2010年10月25日5時29分
被爆者援護の理念が話し合われたはずの原爆被爆者対策基本問題懇談会(基本懇)は、厚生省(当時)の誘導で、戦争被害者に対する国家補償の拡大に、いかにして歯止めをかけるかが主題となっていた――。基本懇の報告書はその後の被爆者援護法の土台となり、被爆者への国家補償は実施されなかった。被爆者らから「議論のやり直しを」の声も上がっている。
「被爆者対策を国家補償でやるとなると、額が大きくなるだけでなく、シベリア抑留者や一般戦災者の要求が強まり、甘くできないという考えだった」
基本懇で、国家補償拡大への歯止めを求める発言をした厚生省公衆衛生局企画課長だった木戸脩氏(76)は、朝日新聞の取材に、こう語った。
木戸氏によると、基本懇設置当時の厚相だった故・橋本龍太郎氏に相談しながら、議論を調整していった。橋本氏は厚相を退いた後も基本懇の議論の内容を把握し、国家補償を回避させる方向で指示を続けたという。
1980年7月の第10回会合に提出する「報告書に盛り込むべき事項」に「(戦争による一般の犠牲は)国民が等しく受忍しなければならない」との文言を加えたのは、そんな橋本氏の意を受けた木戸氏ら厚生官僚の判断だったという。
木戸氏は「一般戦災者らの補償要求が高まる中、受忍論をうちたてないと国家財政の破綻(はたん)につながりかねないというのが当時の認識だった。ただ、戦後65年たって時代も変わり、当時の結論のまま要求を拒み続けていいかどうかは正直わからない」と話した。
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