<分析>
中国甘粛省蘭州市と陝西省宝鶏市で24日、それぞれ数百人規模の反日デモが行われたが、大きな混乱はなかった。当局はデモの封じ込め策を強化しており、インターネット上で予告が出ていた江蘇省南京市では若者ら約100人が集まったものの、デモを始める前に警官に解散させられた。ただ、上海市など沿海部との格差が広がる内陸部で相次ぐデモは、社会への不満を表明する側面も見せている。強引な制圧は政府批判に転じかねないだけに当局も対応に苦慮している模様だ。
蘭州のデモは散発的に行われた。午前中のデモでは数百人の若者らが「日本製品ボイコット」などと書かれた布を掲げて行進し約1時間で警官隊に制止された。午後には約50人の若者らが「愛国無罪」「日本を倒せ」などと叫びながら行進したが、約30分で数百人の警官隊に取り押さえられた。警官隊は携帯電話のカメラで撮影する市民を見つけると電話を取り上げ投げ捨てた。
宝鶏では同日午後、若者ら約200人が警官隊に取り囲まれデモ行進し「日本製品ボイコット」と訴えた。目撃者によると一部参加者は「腐敗反対」のスローガンを掲げた。
共同通信によると、「住宅価格高騰を抑制しろ」と政府批判の横断幕も掲げられた。
外交筋はこうした政府批判に「ついに本音が出た」と話した。
南京では集合場所とされた交差点で30人前後の警官が警戒。午前中に100人近い若者らが集まったが排除された。旧日本軍の虐殺事件があった南京での反日デモでナショナリズムが一気に高まる可能性があり、当局が封じ込めたようだ。
16日に四川省成都市と陝西省西安市、河南省鄭州市で起きた大規模反日デモは当局が日本側への不満表明などを目的に容認したとの見方が強い。中国国営新華社通信(英語版)もデモを伝えた。
しかし、デモ参加者の暴徒化や他地域への飛び火は当局の想定外とみられ、翌17日以降の反日デモについて中国の主要メディアは報じていない。また、インターネット上のデモの呼び掛けを次々と削除しているほか、予告が出ている都市の学校で週末に急きょ授業を行うよう通知を出すなど当局は事前にデモの芽を摘み取っている。
それでも、ネット上の情報を完全に抑え込むのは困難な状況で、デモが起きた場合に警官隊も暴徒化を避ける措置に重点を置いているようだ。23日の四川省徳陽市のデモでは、行進が始まると警官が後ろを歩き、トヨタ車にデモ参加者が殺到すると重装備の警官隊が車を取り囲んで暴徒化するのを制止した。
日中関係筋は「内陸部では日本人と接する機会もほとんどないうえ、大学生は愛国教育を受けたばかりで、国難に立ち上がるべきだという使命感も強い。さらに親に負担をかけても将来を展望できない閉塞(へいそく)感もあり、現状への不満表明でデモに参加している面もある」と分析する。
一方、内陸部が反日一色に染まっているわけではない。23日にデモの予告があった湖南省長沙市では日系ショッピングセンターがにぎわった。タクシー運転手は「デモの心配などしなくていい。釣魚島(尖閣諸島)のことは政府間で解決する。国民同士は仲良くすべきだ」と笑った。
徳陽の雑貨店主(30)は「庶民には反日は関係ない。それより野菜の値段が上がって暮らしが大変だ」と話し、デモに対しても「若者のストレス発散だろ」と突き放した。
それでも、反日デモは社会に影を落としている。南京の自動車展示即売場には、日系メーカーのブースだけ一台も車が並んでいなかった。展示会関係者は「デモを警戒して、日系自動車を扱う業者はみな直前に参加を取りやめた」と説明した。【蘭州・鈴木玲子、南京・米村耕一、北京・成沢健一】
毎日新聞 2010年10月25日 東京朝刊