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[19346] 【ネタ】響良牙が幻想入り(らんま1/2×東方Project作品)SS初心な筆者です。※第6話修正
Name: 溺死◆f0a6530f ID:ee60a56e
Date: 2010/10/23 19:26
 麗らかな春の日差しの中、良牙はひとり、大きなリュックを背負い、ひたすら風林館高校を目指して山道を歩いていた。
 彼が風林館高校を目的にする理由、それはもちろん、あかねに会うためである。
 愛しいあかねさん、俺はあなたのためだったら命だって投げ出すことが出来る。
 だというのに……、あかねさんの隣にはいつも乱馬(宿敵)がいるのだ。
 想い人とライバルの仲睦まじい光景を脳裏に浮かべた途端、ふつふつと沸き起こる熱い何かを良牙は覚えた。
 Pちゃんとしても、響良牙としても。彼女は何時も自分に優しく接してくれる。どこにも悪いところなんてないというのに……。可愛くないだとか、ずん胴だとか、乱馬はいつもあかねさんに対して失礼なことを言っている。
 もちろん怒ったあかねさんが乱馬をぶっ飛ばすのもいつものことである。しかし、彼女の表情が生き生きとしているのはそうやって乱馬と一緒に居る時だ。
 自分では引き出すことが出来ない顔を、乱馬は引き出すことができる−−。そう考えた途端、良牙は自分の脚がズシリと重たくなった気がした。
 ここ最近、物を持って重さを感じたことはなかった。だが、中身は別である。乱馬とあかねがいちゃつく姿なんて想像しようものなら、良牙の心は海より深い負の重みを感じてしまう。


「くそっ、乱馬め!」

「ひゃあっ、な、わ、わわわ私は寝てませんよ咲夜さん!?」

「?」

 女の驚いた声が耳に入り、良牙は声のしたほうへ視線を向けた。右手に何か触れたような気がしたが、多分、はずみで蝿か蚊を叩いたのだろう。
 そう片付けながら良牙が見たのは、薄い緑色のチャイナ服を着こなし、同じ色の帽子を被った赤い髪の女だった。
 何やら慌てているがちょうど良い、この時間帯ならあかねさんは多分、学校に行っているはずだ。

「おい、ちょっと聞きたいんだが風林館高校へは−−「へ……ああああぁぁぁぁ!」

 良牙の掛けた声に気づき、目を合わせた瞬間、女は目を見開いて叫び声をあげた。
 プルプルと何やら身体を震わして手を出し、顔を真っ青にさせた女は良牙を指差して告げた。

「へ、へへへ……塀が壊れてるうぅぅ!?」

「塀だと?」

 女の言葉に、良牙は周囲を見回す。するとそこには煉瓦造りの紅い塀が辺り一帯にかけて立っていた。だが、何故か良牙の居る場所だけ隔たるものが無かった。
 あるのは粉々に砕けた同じ紅い煉瓦の瓦礫だけである。多分、女が示しているのはこれだろう、瞬間的に良牙はそう察した。
 そういえばさっき叫んだ時、何かが右手を掠ったのは……。まさか、俺がこれをやったのだろうか?

「な、なんで!? あの、そこの人、白と黒の服を着た奴がここに来ませんでしたか!」

 慌てふためきながら、門の辺りに居た女は駆け寄ってそんなことを良牙に尋ねてきた。
 しかし、良牙にはこの女が誰のことを言っているかなど解るはずもない。
「いや、そんなものは見ていないぜ」そう答えると、女の顔は更に青くなり、何も隔たるものが無くなった先に建っている紅い洋館を見上げた。
 そして、
「す、すいません咲夜さーん!」
 そう叫ぶや、あっという間に走り去っていってしまった。

「あっ、おい!」

 まだ風林館高校への道を聞き出していないのに、良牙はそこでひとり取り残されてしまう。
 このまま中に入って誰かに話を聞きたいところだが、勝手に入るのは失礼な気がする。
 それに、塀を壊してしまったのは自分かもしれないのだから、ここはキチンと謝らなくてはいけない。
 どうしたものか、そう良牙が悩んでいた時、

「あら−−どうしたのかしらコレは」
 塀の向こうから、先程の女とは違う声が良牙の耳に届いた。そちらへ視線を移すと鉄製の門が独特の音を立てて開き、そこから銀髪のメイドが姿を出した。

「ちょっと良いかしら?」良牙に気づいたメイドはそう尋ねながら歩み寄ってくる。だが、その表情は明らかに不機嫌な色をしており、額には青い筋がいくつか浮き出ていた。

「あ、ああ」

「ここに赤い髪の門番が立っていなかったかしら?」

「居たが、あんたとは入れ違いにあの中へ走っていったぜ」

「……まったく」
 親指で館を指し示した良牙がそう答えると、メイドは深いため息を着いた。どうやらこうゆうことは日常茶飯事らしい。
 やがてメイドは瓦礫の山に目をやって声を漏らした。
「何があったのよ……」

「ああ、これについてだが−−すまん」

 言動から察するにこいつはメイドでも偉い立場なのだろう。そう思った時、良牙の行動は早いものだった。
 頭を下げ、謝罪してきたこと。その台詞の内容に聞き捨てならなかったメイドは、顔を引き攣らせながら良牙に説明を求めることにした。

「どういうこと? もしかしてあなた中国に決闘でも挑んだのかしら?」

「中国? いや、考え事しながら通り掛かった時、つい壊してしまったんだ。悪いのは俺だ」

「はっ?」

 良牙の言葉にメイドは訳が解らないといったふうな声を出し、やがて鋭い視線を良牙へと向けた。
 少年の言う通り、これは彼がしたのだろう。見たところなかなかの力は持っているみたいだし。でも、それだけで咲夜が納得するのには材料が不足している……。
「どこの馬の骨が解りませんが……この塀には館の偉大な魔法使いが幾重にも工夫をこらした魔法が掛けてあるわ。それを壊したのが人間であるあなただなんて、信じられると思うのかしら?」

 腕を組み、見定めるかのような目でそう尋ねてきたメイドに良牙は頷くしかなかった。
 魔法とかどうとか言っているからには、ここの館は普通ではないのだろう。
 とりあえず塀を破壊したのが、自分であることを証明するため。良牙はとりあえず足元に落ちていた大きい紅煉瓦を拾い上げ、人差し指を立ててそれを突いた−−。

「こうゆうことだ」

「なっ!?」

 一瞬にして、手の中にあった煉瓦は粉砕され、それを眺めていたメイドの顔は驚愕に染まった。

「これはあらゆる物に備わる爆砕のツボを押す土木工事用の技だ。魔法だかマジックだか知らないが、この技の前で壊れないものは無いんだ」

「どうやらそのようね……」

 話を信じてくれたのか、良牙から今使用した技についての解説を聞き。メイドはあらためて赤い瓦礫の山を見遣った。

「壊したことに関しては本当に済まないと思っている。俺に出来ることなら何でもするぜ」

 改めてそう言うと、メイドは少し間を置いてから向き直り、良牙に告げた。

「なら、使用人としてしばらく働いて貰うわ。それで良いわよね?」

「構わない」

 使用人……というからには掃除炊事洗濯をしなくてはいけない、しかし元々自分はひとりっこである。家事ぐらいはひととおり問題なく出来るはず。
 どうやら話は丸く収まりそうだ。良牙は心の中で安堵した。

「なら、ついてきなさいな。お嬢様達に会わせるから」

「ああ」

 メイドにそう言われ、良牙は彼女に続く形で塀の内側へ足を踏み入れた。厄介なことになったが、やってしまったことは仕方ない。しばらく働いて、ついでにあかねさんへの思いを紛らわそう。
 そう考えながら、メイドに従うまま、良牙は広い玄関から館の中へ入っていった。
 以前も何度か大きな家に入ったことが良牙にはあったのだが、この屋敷はこれまでと大きく違う点があることに良牙は気づいた。
 それは、屋敷の外装内装全てが"紅"を基調にデザインされているのだ。

「悪趣味だな……本当にどんな奴が住んでいるかわかったもんじゃないぜ。っと、悪い」

 これから雇われるのにこうゆうことを言うようではまずい。思い直した良牙は直ぐさま訂正しようとメイドに声をかけた。
 しかし、そこは今の今まで歩いていた紅い絨毯が敷き詰められていた廊下ではなく、さらにメイドはどこにも居なかった。

「あなたはだあれ?」

 良牙が居たのは薄暗い部屋で、そして良牙の目の前には不思議そうに自分を見上げる少女が居たのであった。

 −−その頃、良牙を連れていたメイドはというと。
「そういえばまだお名前をお伺いしていませんでした……わ、ね」

 良牙が居ないことにようやく気づいたところだった。


※あとがき※

らんまを読み返してたら書きたくなりました。
小説は初めてですが、どうかよろしくお願いします



[19346] 第1話「不幸を利用する程度の技?」
Name: 溺死◆f0a6530f ID:58429961
Date: 2010/06/13 00:51
 少女の笑い声が部屋中に兒玉していた。

「あはははははは、すごいよ良牙! 三十分経っても壊れないなんて!」
 そう言い、喜びをあらわにする少女から、良牙は弾幕を傘で防ぎながら逃げていた。そして、安請け合いしてしまった自分を激しく責めた。
 おかしい。俺はちゃんとあの銀髪のメイドの後に付いて廊下を歩いていたはずだ。
 なのに気づいたら、見ず知らずの子供の部屋に居たなんて……。まったくだだっ広い屋敷だぜ。 考え事していた為に迷ってしまったことなどすっかり棚にあげ、良牙は呆れるように心の中でそう思った。
 だが、

「ほらほら!」

「くそっ」

 今は少女との遊びに集中しなければならない。
 目の前に現れる光弾の群れを回避し、良牙は傘で防ぎつつ後ずさっていく。
 そもそも何故こうなったかは、
「暇つぶしに遊んで」と、彼女から誘われたからなのであるが。
 良牙としては正直、はやく廊下に戻り、あのメイドを探したいところであった。
 しかし、こんな小さい子の頼みを邪険にするわけにもいかない。そう思い、良牙は二つ返事で了承したのである。
 軽い気持ちで、そう、近所の子供と遊ぶ気持ちで良牙は応じたつもりだった。
 だが、今にしてみれば内容はまったく軽いものではない。あらためて良牙はフランを見遣る。
『私はフランドール・スカーレット。フランと呼んでね』そう名乗った少女は、見掛けの愛らしさと相反した強さを、その身体に秘めているのだ。
 こんな幼い子が、いったいどんな修行をこなしてきたんだろう。もし、そうでなかったらこの強さは天賦の才ではないか……。良牙の頭の中で疑問がもやもやとして残っていた。

「もー、集中してよ!」

「っ!?」

 前から次々に迫りくる弾を避けていた良牙の元に、大きめの光がフランの手から放たれた。
 傘を盾にするにしても動作が遅れてしまう距離だったが、意外にも良牙の頭は冷製に働くことができた。

「獅子咆哮弾!」

「うそ……」

 素早く片手で、弾を相殺した良牙はフラン目掛けて飛び掛かる。
 こうなったら接近して大人しくさせる他はないぜ。
 そう考え、手の届く距離まで迫った良牙に、フランは驚きを隠せずに目を見開く。
 中国や魔理沙ほど、スピードは無いにしろ、体格を利用した良牙の突進は思ったより良い動きをしていたのである。

「どうだ! 弾幕とかいうやつは避けきったぞ!?」

 傘を上げ、なるべく力を加減してフラン目掛けて振り下ろす良牙だったが、フランが微笑んだ途端、その赤い傘はガシリと何かに阻まれてしまう。

「じゃ、こんどは良牙に合わせてあげる!」

 狂気の光を放つ目で良牙を捉えながら、フランが手にしていたものは黒い、ぐんにゃりとした異様な形状の槍だった。
 何とも嬉しそうに黒い槍で赤い和傘を弾いたフランはそのまま良牙に爪で切り掛かっていく。

「ちっ」

 それを瞬時に見抜き、身体を横にしたため、切り刻まれるには至らなかったものの。掠めただけで服は切り裂かれ、そこから良牙の肉体があらわになっていた。
 だが、それで怯む良牙ではない。
「まだまだ!」

 身体を戻す勢いでフランを殴り飛ばす良牙だが。手加減してるから、痕は残らないだろう。女の子を殴ることに若干の抵抗があった為、良牙は自分の攻撃が入る度にフランを心配していた。
 しかし、

「すごいよ良牙……すごいすごいすごいすごいすごいすごいすごい、もっとアソボウヨ!」

「ぐわっ!」

 どうやら心配は無用なようである。
 笑いながら戦線に復帰し、再び爪を繰り出してきたフランに良牙は避ける暇もなく直撃を受けてしまった。
 しかし、そこでフランが止まることはなかった。

「えいっ!」

「ぐああぁっ」

 帰す拳で、至近距離から光の弾を撃ち込み。槍で殴り、蹴りを入れる。といった攻撃を、怒涛の勢いで使用し。フランは良牙を追い詰めていく。
 奇しくも、パワーとスタミナが自慢である良牙とフランであるが。見掛けで油断している今の良牙では、フランの相手にはならない。
 やがて、乱馬以上の威力を持つフランの力に、良牙は押されはじめた。

「どうしたの? こんなんじゃつまらないよ良牙!」不満を浮かべてフランは良牙にそう言いながらも、手を緩めようとしなかった。
 また、先程の勢いのように良牙が力を見せてくれるだろうとを期待しているからだ。
 しかし、

「っ……」

 フランの槍が吸い込まれるように良牙の腹を突いた時、ついに良牙はガクリと膝を床に付いてしまう。
 その瞬間、今の今まで楽しそうにしていたフランは冷厳な表情となり、すぐさま思ったことを良牙にたたき付けた。

「なぁんだ。良牙弱いね……」

「っ!?」

 自分の頭上から見下ろしているフランの言葉が、良牙の心を深く刔った。
 よわ……い。子供に言われたから余計に響くのであろうか。
 傘を手放し、ボロボロの床へと視線を落とした良牙の脳裏に、またもや想い人と宿敵の姿が現れた。

『良牙くん……子供にまで勝てないんだ』

『あ、あかねさん!?』

『仕方ねぇさ』

『乱馬!?』

 肩を浮かし、ため息をつくようにそう言い、乱馬はあかねの肩に手を回した。
 自分を見る二人の目は、哀れな者を見るような色をしていた。
『違う! お、俺は−−』

『何が違うってんだ、弱いブタ野郎』

『ら、乱馬貴様!?』

 ギロリと睨みつけ、言ってはならないことを告げた乱馬に。良牙は焦りと憤りが混じった複雑な感情のまま、乱馬へ駆け出した。
 言わせてなるものかよ! しかし、そう思って伸ばした良牙の手はすり抜けるように空を切った。今、そこに居たはずの二人が居ないのだ。
 ど、どこだ!?

『ブタ野郎ってどういうこと乱馬?』

『こうゆうことさ、あかね』

 言い聞かせるように乱馬の声が頭に響いた瞬間、良牙は冷たい何かを頭部から全身にかけて感じた。
 そして、気付いた時。良牙は乱馬とあかねを見上げているのだ。

『ぶ、ぶきっ!?』

『そ、そんな……良牙くんがPちゃんだったなんて……今まで騙してたのね!?』

『ぶき、ぶきぶき!』

『もう言い訳は出来ないぜ良牙、あかねのことは俺に任せて。お前はさっさと旅に出な……じゃあな』

『最低な良牙くん、さようなら!』

『ぶ…………ぶき……ぶきー!』

 侮蔑の目を向け、次第に自分の元から遠退いていく二人に、良牙は蹄をあげて泣き叫んだ。
 待ってくれ! これには理由があるんだ!
 そう良牙は言いたかった。しかし、もう二人が戻ってくることはなかった。

 暗雲で覆い尽くされ、悲哀に包まれた心のままゆっくりと立ちあがる良牙に、フランは嬉しそうに良牙を見遣る。
「ふふ、やっと立った。ねぇ、はやく続きし−−」

 しかし、そこに居たのは。光の無くなった目をした良牙だった。
 何もない、心にぽっかりと穴が空いたような。ジッと虚空を見つめる良牙に、思わず自分を重ねたフランは言葉を詰まらせてしまう。
 そして、

「不幸だ……」

「え」

「……獅子咆哮弾」

 小さく、そう良牙が呟いた直後、辺りを負の塊が襲った。
 重い、良牙の重い悲しみに押し潰され、何が何だか分からないままフランは意識を手放してしまう。
 そして……獅子咆哮弾が落下し、部屋を破壊していく中、

「バンダナの人居ましたよ咲夜さん−−って、へ、部屋があぁっ!?」

「な!? また妹様が暴れたというのかしら……」

 聞き知ったばかりの者達が駆け付け、驚いて言った言葉を耳にしながら。良牙もまた、崩れ落ちるように床に倒れ込むのだった。



[19346] 第2話「採用通知」
Name: 溺死◆f0a6530f ID:58429961
Date: 2010/07/18 01:15
 良牙は生き地獄を味わっていた。
 それは、想い人が自分の手の届くところに居るという、本来なら夢のようなシチュエーションであった。だが、その想い人の、良牙に向ける視線は極めて冷ややかなものだった。
 理由はもちろん、良牙=Pちゃんという図式を、よりにもよってあかねの前で暴露してしまったからだ。
 良牙は自分の運命を呪い、強く歯ぎしりをした。
 あかねの中では、おそらく、乱馬、八宝斎、パンスト太郎といった変態集団に自分もそこに追加されていることだろう。正直、冗談ではないが異論など許される立場でもない。
 しかし、それでも良牙にはまだすべきことが残されていた。

「あかねさん」

 悲しさを孕んだ視線を、良牙はあかねへと送る。もう好きだとか、片想いだとか関係ない。これまで黙っていたことを詫び、それから永久(とわ)の旅に出よう。
 そう思い立ち、良牙は改めてあかねを見遣るのだが、
「さようなら、変態良牙くん」
 耳元で囁くように別れを告げたあかねが、自分の元から立ち去ってしまう。思わず良牙は叫んだ。

「ま、待ってくれあかねさん!」

 せめて謝らせてほしい。懸命に手を伸ばす良牙だが、その手が届くことはなく、あかねの姿は遠退いていった。

「あかねさん、お願いだ、謝らせてくれ! あかねさん、あかねさーん!?」

「さよーならー」

「あかねさああぁぁん!」

「きゃあっ!?」

「きゃあ?」

 待ってほしい。そう思いながら必死に差し出した良牙の手は、ふにょりと、柔らかいものを押し上げた。そして、同じタイミングで女性の悲鳴が良牙の耳に入る。
 なんだ? 疑問に思い、目で感触の元を辿ると、そこには頬を赤く染め、こちらを鋭く睨む、あの銀髪のメイドが居た。
 どうやらアレは夢だったらしい。そう良牙は瞬間的に察し、心から安堵するのだが……。自分の手がメイドの胸をがっちり掴んでいるという光景を前にしていた為、同時に良牙はこれが危機的状況であることも悟った。

「す、すすすまん!?」

 あわてふためきながら手を離し、良牙が謝ると、
「まあ、うなされていたようだし……悪かったわね。あかねさんじゃなくて」
 メイドは咳ばらいをしてから、不機嫌そうに嫌みを言った。
 想い人の名前を知らず知らずのうちに言葉にしていたなどと、まるで中学生ではないか。メイドの台詞を受け、良牙は自身の顔が熱くなっていくのを感じた。

「まあ、五本で許してあげるわ」

「え」

 すらりと五つのナイフを手にし、恐ろしいまでの笑顔で咲夜がそう告げた直後、良牙の悲鳴が館中に木霊した。
 しばらくした後、良牙はメイドの口から、自分がおかれている状況を聞かされた。
 昨日とある部屋で気を失っていたところを駆け付けた咲夜達によって発見、すぐさまこの部屋に運び込まれたという。
 館に住まう魔法使いによって治療されたことや良牙の持ち前のタフさも幸いし、傷は浅く、命に別状はなかったのだ。
 丁寧な説明を受け、改めて自身を見遣ると、確かにそこには寝巻に着替えさせられた自分が居た。
「正直、あの部屋から生きて出ることが出来たあなたには聞きたいことがたくさんある……けれどそれはお嬢様の台詞だから言わないでおくわ」

「あ、ああ−−って、お嬢様? ……ここの家主がか?」

「そうよ」

 メイドの口ぶりから、良牙はそう考えるしかなかった。
 こんな立派な屋敷なのだから、せいぜいタキシードを着こなし、立派な口髭を蓄えたおっさんが住んでいるのだろうと考えていたが、どうやら違うらしい。
 間違いでないことを伝えると、メイドはあるものを良牙に手渡した。

「何だこれは?」

「制服よ」

 頭を捻り、綺麗に折り畳まれていたそれを広げると、立派な執事服が良牙の手元に現れた。

「今から、あなたを連れていくようお嬢様に言われているの。三分以内に着替えを済ましてちょうだい、私は外に出ているわ」

 分からないことがあったら呼ぶように。そう付け加え、メイドは部屋を出ていった。
 先に制服を渡すところを見るに、どうやら採用はされたようだ。
 ベッドから床へ足を降ろし、考えを巡らせつつ、良牙は着ている服に手をかけた。


少年着替中……。


 扉を開き、廊下に出ると、メイドは懐中時計を手にしながら待機していた。
 気配に気付き、視線を時計から良牙に移すと、
「まだ、出来てないじゃない」
 ネクタイを手に出てきた良牙にメイドは呆れ返った。

「む、結んだことが無いから分かるわけないだろ」

 バツが悪そうに、顔を赤らめた良牙がそう言うと、メイドは小さなため息を吐いて良牙からネクタイを取り、そのままそれをカッターシャツの襟越しに良牙の首へと回した。

「お、おい……」

「動かないの」

 まるで小さな子に言うように嗜められ、良牙もつい黙り込んでしまう。
 仕方ないとはいえ、自分と年の変わらなさそうな女性にこうまで接近され、しかもネクタイを結んでもらうなど、男子校出身の良牙には恥ずかしくて仕方なかった。
 これでは新婚生活ではないか!?
 身長差から、良牙の目線にちょうど彼女の銀髪と、フリルの付いたカチューシャがある。そこから、甘い、良い香りが良牙の鼻を通り、心をくすぐった。

「はい、出来たわよ?」

「……」

「出来たのだけれど?」

「ん、あ? す、すまん!」

 語気を強め、確認を求めたメイドの声にようやく良牙は時を正常に戻すことが出来た。
 ドクッ、ドクッ。高鳴る胸の鼓動を感じつつ、メイドが結んでくれたネクタイの、綺麗な仕上がりを見下ろした良牙は思わず声を漏らしてしまう。

「凄いな……」

「そう? ふふ、一応、こうみえて初めてなのだけど」

 口元を手で抑え、笑みを零すメイドの可憐さにドキッとさせられ、ごまかすように良牙はまじまじと執事服を纏った自身へ視線を移した。
 ピチッと閉められた襟元に言いようのない閉塞感を感じてしまうが、それも働いていたら慣れるだろう。

「そういえば、まだ名前を教えてなかったわね。私は十六夜咲夜、ここのメイド長をしていますの」

「響、響良牙だ」

「ふぅん……執事服、似合っているわよ良牙」

「っ!?」

 微笑みながら、そう述べた咲夜に良牙はまたもや胸が高鳴った気がした。
 やはり、女は慣れない。あらためてそんなことを考えながら、

「さ、お嬢様がお待ちだから行くわよ。こっちよ」

「ああ、こっちだな」
 咲夜に促されるまま……、良牙は反対方向へ進んでいった。
 そして、自分の傍にまたもや良牙が居ないことに、咲夜が気づくのはそれから間もなくのことだった。



[19346] 第3話「来館二回目の気絶」
Name: 溺死◆f0a6530f ID:58429961
Date: 2010/08/22 04:04
 紅魔館には、無数の本が所蔵されている大きな図書館が在った。そこは本を保存するために魔法で温度と湿度が一定に保たれた、特別な場所である。
 良牙はそんな空間の中で迷っていた。
「ここは……どこだ?」
 何故自分はこんな場所にいるのだろうか? いや、それが分かればこんなに迷うことはない。
 良牙は咲夜と一緒に廊下を歩いているつもりでいた。だが、気がついた時にはこんな場所に居た……。
 一体何故だ。
「ここは、図書館なのか」
 良牙は歩きながらそう言い、辺りを見回した。そこには分厚い本が棚いっぱいに納まった書架がずらりと整列されており。遠くに目を向けても、同じものが団地のように続いて広がっている。
 図書館で間違いはないはずだ。あらためて強くそう思いながら、良牙がある本棚に差し掛かった時−−。
「ん?」
 良牙の視界に、赤く長い髪がふわりと映り込んだ。
 足を止めてみると、そこにひとりの少女が本棚を前にして立っていた。何冊もの本を胸に抱きながら、その中から一冊一冊を取り出しては丁寧にかつ、素早く棚へ納めている。
「ずいぶんと手慣れているな……」
 その動きは一切無駄がなく、機敏である。少女の手元から、本がなくなるのもすぐのことだった。
 良牙は、少女が作業にひと句切りを付けたところで声をかけた。
「すまん」
「あ、はい」
「俺は響良牙っていう、今日雇われたばかりの執事なんだが、ちょっと良いか?」
 名乗り出てからそう尋ねると、少女はふわりと微笑んで答えた。
「はい、大丈夫ですよ」
「そうか。えぇっと……「小悪魔です、私はパチュリー様にお仕えしてる小悪魔といいます。良牙さん、よろしくお願いしますね」少女はやわらかな笑みのまま、良牙にそう名乗った。
 少女は白のシャツに、黒のネクタイとベスト。そして、同じ色のロングスカートと規律感のある服装をしていた。
(小悪魔か……)
 また、頭からは小さな翼が生え。腰からは矢印のような尻尾が伸びていた。その姿は良牙の知る悪魔と、少し相違があったものの。
「悪魔にもいろいろあるんだな」
「?」
 良牙はそれ以上深く考えなかった。代わりに良牙はそこであることに気づく。
「っと、おまえ今パチュリーって言ったよな? パチュリー・ノーレッジのことか?」
「は、はい」
 小悪魔の言った人物の名を、良牙は咲夜から聞いていた。
 昨日、気を失った自分を治療してくれたのがパチュリーという魔法使いだと−−。
 その名を聞くまで、良牙はここが何処なのかを聞くつもりでいた。だが、自分はまだ紅魔館の中に居る為、言う必要がなかった。
 それよりも今は、恩人に礼を言わなければ。良牙には立つ瀬がなかった。良牙は内容を改めて用件を告げた。
「そのパチュリーに会いたいんだが、何処に行けば会える?」
「この図書館の閲覧室に居ます。よかったら私がご案内しますよ?」
「ああ、頼む」小悪魔の提案に、良牙は迷わず承諾した。だが、
「では、行きましょう」
「っ? ま、待て」
 何故か小悪魔は良牙の手を握ってきた。それを呼び止め、良牙は行動の意味を小悪魔に求めた。
 良牙は異性とは何人も接してきたことがある。とはいえ、いきなり手を握られて驚かない者がいるだろうか。
「何故俺の手を握る?」
「あ、いえ。この図書館は広いので、移動の際は飛ばないといけないんです……良牙さん、人間ですよね?」
「ああ」
 確かにそうした移動手段の方が効率的かもな。小悪魔の聞いた。人間かどうかの質問が引っ掛かるが……。
「なら任せるぜ」良牙は小悪魔に身を委ねることにした。
 すると小悪魔はやわらかな笑みを浮かべ、良牙の手を取ったままゆっくりと本棚の上まで上昇した。
 パンスト太郎の背に乗って空を飛んだことがあったからだろうか。良牙は思っていたよりも飛ぶことに慣れてた。
 一番感謝したくない奴だがな……。
 苦笑する良牙の足元では、いくつもの本棚が緩やかに過ぎていた。





 紅魔館の廊下は暗く、少しばかりの妖しげな雰囲気を漂わせていた。
 今は昼間だが、窓のない紅魔館には関係なく薄暗い。明かりといえば、壁に高く設置されたランプの蝋燭のみである。
 そんな中、咲夜は不機嫌そうにしながら歩いていた。
「全く、何処をほっつき歩いているのかしら?」
 主レミリアに仕えるメイドとして。メイド達をまとめる長として常に見本となるべく。慎ましく、瀟洒たらんと心得ているはずの咲夜だったが、今は珍しく感情を表に出していた。
 その原因というのも、先程まで一緒にいた新人にある−−。
「何ですぐに居なくなるのよ……」
 咲夜がこんな状況を味わうのも二回目だった。しかし、そのおかげもあってか何となしに新人(かれ)の欠点が分かりつつあった。
「もしかして、良牙って方向オンチなのかしら?」
 一瞬、良牙が氷の妖精や門番と同族ではないか。と考えてしまう。
 流石に違うでしょうけど、是非こちらは杞憂であってほしいわね。
 図書館へ続く廊下を進みながら、心でそう祈った時−−。
「咲夜」
 背後から、咲夜を呼び止める者が居た。





 良牙は小悪魔と共に本棚の森を抜け、ある場所で降り立った。二人が着いたそこには、寝巻姿の少女がいた。少女は机の上でもくもくと本を読んでいた。
「パチュリー様」
 小悪魔がそう声をかけると、少女はゆっくり小悪魔を見上げた。
「こちらにいる良牙さんが、パチュリー様にお会いしたいと」
 小悪魔に言われ、少女はそのまま視線を良牙へと移す。すると、半分だけ開けられていた目は驚きの色を浮かべ、一瞬だけ見開かれた。
「俺は響良牙ってんだが、あんた、俺に見覚えあるよな?」
 あくまで咲夜から教えられたことである。断定は出来なかった。
 しかし、少女は覚えていたらしく。小さく頷いた。
「身体に違和感はある?」
 少女は読んでいた本に栞を挟み、良牙にそう尋ねた。
「違和感は無い、むしろ良好だぜ」
「そう……良かったわ」
 良牙が軽く身体を動かして見せると、安心したらしく。少女は再び半目になった。しかし、どこか嬉しそうにしていた。
「まだちゃんと名乗っていなかったわね。私はパチュリー・ノーレッジ……ろしくね」
「ああ、よろしくな」
「パチュリー様、そちらの本を戻しておきますね」
「お願い……。あと、私と彼にお茶を用意してくれるかしら」
「かしこまりました」そう応えたのもつかの間であった。小悪魔は机の上で積み重ねられていた本を手に抱え、ぺこりと頭を下げてからすぐその場を後にした。
 これがあいつの仕事なんだな。良牙は飛び去る小悪魔の背中を見ながらそう納得した。
「座ったら?」
「あ、ああ」
 パチュリーに勧められ、空いていた席に良牙は座った。すると、ちょうどパチュリーと相対する形になった。
「誰か訪ねてくるから、こんなでかい机を使っているのか?」
 思っていたよりも机は広く、作業に向いてそうである。良牙の質問に、パチュリーは小さく頷いて答えた。
「それもあるわ」
「も?」パチュリーの言葉を受け、良牙は首を傾げて考え込む。
 そういえば、本を積み重ねていたな。それを小悪魔が片付ける。小悪魔が片付けなけりゃ、どんどん重ねられていく……。
「って、読んだ本を置く為か」
「私、片付けるのが面倒なの」
「おいおい」
 自分の立てた推測をあっさりと認めるパチュリーに、思わず良牙は呆れ返った。
「ところで、私に会いたかっただけなの?」
「あ、いや。あんたに礼を言いたくてな……」
 パチュリーに問われたことで、本来の用件を思い出した良牙は勢いよく頭を下げた。
「手当てしてくれて、ありがとう。助かった」
「……あなた自身の体力も影響してると思うのだけど。まあ、どういたしまして」
 ふと、良牙が顔を上げると。パチュリーは僅かに微笑んでいた。
「ところで……」
 何かを思い出したらしく、パチュリーは良牙に尋ねた。
「ここの主にはもう会ったのかしら?」
「……あ!」
 パチュリーの質問に、良牙は思い出す。
 咲夜に案内されていた途中にここに迷い込んだこと。その行き先が、今パチュリーの言った紅魔館の主の部屋だということを……。
「ど、どうしたのよ?」「いや、実はな−−」
 良牙は仔細漏らさず、ここに来てしまった経緯をパチュリーに打ち明けた。
「−−あのね。咲夜に先導してもらっていてなんで迷うのよ?」
 頬を引き攣らせ、じとりとパチュリーが見てくる。良牙は考え込むように腕を組んで答えた。
「分からん。俺も"ちょっと"迷いやすいほうだが……」
「"ちょっと"という言葉に謝りなさい」
 汗を垂らし、キリッとした表情で答える良牙に、パチュリーは呆れながらツッコミを入れた。
「と、とりあえず。あいつに会うのが先決だな。また後で挨拶に来ると思う−−」
 焦燥感にかられ良牙は席を立ち、片手をあげて別れの言葉を告けようとした時。
「きゃあぁ、すみませーん。躓いた拍子に、アイスティーがー」
 つんざくような小悪魔のわざとらしい声が良牙の耳に届いた。
 そして、同時に、冷たい固体と液体が良牙の頭に掛かる。
「ぶわっ冷て!」
(まずい、これは!?)
 それは、変身体質で毎日を過ごす者には避けたいものだった。しかし、気づいた時は何をしようとももう遅かった。
「わわ、二人とも大丈夫ですか!?」
「まったく、何をしているのよ……ドライ」
 呆れながらパチュリーがそう告げた途端、彼女の身体は完全に乾き。紅茶による汚れも服には残っていなかった。
 本当であったら驚かずにはいられないところであるが、良牙にはそんな余裕はない。
「あれ、良牙?」
「良牙さん?」
 良牙の姿が見当たらないことに、パチュリー達が気づいた。
 まずい。非常にまずい状況だ。良牙は脱げてしまった執事服を口でくわえ、その場を駆け出す。
(く、なんとかして戻らなくては!)
 早く、お湯を。早くお湯を! 二人に気付かれないよう。良牙は音を立てぬように図書館の中を駆けた。
 そして、奇跡的にも良牙は扉を見つけた。
「ぶ、ぶきき!」
 いったん外に! ヒヅメでどうやって開けるかなど考えもせず、良牙は咄嗟に扉へと飛び掛かった。
 だが……。
「パチュリー様、いらっしゃいますか?」
「ぶきっ!」扉ごしに声が聞こえた瞬間。大きな衝撃が、良牙の意識を奪いさってしまった。





 咲夜に声をかけたのは、この紅魔館の主であるレミリア・スカーレットだった。
 何故彼女が自分を呼び止めたのか。咲夜は何となく悟ってしまう。
 新人執事の良牙を連れて来るようにと、主から言われていた。にも関わらず、今はどうであろうか。
 咲夜は主をすっかり待たせている状態なのだ。
『来るのが遅い』主からそう言われるのではないか。咲夜は覚悟した。だが、主の口から出た言葉は予想とおおいに違っていた。
「湯浴みをしたいのだけれど」
「……え、湯浴み……ですか?」
「っ、何よその拍子抜けした顔は?」
 思わず顔に出ていたらしい。主に睨まれ、咲夜は気を取り直して答えた。
「すいません。はい、すぐにお支度は出来ます」
「お願い。っと、そうだ。昨日の、その……雇ってあげた新人って人間の男の子なんでしょう?」
 咲夜は、はい、と頷く。するとレミリアは、何故か顔を赤らめながら言った。
「この私が、人間の子供風情に気を使うことはないにせよ。強い私が主だということをそいつには示さないといけないわ」
「……確かにそうですわね。承りましたわお嬢様−−と言いたいのですが、その前にお時間を少々、頂いてもよろしいでしょうか」
「? ええ、構わないけど」
「ありがとうございますわ、お嬢様」
 キョトンとするレミリアに慎ましく頭を下げ、咲夜はその場から離れ、図書館へ足を向けた。
 とりあえず今はその新人を捕獲しておくのが先決ね。そんなことを考えながら、咲夜は目の前にまで近くなった図書館の扉を手でゆっくりと押し開いた。
「パチュリー様、いらっしゃいますか?」
「ぶきっ!」
「ぶき?」
 パチュリー様なら、彼を見つけてくれるだろう。願いも混じった思惑の中、咲夜は図書館に足を踏み入れて声をかける。だが、咲夜はそこで聞き慣れない鳴き声を耳にした。
 何かしら。不思議に思い、扉を動かすと。内側には、
「え……」
 黒い布のようなものがが乱雑に置かれていた。しかも、その上には黒い豚が乗っている。大きさ的に子供かもしれない。
 咲夜はそこにそっと歩み寄り、子豚を抱きあげる。子豚はすっかり目を回しており、小さな頭を撫でてみるとこぶも出来ていた。
「ごめんなさいね」
 何となくいたたまれなくなり、呟くように子豚に謝罪して。咲夜は黒い布へと視線を落として考えた。
 でも、なんでこんなところに……。
 咲夜の中で突如として浮き上がった気持ち、それには二つの意味があった。
 何故紅魔館に子豚がいるのか。どうして良牙に着せた執事服がこんな場所にあるのか、である。
「咲夜?」
「パチュリー様」
 背後からかけられた声に、咲夜はハッと気づいて振り返った。
 話を通しておきたかった相手を見つけ、咲夜はゆっくりと立ち上がる。しかし、咲夜の口から言葉が出ようとしなかった。
「あ、あの……えーと」
(どう言えばいいのかしら)
 良牙は見つからない。しかし、良牙の着ていた服はある。そして、何故か黒い子豚が居た……。
 ということはつまり−−。咲夜は視線をパチュリーへ這わせながら、考え込み。そして告げた。
「黒い豚カレーと、どん兵衛のカレーうどん。どっちが好きですか!?」
「……何を言っているのよあなた」
 呆れたようにため息をついたパチュリーの言葉に、咲夜はすっかり冷静さを欠いていたが。すぐに気を持ち直した。
「す、すいません」
「それより、良牙を見なかったかしら?」
「良牙が来ているのですか?」
 パチュリーの言葉はまさに寝耳に水のことであった。
 咲夜が驚いた表情で聞き返すと、パチュリーは小さなため息をついた。
「その様子だと見ていないようね。ええ、今の今まで私と居たわ。だけど、ちょっと目を離したら居ないのよ」
「……はぁ」
「どうしたのよ?」
「あ、いえ」
 もはや、もしかしたらではないかもしれないわね。
 パチュリーの証言と、自分の経験が似通っていたことで、咲夜は確信した。
 間違いなく良牙は方向オンチだ、と。
「あら、その子−−「咲夜、ちょっと遅いわよ」 レミリアの苛立った声が扉の向こうから聞こえ、パチュリーの言葉を遮ってしまう。
 咲夜はパチュリーが何を言おうとしたのか確認を取りたかった。しかし、今は主を優先しなければならない。咲夜は少し迷ってから、子豚をパチュリーへ預けることにした。
「申し訳ありませんパチュリー様、この子とこの服を預かっていてもらえませんか?」
「分かったわ」
「ありがとうございます、では」
 咲夜は深く頭を下げ、踵を返して図書館を後にした。はやく湯を用意しなければならない。そう仕事に意識を向けるものの、子豚が良牙と同じ柄のバンダナを着けていたことが、咲夜にとって気掛かりでならなかった。


※あとがき

すーいません!

体調崩しちゃいまして、なかなか携帯を握れませんでしたorz
だからか、こんなに詰め込んじゃったんです。



[19346] 第4話「漆黒の子豚」
Name: 溺死◆f0a6530f ID:58429961
Date: 2010/08/29 04:12
 良牙は意識を取り戻した。目を開けると、白い天井が良牙の視界に飛び込んでくる。
 どこなんだここは? 身体を起こしながら自分にそう問い掛けた。そして、良牙の脳裏に今までの記憶が蘇った。良牙は自分にいったい何が起きたのかをはっきりと思い出すことが出来た。

(そうだ、俺は豚になったんだ。それで、元に戻るために)

 打ちつけたはずの頭に痛みはない。しかし、身体を見れば豚のままである。良牙はあれが夢でないことを痛感した。

「ぶ?」

 良牙は誰かがやってくる気配を感じ、細い耳をピンと立てた。

(……これは……パチュリーか?)

 ヒタヒタと水気を帯びた足音が聞こえる。どうやらこちらに向かっているらしい。
 良牙はその姿を確認するため、辺りに目を向けたが、周りはカーテンで仕切られていた。
 そして良牙は、ふわりとした柔らかい"何か"に乗っていることに気づいた。

(ベッドなのか)

 視線を下ろし、ヒヅメで感触を確かめていると、近づいていた足音はすぐそこで止んだ。
 顔を上げると、カーテンには誰かのシルエットが浮かんでいた。髪は長く、腰まであることから、良牙はこれが女性ではないかと推察した。

(風呂に入っていたのか)

 頭を拭いているような動作をするシルエットに、良牙はそう思った。そして、カーテンの隙間から細く小さな手が差し込まれ、ゆっくりと開かれた。
 隔たりの向こうに居たのはパチュリーで間違いなかった。まさに良牙の予測通りであるが、ひとつ問題があった。
 ……パチュリーは何も着ていないのだ。

「ぶ……」

 紫色の長髪、冷静さを思わせる素の表情。そして湯上がりらしい、パチュリーの肌はすっかり紅潮していた。

「ん、目が覚めたのね」

 良牙が見ていることに気づくと、パチュリーは持っていたタオルをベッドの上に置き、良牙の頭を優しく撫でた。
 良い手つきだ−−いや、違う違う!
 良牙は勢いよく反転した。

「ぶき!」

 パチュリーの、いや女性の生まれたままの姿は、良牙には刺激の強いものでしかない。

(意外にでか−−って、違う! 何を考えているんだ俺は!)

 落ち着け落ち着けと、良牙は自分にそう言い聞かせる。しかし、高まった鼓動はなかなか鳴り止むことはなかった。
 そんな良牙の気持ちを知ってか知らずか−−、

「これ、やっぱり重たいわね……」パチュリーは何かを触りながら、そんなことを口にした。

 どれだけ俺を悩ませるんだ。良牙の全身から玉のような汗が吹き出した。

「ちょ、パチュリー様、なんて格好をしてるんですか!?」

「わ、わわわ」

「小悪魔、はやくパチュリー様のお召し物を!」

「は、はい咲夜さん!」

 背後から聞こえた慌ただしい声に良牙は聞き耳を立てる。
 声の主は咲夜と小悪魔のものだった。

「お持ちしましたパチュリー様!」

「あ、ブラジャーはいらないわ。ネグリジェをちょうだい」

(ぶ、ぶらっ!?)

 またそんなことを、と良牙は心の中で動揺した。

「……どうしてですか?」

(……)

 良牙は身体を震わせた。咲夜の声色が、突然冷ややかなものになったからだ。
 何故、そんなにも機嫌が悪いのだろうか。咲夜が不機嫌になる理由が、良牙には理解出来なかった。だが、それはまだ序の口だった。

「また胸がキツくなってきたのよ。今使ってるブラじゃ多分入らないわ、こんなのいらないのに」

 パチュリーがため息混じりにそう答えると、咲夜はより冷ややかな怒りを声に滲ませた。

「…………へぇ、そうなんですか」

「ひゃあああ、咲夜さんが般若みたいな顔してる!」

(何だこの気迫は)

 良牙は今まで修羅場は幾度とくぐり抜けてきた。八宝斎、ムース、パンスト太郎達……そして早乙女乱馬。世の中は猛者でひしめき合っていた。しかし、今の咲夜は奴らに匹敵する何かを放っている。それは、良牙でさえ怯えさせるほどのものだった。
 早く何か着てくれ、パチュリーと−−。
 良牙は心の中で祈るようにして願った。





 湯気が立ち込める浴場、そこには一糸纏わぬ、見目麗しい少女が二人居た。
 彼女達はスカーレット姉妹と呼ばれる紅い悪魔である。
 その二人が浴室に居る理由は、採用したばかりの執事と会う為だった。例え自分達の足元にも及ばない人間にせよ、紅魔館初の執事である。ここは主がどれほど美しく、気高いかを見せつける必要がある。
 そう考え、レミリアは妹も湯浴みに誘い、今に至るのだ。

「それで? 私はまだ顔を見た程度だけど……味見した感想は?」

 レミリアは白く輝く浴槽に身を委ねながら、同じようにして湯に浸かっている妹へ尋ねた。

「楽しかった!」

 迷うことなくそう答えた妹は嬉しそうに笑った。

「へぇ」

 館内を歩き回る自由を与えてから、レミリアは妹の笑顔は何度か見たことがある。だが、今フランが見せた笑みはいつもと違うものがあった。
 しかし、
「けどね−−」そう付け加えたフランは俯いてしまう。

「どうしたの?」

 途端に、テンションが下がってしまった妹を心配に思いつつ、レミリアは話の続きを促した。
 フランは顔を上げずに答えた。

「気を失う時に見たんだけどね。良牙、壊れそうだった」

「壊れそう? それはあなたが強いからじゃないの」

 何を今更、と。レミリアは肩を浮かせて呆れる。だが、フランは勢いよく首を振ってそれを否定する。

「違う! 良牙は強いよ。でも、なんかね、ちょっと触っただけで崩れ落ちちゃう感じがしたの」

「……そう」

 話自体は動じるほどではない。だが、初めてフランが見せた一面に、レミリアは驚かされた。
 フランは、その圧倒的な能力と幼さ故に、物が壊れることの本当の意味を知らなかった。
 しかし、自由を許したことでそれも改善されてきてはいた。だが、レミリアは予想していなかった。まさかここにきてフランが誰かを心配するなどとは、思ってなかったのだ。
 話を終え、ゆっくりと顔を上げるフランの姿に、レミリアはなぜか胸が締め付けられる思いになった。
 フランの顔には、どこか悲哀の色が浮かんでいた。レミリアはフランを抱き寄せ、子供をあやすようにその頭を撫でた。
 フランにこんな顔させるなんて……。もしかしたら、自分は良い人材を得たのかもしれない。

「響、良牙か……」

 レミリアの口から漏れたその言葉は、フランには聞こえないまま、湯気とともに消えていった。





 咲夜の怒りは幾分かおさまった。
 しかし、咲夜は未だ気に入らなかった。正直、あれだけ胸があるのに邪魔だとかおっしゃるのは嫌がらせではないか。
 自分なんか、毎日毎日大きくなる方法を模索しては実践を行い。やっとBからCに−−、

「おっほん」だいぶ思考が脱線していたことに気づき、咲夜はあらためて子豚へ意識を向けた。
 小悪魔は本の整理の為離れており。今、パチュリーの寝所にはパチュリーと咲夜、そして子豚だけが居る。
 咲夜はそこで思い切って子豚に話しかけた。

「あなたは良牙……なの?」

 子豚が巻いているバンダナと、良牙が頭に巻いていたバンダナ、それがどちらも同じ柄というのは偶然と言いきれるものではない。

「ぶき……」

 咲夜の予感は適中したらしく。子豚はこくりと頷き、咲夜とパチュリーに視線を這わせながら、白いプレートを咲夜達に提示した。
 そこには太い字でこう書かれていた。

「゙お湯゙? お湯が欲しいの?」

 パチュリーがそれを読み上げて聞き返すと、子豚はぶきっと返事をする。
 そして、パチュリーの念を聞き付けた小悪魔が、やかんを持ってそこに現れた。

「お湯を用意しました」

「ありがとう小悪魔」

 咲夜が小悪魔からやかんを受け取ると、子豚はベッドから飛び降り、咲夜の足元に駆け寄った。
 咲夜は、自分を見上げる子豚の意を汲み、やかんを傾けた。やかんの口から湯が子豚へ注がれ、熱気と白いもやが立ち込めた。
 まさか本当に良牙だったなんて、と。咲夜は少し驚いていた。だが、それよりも今は、良牙が豚であることのほうが気になる。
 豚人間など聞いたことはない、彼は人間ではないのか? 咲夜の心にそんな疑問が生まれる中、

「すまん、助かったぜ」

 立ち込める白煙から見知った少年が顔を出してそう言う。
 咲夜はそこで良牙に人間であるか否か、確認しようと声を掛けるつもりでいた。だが、良牙の姿を目にした瞬間、咲夜の時は止まった。

「ん、どうした?」

 隆々たる筋肉、割れた腹筋。しかし、それでいてすらりとした裸の男である。
 この状況で、男の裸体を目にするなど誰が予想していただろうか。
 生まれ初めて男を目にした咲夜の手から、やかんが音を立てて床に落ちた。

「わわわわ」小悪魔は真っ赤になった顔を手で抑えているものの、指の隙間からはっきりと良牙を見ていた。

「こっちは馬なのね」パチュリーは頬を赤らめつつ、良牙を眺めて関心したように述べた。何が馬なのだろう、いや、分かるけど……。
 事態を冷静に判断できてしまうのは、自分がメイド長だからであろうか。そんなことを考えつつ、咲夜は目を強く閉じて良牙に言った。

「り、り、良牙! と、とりあえず服を着なさい!」

「っ!? す、すまん! えぇと、服っ!」

「パチュリー様、さっきお渡しした制服は!?」

 咲夜がそう尋ねると、パチュリーは思い出したらしく手を叩いてああと声を漏らす。
 すぐに小悪魔に、あの執事服を用意させ、良牙に服を着させることは出来たのだが……。顔を赤らめた咲夜は終始、良牙に背中を向け、俯いていた。その訳というのも、男の裸を見てしまったからであるが、もうひとつあった。
 良牙の股の間でぶらついていたものが、目に焼き付いてなかなか離れないのだ。
「しばらく腸詰めは控えようかしら」咲夜はため息をつきながら、良牙達に聞こえないようにそう呟いた。



[19346] 第5話「りょうが1/2」
Name: 溺死◆f0a6530f ID:58429961
Date: 2010/10/22 11:37
 パチュリーの提案から、良牙は咲夜達に誘導される形で図書館の閲覧所へ移動した。
 パチュリーが自分の席に着き、咲夜と小悪魔がその傍に佇んでから、良牙は変身体質になった経緯を話した。
 良牙がこんな身体になったのも。元を質せば宿敵・早乙女乱馬が原因である。
 というのもある日、良牙はその乱馬に決闘を申し込んだのだが、乱馬は指定した場所に来なかった。
 不思議に思って調べれば、乱馬は修業の為に中国へ向かっていたという。それを知った良牙は激怒し、乱馬を追う形で中国に渡った。目的はもちろん乱馬との決闘である。だが、乱馬はなかなか見つからなかった。
 その為、良牙は何日も中国で探し回るはめになってしまった。そしてある日、良牙が山道を歩いているところに女とパンダが現れ……良牙を崖から突き落としていったのである。
 不幸にも、その落ちた場所が呪泉郷の黒豚溺泉だったのだ。これが全ての始まりである。
 まったく、思い出すだけでも腹が立つぜ。しかも、自分を突き飛ばした女とパンダの正体が、乱馬とその玄馬とくれば尚更腹立たしい。
 話を終えた良牙の手は、爪が食い込むほど強く握られていた。

「というわけだ。水をかぶったら豚にはなるが、それ以外は正真正銘の人間だぜ」

 怒りを紛らわすように、良牙は親指で自身を指して咲夜達に言い切った。そして、良牙は覚悟した。
 こんな変態だと分かった以上、きっとこいつらは自分を蔑むに違いない。
 咲夜の問い掛けに素直に答えたのも、そう考えたからだ。もし、出ていけと言われたらすぐにでも立ち去るつもりである。
 しかし、

「なら仕方ないわね」

 腰に手をあてながら、咲夜はため息をついてそんなことを口にした。
 良牙は耳を疑った。

「な、何言ってんだ?」

「良牙?」

 動揺する心をなんとか抑えてそう尋ねると、咲夜だけでなく、パチュリーと小悪魔も不思議そうにして良牙を見た。

「いや、思っていたのとは違う反応だったからな」

 素直にそう述べると、咲夜はふうんと声を漏らし、肩を浮かせて良牙に言った。

「どんなことを予想してたかは分からないけど。あなたが豚に変身しようと、私は別に構わないわ。裸を見せたことに関しては許さないけど」

「ぐっ、それは悪かったと思っている」

 咲夜に痛いところを指摘された。先程の情景が脳裏に浮かび、良牙は自分の顔が熱くなっていくのを感じた。
 俺だって恥ずかしいんだぞ……。いや、それは咲夜の台詞である。
 顔を背け、良牙は文句を言いたい気持ちを振り払った。

「それに私だって人間だけど−−」
 そう言った瞬間、咲夜は姿を消し、
「−−こんなことができるのよ」背中から台詞の続きが聞こえた。良牙は思わず目を見開いた。
 何なんだ今のは!? 咲夜が懐中時計を手にしたところまでは見えたが……くそ、分からない。
 素早い動きが出来ないため、良牙は感覚で相手を捕捉する力を鍛えていた。にも関わらず、咲夜にそれが通用しなかったのだ。

「ちょっと、痛いわよ良牙!」

「あ」

 良牙はいつの間にか咲夜の手を掴んでいた。とっさに身体が動いていたのだろう。良牙は慌てながら手を放した。

「まったく、強引ね」

「す、すまん」

 咲夜は呆れたように言うが、見ると良牙が掴んでいた場所にはくっきりと痕が残っていた。

「見せなさい」

 パチュリー?
 良牙がそう思った時、パチュリーは既に咲夜の傍で佇んでいた。
 表情にあまり変化がないようだが、痕を見る目は真剣そのものである。
 すると、パチュリーは自分の手に淡い紫色の光を纏わせ、それを咲夜の手に宛てがった。
 そして、一瞬にして光は消えた。

「どう?」

 そう聞きながらパチュリーが手を退かすと……。咲夜の手にあった痕はきれいに消えていた。

「大丈夫です。パチュリー様、ありがとうございますわ」

 咲夜が治療の礼を述べると、パチュリーは「気にしないでいいわ」とだけ答え、使っていた椅子へ腰を下ろしてしまった。
 一連の動作を素早く熟してしまったパチュリーに深く感銘を受けつつ、良牙は咲夜に謝罪した。

「条件反射とはいえ、闘気のないあんたに手を挙げてしまった。本当にすまん」

 勢いよく良牙は頭を下げ、恐る恐る顔を上げると、咲夜はニッコリと微笑んで告げた。

「良いわよ。私もいきなりだったし。あなたの力量も、"痛いほど"分かったから」

「……」

 ぐうの音も出ないとはこのことか。咲夜に皮肉を可愛らしく言われ、良牙は何も言葉が浮かばなかった。

「さて、もうそろそろかしら」

 傍から離れ、くすりと笑う咲夜は何とも楽しそうである。
 懐中時計を取り出し、時間を確認する咲夜を見ながら、良牙は心の中で彼女に白旗を振った。

「私は一度お嬢様の様子を見てくるから。良牙、あなたは私が呼びに来るまでここで待ってなさい」
 懐中時計をしまい、咲夜はそう指示を出した。しかし、さっきのこともあってか。良牙はただ頷くしか出来なかった。

「……本当に分かった? いなかったら、ナイフでサボテンにするわよ?」

 突然、眉根を寄せて再確認してくる咲夜に気圧されながらも、良牙は了解した意思を頷いて伝える。
 しかし、咲夜はそれでも信用出来なかったらしく。パチュリーに何かを伝えてから図書館を後にした。
 咲夜が何を言ったのか、多少気になるものの、良牙は待機することに意識を集中した。

「小悪魔」

「はい、お茶ですね」

 小悪魔は苦笑を浮かべてそう言うと、一礼してから図書館の中に飛んでいった。こういう時、顔を見ただけで察してもらえるのは有り難いものである。
 良牙はネクタイを緩めようとした手を自制し、その手で自分に微弱な風を起こした。

「熱い?」

 パチュリーは視線を向けて聞いた。
 しかし、良牙が顔を横に振り−−「いや、さっきは助かった」と伝えると。

「気にしないで」

 パチュリーは呟くように答え、机の上にあった本へ手を伸ばした。

「お待たせしました」

 銀製のお盆を手にした小悪魔が歩いて戻ってきた。そこにはティーカップが二つ、湯気を出して並んでいた。
 小悪魔はひとつをパチュリーの机に置き、残るひとつを良牙に渡した。
 そういや、ちゃんと飲むのは初めてだな……。
 立ち上る湯気と茶の香を受けつつ、良牙はティーカップへ口をつけた。

「……」

「……」

「……」

「……あのぅ」

 小悪魔は不安げな表情を浮かべて声をかけてきた。良牙は不思議に思い、一口分を飲み干してから小悪魔に答える。

「何だ?」

「その、すごく静かに飲んでらしたので……。あ、もしかして美味しくなかったですか?」

 味の感想を聞きたかったらしい。黙って飲んでいたことが、どうやら小悪魔を不安にさせたようだ。。
 悪いことしてしまったなぁ。
 良牙は空いていた手で頭を掻きながら、紅茶の感想を口にした。

「ああ、美味いぜ。何て言うか、あんまり熱くなくて、今の俺にはちょうど良い感じだ」

「っ、ありがとうございます!」

 途端に小悪魔は花が咲いたように表情を綻ばせ、良牙に礼を言った。
 その反応に、良牙は思わずドキっとさせられ、すぐに小悪魔から視線を外した。
 大してコメント上手くなかったはずだよな。
 そう思い、小悪魔を一瞥すると。彼女はお茶を運んでいたお盆を抱えて、
「よかったぁ」とても嬉しそうに呟いた。
 ふ、何を意識してるんだ俺は……。まあ、こいつがかわいらしいのは認めるが。
 気恥ずかしさを覚えながら、良牙は、小悪魔のレベルの高さを再認識した。

「そういえば良牙さん、すごいですよね」

 何か思い出したように小悪魔はそう告げる。しかし、彼女が何を指して言っているのかが分からず、良牙は首を傾げた。

「だって、咲夜さんの動きについていってたじゃないですか」

 目を輝かせて述べた小悪魔の言葉に、良牙はようやく納得して首を戻した。
 確かに、小悪魔が言うように俺は咲夜の手を掴んだが……。それだけでは駄目だ。
 顔を横に振るい、良牙はどちらに分があったかを答えた。

「いや、俺は完全に出遅れていたし。あっちが殺る気ならもう終わってるだろうさ」

 良牙は脳裏に先程の状況を浮かばせ、そこで"もしも"の展開を想像した。
 もし、あの時あいつが脚に携帯してたナイフを手にしてたら。もし、掴まえた時にまた同じ技を使われたら……。俺はどう動けば良い。
 咲夜という猛者の情報が足らない今、良牙にはどうしても勝算が打てなかった。

「どうしたの?」

 考え込んでいるところに、パチュリーがそう尋ねてきた。「何でもない」良牙の口からそんな言葉が出かかる。
 だが、そこで良牙はあることを質問した。

「パチュリー、あの動きは何の技なんだ。咲夜は何か格闘術を習っているのか?」

「あれは月時計を使っているのよ」

「月時計? あの、消える直前に持ってた懐中時計か?」

 良牙がそう聞き返すと、パチュリーは一瞬驚いた表情を浮かべて頷いた。

「目が良いのね。そうよ、あの時計を持っているから、咲夜は時間を短縮してあなたの背中を取ることが出来た」

 何だその便利グッズ。
 絶対知られたり渡したりしてはいけない存在を、良牙は思い出した。

「顔が引き攣ってるけど……」

「い、いや、何でもない。しかし、すごいな。そういえばあいつ、ナイフも持ってるだろ?」

 良牙が二つ目の疑問をぶつけると、パチュリーは読んでいた本に栞を挟んで机に置いて良牙に向き直った。
 何だ……。俺は何か触れてはならないものに触れてしまったのか。
 良牙を見るパチュリーの目は、どこか楽しそうに揺れていた。

「勘も鋭いわね。そうよ、我流だけどナイフによる戦い方も心得ているわ。まあ、そっちは大して強くないけれど−−あら帰ってきたみたいね」

 良牙がティーカップを空にした頃、扉の開く音が届いた。するとパチュリーの言葉通り、咲夜が姿を見せた。

「待たせたわね」

 傍まで歩み寄り、咲夜は苦々しく微笑んでそう言った。しかし、小悪魔とパチュリーが居たからか、良牙は待たされた気がしなかった。

「速いくらいだぜ?」

 咲夜は意外そうな表情を浮かべ、主達の準備が整ったことを良牙に告げた。

「お嬢様と妹様が部屋であなたをお待ちしているわ。特に妹様は、あなたに会いたがってたけど」

「フランか」

 昨日遊んだ相手が、館主の妹であったのだと、良牙は咲夜から聞いていた。その為か、すぐに良牙はあの少女を思い出すことが出来た。
 また、遊んでとか言われるのか……。まあ、望むところだぜ。
 格闘家だからか、良牙はフランと遊ぶことが楽しみで仕方なかった。何故なら、フランは強い。あの強さなら、八宝斎(じじい)とも張り合えるだろう。
 そんなフランと毎日の遊べばきっと良い修業にもなり、さらに強くなれる。
 そして、良牙は気づく。もしかしたら、あの乱馬より強くなれるのではないかと……。
 そんな確信にも似た気持ちを抱きながら、良牙は咲夜に答えた。

「よし、ならさっさと行こうっ−−」

 歩き出そうと脚が動きかけたところで、良牙は自分の手に何かが添えられたことに気付く。
 視線を落とすと、それは先程掴んだ……咲夜の手だった。

「何で手を握るんだ?」

 確実に手を握ってきた咲夜を不思議に思い、良牙は疑問をそのまま口にした。
 すると咲夜は、
「こうでもしないとあなたすぐ迷うじゃない」と言わんばかりに睨みつけてきた。
「ふざけるな! 俺は、家の近所の空地くらい、四日もあれば迷わず辿り着けるんだからな!」と良牙は咲夜に言−−。

「胸、触ったわよね」

 −−えなかった。同時に、良牙は察した。これに逆らってはいけないと。

「わぁいおねーちゃんとおててをつなげてうれしいなぁ」

「それじゃあ、パチュリー様、小悪魔。私達はこれで」

「じゃ、じゃあな」

「ええ、また何かあったら顔を見せてちょうだい」
「良牙さんいってらっしゃい」

 パチュリーと小悪魔に見送られ、良牙は咲夜に手を引かれながら図書館を後にした。
 しかし、自分の歩幅に合わせているのか、咲夜はゆっくりとした足取りであった。

「……何見てるのよ?」

 呆れた視線を向けてそう聞いてくる咲夜に、良牙は率直に理由を尋ねた。
 懐中時計の力が時間を短縮するものなら、そいつを使えば直ぐに辿り着けるのではないか。
 良牙が思考を働かせる中、咲夜は悪戯っ子のように笑って答えた。

「初めて男の人と手を繋ぐんだもの。察しなさいよ」

 本当に楽しそうな。年相応の素顔を見せる咲夜に、良牙は親しみを感じずにいられなかった。



 閉ざされた扉の前で咲夜は立ち止まった。

「ここよ」

 そう言われた途端、良牙は戦慄した。
 大きな存在が、この小さな扉の向こうに居るのだ。閉ざされた部屋を見据えながら、良牙はそっと喉を鳴らした。
 そして、咲夜の手が、扉をノックしようと動いた。だが、良牙はそこであることに気づき、口を開いた。

「咲夜。いつまで手を握ってるんだ」

 忘れていたらしい。咲夜はこちらを見て「ああ……」と声を漏らし、繋いだままの手を持ち上げた。

「それもそうね」

 咲夜はあっさりと手を放し、扉をノックした。
 まあ、流石にここまで来れば解放してくれるよな。良牙は自由になった手を、軽く動かした。

「お嬢様、良牙を連れて参りました」

『入りなさい』

 扉越しに聞こえた声。それはどう考えても少女のものだった。
「良い?」流し目で咲夜はそう聞いてくる。ここまでくれば反対もないだろう……。良牙が頷くと、咲夜は丸い取っ手を捻って扉を開けた。

「失礼します、お嬢様」

「し、失礼します」

 咲夜に習い、良牙は言い慣れない台詞を口にして、室内へと足を踏み入れた。
 すると、軽い衝撃と共に、見知った少女の笑顔が良牙の視界へ飛び込んできた。

「良牙ー!」

 突然のことに戸惑ってしまったものの。良牙は、すぐにそれがフランだと認識し、胸に抱き着く彼女を引きはがして聞いた。

「っ、フランか?」

「えへへ、うん!」

 昨日と違い、フランの雰囲気は変わっていた。気のせいかもしれないが、嬉しそうに笑っているのだ。

「フラン、私の登場シーンを邪魔しないの」

 悪戯っ子を叱るようにフランを嗜める少女の声が、部屋の奥から届いた。
 良牙はそれが、先程自分達に入室を許可した声であると理解した。
 部屋は廊下と同じように薄暗かった。しかし、天井から吊されたランプのおかげもあって、良牙は声の主である青いくせ毛の少女を見つけることが出来た。
 少女は、部屋の奥で椅子に腰掛けながらこちらを見据えていた。
 薄いピンクがかったフリルのついた帽子と、ドレスのような服。背からは翼らしきものが姿を見せていた。

「むぅ〜」

 不服そうにフランは良牙から離れ、少女の傍に歩み寄った。
 すると、少女はなめ回すように良牙を見て呟いた。

「……ふうん、あなたが響良牙ね。待っていたわ」

「あ、ありがたきお言葉ですお嬢様」

 なるほど、彼女がフランの姉……つまり雇い主か。
 少女の放つ雰囲気から、良牙は納得した。フランと似てないのは風貌と、少女の背から見える翼だけである。
 フランはキラキラと不思議な形だが、こちらの少女は爬虫類が持つような形をしている。

「咲夜、ご苦労様」

「はい」

 一度、良牙の傍に居る咲夜を労った後、少女はまっすぐに良牙を見て笑みを浮かべた。
 っ、これだ!?
 同時に良牙は身構えた。口の端を吊り上げて牙を覗かせる少女の気迫、それは扉を見た時に、良牙が感じたものだった。

「ふふ、面白い運命をお持ちのようね……。私こそはスカーレットデビル、この紅魔館の主、レミリア・スカーレットよ!」

 運命。レミリアが述べたその言葉を、良牙は一瞬理解が出来なかった。
 咲夜から、あの話を聞いたのか?

「これから紅魔館の執事として働く以上、総身をもって私とフランに絶対の忠誠を尽くしなさい。響良牙」


 ほお杖を付きながら、自分の名前を口にするレミリアはまさに主と称するに相応しい風格であった。
 咲夜の主には相応しいな。
 心の中でそう納得し、良牙は力強く答えた。

「ああ、分かったぜレミリア」

「ちょっと、そこはお嬢様って言いなさいよ!? あなた、さっきまで敬語だったじゃない!」

 突然雰囲気が柔らかくなったレミリアからそう指摘され、良牙は彼女を呼び捨ててしまったことに気づいた。
 悪い癖だ、やっぱ風格があっても見た目がこれじゃ呼び捨ててしまう。

「すまん。お嬢様」

「む……敬語じゃなくなったのが気になるけど。まあ良いわ。しっかり働きなさい」

 呆れた視線を向けながらそう言った後、何故かレミリアはため息をついた。
 風林館高校に向かっている最中で、塀を壊した時は流石に焦ったものである。
 ま、弁償ついでにこんな良い環境で働けるならもっと強くなれるだろうしな。
 良牙にとってこの話は悪いものではなかった。

「ああ」

 良牙がそう返事をすると、レミリアは頼もしそうに微笑み返してから咲夜に告げた。

「後は任せるわ」

「承りましたお嬢様」

 短い内容だった。しかし、咲夜はそれだけで何を意味しているのかが分かるのだろう。良牙は素直に感心した。
 すると、今まで我慢していたのを解放するように、フランはレミリアに願い出た。

「お姉様、私も一緒に行きたい」

「フラン……何も壊さなかったら良いわよ」

「っ、ありがとうお姉様!」

 許可を与えたものの、レミリアは、心配そうにフランを見ていた。それは先程まで自分を圧倒していた者とは思えないほど、弱々しい表情だった。
 やっぱり姉なんだな。良牙は素直にそう思った。

「じゃあ、二人とも行こうっ!」

「は、はい。ではお嬢様、失礼しました」

「じゃ、じゃあな」

「ええ……」

 フランに急かされ、良牙と咲夜は、慌ただしく主の部屋を出ることになった。

◆おまけ
 良牙は今、右手でフラン、左手で咲夜と、手を握りながら歩いていた。端から見れば、普段の乱馬である。

「なあ」

「良牙。これに関して、もう文句はなしよ?」

 フランの鼻歌が廊下に響く中、良牙が口を開くと、咲夜は当たり前と言うかのように良牙の言葉を遮った。

「あ、いや……その」

 良牙が何故こんな状態なのかは、部屋を出た後。咲夜が館を案内する為にと再び手を握ってきたからである。
 そして、それを見たフランが「自分も」と言い出したのだ。もちろん良牙は断った。それというのも、乱馬みたいな状態が嫌だからだ。
 しかし、
『流石にどっちか片方で良いだろう』と良牙が言った途端、待っていたのは生き地獄だった。
 フランからは悲しみと羨ましさが混ざった視線を向けられ、
 咲夜からは「妹様まで(方向オンチに)巻き込むつもりなのかしら?」と殺気の篭った目を向けられた。
 その結果が……これである。良牙は解放されることを諦め、もうひとつあった質問を言うことにした。

「昨日の、門に居た奴は何ていう名前なんだ?」

「"ほんみりん"よ」

「調味料みたいな名前だな」

 良牙は冷や汗をかきながら言った。
 しかし、なかなかやるなそいつ。もし、そんな名前つけられたら……俺なら家に篭っちまうぜ。

「くっ」

「良牙何で泣いてるの?」

「これは汗なんだぜフラン?」

 良牙は、熱くなった目頭を抑えながら、明るく生きているほんみりん氏を心の中で応援した。



[19346] 第6話「あいつにそっくりな門番」修正
Name: 溺死◆f0a6530f ID:22b0b364
Date: 2010/10/23 19:26
 日が落ち、辺りは闇に包まれた。冷たい夜風が吹く静寂の中……、良牙は紅魔館の門前でひとりの少女と拳を交えていた。
 少女の名前は紅美鈴といい。良牙が初めて会った紅魔館の者であり、良牙が執事になったきっかけでもある。

「そこっ!」

「ちっ」

 闘いをはじめてから、時間はそう経っていないものの。良牙はその中で美鈴の確かな強さを噛み締めていた。
 美鈴から繰り出される手技や脚技、さらには身体の部位や気功による闘い方は中国拳法に則ったものだ。
 油断は出来ない。しかし、不思議なことに、良牙は美鈴の動きを予測することができた。
 誰かと姿が重なるから、と言った方が正しいかもしれない。それが誰なのかは分からないが……。
 こんなことは良牙にとって初めてだった。普通、初めての相手と闘った場合何発か貰うものなのにだ。
 そもそも、何故良牙が美鈴と手合わせをしているか。その理由は数分前に遡る−−。



 咲夜とフランに紅魔館全てを案内してもらった後、良牙はある部屋にいた。
 そこはダイニングやキッチン、必要最低限の設備が揃った使用人の為の休憩室だ。
 それなりに空間も広い。咲夜曰く「百人入ってもだいじょーぶっ」だとのこと。
 廊下を歩く中で挨拶したメイド(妖精)の数を見れば妥当かもしれない。
 そんな部屋で良牙は椅子に腰掛けながら、
「手合わせ?」目の前にいる美鈴にそう聞き返した。

「はいっ、武道家とお聞きしてからずっっっっと、考えてたんです!」

 良牙と美鈴が再会したのは、咲夜達に門を案内された時である。
 そこから今に至るまで我慢していたとなると、相当やきもきしていたことになる。
 彼女の言う"ずっっっっと"がその想いを表していた。
 ちなみに、美鈴の名が"ほんめいりん"だと聞かされた時は流石に咲夜を批難したが、当の本人は「みりんじゃなかったかしら」と本気で言っていた。
 もしこんな扱いを受けたら、俺なら一週間は山に篭るぜ。

「まあ、別に良いぜ。あんた程の猛者なら大歓迎だ」

「も、猛者だなんて。そんなことありませんよ……あははは」

 俺の言葉にそう謙遜するが、美鈴は頬が紅潮しており、どこか嬉しそうに笑っていた。
 だが良牙にしてみれば世辞ではなかった。初めて会った時から、美鈴がただ者ではない動きをしていたからだ。
 その理由は美鈴の安定した動きにある。『達人とは歩く時や走る時、頭の重心がブレることはない』と聞く。
 それは偶然で生まれる産物ではないし、彼女の引き締まった体つきを見れば一目瞭然である。
 門番とするには贅沢だ。

「何時が良い? っと、そうだ。今からどうだ?」

 そんな相手を前にして闘ってみたいと思うのは自然なことだった。
 そして、良牙の提案を聞いた美鈴は目を輝かせて頷いたのだ。余程、やりあってみたかったらしい。
 それから紅魔館の中庭に場所を移し、今に至っているのだ−−。



「そこっ!」

「っと!」

 良牙の懐にまで踏み込むと、美鈴は下段から上へ掌を放った。
 素早い身のこなしだぜ。そう感服しながら、良牙は自分の顎を守るために背をのけ反らせた。
 起き上がりざまに拳を十発ほど打ち込むが、拳は吸い込まれるように美鈴の腕で防がれてしまう。

「っ−−」

 思わず舌打ちする良牙だが、美鈴は苦痛の色を顔に滲ませて感想を述べた。

「良牙さん、やりますね……つあぁ」

「お前もな。あんな速さ、俺にはとうてい出せないぜ。恐い女だ」

 龍を思わせる美鈴の強さに、良牙はこめかみに冷たいものが流れるのを感じた。
 すると良牙の発言に、美鈴は何故か頬を引き攣らせた。

「そ、それは私の台詞ですよ。(……この馬鹿力、まるで宴会好きな鬼みたいじゃない」

「ん? 何か言ったか?」

「ああっ!? いえなにも! それじゃ、行きますっ!」

 何やら慌てて戦闘再開を言った時、美鈴は既に俺の頭上に跳んでいた。
 空中で両手を腰に溜める……乱打か!
 鷹のような鋭い視線を受け、良牙は咄嗟に後ろへと跳ぶ。だが、その刹那、良牙は自分は美鈴に誘われたのだと思った。
 後ろかっ!
 勘を頼りに背後を振り向き、目の前で手を交差すると、そこに強い痺れが走った。
 美鈴の足刀が、良牙の手に直撃したのである。
 狙う高さから察するに顔だったようだ。後すこし反応が遅れていたらと思うと、背筋が冷たいぜ。
 日頃へらへらとしている時との違いを見せる美鈴に、良牙は苦々しく笑った。
 そして、美鈴の姿に誰かを重ねていた良牙は、ようやくそれが誰であるかに気付いた。

 赤い髪に素早しっこい動き、巧みに使い分ける技と良い。よくよく考えれば、美鈴は女の姿をした時の"あいつ"にソックリじゃねえか。
 そうだ。だからこそ、今の美鈴の動きにも反応できたんだ。

「……」

 ふと、大胆不敵に笑うライバルの顔が頭の中に浮かんだ途端、良牙の何かがぷつんと切れた。

「え? ひゃあっ」

 怪訝そうな顔する美鈴を押し返した良牙は顔を俯かせ、ゆらりとした手つきでバンダナを何枚か取った。
 良牙は美鈴と闘っていることを心から感謝していた。何故なら、美鈴が乱馬(あいつ)そっくりの動きをする。
 つまり、
「フハハハハハハハ、らぁんむぅああぁぁ!」美鈴を倒す=乱馬を倒せるということになるのだから。

「あ、あのぅ〜。りょ、良牙さん?」

 後転し、間合いを取った美鈴は額から汗を滲ませて良牙へ声をかけた。まるで悪戯した時に乱馬が見せるような反応である。
 良牙にとってそれは『火にガソリン』と言える行為だった。

「なンだ美鈴?」

「ひいっ!? い、いやぁ、な、ナなナ! なんだか良牙さん殺気だってませんか?」

「……そんなわけあるか。行くぜ乱馬あぁ!」

「何ですか今の間は!? てゆうか乱馬って誰ですか!?」

「気にすんな」

 顔を上げ、そう言った瞬間、良牙は持っていたバンダナを美鈴目掛けて乱投した。

「気にしますってばぁ!?」

 しかし、美鈴はひらりと避けて見せた。普通なら何枚かで身体が切り裂かれるものだが、どうやら美鈴も投擲武器(こうゆうもの)には慣れているらしい。
 何故泣いているかは知らないが。

「まだまだまぁっ!」

「ぎゃああああっ!? これじゃ、二人目の咲夜さんじゃないですか!」

 次々にバンダナを追加していくが、それでも美鈴は容易く避けた。すると、

【彩翔−飛花落葉−】

 美鈴は涙を流しながら蹴りを放った。ただの蹴りだろう。良牙はそう思ったがその考えは間違いだった。
 先程と違い、その蹴りからは鮮やかな光が飛んできたのだ。

「なにっ!?」

 赤、青、黄等色彩豊かな光の弾が良牙の視界に散らばる。まるで花火を間近で見ているようだ。そう思えるほど、美鈴の技は華やかで美しく映った。
 今までこのような技を見たことがあっただろうか。いや、無い。

「すげぇ……」

 良牙の口から本音が息と共に漏れる。しかし、そうしていられたのも一瞬のことだった。
 良牙の身体が、きらびやかな光の弾に触れた瞬間、大きな力が身体に炸裂した。
 まるで八宝大華輪をぶつけられたような威力である。
 あげれるものなら悲鳴をあげたいところだが、こんなことでへばってはいられない。
 乱馬は、これのような技を何発も喰らっては立ち向かっているのだ。
 負けてたまるか!

「ぐぅぅ! あぁぁぁ……ぁぁああっ!」

 歯を食いしばり、倒れ込みそうになった身体を何とか脚で支え……。良牙は美鈴を見据えて吠えた。

「乱馬、俺は……はぁ、はぁ。俺は、まだ闘えるぜっ!」

「だから乱馬って誰ですかー!?」

「行くぜ、爆砕点穴!」

 技の名を轟かせ、足元を人差し指で突いた瞬間、辺り一帯の地面が爆ぜた。

「ええぇぇっ!?」

 飛び散る土塊に美鈴は驚きながらも、素早い対応を見せた。土の弾幕の中で道筋を見つけては進む。実に為になる動き方である。
 途中、拳大ほどの飛礫がいくつか直撃したようだが、美鈴はそんなものはお構いなしにと駆け抜けてしまった。

「ふっ……」

 そう簡単にいく相手じゃないか……。苦笑まじりにため息をつく。

「やああぁ!」

 そこに泥まみれの美鈴があっという間に距離を詰め、【彩符−彩雨−】と良牙に叫んだ。
 すると、辺りに先程と同じような輝きを持った弾が姿を現し、良牙目掛けて飛んできた。
 しかし、速度や軌道は先程の彩翔何たらとは全くの別物だった。あらゆる方向から迫る光の弾はまるで小雨のようで速い。あまりの弾の量に気が遠くなってしまう。
 だが、フランのおかげもあってか、良牙にとってこの程度の弾幕はまだ優しく思えた。
 良牙は迷うことなくその中へ踏み込み、
「明日はうんと遊んでやるぜ、フラン!」
「えっ、ちょ、速すぎっ!?」
 一息に弾幕の中を切り抜けてしまった。
 そして、美鈴に驚く暇を与えまいと良牙は腰紐を解き、そのまま美鈴へ投げた。

「くっ、そんな大きさでは!」

 美鈴はひらりと腰紐を避けてしまう。流石に一度見たもの、しかもバンダナとはたいして機動性は変わらない。
 攻略法が分かれば確かに容易い技だが、良牙にしてみればそんなことは百も承知だった。
 良牙はそこで腰紐を避けられたことを重く、あかねに嫌われたことのように考えた。そして、ゆっくりと突き出した両手を美鈴に向け……叫んだ。

「獅子咆哮弾!」

「いやいや!? マスパじゃ−−」

 負の塊は良牙の手から、太い一条の光となって美鈴を包み込んだ。
 空中で起きた轟音と爆発は、粉塵を発生して星空を覆った。
 技はしっかり美鈴に当たったのか。良牙は固唾を呑んで見守った。
 すると、
「っ?」美鈴が落ちてきたのが見えた。
 意識をなくしたのか、美鈴の身体が動いていないようだ。良牙は暗がりの中で飛び、近づいて彼女を抱き寄せた。

「おい美鈴、美鈴!?」

 何度も呼び掛けてみるが、美鈴は目を回したままで、起きる気配はまったくなかった。
 視線を中庭へ向けると、先程立っていた場所は遥か下であった。いくら美鈴が妖怪でも怪我は免れない高さだ。

「ち、神様なんて信じたことはないがな!」

 良牙は毒づいてから、美鈴を守るように抱え直し、自分の背中を下に置き換えた。
 打たれ強さには自信がある。良牙とって美鈴ひとり助けるぐらい、どおってことはないはずだ−−。






 ドンっ。そんな衝撃が身体に響いた瞬間、良牙の意識は闇に落ちた。



 あたたかい。
 身体を包む何かに対して私はそう思った。ふかふかの布団に包まれているような、そんな心地良さを身体に感じる。
 それに、不思議なメロディーが頭の中で流れていた。とくん、とくん……まるで誰かの心音のよう。
 何故こんな音が聞こえるのか。気になった私は、この心地良い世界と別れることにした。

「ん……え?」

 目を開けると、私の視界を泥や血で汚れたブラウスが覆った。というよりは、逞しい男の胸板があった。
 胸はゆっくりと上下に起伏している。いったい何が起きているのか、私には分からない。
 記憶を呼び覚ましながら私は顔を上げ−−、目を見開いた。
「り、良牙さん!?」私の視線の先には、静かに呼吸をしている良牙さんの寝顔がある。
 良牙さんに抱かれているという事実を知り、私は混乱してしまう。でも、おかげで私達に何があったかを思い出すことができた。

「あ……そうだ、私は」

 良牙さんに気の弾を撃ち込まれた。何やら、すごい不幸オーラを発してたような気がする……。
 そこからの記憶がないということは、私はその時に気を失ってしまったんだろう。
 多分こんな状況なのは、気を失った私を良牙さんが受け止めてくれたからだ。
 良牙さんが自分を助けてくれた……。その事実を把握した瞬間、
「あう……」私はおもわずうなだれた。
 わざわざ手合わせをしてくれたのに、相手に気を使わせてしまったのだ。私は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
 だけど、ここ最近こんなに優しくされたことがなかったからか、すごく嬉しかった。
 それでも、このままにしてはいけない。良牙さんを起こそう。そう思って声をかけた時、
「良牙さ−−「あらあら、仕事をサボって逢い引きかしら?」

「ひっ!?」

 後方からあの方の声が聞こえ、私は身体を強張らせた。
 今後ろに居るのはどなたかは、振り向かなくても分かる。ちゃんと応えなければ私は殺される。
 冷ややかな怒気を背に受けながら、良牙さんの上から降り、ゆっくり立ち上がったところで私は身体を反転した。

「さ、さ、咲夜さん、どうかしましたか?」

 なんとか冷静に。そう思っていても気持ちは素直だった。
 上擦った声で尋ねてみると、そこには微笑みながら腕を組む咲夜さんがいた。だけど、いつになく不機嫌そうだった。
 たいていなら、ナイフ一本で済ましてくれるのに。

「ふふ……どうもしないわよ? ただ−−」

「た……だ?」

「早くそこ(良牙)から離れなさい」

 笑みを絶やさずにそう告げた咲夜さんは本当に美しかった。

「はい! ス、スす、すいませんでした−−」

 瀟洒という言葉は正にこの人の為にあるかもしれない。
 数十本のナイフが周りに浮かぶという、危険な空間の中、私は改めてそう思った。



「良牙」

 まだ身体がけだるいというのに、誰かが俺を呼びながら身体を揺さぶっていた。

「起きなさい良牙」

「ん……」

 意識はそこまで深く落ちてなかったらしい。ふと目を開けると、心配そうに俺を見下ろす咲夜の姿があった。
 何故咲夜がいるんだ? 頭はまだぼんやりとしており、良牙はこの状況に対してどう動けば良いか分からなかった。

「まったく、おろしたての執事服をこんなにして……」

 気がつくなり、咲夜は深くため息をつきながらそう言った。一瞬、彼女の言葉を理解しきれなかったが、良牙はすぐに思い出した。
 そうだ、俺は美鈴と手合わせしていて……。

「咲夜、美鈴は大丈夫か!? 手合わせしてて、ついやり過ぎちまったんだ!」

 勢い良く身体を起こして咲夜に問い詰めると、咲夜は「ああ」と声を漏らし、美鈴が元気良く外で仕事をしている旨を教えてくれた。

「そうか……なら良いんだ」

 途端に安堵感が生まれ、良牙はほっと一息つく。我が身ひとつで誰かを助けるなどあまりしたことがないからか、美鈴が無事であることが何よりの吉報だった。

「『助けてくださってありがとうございます』」

「ん?」

「美鈴からの言伝よ」

「あ、ああ。そう−−「それより」

 咲夜に返事を遮られ、良牙は思わず声を詰まらせた。
 目を細め、自分を見据える咲夜が眉根を寄せている。明らかに不機嫌そうである。

「大して怪我をしてないから良いものの、人間が妖怪を庇うのは無茶苦茶よ」

「……」

 美鈴からことのいきさつを聞いたのだろう。咲夜が言っている意味を察した良牙は、ただ咲夜の言葉に耳を傾けた。

「あなたが勝手に死ぬのは結構よ。けどね、与えた仕事すら全うしないうちに死なれるのは、はっきり言って迷惑なのよ」

 まったくもって言う通りだ。咲夜の言葉は理にかなっている。弁償すら出来ていないのに、俺は何をやっているんだろう。

「だいいち、あなたは紅魔館の執事になった自覚はあるの? 執事というのはガミガミガミ−−」

 それから二十分弱に渡ったところで咲夜の説教は終りを迎えた。
 フランが良牙のことを気に入っているらしいこと、他は執事服をボロボロにしたことに関しての二つが説教の主な内容だった。どちらかと言えば、後者が大半の割合を占めていたが……。

「ふぅ、すっきりしたわ」

「……」

 咲夜は爽やかな笑顔でそう言った。本当にすっきりしたようだ。一方の良牙は怒られ慣れていない為、かなり重く受け止めていた。
 そんな良牙に気づいたらしく、咲夜はバツが悪そうに口を開いた。

「あのねえ。私の説教なんかまだ短い方なんだから……」

「そう……なのか」

「ええ、そうなの。始まったら、ありがたーいお説教を一日中してくださる閻魔様もいらっしゃるし」

 あだ名なのだろうか。閻魔様だなんてたいそうな名前だが、そんな長時間説教したらそう呼ばれても仕方ないか。
 良牙の脳裏に立派な髭を生やした、厳つい顔の男性像が浮かんだ。

「それにしても……」

 少し、気分が軽くなったところで、良牙は自分がある部屋のベッドの上に居ることを気が付いた。

「私の部屋よ」

 当たりを見回していると咲夜が疑問に答えてくれた。
 良牙は「ふぅん」と納得の返事をする。この部屋も案内されたが、見せてくれたのは扉の前でのみだ。
 そりゃ分からないはずだぜ。咲夜の部屋は、整理ダンスや化粧台と必要なものだけが揃っており、いたってシンプルな内装だった。

「あまりジロジロ見られると恥ずかしいのだけど?」

「あ、すまん」

 ジト目で言われ、良牙はすぐに視線を咲夜へ戻した。
 女性の部屋なんて入ったことないからな……って、何を考えとるんだ俺! 良牙は気恥ずかしさから、自分を殴って意識を修正した。

「ちょっと、人の部屋で暴れないでよ」

 そう注意を促しながら、咲夜があるものを手元に投げてきた。ぽすんと着地したそれはワンセットの衣類とトランクスタイプの水着だった−−。

「今からお風呂に入りに行くから、水着と寝巻きを持ってきなさい」

「ああ……って、待て!」

 危うく納得してしまうところだった。渡されたパジャマ、いやパジャマはまだ良い。寝る時はシャツにパンいちだし。
 問題は、水着を進めた咲夜だ。咲夜の手には水着と寝巻きが同様に納められている。

「何よ? もちろん私も水着着るから、大丈夫でしょう?」

「いやそこじゃねぇ」

 水着? 風呂に入る? 良牙は案内された大浴場を思い浮かべた。記憶がたしかなら、あそこには男湯とかそういうものは無かった。
 ということはつまり……アレしかないわけだ。考えるに足る答えを推測し、良牙は顔が熱くなったのを覚えた。

「待て、あ、あれだろうが! そ、その、つまり、お、俺とお前がこここ混浴」
 恥ずかしさを堪えながら、良牙がそれを口にすると、
「っ!?」咲夜は耳まで顔を赤くした。恐らくは気にしないように努めていたのだろう。

「う、うるさいわね! もとも休憩室で別れる時、美鈴に良牙と入るように言ってのに。良牙が美鈴と弾幕ごっこするからこうなったのよ!」

 咲夜は顔を赤くしたまま、こちらを指してそう言った。
 いやいや待て待て。どの道俺は混浴する事になっていたのかよ。

「……うっ」

 美鈴の裸を想像した途端、良牙は鼻を抑えた。あのチャイナドレスの中に詰め込んだ豊満な身体がどうなっているか、それ考えた途端血が滾ってきたのだ。
 するとその瞬間、咲夜から何かが切れる音がした。

「そう……あなたもなのね」

「さ、咲夜?」

 今までとは打って変わって、血の通っていない人形のような無の表情で咲夜はそう呟く。
 名を呼ぶも、咲夜は顔を俯かせてしまい。ただぶつぶつと小声で何かを言うだけだった。
 そしてしばらくすると、咲夜はナイフを手にして顔を上げる。

「さ、咲夜?」

「……良牙、あなたも胸かあぁ!」

「待て待て待て待て待て!」

 突然、咲夜はぶわっと泣き出し、ナイフを掲げてベッドに上がってきた。彼女の気持ちがまったくわからない。

「いったい何の話をしとるんだお前は!?」

「おっぱい星人め、死ねえぇ!」

「意味が分からんわ!」

 何故泣いているのかは知らんが、意味不明な理由で殺されるわけにはいかない。
 良牙は襲い掛かる咲夜の両手を掴み、咲夜を押さえ込もうとした。しかし、
「な、何だこの力は!?」情緒不安定になった咲夜の力は凄いものだった。

「ふふふ、胸に関しては私も引かない自信があるわ!」

「そんな自信はドブに捨てちまえ!」

「なぁんですってえぇぇ!」

 失言だったらしく、咲夜はさらに目を吊り上げて力を篭めてきた。良牙は、もはや上半身だけでは耐え切れなかった。

「や、止めろ!」

 下手に腕の力を抜けば、その鋭利な刃が頭に突き刺さる。何とかこの体勢から抜け出さなければ、俺を待っているのは確実な"死"だ。
 そう考えた良牙はある名案を出した。それは一旦、身体の力を抜き、咲夜の不意を突いて逃げ出すという内容である。
 他に考える余裕のなかった良牙は即座にその作戦を実行することにした。

「ふんっ!?」

「え、あ、ちょ、ちょっと!」

 良牙の推測通りに咲夜はバランスを崩した。後は自分の身体を素早く抜くだけである。
 しかし、良牙は慣性の法則というものを考えていなかった。
 バランスを失い、倒れ込む咲夜と横に抜けようとする良牙、はたしてどちらが速いかは明白だった。

「んっ……」

「っ!?」

 勢い良くのしかかってきた咲夜と、良牙の唇が重なってしまう。
 突然のことに良牙は、いったいなにが起きたのか分からず、ただ目を見開いた。
 目の前には同じように驚いた表情をしている咲夜がいる。

「……」

「……」

 何も言わない。何も聞こえない。静かな雰囲気の中、行動を起こしたのは咲夜だった。
 咲夜は良牙の上からゆっくりと離れ、自分の唇に手を這わせながら床に立った。
 そして、羞恥で赤く染めた顔でナイフを投げると、咲夜は恨めしそうにこちらを見て言った。

「明日も早いんだから、お風呂に行って、早く寝るわよ?」

 顔が熱くなっているのはどうやら俺も同じようだ。先程とはちがう感じに頭が"ぼんやり"としている。恐らく、ナイフが額に刺さっているからだろう。
 俺はただ頷くしかできなかった。その後の記憶はあまりない。緊張していたから何がなんだか分からなくなっていたのだ。
 意識がはっきりとしたのは、彼女からこう言われた時である。

「コレは弁償してもらうから、一生分」

 気づいた時、俺が居たのは俺の部屋だった。
 そして、目の前に居た咲夜はほんのりと頬を赤く染めつつ、どこか楽しそうに笑っていた。
 加えて、寝巻き姿だったからさらに破壊力が高い。しばらくして咲夜は自分の部屋に戻っていったが、鼓動は速いままだった。

「……」

 大人しくベッドに横たわったものの、なかなか眠ることができず。眠気を覚えたのは、結局陽が昇ってきた頃であった。
 窓から見える涼しそうな朝の空に、良牙は深いため息をつきながらベッドから降りた。
 今度ボロボロにしたら、流石に殺されるだろうな。そんなことを考えつつ、良牙はクローゼットから、咲夜に貰った新しい制服を出した。


※あとがき

 今回は美鈴主演?でしたがいかがでしょうか?
 まえまえから考えていたので、前話はわざと扱いを悪くするようになってしまいました。美鈴好きの皆さん、本当に申し訳ないです。
※なんか読み返してみて展開が無理矢理臭かったので修正しました。


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