トップ頁 > この一年の注目記事 > 愛国心なき経営者は職を去れ

注目記事

 このとき大統領はなんと対日戦争計画について下問している。海軍大学では日米戦争のシナリオをあらためて検討し、「開戦直前にとられるべき準備行動」のプランを作成しさえした。

 1908年、16隻の戦艦で構成された米国艦隊が世界一周を口実に日本に向かってきた。時が時だけに世界は緊張した。パリの新聞は日米戦争必至と書き立て、日本の外債は暴落した。日本政府はあわてた。国をあげて米艦隊を歓迎し、恭順の意を表する作戦で難を逃れた。日本海軍は一時的に猫をかぶったわけだが、米艦隊が立ち去った後、小笠原沖で大演習をした。

 米船団は全艦白いペンキで塗られていたので、「白船来航」と呼ばれたこの事件に示された米国の意図が、「黒船」を思い出させようとした砲艦外交風の威嚇にあったことは明らかだった。親日的と信じられていたセオドア・ルーズベルト大統領は、当時「日本人は勤勉で節倹精神に富んでいるのでカリフォルニアが彼らを締め出そうとするのも無理はない」と書いていた。勤勉、節倹などはその頃アメリカ社会でも理想とされ、アメリカ人の長所と見なされていたはずなのに、である。

 理想主義者といわれていたウィルソン大統領は、「日本人と親密な交際をしたくないという暗黙の願いがあるからこそ、トラブルが生じるのだ。日本人はアメリカ人と同じレベルではないというわれわれの気持は、微妙でデリケート、そして根源的なもので、人間のプライドに触れてくるものがある」。

 これは明確に人種差別主義者の言葉である。第一次大戦後のベルサイユ会議で日本代表が提案した人種差別撤廃案を、オーストラリア代表と手を携えて葬ったのはこの大統領である。アメリカのWASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)の人種偏見はオーストラリアの白豪主義と通じ合うものがある。そしてカリフォルニアの日本人移民差別問題と、ベルサイユ会議での人種差別撤廃案の廃案はともにわが国民を傷つけ、大東亜戦争の遠因をなすものであった、との考えは昭和天皇のお言葉の中にもある。

 日本人移民がアメリカで反発を買った事例の一つに「写真花嫁」がある。見合いの代わりに写真の交換によって結婚相手を決めるという方便である。花嫁は夫君に実際に会わないで婚姻手続きを日本ですませてから渡米するというやり方で、これがアメリカの公徳を乱すという反対運動が起こった。当時の日本人同士ならさして不都合はなかったに相違ない。しかしいかにも起こりそうな文化摩擦である。先にとり上げた「三菱自動車セクハラ事件」につながる相互誤解の一例である。日本政府は困惑して、1920年を境に写真花嫁の慣行を禁止した。

 トヨタ叩きの理不尽な一連の動きを見ていて、私が期せずして連想したのは以上に見たとおりの20世紀初頭の日米関係である。そして、トヨタ事件とほぼ時を同じくして、反捕鯨団体シー・シェパードの船長が第二昭南丸の防護ネットを切り裂いて船内に侵入したところを捕まって、日本にまで護送され、逮捕されたというニュースが飛び込んできた。シー・シェパードは本部がアメリカ国籍である。所有船の船籍はオランダやカナダやニュージーランドその他であるが、オーストラリア政府が与野党共同でシー・シェパード支援を表明しているのが目を引く事実である。お金を出しているのはハリウッドの俳優やアメリカの富豪である。ここでもアメリカとオーストラリアがつながっているのは思うに決して偶然ではあるまい。

 そう考えているうちに、日を置かずしてアカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞に、和歌山県太地町の伝統イルカ漁を隠し撮りした『ザ・コーヴ(入り江)』が選ばれた、というニュースがどんと入って来た。たしか同じ頃にトヨタのプリウスが暴走して止まらなくなってパトカーが駆けつけて停止させた、というまたまた因縁をつけられそうな出来事が重ねて起こって、事と次第によってはトヨタは最終的に米国市場から追放されるのではないか、と心配する向きもあったほどだった。『ザ・コーヴ』の監督がこれは日本叩きの映画ではない、とテレビでしきりに弁解しているのもかえって異様だった。イルカ漁の妨害をして和歌山県警に逮捕されながらの隠し撮りをした二人はシー・シェパードから送りこまれた活動家であることも分った。トヨタ事件との直接のつながりは勿論シー・シェパードにも、アカデミー賞にもないが、白人 植民地主義の偏狭な反日気分の高まりは間違いなくひとつながりのものとして、否応なくわれわれ日本人の肌にからみつくように感じられる。

 だからといって何も驚くことではないし、恐れることでもない。ただ、はっきり言って、歴史は80年ほど逆もどりして、1930年代の日本を取り巻く国際環境に立ち還ったのではないか、と考えずにはいられない。時代が戦争に向かっていくあのときの感情の原型にである。第一次大戦以後ずっと、アメリカとオーストラリアは秘かに手を結んで反日の牙を磨いていた。アメリカが反日で協力し合った最初の国はイギリスではない。これに最近の中国人のあらゆる手段で他国に寄生し、非常識と不衛生と厚顔無恥な振舞いのオンパレードで、がむしゃらな打算で欲望のままに生きようとするあの混沌、地球上に溢れ出した無秩序を加えて考えると、世界はもう本当に第二次世界大戦直前の状態を現出しているように思えてならない。

 いうまでもなく、だからといって、昔のようにすぐには戦争にはならない。艦隊で威嚇する時代ではなく、核ミサイルでさえ現実には使えず、武力による覇権競争ではなく、知力による覇権競争がすさまじい勢いで展開される時代となっているからである。覇権競争、すなわち新しいタイプに形は変えているが、コロニアリズムの戦争は依然として激しくつづいているのである。

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