されるそれはもはや一撃とは言えないかも知れない。
千雨の背中の翼に光が満ちる。
周囲の放熱版もそれにあわせ、光が満ちた。
千雨の周りの空間は震えているかのように異様な雰囲気が満ちている。
重く、聞くものすべてに恐怖を与えるかのような音。
ゆれた・・・。
12の方針から繰り出される攻撃が、何をもたらすのかが解っているかのように。
大地も大気も、自然界を構成する精霊が恐怖に震撼する。
今から起きる現象に、自然界全てがゆれた!
「いけぇ!!サテライトキャノン!!」
千雨が持つ砲身から極限まで収束され、すべてを焼き払うかのような極大の光が放たれた!
そしてそれは一つだけではなく12もの光が束ねられ、空が昼間の様に明るくなる。
光はエヴァンジェリンの闇の吹雪を吹き飛ばし、天へ登っていった。
雲は蒸発し、大気が焼かれ、まるでぽっかりと空に穴が開いたかのようだった。
エヴァンジェリンに直撃を食らわせるつもりなど千雨にはなかったのでエヴァンジェリンを回収しに行った。
余波だけでも大変なことになりそうだが、千雨に力の使い方、力と付き合っていく方法を教えたのは赤い髪の某魔法使いなので、千雨は自分の事を常識人だと思っていたが、そこら辺は狂いまくっている。
むしろその魔法使いに教えてもらったこと自体間違っている気がするが、千雨は魔法使いの行いを真似しているだけなので、不思議には思わない。
エヴァンジェリンは地面に落ちていた。文字通り落ちていた。
ところどころ焦げていてプスプスと嫌な音をたてているが気にしない。うなされていようが気にしない。
「はぁ、これでしばらくはちょっかい掛けてこねぇだろ」
千雨は疲れたように溜息をついた。
END・・・・・・・続かない。
千雨にサテライトキャノンを打たせたくて書いた。スーパー千雨ものは大好き。
もはや千雨じゃねぇという事も分かってる。
反省はしている。後悔はしていない。
Q.連載の方は?
A.もうちょっとだけ、もうちょっとだけ。
というか小説でキャラに喋らせるのって難しいですね。
普通は独り言なんて言わないだろうし。