中国新聞オンライン
中国新聞 購読・試読のお申し込み
サイト内検索

出島埋め立ての変質 住民の不信ぬぐえるか '10/10/25

 広島市南区で進む出島埋め立ては、動きだしたら止められない大型公共事業の典型である。

 21年前にさかのぼる広島県の計画は規模こそ変わらないが、中身は変更の連続だ。夢が託せる要素は次第に影を潜め、産業廃棄物の受け入れで迷惑施設の色合いが増す。そのたびに振り回されてきたとの思いが地元住民にある。

 今度は産廃の埋め立てを、約束した海からでなく陸から運び込む方式への見直しを打ち出した。住民合意を得るには、根深い行政不信をぬぐえるかが鍵を握る。

 埋め立て面積130ヘクタールは新広島市民球場の36倍で、総事業費は2200億円。県の国際コンテナターミナルは1期工事分が稼働する。もう一つの柱、市のメッセ・コンベンション(国際会議・見本市)施設は「バブル期計画」との批判もあり、宙に浮いたままだ。

 しゅんせつ土などで埋めるはずが、東側18ヘクタールに産廃を入れるよう途中で変えた。佐伯区の五日市処分場の満杯をにらんでの措置だった。10年間に限り五日市から船で運ぶ方式で県が地元同意を得たのが2003年のことだ。

 海の玄関口への産廃埋め立てには異論も出た。市公共事業見直し委員会が04年に「いったん中止」を勧告。市も計画縮小などを提案したが、県が拒んだ経緯もある。

 ところが、計画がずれこむ間に産廃の再生利用が進んで処分量は減った。南道路の開通などで出島周辺の交通事情も改善された。船に積み替える方式は割高で採算が取れない恐れがあるとして、湯崎英彦知事は先月、トラックでの直接搬入への転換を表明した。

 地元には新たな負担だ。出島・宇品地区では搬入に伴う騒音や悪臭問題は起きないか、海を挟んで向き合う元宇品地区などからは産廃の飛散は防げるかといった声が上がる。住民の不安解消への対応は当然である。「10年間で終える約束の厳守を」との要求にも誠意をもって応える必要があろう。

 県は海上搬入の計画を進める際、五日市地区住民への説明を後回しにして猛反発を招いた。そうしたお粗末な住民対応が不信感を増幅させてきた面は否めない。

 長期の国補助事業である埋め立て計画は、時代の波に洗われても縮小されなかった。着工から14年で外枠の護岸工事はほぼ完成したが、将来像はかすんだままだ。

 市は県から買った用地10・5ヘクタールでのメセコン計画を正式には断念していない。ただ一部を特別支援学校の用地に充て、それ以外は2020年想定の五輪で仮設競技施設を設ける案がある程度だ。

 港湾計画の見直しで、にぎわい施設を近くの岸壁沿いに造れるようになったが、中身はまだ白紙である。産廃処分場の西隣の工区は県が首都圏残土などで埋め立て中。仮に本年度並みのペースだと完成まで50年程度かかる。

 アマモが茂り、アサリも採れた地先の海は返ってこない。住民負担を増やすだけでなく、埋め立て地のきちんとした全体計画を県、市で描き直す努力が欠かせない。

【写真説明】進む出島埋め立て。産廃処分場の護岸は高さ8メートル




MenuNextLast
安全安心