現在位置:
  1. asahi.com
  2. 社説

社説

Astandなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

2010年10月25日(月)付

印刷

このエントリをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

大阪都構想―高い支持とその危うさ

大阪府と政令指定都市の大阪、堺両市を、東京都のような広域行政体の「大阪都」と、東京23区のような「特別区」に再編しよう。大阪府の橋下徹知事が代表をつとめる地域政党「大阪[記事全文]

クマ大量出没―人と動物、共生の回復を

クマが人の住む町に出てくる。多くは射殺されている。人の被害も増えている。生物多様性が叫ばれるが、目に見える大型動物との共存でさえ簡単でないことを私たちに突きつけている。[記事全文]

大阪都構想―高い支持とその危うさ

 大阪府と政令指定都市の大阪、堺両市を、東京都のような広域行政体の「大阪都」と、東京23区のような「特別区」に再編しよう。

 大阪府の橋下徹知事が代表をつとめる地域政党「大阪維新の会」が、大胆な「大阪都構想」を来春の統一地方選の争点に掲げ、三つの府市議会で過半数獲得をめざしている。

 24の行政区がある大阪市は8〜9区に、7区の堺市は3区に集約し、公選の区長と区議会を置く。交通や産業基盤の整備などは大阪都が、身近な住民サービスは特別区が担う。

 二重行政の無駄をなくし、都市の競争力を高めようという提案である。公選制が実現すれば、今より住民自治が働くかもしれない。

 朝日新聞社が府民を対象に朝日放送と共同で実施した世論調査では、都構想について賛成が43%、反対が28%。橋下知事の支持率は78%だった。

 過激な言動でマスコミの注目を集める橋下知事だが、支持は高い。都構想も、沈滞した大阪への新風と受け止められているようだ。

 背景の一つは大阪市役所の改革が期待されたほど進まない現実だ。

 大阪市では2004年から05年にかけて、市職員のヤミ年金・退職金など非常識な職員厚遇ぶりが次々に明らかになり、改革が叫ばれた。

 しかし、3年前に初当選した平松邦夫市長は、大幅な職員数削減や市営地下鉄の民営化など前市長の改革案をいったん棚上げにした。

 最近になって市長は職員1万人削減や外郭団体の削減などを打ち出した。だがまだ実績は伴わない。「大阪市解体」といわれる構想が市民からも支持される理由だろう。

 大阪都構想には批判も出ている。

 「東京市が消滅し、東京都になったのは戦時体制下の1943(昭和18)年で、一元管理の仕組みだ」「東京は都の権限が強く、特別区は自治体として不完全」「分権に逆行する」

 先の世論調査では、都構想について知事の説明が「不十分」という人が7割近くもいた。

 大阪都では特別区の権限や財源をどうするか、肝心な中身が示されていないからだ。具体論を詰め、マイナスも含めて議論の俎上(そじょう)に載せてほしい。

 大阪都の実現には地方自治法の改正か特別法の制定、さらには住民投票の手続きまでが必要になる。三つの府市議会の議決だけではできない。

 大阪が元気を失ったのは、大阪の企業が次々に本社機能を東京へと移したり、工場がアジアに出ていったりして、経済が空洞化したからだ。

 再生は容易ではない。

 まるで万能の即効薬であるかのような印象を振りまいて民意を得ようとすれば、それは危うい。

検索フォーム

クマ大量出没―人と動物、共生の回復を

 クマが人の住む町に出てくる。多くは射殺されている。人の被害も増えている。生物多様性が叫ばれるが、目に見える大型動物との共存でさえ簡単でないことを私たちに突きつけている。

 今年はすでに約2400頭が捕まった。うち2100頭以上が殺された。人間は約100人が負傷し、4人が死亡している。

 クマの出没は近年増えている。2004年は2300頭、06年は4600頭が捕殺された。今年は04年を超えそうだ。本州以南で1万3千〜3万頭いると推測される。もっと多いとの説もあるが、大型動物がこんな高い割合で殺処分される状況は尋常でない。

 直接の原因はミズナラやブナのドングリの不作だ。クマは低地の雑木林にあるコナラやクヌギのドングリを探すうちに集落に出てしまう。そこには、もっとおいしい家畜の飼料や柿や栗がある。

 山の不作は昔もあった。

 なぜ最近、大量に出没するのか。日本クマネットワーク代表の山崎晃司・茨城県自然博物館首席学芸員は「大量出現がおきやすい環境になっている。これが問題だ」と話す。

 集落近くの里山は、かつては木材やキノコ、野草を採る場所だった。手入れが行き届いていた。しかし、最近は過疎化とともに草が茂り、人と動物を隔てる緩衝地帯の役目を果たさなくなった。里山の崩壊である。植林地も間伐されず、動物たちのエサが少ない暗い森になっている。

 猟師も高齢化し、減っている。猟師に追われた経験のない「新世代クマ」は人里に近づくのを怖がらない。集落を守る放し飼いの犬もいなくなった。

 サル、イノシシ、シカの増加による農林業への被害も深刻だ。イノシシの捕殺は年に20万〜30万頭にのぼる。

 農山村が疲弊し、山が荒れ、里に動物が押し寄せる。人と動物のバランスが崩れている。都会にいては気づかない日本の現実だ。

 欧米諸国は近代に多くの動物を絶滅させてしまった。動物とすみ分けた日本の自然は私たちの財産でもある。

 解決策を探ろう。

 まず、ボランティアである猟友会の負担を減らす。国や自治体がより多くを担い、日頃から動物の生息状況をつかんで科学的な管理をめざす。

 動物専門家の育成と地域の再生、広域対応が重要だ。野生動物レンジャーは動物管理だけでなく、里山再生の担い手にもなれる。

 兵庫県は、動物生態学の専門家らを集めて森林動物研究センターをつくった。青森県下北半島では、むつ市など4自治体の連絡会議が専門職3人を採用し、猿を追うモンキードッグを増やしてニホンザルの広域管理体制を整備している。期待できる試みだ。

検索フォーム

PR情報