いかに新薬開発を進めるのか? 副作用も含め、クリアすべき課題は多い。 |
厳格化を重ねた臨床試験によって、皮肉にも「本当に薬が必要な人たち」への新薬が生まれづらい状況が生み出されつつある。しかし、薬の副作用による悲劇を二度と繰り返さないために、基準を緩和するわけにもいかない。この2つのバランスをいかに取れば良いのか? 国も製薬業界も、悩みながら試行錯誤を続けているのだ。
「昔の薬」で新薬を開発
では、どうすれば良いのか? いまアメリカでは当面の打開策として、「昔の薬の再利用」への注目が集まっている。意外なことに、現在広く使われている薬でも、「なぜ効くのか」がわかっていないケースは多い。「バイアグラ」のように、不整脈の薬として開発が始まったにも関わらず、ED改善効果があることが分かり、その用途で発売されたケースもある。
薬が働くメカニズムはまだまだ分かっていないことが多く、ある用途に使われている薬が別の病気にも効く可能性は十分にあるのだ。あるバイオベンチャーの調査によると、いま出回っている薬の3割ほどは別の病気にも効くという。
そこで最近、以前に薬として販売されたり、臨床試験が行なわれたりした化合物の別の使い方を探し、新薬として開発する手法が注目を浴びている。人への安全性が確かめられているため、開発途中で思わぬ副作用などにより、中止に追い込まれるリスクが低いからだ。
ファイザー社も専門の研究部門を立ち上げるなど、大手の製薬会社にも急速に注目が広がっている。しかし、この方法は「過去に開発された化合物」という限定がつく以上、根本的な解決策にはなりえない。
患者数の多少に関わらず、いま病気に悩み、薬を待ち焦がれる人々の救いとなる「新薬」をどのようにして開発していけば良いのか? 2010年問題をきっかけに、明らかになってきた様々な問題点。私たちの暮らしに密接にかかわる「薬」の問題だからこそ、真剣に議論していかなければならないと感じた。
(文: 番組取材班 市川衛)
取材を振り返って
【鎌田靖のキャスター日記】
今週のテーマは2010年問題。といっても馴染みがないかもしれません。私たちに身近な薬をめぐる話です。どういうことかというと、1990年代、糖尿病やうつ病などに効果のある画期的な新薬が相次いで開発されました。
製薬会社はたくさんの薬を作っていますが、こうしたヒット商品は、ひとつかふたつで全体の売り上げの半分を稼ぎ出すこともあります。ところが薬の特許は基本的に20年。ということは2010年前後にこうした画期的な薬が特許切れとなるのです。
特許切れとなった薬は同じ成分で安く販売できるようになり(これがジェネリック薬です)、製薬会社の売り上げが大きく落ち込んでしまう。これが2010年問題です。
「薬が安くなるのは良いことじゃないか」と思われるかもしれませんが、実はそうでもないのです。そもそも1990年代以降、画期的な新薬はあまり生まれていません。薬害が問題となって、薬の審査が厳しくなったこと、原因がわかった病気の薬がほとんど作りつくされたこと、などが背景にあります。