そして最大の問題が薬の開発に莫大な費用がかかることです。ひとつの新薬が生まれるには1500億円もかかるといわれています。商品になるかどうかわからない段階で工場を新設することもあります。
でも最終的に薬が生まれなければすべてが無駄。薬の元となる化合物をひとつひとつ調べていって実際に薬に結びつくのは2万にひとつくらいといわれます。ほとんどギャンブルの世界ですね。2010年問題で製薬会社の売り上げがダウンすると、開発費に回せるお金が減って、「もう新薬は生まれないのでは」ということが懸念されているのです。
しかし、がんやアルツハイマー病など原因が解明されていない病気の患者や家族の方が新薬を求める思いは切実です。番組のゲストにお迎えした女優の城戸真亜子さんは、お母さんを筋萎縮性側策硬化症という難病で亡くし、いまは認知症の義理のお母さんの介護を続けています。
「少しでも効く薬があれば、このまま症状が悪くなっていくのを黙ってみているよりは、ちょっとリスクがあっても試してみたいという気持ちで一杯なのです。研究にそんなにお金がかかるとは思ってもみませんでしたが、お金の問題で薬の開発が進まないというのは本当に残念です」
と率直な感想を述べてくれました。
もう1人のゲスト、東京大学理化学系助教の佐藤健太郎さんは大手製薬メーカーに研究職として15年勤めた経験があります。佐藤さんは「製薬会社の使命は痛みや苦しみから患者を救うことです。そのためにも新薬開発を止めるわけにはいかない」といいます。
私たちの命を守る薬。2010年問題はその薬を作る製薬会社の経営を大きく揺さぶります。しかし、新薬を求める患者や家族の思いに応える責任が製薬会社にはあります。2010年問題は製薬会社の経営問題だけでは決してないのです。
※この記事は、NHKで放送中のドキュメンタリー番組『追跡!AtoZ』第36回(3月13日放送)の内容を、ウェブ向けに再構成したものです。
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【次回の番組放送予定】
3月20日(土)午後10時~10時43分
「どう向き合う? がん“代替療法”」
日本人の3人に1人の死亡原因となっている「がん」。手術、放射線、そして抗がん剤の三大治療の他に、患者が頼りにしているのが健康食品などの「代替療法」だ。患者の2人に1人が使い、その市場規模は1兆円とも言われている。
しかし、患者たちは今、大きな悩みに直面している。インターネット上などで情報が氾濫する中、どの情報を信頼していいかわからないのだ。日本では、国が「代替療法」の効果を検証したり有効性を研究したりしていないため、患者は自力で情報収集しなければいけない状況に置かれている。
また、患者の不安な気持ちにつけこんで商売する悪質な業者が後を絶たない中、警視庁では、そうした業者の摘発に力を入れている。さらに、厚生労働省も患者が代替療法についての正しい情報を見極められる仕組みを作ろうと動き出した。
がん患者の多くにとって拠り所になっている「代替医療」。どう付き合っていけばいいか、考える。
◎番組ホームページ http://www.nhk.or.jp/tsuiseki/
※今後の放送予定(再放送含む)も確認できます。番組へのご意見・ご感想も大募集。
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